- 自己破産をしても相続はできる
- 破産手続開始決定前に相続が発生した場合、相続財産が得ることができなくなる
- 破産手続開始決定後に相続が発生した場合、相続財産を得ることができる
【Cross Talk】借金で自己破産すると相続できなくなる?
借金で自己破産をすると相続できなくなると聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?
基本的には、自己破産をしても相続はできますが、相続が発生した時期によっては、相続することができなくなる場合があります。
相続することができなくなる場合について、詳しく教えてください。
「自己破産」は、借金に苦しむ債務者に対して、生活を再建する機会を与えることを目的とした制度です。
他方で、「相続」は、さまざまな見解がありますが、遺族の生活を保障することなどを目的とした制度であるということができます。
このように両者は、目的においてまったく異なる制度ですが、自己破産をしたことが相続に何らかの影響を与えることがあるのでしょうか?
そこでこの記事では、自己破産をした場合における相続への影響について解説します。
自己破産をしても相続はできる
- 相続ができない場合とは、相続欠格事由に該当する場合などのことをいう
- 「自己破産」は相続欠格事由に含まれていないため、自己破産をしても相続はできる
私の親は自宅や車などを所有していますが、私が自己破産をするとこれらの財産を相続できなくなるのでしょうか?
自己破産をしても相続はできるのが原則です。
民法では、相続できない場合を「相続欠格事由」として定めています(民法891条)。
たとえば、故人(「被相続人」といいます)を死亡させ、刑を科せられた者や詐欺・強迫などを使って、被相続人に遺言をさせた者などは相続人になることができないため、このような者が相続することはできません。
しかし、「自己破産をした者」は相続欠格事由に含まれていませんので、自己破産をしても相続はできることになります。
自己破産をする時期によっては相続財産が得られなくなる
- 破産手続開始決定前に相続が発生した場合、相続財産が得られなくなる
- 破産手続開始決定後に相続が発生した場合、相続財産を得ることができる
自己破産をした場合であっても、相続はできるということはわかりましたが、例外的に相続財産を得ることができなくなるような場合はあるのでしょうか?
相続が発生するタイミング(被相続人の死亡時期)によっては、自己破産手続きとの関係で、相続財産を得ることができなくなる場合があります。
自己破産は、裁判所にその旨を申し立て、破産手続きの開始決定がなされることにより、手続きが開始されます(破産法30条)。
そして、相続との関係では、相続の発生時期が破産手続開始決定の前であるか後であるかで、破産手続きにおける相続財産の扱いが大きく異なることになります。
破産手続開始決定前の場合
「破産手続開始決定前」とは、裁判所に自己破産を申し立ててから破産手続開始決定が出るまでの期間を指します。破産手続開始決定は、早ければ自己破産を申し立てた当日に出され、遅くとも1か月以内には出されることが一般的です。
破産手続開始決定前に相続が発生した場合、相続の対象となる財産は、破産手続きの中で「破産財団」に組み込まれることになります。
「破産財団」とは、破産手続きの中で破産管財人が管理・処分をする権限を与えられている破産者の財産や相続財産などをいいます。そのため、破産者は自分の判断で相続財産を取得したり処分したりすることができなくなります。破産財団に組み込まれた財産は、破産管財人によって現金化され、最終的に債権者に配当されることになります。
このように、破産手続開始決定前に相続が発生してしまうと、相続の対象となる財産はすべて破産財団に組み込まれることになるため、破産者(相続人)は相続財産を得られなくなります。
破産手続開始決定後の場合
破産手続開始決定後に相続が発生した場合、相続の対象となる財産が、「破産財団」に組み込まれることはありません。
なぜなら、破産手続開始決定後に破産者(相続人)が取得することになった財産については、破産手続きとは関係なく、「新得財産」として破産者(相続人)が取得できることとなっており、ここでいう相続財産も新得財産に含まれるためです。
このように、破産手続開始決定後に相続が発生した場合には、相続の対象となる財産はすべて「新得財産」として破産者(相続人)が取得できるわけです。
以上のように、破産者(相続人)にとっては、相続の発生が破産手続開始決定前であるか決定後であるかで、結論が大きく異なってきます。
これは、「破産財団」が、破産手続開始決定時点における破産者(相続人)の財産を対象としているからです。
つまり、破産手続開始決定までに破産者(相続人)に帰属することとなった財産は、破産手続開始決定時点における破産者(相続人)の財産にあたるため、破産財団に組み込まれることになります。
反対に、破産手続開始決定後に破産者(相続人)に帰属することとなった財産は、破産手続開始決定時点ではまだ破産者(相続人)の財産ではないため、破産財団には組み込まれないことになります。
以上からもわかるように、相続が発生するタイミングによっては、相続財産を得られなくなる場合もありますので、自己破産を考えている場合には、少しでも早く自己破産を申し立てるべきでしょう。
まとめ
自己破産をしたとしても、相続には影響を与えないのが原則ですが、例外的に相続財産を得られなくなるケースがあります。これは、破産手続きとの関係で、相続がどのタイミングで発生するかという問題に大きく関係してきます。
しかし、相続がいつ発生するかを具体的に予測することは困難です。
そのため、自己破産をする場合には、少しでも早く裁判所に申し立てを行うべきでしょう。