- 破産手続中は説明義務や履行確保の目的から居住制限がされる
- 破産者の財産状態や取引関係の把握の目的から、破産管財人により郵便物の管理がされる
- 管財事件ではなく同時廃止の場合には上記の制限はされない
【Cross Talk】破産したら引っ越しが出来なくなることや手紙が見られちゃうって本当なの!?
破産したら引っ越しができなくなったり、手紙が開封されたりするというのは本当なのでしょうか?
まず、破産が管財事件(裁判所により選ばれた管財人が破産者の財産を配当する手続形態であり、破産手続は原則この形態となる。)であることを前提としますと、原則として、居住地を離れる場合には、裁判所の許可が必要です(破産法37条)。
また、郵便物は、「破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるとき…郵便物…を破産管財人に配達すべき旨を嘱託することができる」(破産法81条)との規定から、破産管財人に任意的に管理がされる場合があります。ただし、東京地方裁判所では、管財事件の全件について、郵便物の管理がされます。東京の場合、管理は、原則的には、通常裁判所で行われる1回目の手続きの日(第1回債権者集会)までです。
郵便物の管理とは、破産者に送付される郵便物を破産管財人に配達するように裁判所が嘱託し、破産管財人はこの配達された郵便物を開封することができる(破産法82条1項)というものです。
なお、上記説明は、破産手続きが管財事件となる場合であり、破産者の資産が手続費用を下回る場合には、同時廃止(破産手続開始の決定を行い、同時に当該手続について廃止の決定を行うこと)となり、破産手続そのものは申立てと同時に終了するため、該当しません。
なるほど、よくわかりました。引っ越しに許可がいることや、郵便物の管理について、もう少し、ご相談してもよろしいでしょうか。
自己破産した場合には、破産者の債権者に対する説明義務を尽くす必要があるため、裁判所の許可を得ないで勝手に居住地から離れることはできません。
ただし、東京地方裁判所では、破産管財人の同意を得て移動する場合には、その旨を裁判所に上申する運用がなされており、明示的な裁判所の許可までは要求されていません。
また、同様の趣旨から、破産者の財産の状況や取引関係を把握する目的で、破産管財人に郵便物が配達されるなどの、管理を受ける場合があります。
なお、東京地方裁判所では、管財事件の全件について、このような管財人による郵便物の管理を行う取り扱いとなっています。
こうした取り扱いを行うのは、実務上、破産者が隠匿した財産等が、破産管財人による郵便物や税務会計帳簿等の調査によって明らかとなる場合が少なくないためです。ここでは、自己破産した場合の引っ越しの制限や管財人による手紙の開封・閲覧についてご説明いたします。
自己破産したら、居住地の制限がある
- 居住地の制限は破産手続期間中だけであり、終結したら自由に引っ越しができる
- 居住地を離れる場合には、裁判所の許可(東京地方裁判所では管財人の同意)が必要
- 許可または同意を得ずに居住地を離れた場合には免責不許可事由に該当する
自己破産した場合は、引っ越しができないと聞きましたが、事実なのでしょうか。勤務している会社に転勤を命じられまして、引っ越しができないとすると、会社にどのように説明すべきかなどが頭をよぎり、大変な不安を感じます。
「引っ越しができない」といった理解は極端なものです。法的には、裁判所の許可を得れば、引っ越しは可能ですし、そもそも、東京地方裁判所で行う破産手続の場合には、破産管財人に同意て、裁判所に上申すれば、明示的な許可は必要ないという取り扱いです。
相談者さんのように東京に住所がある場合には、東京地方裁判所の管轄となります。以下にもう少し、説明を加えましょう。
前提として、破産者は債権者に対して十分な説明義務を尽くす必要があります。このような義務の履行を確保するといった趣旨で、破産法上に居住地の制限(破産法37条)の規定があります。
ここで、少し、それぞれの言葉の定義等について、もう少し触れますと、「居住地」とは住所地との意味よりはもう少しひろく、居所(「いどころ」または「きょしょ」と読みます)などの生活の本拠地を指します。
また、「居住地を離れる」とは、引っ越し等住所地を変える場合に限らず、宿泊を含む旅行もこれに入ると解されています。したがいまして、国内の場合2泊以上の宿泊を伴う旅行や出張、海外の場合の2泊以上の宿泊を伴う旅行や出張の予定がある場合にも、破産管財人の同意を得る必要があります(東京地方裁判所の場合)。
他方で、仮に、裁判所の許可等を得ずに勝手に移動した場合には、破産法に定められた破産者の義務に違反したとして、免責不許可事由に該当するという可能性があります。
ただし、上記のような居住地の制限があるのは、破産手続が行われている間であり、手続が終了すれば、自由に引っ越し等ができるようになります(破産法34条以下、破産法第2章第3節参照)。なお、同時廃止の場合には、破産手続は同時に廃止されることから、原則的には、居住地の制限はされません。
詳しくは弁護士に相談すると良いでしょう。
自己破産したら、手紙も届かなくなる可能性がある
- 管財事件だと郵便物の制限をされる可能性が高い
- 破産管財人に配達された手紙等は破産者が交付を請求することができる
- 同時廃止の場合には郵便物の制限はされない
自己破産したら、自分の手紙すら自分で読めなくなる(自分に配達されなくなる)というのを聞きましたが、本当でしょうか。ときどき、母から手紙が送られることから、お伺いしたいです。
破産法上、裁判所は必要と認めるときは、破産者に届く手紙等の郵便物を、破産管財人に配達するように嘱託することができます(破産法81条)。すなわち、法的には、手紙等を破産管財人に届くように手続し、破産者に直接届かないようにするのは、任意的に選択できることになっています。以下、その内容について、詳しくご説明いたします。
裁判所が必要と認めるときに、郵便物を破産管財人に配達するように嘱託することができるのは、隠匿した財産を発見できる可能性があるからです。実際に実務上、破産者は重要財産開示義務(破産法41条)がありますが、財産があるにもかかわらず、隠匿する場合があります。こうした場合に破産管財人によって郵便物などから発見されることが少なくはありません。
また、裁判所において、円滑な手続きの確保を図る一方、十分な資産状況の把握等の調査を把握することは、多くの事件を抱える裁判所のみが負担するのには限界があります。こうしたことから、とくに破産事件の多い、東京地方裁判所では管財事件となる場合には全件につき、破産者の郵便物を、破産管財人に転送するように嘱託を行います。
破産管財人は、配達された破産者の郵便物につき、これを開いて見ることができます(破産法82条)。破産管財人へ郵便物が配達される場合、破産者の手元には郵便物が届かなくなりますが、破産者は、破産管財人に郵便物の交付を求めることで、間接的に手紙等を受け取ることができます。
なお、居住地の制限同様に、同時廃止の場合には、同時に破産手続が廃止されることから、原則的には上記で説明したような郵便物等の管理を受けることはありません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ここでのご説明は、自己破産した場合であっても、管財事件となる場合を中心としてご説明をしてきました。何度か触れたとおり、同時廃止となる場合には、上記の説明は必ずしも該当しません。同時廃止になるかの判断基準や、上記の詳しい内容については、法的に難しい点を含むことから、弁護士に聞いてみると良いでしょう。