
- 自己破産の手続そのものには借金の種類に制限はない
- 一定の免責不許可事由に該当する場合には、借金の帳消しができない場合がある
【Cross Talk】自己破産したいんだけど、ギャンブル等借金の種類で自己破産できなくなるって本当!?
借金で今月の支払いもままならなくて、自己破産しようと考えています。借金の原因がギャンブルの場合には、自己破産はできないと聞きましたが、本当でしょうか。
一般的な認識と、実際の自己破産手続の内容とは、多少の齟齬があるようですね。
結論を申し上げると、借り入れの原因に関係なく、破産手続そのものは行うことができます。一般の理解には多少誤解があるようですので、簡単にその内容についてご説明を加えます。
一般的な感覚からして、「自己破産」または「破産手続」とは、法的には「免責許可」のことを指していると思われます。
ただし、裁判所が「免責許可」の決定をすることは、債権者にとって債務者に対する請求ができなくなるという非常に大きな不利益となることから、法律上一定の制限がかけられています。
なるほど、大変にわかりやすかったです。私がギャンブルに走った原因は、ブラックな残業によるストレスから、そのはけ口としてやってしましました。
借金で首が回らない場合に、検討される手段の1つが「自己破産」手続です。一般的な理解として、自己破産とは、「借金の帳消し」との意味合いで通用していることが少なくはありません。また、同様に、ギャンブル等の浪費による借金の場合には、自己破産できないといった流言があります。
これらの理解には一部誤解があり、法制度上、借金の種類等によって、自己破産手続そのものが制限されるわけではありません。また、ギャンブル等の浪費があった場合であっても、債務者の事情により、裁量免責(裁判所が裁量で免責許可すること)されることもあり、必ずしも免責を受けられないといったことではありません。
この記事では、こうした、一般に誤解されがちな、ギャンブル等の浪費があった場合の自己破産についてご説明します。
借金の種類で免責が受けられるか否かが異なる

- ギャンブル等による借金が破綻に至った主たる原因である場合には免責許可されないことがある
- 免責不許可事由に該当する場合であっても、事情により裁量的に免責される場合がある
以前、競馬で万馬券を当てたことがあり、その時の感覚が忘れられず、親からの相続財産を食いつぶし、挙句、莫大な借金を抱えてしまいました。このような場合に自己破産は可能なのでしょうか。
なるほど、破産手続を選択される方の中には、相談者さんのように、ギャンブルにはまってしまったことを原因とするような場合がみられます。
このような場合でも、自己破産そのものは可能です。
しかしながら、場合によっては、裁判所から免責許可を得られず、自己破産手続による法的整理後であっても、借金が残る場合があります。その理由をご説明します。
ギャンブル等は免責不許可事由になる場合がある!
ギャンブル等の浪費がある場合には、破産手続における「免責不許可事由」に該当する場合があります。
免責許可には借金を帳消しにするという非常に大きな影響力があるために債権者の権利を不当に害さないこと、また、免責を受けられるという期待から安易な破産手続を助長することに歯止めをかけるといった政策上の観点から、免責許可に対して一定の制限(免責不許可事由)がかけられています。
免責不許可事由は、破産法252条1項の法文に従うと、全部で11号まで存在します。このうち、ギャンブル等の浪費行為については「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」(破産法252条1項4号)という規定があります。
ただし、ここにいう「浪費」とは法的な概念であり、一般的な理解における「浪費」とは、意味内容に差があります。裁判例でこれに該当するとされたものは、多額の衣服や宝飾品の購入、自動車の購入、遊興や飲食費・交際費、株式取引、住宅購入、知人への資金援助等があります。また、「賭博」とは、ギャンブルをいい、「その他の射幸行為」としては、先物オプション取引等があります。
ギャンブル等があってもそのことが「破綻原因」であるか?
ギャンブル等が原因で「著しく財産等を減少」させたり「過大な債務を負担」をして経済的破綻に至った場合であっても、免責不許可事由があるというためには、ギャンブルという原因と経済的な破綻との間に相当因果関係が必要となります。したがって、ギャンブル等が破綻原因のごく僅かな部分に過ぎない場合など、相当因果関係が無いといった場合には、法的には免責不許可事由に該当しません。より厳密には、もう少し細かい法的な論点がありますが、専門性が高いため、詳しくは弁護士に相談すると良いでしょう。
免責不許可事由があっても、裁量免責によって免責を受けられる場合がある!
例えば、ギャンブル等によって、経済的に破綻したとしても、そのギャンブルに至った原因が、心的な問題、例えば、離婚によって精神的に追い詰められた場合や、ブラック企業での長時間の残業によって蓄積されたストレスのはけ口などの目的であった場合には、一切の事情を考慮したうえで、裁量免責がされる場合があります。
また、免責許可制度は、破産に至った事情を深く反省し自身の生活再建のために努力している方に対して、免責を与えるものであるため、破産手続に協力的な態度であったか否かが裁量免責するかを判断する上での大きな要素として挙げられます。
自己破産しても免責されない支払いがある

