- 自己破産で免責許可されなかった場合、1週間以内に異議の申し立てができる
- 自己破産で免責許可されなかった場合、任意整理・個人再生を検討してみるべきである
- 自己破産で免責許可されなかった場合でも、時効により債務が消滅する場合がある
【Cross Talk】自己破産で免責許可されなかった場合の対処法は?
自己破産で免責許可されなかった場合、結局は、借金を全額返済しなければならないのでしょうか?
原則はそうなりますが、すぐに諦めるのではなく、いくつか検討していただきたいことあります。
検討すべきことを詳しく教えてください!
借金を返済することが困難になり、自己破産の手続きをとったにもかかわらず、免責許可されなかった場合、結局は借金全額を返済しなければならないのでしょうか?
免責許可されなかった場合、原則として、債務者は借金を返済しなければなりませんが、その前に検討すべき対処法があります。
そこでこの記事では、自己破産で免責許可されなかった場合の対処法について解説します。
異議の申し立て
- 自己破産で免責が許可されなかった場合、1週間以内に異議を申し立てることができる
- 異議の申し立ては、高等裁判所に対して行う
異議を申し立てることにより、免責が許可されるのでしょうか?
そうなるとは限りませんが、地方裁判所で示された判断が覆る可能性もありますので、免責許可されなかった理由をきちんと確認する必要があります。
自己破産手続きで、免責許可されなかった場合、破産者は即時抗告により異議を申し立てることができます(破産法252条5項)。
「即時抗告」とは、決まった期間内に申し立てることを必要とされる抗告のことをいいます。
異議申立ての手続き
即時抗告ができる期間は免責不許可決定から1週間以内となっているため(破産法13条、民事訴訟法332条)、即時抗告を申し立てるかどうかを迅速に判断しなければなりません。
即時抗告は、自己破産を申し立てた地方裁判所を管轄する高等裁判所に対して申し立てます。
たとえば、さいたま地方裁判所で自己破産を申し立てた場合、即時抗告は東京高等裁判所で申し立てることになります。
異議申立ての審理
自己破産を申し立てた場合において、債務者に免責不許可事由が認められる場合であっても、裁判所は、破産手続きに至った経緯や債務者の一切の事情を考慮して、免責を許可することができます(破産法252条2項)。このような制度を「裁量免責」といいます。
実務においては、裁量免責とされるケースも多いため、免責不許可とされるケースはほとんどありません。その意味では、地方裁判所によりいったん免責不許可と判断された場合には、異議申立てによってその判断が覆る可能性は低いということがいえるでしょう。
自己破産で免責許可されなかった場合には、すみやかにその理由(免責不許可事由)を確認する必要があります。そのうえで、たとえば、免責不許可事由に該当する行為について特段の事情や経緯があるかどうかを検討するなどして、即時抗告を申し立てるかどうかを決定する必要があります。
以上のように、免責が許可されなかったことに対する即時抗告は、免責不許可決定から1週間以内に申し立てる必要があるため、免責不許可となった理由などをすみやかに確認し、即時抗告を申し立てるかどうかを決定する必要があります。
任意整理・個人再生の検討
- 任意整理を検討する際は、借金の総額と可処分所得を確定する必要がある
- 個人再生を利用するには、任意整理の場合の考慮要素に加えて、収入が安定していることや借金が5,000万円を超えていないことが条件となる
自己破産で免責許可されなかったため、異議を申し立てましたが、認められませんでした。これ以上、私が取れる対処法はないのでしょうか?
任意整理や個人再生の手続きを利用することが考えられますが、そのためにいくつか検討しなければならないことがあります。
自己破産で免責許可されなかった場合、異議を申し立てることができますが、その判断が覆る可能性が低いことは先に見たとおりです。
そこで、次に、任意整理・個人再生の手続きを利用できないか、ということを検討する必要があります。
任意整理の可能性
「任意整理」とは、裁判所の手続をとらず、直接債権者と交渉して借金を減額させる方法のことをいいます。任意整理を行うためには、債務者に安定した収入があることを前提として、借金の総額と可処分所得を確定する必要があります。
「可処分所得」とは、収入から生活費などの必要費を差し引いたものをいい、この可処分所得が債権者に対する返済の原資となるわけです。そのため、可処分所得をいかに多く確保できるかということが重要になってきます。
任意整理では、債権者にもよりますが、分割払いを認めている債権者も少なくありませんので、可能なかぎり明確な返済計画を立てることにより、債権者に借金を返済していけるかどうかの予測を立てることができます。
可処分所得により十分に返済していけるようであれば、任意整理により解決を図ることも可能であると考えられますが、借金額が可処分所得とほとんど変わらないような場合は、返済を続けていけるかどうかをきちんと見極める必要があります。
個人再生の検討
「個人再生」とは、大幅に減額された借金を返済していくための再生計画案を立てる手続きのことをいいます。
個人再生の手続きを利用するためには、債務者に安定した収入があること、借金の総額が5,000万円を超えていないことが条件となります。
この場合にも任意整理と同様に、可処分所得をいかに確保できるかということが重要になってきます。個人再生では、最大で9割の減額がなされる場合もあり、減額された借金を3年(例外的に5年)かけて分割で支払っていくことになります。
そのため、可処分所得との関係でこのような返済を行っていけるかどうかをきちんとシミュレーションしておく必要があります。
消滅時効の援用
自己破産で免責許可されなかった場合、破産事件は「免責不許可」として終結します。そのため、破産者は、原則として、従来通り借金を返済していかなければなりません。
もっとも、裁判所は、債権者に対し免責不許可通知を送ることはしませんので、債権者において、その後の請求がなされないまま、時間だけが経過する場合があります。
このような場合には、消滅時効が成立する可能性があり、仮に消滅時効が成立すれば、消滅時効にかかった借金を消滅させることができます。
「消滅時効」とは、一定期間、権利を行使しないことにより、権利を失うことをいいます。消滅時効が成立すれば、債権者は債務者に対して借金を返すよう請求することができなくなります。
この点、消滅時効期間は、債権の場合、5年と定められています。そのため、免責不許可決定から5年が経過すれば、その間に債務承認などの更新事由がないかぎり、消滅時効が成立します。
もっとも、この期間には例外があり、裁判で判決を取っている場合、破産手続きの中で債権調査が行われ、その旨が債権者一覧表に記載されたときは、いずれも消滅時効期間は10年となります。
なお、消滅時効が成立すれば、それだけで借金が消えるというわけではありません。消滅時効制度を利用するということを債権者にきちんと伝えて始めて、消滅時効が成立することになります。これを法律用語で「時効の援用」といいます。
まとめ
自己破産で免責許可されなかった場合、原則として、借金を返済していく必要がありますが、その前に検討すべきことがあります。
すぐに諦めるのではなく、今回解説した3点について、しっかりと検討したうえで、自分に見合った方法を選択することが大切です。