- 破産手続中は居住制限がある
- 裁判所の許可があれば旅行など居住地を離れることができる
- 制限に違反すると免責が認められない可能性がある
【Cross Talk】自己破産したけど旅行していいの?
自己破産をすると引っ越しや旅行ができないと聞いたのですが、本当ですか?仕事の関係で出張に行くこともできないんでしょうか?
たしかに、破産者は破産手続中、裁判所の許可がなければ居住地を離れられないという制限があります。
ただ、きちんとした理由があれば裁判所の許可が得られることが多いので、遠方に出かける必要があるときは裁判所に許可の申立てをするようにしてください。
無断で旅行すると、せっかく自己破産をしても借金が免除されない可能性があるので、絶対にしてはいけません。
裁判所の許可があればできるんですね!
「破産をすると引っ越しができない」「破産をすると旅行ができない」などと聞いたことはありませんか?
自己破産をするかどうか迷っている方の多くは、破産をすると日常生活でこのような制限を受けることを気にされているのではないでしょうか?
しかし、破産をすると旅行が一切できないというのは誤解で、旅行が制限されるケースは実際にはそれほど多くありません。
そこで今回は、自己破産中に旅行が制限される場合や制限に違反した場合に被る不利益等について解説します。
自己破産とは
- 自己破産をして免責が許可されれば借金を返済しなくてよい
- 自己破産には、管財事件と同時廃止の2種類がある
毎月の返済が難しくなってきたので、自己破産を考えています。
インターネットで自己破産について色々調べているのですが、いまひとつ理解できません。そもそも自己破産ってどんなものですか?
ざっくりいえば、借金の返済ができなくなった債務者が、財産を清算したうえで残った借金の支払いを免除してもらう手続です。
破産手続では、裁判所が破産管財人を選ぶ管財事件と、破産管財人を選ばない同時廃止の2種類があります。
破産手続と免責手続
自己破産については、「破産をすれば借金がなくなる」という漠然としたイメージだけをお持ちの方が多いでしょう。旅行の制限や制限に違反した場合の効果について解説する前提として、まず自己破産の手続について簡単に確認しましょう。
まず、破産手続とは、債務者の財産を清算する手続のことです(破産法2条1項)。財産の清算とは、財産を換価(お金に換える)して債権者に配分するということです。
ところで、破産手続はあくまで財産の清算をするものであり、清算後に残った債務をどうするかを判断するものではありません。
債務者が個人の場合、財産を清算した後も残った債務を背負い続けるとすると、いつまでたっても経済的に更生することができません。
そこで、残った債務の責任を免除させるかどうかを審査する手続が用意されています。これを免責手続といいます。
債務者が自己破産を申し立てるのは、この免責手続によって借金の責任を免除してもらう(免責許可決定を得る)ためです。
管財事件と同時廃止
「破産手続と免責手続」で解説したとおり、破産手続は債務者の財産の清算を行う手続です。
具体的には、裁判所に選任された破産管財人が債務者の財産を管理し、処分(換価)して債権者に分配、配当をします。
このように、破産管財人が選任される場合を管財事件といいます。管財事件の場合、破産管財人が上記の職務を行う間、破産手続が続くことになります。
ただし、破産事件の全てが破産管財事件になるわけではありません。債務者に何の財産もない場合など、管財人が行うべき職務がない事件もあります。
このような場合、破産管財人は選任されず、破産手続は開始と同時に終了し、免責を認めるかどうかの審査だけが残ることになります。これを同時廃止といいます。
破産手続にはこれらの2種類があります。会社などの法人の場合は管財事件となりますが、個人の自己破産の場合、多くが同時廃止になります。
自己破産中の移動・居住制限
- 破産手続中は移動・居住制限がある
- 裁判所の許可があれば居住地を離れることも可能
自己破産中の旅行について、具体的にはどのような制限があるのでしょうか?
破産手続中は、裁判所の許可を得なければ居住地を離れることができません。
引っ越しだけでなく、旅行も「居住地を離れる」に該当する場合があるとされています。
この制限はあくまで破産手続中のものですから、同時廃止の場合や、破産管財であっても破産手続が終わった後は、この制限を受けず、自由に旅行することができます。
破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることはできないと定められています(破産法37条1項)。
破産者の破産手続に対する協力を確保するとともに、破産者の逃亡や財産隠匿などの妨害を防ぐために、憲法で保障された居住・移転の自由(憲法22条1項)に対する制約が認められているのです。
ここでいう「居住地を離れる」には、引っ越しのほか、2泊以上の宿泊を含む旅行・出張も原則として含まれるとされています。
ですから、2泊以上の旅行・出張を考えている場合は、裁判所に許可の申立てをすべきといえます。
この許可の申立てに対し、裁判所は、居住・移転の自由が憲法上の基本的人権であることをふまえ、破産手続に対する協力の確保、妨害の防止の観点から問題があることが明らかでない限り、許可すべきとされています。
現実的にも、自己破産中の方が単なる遊びなどの目的で旅行することはあまりなく、家庭の事情や仕事の出張など、それなりの理由がある場合がほとんどでしょう。
ですから、旅行について裁判所の許可を得られることは珍しくありません。
なお、この制限は、破産手続中にのみ加えられるものです。
したがって、破産手続が開始と同時に終わる同時廃止の場合、そもそもこの制限を受けません。また、管財事件であっても、破産手続が終わった後は、この制限を受けませんから、自由に旅行することができます。
もし制限に違反すると…
- 制限に違反しても罰則はない
- 免責が許可されない可能性がある
移動・居住制限についてはよくわかりました。もし制限に違反したらどうなるのですか?許可を取るのも面倒なので、ペナルティがないならこっそり旅行に行ってもいいのかなと思うのですが…
この制限違反に対して罰則はありませんが、免責が許可されないおそれがあります。
免責が認められなければ自己破産を申し立てた意味がないので、軽はずみなことをしてはいけません。
旧破産法にも破産者の移動・居住制限に関する条項があり、それに違反した場合には刑罰が科されていました。
しかし、破産法の改正により、移動・居住制限に関する条項違反は刑罰の対象から外されました。
では何のペナルティもないのかといえば、そんなことはありません。
「自己破産とは」で、債務者が自己破産を申し立てるのは、免責の許可を得るためであると説明しました。
ただし、免責は、ざっくりいえば国(裁判所)が借金を返さなくていいというお墨付きを与えるものですから、どんな場合にも常に免責を認めるというわけにはいきません。
そこで破産法は、一定の事情がある場合に、免責を許可しないことにしています(破産法252条1項各号)。
そして、免責不許可事由の一つに、「第40条第1項第1号、第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと」が挙げられています。
移動・居住制限に関する破産法37条1項の規定は、債務者が居住地を離れるには、裁判所の許可を得なければならないといいかえることができます。
そうすると、裁判所の許可を得ずに居住地を離れることは、破産法37条1項に定める義務に違反することであり、また移動・居住制限は裁判所や破産管財人への説明・協力義務を確保するためのものでもあるので,説明義務を定めた40条1項に違反するとして,免責不許可事由に該当しうるということになります。
債務者が破産の申立てをする最大のメリットは免責の許可を得ることですから、免責不許可事由に当たるような行為をしてはいけません。
まとめ
自己破産手続中に旅行ができるか等について解説しました。裁判所の許可なくできる場合や許可は必要だが許可が得られやすい場合もあれば、逆に許可が得られにくい場合もあり、ご自身では判断が難しいのではないかと思います。判断に迷ったときは、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。