- 自己破産をして免責許可を受けても租税関係や離婚した際の養育費など免責されない支払いがある
- 免責されない支払いについては自分で支払いを続けなければならない
自己破産をしたいのですが、ここしばらく税金を滞納してしまいました。支払っていない税金も自己破産をすれば帳消しにできるのでしょうか。
未払いの税金については、一般的な貸金業者からの借り入れとは事情が異なってきます。法律上は租税と呼ばれていますが、このような公的機関からの租税等の請求権は免責の対象とはなりません。そのため、ご自身で公的機関と話し合われた上で返済を続けていく必要があります。
自己破産を行って裁判所から免責許可を受けたとしても支払義務を免れることができない債権が法律上定められており、これを非免責債権といいます(破産法253条1項各号)。
こうした非免責債権としては、公的機関からの租税、離婚前の婚姻費用や離婚後の養育費、罰金など、様々なものが法律で規定されています。
これら以外にも免責の対象外とされている非免責債権は複数存在し、また、非免責債権に該当するかについても専門的な判断が必要なものがありますので、支払いにお困りの際は弁護士に相談すると良いでしょう。
ギャンブルの借金を自己破産する場合の注意点

- 免責不許可事由がある場合はその内容を調査するため管財事件になる可能性がある
- 管財事件は同時廃止と比べると時間も費用もかかる
ギャンブルの借金を自己破産する場合に何か注意が必要なことはありますか?
ギャンブルは免責不許可事由に該当するので、ギャンブルの具体的な内容等を調査するために管財事件になる可能性があります。管財事件の場合、裁判所に納める予納金が高額になること、管財人の調査等のために時間がかかること等に注意が必要になります。
管財事件になる可能性がある
破産手続には大別すると、裁判所が管財人を選任する管財事件と、管財人を選任しない同時廃止の2種類があります。
破産法上は管財事件が原則とされていますが、個人の自己破産の場合、破産者には何も財産がないことが多いので、実際には同時廃止で処理されることが多くなっています。
破産法は政策上の観点から免責不許可事由を定めるとともに、免責不許可事由がある場合でも裁判所の裁量によって免責を許可することができると定めています。
そのため、破産者が免責不許可事由に該当する可能性がある場合、裁判所は管財人を選任して、免責不許可事由の内容や程度を調査させ、免責不許可事由に該当するか、該当するとしても裁量で免責を許可するかを判断することがあります。
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手続の期間が延びる
管財事件になると、管財人が破産者に免責不許可事由がないか、ある場合にはその内容や程度を調査し、破産者が反省しているか等の事情も考慮した上で、裁判所に対し、免責についての意見を述べることになっています。
そのため、同時廃止と比べると、手続が全て終わるまでにより長い時間がかかることになります。
手続費用がかさむ傾向がある
自己破産をするには、申立てを依頼する弁護士の費用と、裁判所に納める費用を用意する必要があります。
弁護士の費用は各法律事務所によって異なりますが、管財事件は同時廃止と比べて複雑で時間もかかるため、管財事件の場合は同時廃止よりも高い弁護士費用を設定するのが一般的です。また、管財事件の場合、管財人の事務処理の実費や報酬に充てるため、予納金を収める必要があります。
予納金の額は各地の裁判所の運用によって異なりますが、最低でも20万円程度は必要になると考えてください。
自己破産は弁護士への相談がおすすめ

- 適切に対応すればギャンブルの借金も自己破産で解決できる
- 自己破産をしたい場合は弁護士に相談を
ギャンブルの借金を自己破産する際の注意点はわかりましたが、時間や費用が掛からないようにするにはどうしたらいいですか?
適切に対応すれば、ギャンブルをしたことがあっても同時廃止で処理してもらえることもあるので、自己破産に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
これまで解説したとおり、ギャンブルは免責不許可事由に該当し、免責が許可されない可能性がありますが、管財人の調査を経た上で裁判官の裁量によって免責を許可されることもあります。
また、ギャンブルといっても、毎週のように馬券を購入していたという方もいれば、年に1回宝くじを買っただけという方もいます。ギャンブルの内容や程度によっては、管財事件にならずに同時廃止で処理してもらえることもあるのです。
したがって、ギャンブルの借金で自己破産をする場合、できれば時間や費用が掛からない同時廃止で処理してもらい、それが難しい場合でも裁量免責を得ることを目指すことになります。
そのためには、裁判所にギャンブルの内容や程度を正確に説明し、破産者の反省や生活再建のための努力等を理解してもらう必要があります。
まとめ
ギャンブル等の浪費により借金をした場合でも、事情によっては自己破産によって免責を受けることができます。他方で、自己破産をしても、そもそも免責の対象ではない支払い義務が存在します。いずれにしても、弁護士に相談すると良いでしょう。