- 投資で作った借金でも自己破産以外の債務整理は可能
- 自己破産は免責不許可事由にあたるため原則として借金が免除されない
- 例外的に裁判所の裁量で免責されることも
【Cross Talk】不動産投資で作った借金を整理したい!
資産運用のために借金をして不動産投資をしたのですが、空室や家賃滞納などで想定していた利益が出ません。
このままでは借金を返済していけそうにないのですが、どうにかなりませんか?投資でできた借金は債務整理できないと聞いたことがあるのですが、本当ですか?
そんなことはありません。債務整理は可能ですし、自己破産で借金が免除される場合もあります。
債務整理できるんですね!
低金利が続く中、不動産投資をする方が増えています。一般的なサラリーマンがローンを組んで不動産投資をするということも決して珍しいことではなくなりました。
しかし、不動産投資には、空室や家賃滞納のリスクなどがあり、机上の計算どおりの収益が得られるとは限りません。
仮に想定していたような収益が得られなかったとしても、ローンの返済はしなければなりません。
借金を返済していくことが難しくなり、債務整理をしたいと考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、自ら不動産投資というリスクを冒して利益を得ようとしておきながら、失敗したときに債務整理によって借金の減額を認めるのはおかしいと考える方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、不動産投資で作った借金の債務整理について解説します。
不動産投資の借金を減らす方法
- 不動産を売却する
- 任意整理、個人再生、自己破産といった債務整理を行う
不動産投資の借金を減らすにはどのような方法がありますか?
主な方法としては、不動産の売却(任意売却)、債務整理(任意整理、個人再生、自己破産)があります。
不動産投資で作ってしまった借金を減らす方法としては、まず不動産そのものを処分(売却)することが考えられます。
裁判所の競売手続きによらずに債務者が自ら不動産を売却することを、任意売却といいます。
また、任意整理、個人再生、自己破産といった一般的な債務整理の方法によって、借金の減額ないし免除を得られる場合があります。
購入した不動産を売却する(任意売却)
- 競売では市場の相場より安く落札されてしまう
- 早期に任意売却して借金を減らすのが有効
なぜ不動産を任意売却することが借金減額に繋がるのですか?
不動産を任意売却せずに、競売にかけられると市場の相場より安く手放すことになってしまうからです。借金を減らすには少しでも高く不動産を処分すべきですから、早期に任意売却することをおすすめします。
ローンを組んで投資用不動産を購入した場合、債権者はその不動産に抵当権を設定します。
ローンの返済が滞った場合、抵当権を行使して裁判所の競売にかけ、落札されて納付された代金から債権の弁済を受けることになります。
しかし、一般的に競売の場合、市場の相場より低い価額で落札されることが多いようです。
そうなると、債権の弁済に充てられる額も少なくなるということになります。
そのため、借金を減額するには、競売によらずに(任意に)不動産をより高く売却し、債権の弁済に充てられる額を増やすことが有効といえます。
ただし、任意売却をするには、債権者に同意してもらい、抵当権を抹消してもらう必要があります。
債権者の立場からいえば、競売の手続きに時間がかかり、落札額も市場の相場より安くなるよりは有利だということで、早期に申し入れをすれば任意売却に同意してくれることがあるのです。
逆に、長期間放置したため、競売手続きが既に相当程度進行してしまっているような場合、任意売却をしようとしても、債権者の同意を得ることは難しいでしょう。
ですから、任意売却は早い段階で債権者に相談して行うことが重要です。
任意整理をする
- 任意整理は債権者と直接交渉する債務整理の方法
- 任意整理によって、返済額や返済条件などを見直す
任意売却のほかに借金を減額させる方法はありますか?
簡易な方法としては、債権者と直接交渉する任意整理があげられます。債権者との合意ができれば、借金の減額や返済方法の見直しなどをすることができます。
任意整理とは、裁判所の手続きを行わず、直接債権者と借金の返済方法や支払総額を交渉する方法のことをいいます。
裁判所の手続きを行わないため、費用と時間をかけずに進めることができるので、債務整理をする場合には、まず任意整理で解決できないかを考えることが多いでしょう。
交渉の結果、債権者との間で返済額や返済条件について合意ができれば、借金の負担を軽減することができます。
ただし、任意整理はあくまで任意の交渉ですから、交渉が常にうまくいくとは限りません。交渉しても債権者と合意できない場合がありますし、債権者が交渉に応じてくれない可能性もあるのです。
個人再生をする
- 個人再生で借金を5分の1程度まで減らすことができる
- 借金が5000万円を超えると個人再生はできない
裁判所の手続きで借金を減額させる方法はありますか?
