- 他人の債務は支払いをする必要はないが、相続をすると「自分の債務」として支払う義務がある
- 相続をきっかけとして債務を負ったような場合には「相続放棄」などの方法でブラックリストなどのデメリットがない債務整理方法がある
【Cross Talk】借金を相続してしまったらどうすれば…
先日実家で暮らしていた母が亡くなりまして、離れて暮らしていたので知らなかったのですが、かなりの額の借金をしていました。母のものとはいえ、法律上は他人だから私は債務を負わないのでしょうか?
相続が発生するとマイナスの財産も受け継ぐことになります。そのため他人の債務ではなく自分の債務になると考えましょう。
やはり払うしかないでしょうか。
相続放棄などをすることで対応が可能です!
そもそも他人が作った借金を払う義務があるのはなぜ?
- 他人の債務を負担させられることはない
- 相続をすると債務も引き継ぐことになる
今回ご相談にあがった債務は私の母が借金をしたものなので、なんとなく長男である私が払わなければならない…というのは納得いきます。しかし、母親であっても他人の債務ですよね?なぜ遺産相続で負債を負ってしまうのでしょうか。
確かに自分の意に反して他人の債務を負担させられる法律はありません。そして遺産相続というと、不動産や株式、銀行預金など資産がある人にのみ関係のあるものと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、借金などの債務といったマイナスの財産も引き継ぐのが「相続」なんです。
まず、ある債務について誰がその負担を負うかの原則ですが、債務の支払いをする義務は債務者しか負いません。
よく「親の借金を肩代わりさせられた!」「夫の借金を代わりに払わされた!」というようなことが言われることがありますが、法律上支払うべき義務は一切ありません。
なお、連帯保証人になっているような場合には他人の債務でも支払う義務があります、と言われることがありますが、連帯保証人は保証債務という債務を債権者と契約で結んで負っているので、正確に言うと自分の債務として支払う義務があります。
他人の債務である親などの負債もこの理屈から言うと当然に支払う必要はないのですが、「相続」が発生すると事情が違ってきます。
人の死亡によって発生する財産の移転のことを「相続」といいます。
ある人は物を所有する権利(所有権)をもっていたり、他人に対して何かをしてもらう権利(債権)を持っていたり、逆に何かをしなければならない義務(債務)を有していいます。
不動産をもっている場合は不動産に対して所有権を有しています。
銀行に預金をしている場合には、銀行に対して預けているお金を返してください、という債権があります。
他人からお金を借りている場合には返済をする義務である債務があるのです。
ある人が亡くなると、亡くなった人(被相続人)の所有権者であるという状態・債権者であるという状態・債務者であるという状態が、民法の規定にしたがって相続人に移転します。
つまりは、債務者であるという状態も相続人に移転するのです。
この債務の移転によって、相続人は「自分の債務」として借金などの債務を返済する必要があるのです。
相続によって債務を負った時には「相続放棄」などの債務整理方法がある
- 相続した債務については相続放棄などの債務整理方法が使える
なるほど、相続によって自分が債務者であるという理屈はわかりました…母の債務は300万円もあるそうで、私がポンっと払える金額ではありません…。債務整理が必要なのですが、債務整理をするといわゆるブラックリストになるとか、自己破産をすると官報に載るとか自宅を失うとか、こんなデメリットを自分がした借金ではないのに負うのは納得いきません。
実は相続によって借金を負うことになった場合には、「相続放棄」などの債務整理方法があるので、ブラックリストや官報掲載、自宅を失うといったことはないですよ!
