- 個人再生手続きにあたっては基本的に特定の債権者のみに支払いをすることができない
- 光熱費・水道代の滞納を理由に供給をストップすることはできない
- 税金を滞納している分は圧縮の対象にならない
【Cross Talk】光熱費・水道代の未払いは払ってよい!?
個人再生手続きを利用すると、未払いになっているものは払ってはいけないんですよね?
はい、特定の債権者のみを有利に扱うのは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」といって、禁止される行為です。
とはいえ、電気代を支払わないと電気を止められてしまうような気がするのですが…。
光熱費や水道代といったものは別個の規定があります。
個人再生手続きを利用する際には、特定の債権者のみに支払うなどの行為を行うと偏波弁済という禁止行為になってしまいます。個人再生を含む債務整理をする際に光熱費や水道代の支払いができなくなっていたりしますが、これらの債権については実は先取特権という民法の規定にしたがった優先権がついています。また税金もベースになるそれぞれの税法で優先することが規定されています。支払いができていないものの取り扱い、支払う場合の取り扱いについて説明します。
個人再生の時の未払い分の取り扱いの原則について
- 個人再生手続きを利用する際には、特定の債権者にのみ支払うようなことをしてはいけない
個人再生の利用をするときに、未払いになっているものは基本的にすべて支払いができないと考えるべきですか?
はい、個人再生をする前提で手続きを開始して以降、特定の債権者に支払う行為のことを偏波弁済といいますが、これは法律で禁止されている行為です。
個人再生手続きは、裁判所に申し立てて、債務を減らしてもらった上で、減らしてもらった残額を分割で支払っていく手続きです。
ここにいう「債務」というと、銀行や消費者金融などの貸金業者からの借金をイメージする方も多いと思うのですが、たとえば友人知人や会社などから借入をしている借金も同様に債務として取り扱うことになります。
個人再生手続きをすることによって、これらの債務も圧縮することになるため、知人・会社に知られてしまったり、関係が壊れてしまうのは良くない…と特定の債務だけ支払ってしまう、という事が実はよくあります。
しかし法律上は貸金業者が貸付としてしたものであっても、友人が温情で貸付をしたものであっても、債権者としては同等でなければならないのであって、このような行為は個人再生の手続きが書かれている民事再生法85条が禁止しています。
これに違反した場合には、最悪のケースでは再生計画が裁判所に認めてもらえない(=個人再生が成立しない)という事態に発展しますので、注意をするようにしましょう。
光熱費、水道代、税金の取り扱いはどうなるのか
- 光熱費・水道代は先取特権で保護された権利で、滞納があったとしてもストップできない
- 税金は税法でまもられているので支払う義務がある
基本的にはすべての債権者に支払いができないというのはわかりましたが、電気代の支払いをしないと電気が止められてしまいます。
電気代などの一部の生活に密接な関係のあるものについては通常の個人再生の枠とは違う取り扱いになっています。
基本的には上述のように、特定の未払いの債務について支払ってはいけないということで理解をしておいて良いのですが、債務整理が必要な状況になっている場合には、生活に必要なガス・電気・水道などの光熱費・水道代といったものや、税金の滞納をしている場合が散見されます。
同じように支払ってはいけないというのでは、電気やガスが止まってしまったり、税金で差し押さえを受けたり、といった事態を想定してしまうでしょう。
実はこのような債権については、法律によってこれらの支払いを強制することにより、逆に不払いを原因に解約できないようにしている…といった配慮がされています。
光熱費・ガス代
電気・ガスなどの光熱費・水道代についてはどうなっているでしょうか。
これらの債権については、6ヶ月分の未払い債権については、民法の先取特権という権利がついています(民法310条)。
この権利がついている事によって、個人再生手続きの利用をしても、その部分については手続きの対象とならない事になっています。
そのため、個人再生手続きの枠内におさまらない債権になるので、支払いをしても問題はないということになっています。
そしてその支払いが遅れているような場合に、個人再生の申立をすると、申立前に遅れていたことをもって契約を解除することができないとされています(民事再生法50条)。
この規定は裏を返すと、個人再生を申し立てた後に滞納した場合には、契約を解除することができるということも意味しますので、その点だけは注意をしておきましょう。
条文の規定の紹介が続きましたのでまとめますと、滞納した分も基本的には支払いができ、手続き開始前の滞納については供給ストップの原因となりません。
税金
税金を課すためには、どのような要件で人に税金を課すのかという事を規定しておかなければなりません。
そのため、すべての税金には基本となる法律があります。
たとえば所得税については所得税法が、固定資産税については地方税法が、それぞれ規定をしています。
そして、国税に関しては国税徴収法8条で、地方税法については14条で、それぞれ優先債権とする規定があり、優先債権とされた債権については民事再生法122条2項で、「再生手続によらないで、随時弁済する」と規定されています。
つまり、税金の滞納は手続きとは関係なく支払わなければならない、という事です。
どうやって払うかは弁護士と相談して決めよう
- 個人再生手続きにあたって、使途が不明なものがある場合には説明を求められることがある
- 支払いについて法律上問題がないという説明ができるように弁護士と相談しながらすすめよう
光熱費・水道代が支払い可能なものはわかりましたので、手続き後につくったデビットカードなどで支払ってしまっても良いですか?
デビットカードでの支払いは銀行の履歴に残りますね。このような場合、その履歴は提出する必要があって、何に支払いをしたのか、裁判所や再生委員に問われる可能性があります。支払いをする場合にはその日を記録し、領収書をとっておくなど、容易に説明できるように、弁護士と相談しながら進めてください。
光熱費・水道・税金などについては支払いをしても法律上問題ないということがわかったのですが、支払いにあたっては注意が必要です。
個人再生の申立の際には、銀行の取引履歴をはじめ、支払いについて報告をする義務があります。
今回の相談者様のようにデビットカードで支払いをするような場合には、取引の記録にデビットカードを利用した、という記録のみが残ってしまうようなことがあり、客観的にどのような取引かわからないような場合があります。
そのような取引が通帳に残るような場合には、手続きにあたって明らかにしないと、偏波弁済を疑われるなどして、手続きが円滑に進まなくなる原因になります。
弁護士に依頼しているならば、一報連絡を入れておくと、弁護士やその手続きを補助するパラリーガルや事務員は依頼者との通話内容を記録していることが一般的なので、後から説明を求められても明確に返答をすることが可能になります。
支払をするような場合には必ず弁護士に相談して行うようにしてください。
まとめ
このページでは、光熱費・水道代・税金について、個人再生手続きとの関係ではどのように扱われるのか、についてお伝えしてきました。
個人再生手続きでは、6ヶ月以上光熱費・水道代を滞納するということが現実には考えづらいため、光熱費・水道代・税金どれも滞納をしていても支払いはできると考えてかまいません。
また、個人再生手続き後に支払いが滞らなければ、光熱費・水道代はストップしません。
しかし、支払いにあたっては、法律上支払っても問題ないものの支払いをしたことを説明できるようにしておかないと、手続きに支障をきたすおそれがあるので、弁護士と相談しながら行うようにしましょう。