裁判所の個人再生手続きによって、借金をおおむね5分の1程度に減額させることができます(債務総額が500万円を超える場合)。ただし、個人再生は借金の総額に上限があるため、この上限を超えている場合、個人再生を利用することはできません。
個人再生は、裁判所の手続きによって借金の額を減額し、原則3年で分割返済していくというものです。
どの程度減額できるかは、借金の額によって異なりますが、100万円以上500万円未満の場合100万円まで、500万円以上1500万円未満の場合5分の1まで、1500万円以上5000万円未満の場合500万円までになると理解しておけば良いでしょう。
なお、100万円未満の場合、個人再生をしても借金は減額されず、次に説明するように5000万円を超える場合個人再生手続き自体が利用できません。
このように借金の減額方法としては非常に有効な個人再生ですが、この手続きには、借金額に上限があります。具体的には住宅ローン等を除いて5000万円以下であることが要件とされているのです。
ここでいう住宅ローンとは、債務者の住んでいる住宅のローンのことで、投資用の不動産は含まれません。
そのため、不動産投資の借金の場合、個人再生が利用できない可能性があるのです。
ただし、個人再生が利用できなくても、より手続きが複雑で費用も掛かる通常の民事再生手続を利用することは可能です。
自己破産はできないってホント?
- 投資は免責不許可事由に当たり、免責が認められない可能性がある
- 裁判所の裁量で免責が認められる可能性がある
投資で借金をした場合、自己破産はできないと聞いたことがあるのですが、本当ですか?
不動産投資による借金は、自己破産による借金の免除が認められない可能性があります。ただし、更生の可能性を示すことで、裁判所が裁量で借金の免除を認めてくれる場合もあります。
不動産投資は免責不許可事由になる可能性が高い
自己破産(とそれに続く免責手続)は、債務者の債務を返済する責任を免除するという非常に強力な効果を持つ手続きです。
そのため、どんな理由で借金をしても常に責任の免除を認めるというわけにはいきません。
そこで、破産法は、一定の理由がある場合には、借金の免除を認めないと定めています(破産法252条1項各号)。その理由を、「免責不許可事由」といいます。
不動産投資は、免責不許可事由の一つである「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」(破産法252条1項4号)に該当する可能性が高いといえます。
したがって、不動産投資による借金の場合、法律上の原則は自己破産による免責は得られないケースに該当します。
裁量免責で免責が許される場合もある
免責不許可事由がある場合であっても、裁判所は、破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮いて免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができます(破産法252条2項)。
したがって、不動産投資による借金の場合であっても、破産手続に協力し、経済的更生の可能性を示すことができれば、裁判所に免責を認めてもらえる可能性があるといえます。
不動産投資に失敗して自己破産をするまでの流れ
不動産投資に失敗した後に自己破産をするまでの流れを確認しましょう。
ローン返済が滞る
投資のために借り入れたローンの返済が滞ります。
最初のうちは、入金を促す旨の電話での督促があり、場合によっては早期から書面での督促が行われます。
期限の利益の喪失
ローンを組んだ場合には、毎月契約で決められた金額の支払いをすれば債務不履行とはならず、それ以上の残金の支払いを求められてもこれを拒むことができます。
このように一括払いを拒む権利のことを期限の利益と呼んでいるのですが、延滞して期間がたつと契約によって期限の利益を喪失することになります。
不動産への権利行使
不動産に対して権利行使が行われます。
不動産に抵当権をつけて貸付をしている場合には、その抵当権という権利を行使すれば、不動産を競売にかけることができます。
競売で購入した人に対して不動産の明渡しをすることになります。
不動産投資をしている場合、自分自身はそこに住んでいませんが、不動産の所有者ではなくなるため、家賃収入を得ることもできなくなってしまいます。
不動産に抵当権をつけていない場合には、裁判をしたうえで不動産を差し押さえて、不動産を競売することができます。