相続債務の返済ができないような場合には、その債務も債務整理をする必要があります。
債務整理というと、任意整理・自己破産・個人再生といったものが代表的なものとして挙げられます。
しかし、これらの債務整理には、信用情報に債務整理の情報が記載され以後の借入がしばらくできなくなる、いわゆるブラックリストのようなデメリットもあります。
しかし、相続により債務を負った場合には、上記の典型的な債務整理方法の他に「相続放棄」などの選択肢があり、これによればブラックリストなどのデメリットを受けることなく債務を処理することができます。
相続放棄についてもっと詳しく知る
- 相続放棄は家庭裁判所に申述をして、審判をしてもらう
- 相続放棄をするにあたってはやってはいけない禁止事項がある
- 手続き自体はシンプルで裁判所に赴く必要は基本ない
- 原則として相続開始を知ってから3ヶ月以内に行う必要がある
相続放棄という方法を教えてもらえますか?
はい、家庭裁判所に申し立てを行って、禁止事項などをしていないか、といったことを調査した上で「相続人ではなかったこと」にしてもらう手続きです。
相続放棄を利用するにはしてはいけない事があるのですか?
はい、相続放棄をするのに相続財産を使ってしまったりすると相続放棄ができなくなります。
家庭裁判所に行く必要はあるのですか?
基本的にはありません。書類でのやりとりでできますよ。
手続きに何か注意点はありますか?
原則として相続開始を知った日から3ヶ月以内ということに注意をしておいてください。
相続放棄の手続きはどのように行うのでしょうか。
相続放棄は家庭裁判所に「申述」という申し込みを行って、調査の上で問題がなければ「審判」をするという手続きになります。
相続したものとはいえ、借金を0にする裁判所を利用する手続きなので、その運用は厳格に行われています。
特に民法でやってはいけないとされていること(相続財産を隠匿したり処分したりすること)をしてしまうと、相続放棄ができなくなってしまいます。
家庭裁判所に申述をすると、家庭裁判所から相続放棄に関する事項についての調査のための書類が送付されてくるので、質問事項に回答します。
この質問への回答に特におかしいところがなければ、そのまま審判がされ、債務者は家庭裁判所に出向くようなことはありません。
手続きとして気を付けなければならないのは、家庭裁判所への申述は原則として、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければならないということです。
債務があるかどうかの調査に時間がかかることが予想される場合には、事前にこの期間を延ばしてもらう手続きを取る必要があります。
もしこの3ヶ月を過ぎた場合でも特別な理由がある場合には例外的に相続放棄ができることもありますが、遅れた理由について説明を尽くす必要があるうえ、確実にできるものではないので注意が必要です。
その他の手続きを知る
- 相続放棄の他には、限定承認・相続財産の破産というような手続きもある
- 実際には相続放棄の手続きが一番便利なため、ほとんど利用されない
相続放棄の他にも手続きはあるのですか?
ほかにも限定承認という手続きや、相続財産の破産という手続きもあります。ただ、相続放棄の手続きのほうが利用しやすいので、あまり使われることはありません。
相続で負った債務を処理する手続きとしては、相続放棄の他に限定承認・相続財産の破産という制度があります。
限定承認というのは、相続する債務について、相続した財産の範囲内でのみ責任を負うという事を認めてもらう手続きで、相続放棄と同様に家庭裁判所による審判で利用します。
この手続きは、たとえば被相続人には自宅・多額の預金などある程度のプラスの財産があるものの、調査しきれていない債務があるような場合に、調査の結果債務の方が少なければ債務を差し引いた残余財産を引継ぎ、債務の方が多い場合には、相続財産の範囲でしか債務は負わない、としてくれるものです。
手続きにあたっては相続人全員でする必要があるので、相続人の足並みが揃わないようなケースでは利用ができなくなりますし手続きが煩雑な点がデメリットになります。
相続財産の破産というのは、被相続人に破産原因があった場合に、相続人が相続発生前から持っている自身の財産と、相続の発生により受け継いだ財産を分けて、相続財産の範囲で破産手続きをするものですが、この手続きを利用するシーンでは相続放棄の方が便利なため、利用するケースはまずありません。
まとめ
このページでは、相続放棄など、相続によって債務を負った場合に利用する手続きについてお伝えしてきました。
債務を相続したときには基本的には相続放棄を利用するのが通常ですが、利用にあたっては禁止事項などもあるので、弁護士に相談しながら進めるようにしましょう。