競売で得た代金は、未払いになっているローンの支払いに充てられます。
競売されることに代わって任意売却を行うことも可能な場合があるので、早めに相談してみましょう。
残債務の請求
競売代金から債務に充てたとしても、まだ債務が残っている場合があります。
この場合には、引き続き残債務について請求を続けることになります。
自己破産・債務整理へ
残債務の支払いもできない場合には、自己破産・債務整理をすることになります。
債務の支払いができなくなる前から自己破産などの債務整理を検討することも可能で、なるべく早い段階から債務整理に向けて調整を始めるのが望ましいでしょう。
不動産投資家が自己破産をするリスク
不動産投資家が自己破産をするリスクには次のようなものがあります。
所有財産が処分される
自己破産をする場合には、所有している財産は、生活に必要になるものを除いて処分されます。
不動産がある場合には、処分されることになるので、不動産賃貸だけで収入を得ている場合には、生計を別に見つける必要があります。
連帯保証人に請求されることになる
不動産投資のためのローンをしている場合には連帯保証人がついていることがあります。
不動産投資に限らず、借入に連帯保証人・保証人がついている場合、自己破産をすると全ての債務について免責をしてもらう結果、連帯保証人・保証人に請求されることになります。
自己破産をすると制限がある
自己破産手続きには各種の制限があります。
- 住所移転の制限
- 職業制限
- 郵送物が破産管財人に確認される
宅建士は職業制限の対象になるので、手続きが終了するまでは、宅建士として就職することができません。
手続き終了後はこのような制限はありません。
官報で公告される
自己破産をする際には、官報という国が発行している機関紙に掲載されます。
破産者の氏名・住所が掲載されるので、これを見た人には破産の事実が知られてしまいます。
しかし、一般的に官報を逐一確認している人はほぼいないので、官報を見られる危険は極めて低いです。
不動産投資で債務整理・自己破産を避けるためには?
- 不動産投資で債務整理や自己破産するのを避けるためには
- 無理な借り入れをしない、
不動産投資で自己破産するのを避けるためにはどのようなことに気をつければ良いですか?
いくつかポイントがあるので確認してみましょう。
不動産投資で自己破産をするのを避けるためには、どのようなことに注意すべきなのでしょうか。
不動産投資に関する知識をしっかり身につける
不動産投資は投資ですので、きちんとした運用をしなければ損失を出します。
不動産投資をきちんと行うには、不動産・賃貸物件に関する知識、投資の対象とする地域に関する知識など、様々な知識が必要です。
悪質な不動産会社に丸投げして不動産投資を行うと、回収が見込めないような物件を購入させられてしまう、身の丈に合わないローンを組まされるなどで、失敗してしまうことがあります。
不動産投資に関する知識をきちんと身につけることは必要不可欠といえます。
収支のシミュレーションは綿密に行い無理な借り入れはしない
収支のシミュレーションは綿密に行い、無理な借り入れをしないようにしましょう。
不動産投資をする場合、基本的にはお金を借りて不動産を購入し、得られる利益から返済を行います。
返済額・収益として見込める額についてきちんとシミュレーションを行い、無理なく返済できる計画になっているかをきちんと確認しましょう。
フルローンには注意をする
購入のための金額を全額借り入れすることをフルローンといいます。
フルローンで投資用の建物を購入した場合、その建物の価値は購入直後に2割ほど価値が下がるのが一般的です。
例えば、4,000万円の物件を買うのに4,000万円のフルローンを組んで購入すると、購入直後に3,200万円程度の評価となります。
購入後に何らかの事情で売却する場合、4,000万円のローン全額を払わなければ売却できず、自分でこの差額分の800万円の負担が必要となり、この負担ができない場合には自己破産となる可能性が高くなります。
ある程度頭金を用意して運用をはじめるなど、余裕をもった不動産投資をするようにしましょう。
まとめ
不動産投資による借金の債務整理について解説しました。
債務整理が可能だとしても、どの手続きがふさわしいかは状況によって異なるため、専門的な知識がないと判断が難しいでしょう。
不動産投資による借金について債務整理をお考えの方がいらっしゃいましたら、早期に債務整理に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。