- 免責不許可事由がある場合にも裁量免責という制度がある
- 実際に免責不許可事由のある場合でも、ほとんどの方が裁量免責で免責されている
- 管財事件という、管財人による正式な手続きになる
【Cross Talk】免責不許可事由があると絶対に破産手続はできませんか?
お恥ずかしいお話、借金をした原因のほとんどがキャバクラで…。インターネットで見るとキャバクラは自己破産手続ができない「免責不許可事由」だそうで…。もう破産手続を利用してのやり直しはできないでしょうか。
免責不許可事由がある場合でも「裁量免責」という制度で免責が認められる場合があり、多くの方は裁量免責によって借金から解放されています。諦めずに相談をしてみてください。
自己破産手続についてはモラルのない借金による免責を認めない、などの観点から免責不許可事由が法定されています。しかし、免責不許可事由があっても裁量免責という制度があり、現実にはこれにより多くの破産申立人は免責されています。ただ、管財事件という管財人の就く手続きになるなどの影響があります。
自己破産の免責不許可事由とは?
- 自己破産の免責不許可事由とは
- 免責不許可事由の具体的な内容
自己破産の免責不許可事由とはどのようなものでしょうか。
破産法252条1項に記載されているもので、自己破産をしても免責されなくなるものです。
自己破産における免責不許可事由とはどのようなものなのでしょうか。
免責不許可事由(破産法252条1項)とは
自己破産をして免責の決定がされると、非免責債権以外の債務は全て免責、つまり返済義務がなくなります。
本来は契約などによって発生した債務なので、きちんと返済するのが筋ですが、破産法は債務者救済の観点から特別に免責を認めるものです。
ですので、そのような特別な恩恵を受けるに値しない場合では、免責をしなくて良いといえます。
このような観点から定められているのが免責不許可事由です。
具体的な免責不許可事由と具体的な例
では具体的にどのような場合で、免責をするに値しないとして、免責不許可事由とされているか、具体例を確認しましょう。
免責不許可事由があるからといって、絶対に免責されないわけではないので、諦めずに債務整理をすすめるようにしてください。
破産財団の価値を減少させる行為
破産財団の価値を減少させる行為は、破産法252条1項1号で免責不許可事由とされています。
破産財団とは、破産者の財産のうち、お金に換えられて債権者に配当すべき財産のことをいいます。
破産手続きは、財産を債権額に応じて平等に配当し、残った債務を免責してもらうものなので、配当に回せる資産の価値を減少させる行為をした方に、免責は認められません。
価値を減少させる行為には、破棄や隠匿も含まれるため、破産管財人に対して財産を隠匿したような場合にもこれにあたります。
債務負担・換金行為
著しく不利益な条件で債務を負担する行為・換金行為は、破産法252条1項2号で免責不許可事由とされています。
著しく不利益な条件で債務を負担する行為とは、通常の借金のような行為よりもより悪い条件で債務を負担して、お金を消耗するようなことで、典型的な例としてはヤミ金からお金を借りることです。
著しく不利益な条件での換金行為とは、借金と比べても損失が著しいもので、典型的な例はクレジットカードを使って物品を購入し、それを転売して現金を得ることをいいます。
偏頗弁済等
偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、特定の債務者にのみ返済をする行為をいいます。
自己破産手続きでは、債権者は平等に取り扱われます。
そのため、貸金業者も親族や友人も、自己破産手続きの中でも同じ債権者として平等に取り扱われることになります。
親族には自己破産を知られたくない・友人に迷惑をかけたくない、という観点で、親族や友人の債務のみ支払うことは、債権者を平等に取り扱うべきという破産法に理念に反する行為であるため、破産法252条1項3号で免責不許可事由とされています。
浪費・ギャンブルなどの目的で借り入れ
浪費やギャンブルなどの目的で借り入れをしたような場合には、免責はされません。
破産法252条1項4号で、免責不許可事由とされています。
詐術による信用取引を行う
返済ができる状態ではないにもかかわらず、収入を偽ったり、債務額を偽ったりして借金をする・クレジットカードを利用するなどの信用取引を行うような場合には、免責されません。
破産法252条1項5号で、免責不許可事由とされています。
決算書等の帳簿の隠滅・偽造
自己破産手続きは、本来債務を支払うべきところ、きちんと手続きに協力するかわりに例外的に免責を認めるものです。
そのため、個人事業主で決算書等の帳簿を隠滅・偽造などして、支払能力や債務の状態を不明にするような行為をする債務者は免責を認められません。
破産法252条1項6号で免責不許可事由とされています。
虚偽の債権者名簿を提出
自己破産手続きにおいて、債権者を把握する観点から債権者名簿を提出する必要があります。
虚偽の債権者名簿を提出するような場合には、破産手続きで免責を認められず、破産法252条1項7号において免責不許可事由としています。
裁判所の調査に対して説明を拒む・虚偽の説明をする
裁判所は自己破産によって配当・免責をするのが適切かどうかを判断するために、債務者に質問を行うことがあります。
この質問に対して説明を拒んだり、虚偽の説明をするような場合には、免責は認められません。
破産法252条1項8号で免責不許可事由としています。
破産管財人等の職務を妨害
裁判所から選任される破産管財人は、自己破産に関する要件を調査したり、配当を行ったり、裁量免責の可否について調査を行います。
破産管財人の職務の妨害をするような場合には、免責は認められません。
破産法252条1項9号で免責不許可事由としています。
前回の破産等から7年経過していない
前回の破産等から7年経過してないような場合には、借金などでの再度の自己破産を認められません。
そのため、破産法252条1項10号で免責不許可事由としています。
免責不許可事由があっても免責される裁量免責の制度がある
- 免責不許可事由に該当する場合でも「裁量免責」という制度があり免責される場合がある
- 現実の実務上では、免責不許可事由がある場合であっても多くの場合で裁量免責がされている
キャバクラが原因で破綻するまで借入をしていた場合でも、自己破産ができるのですか?
はい。現実には裁量免責という制度で多くの債務者が免責されています。
自己破産手続を利用することの債務者にとっての最大のメリットは、借金がなくなる「免責」という恩恵です。
しかし、今回の相談者様のように、借金を作った原因がキャバクラ・ギャンブルなどいわゆる浪費といえるようなものの場合にも、簡単に免責を認めることは、本当に正しいのでしょうか。
当然このような原因による借金を全て免責してしまうと、モラルに欠けた借金を助長することにもなりかねません。
そのため、これまで説明してきたように破産法252条1項各号は、免責不許可事由を法定し、一定の事由がある場合には借金を免責しないこととしています。
とはいえ、そのような免責不許可事由に該当した場合に、一切免責しません、というのでは、追い詰められた債務者が犯罪・自殺などの行為に走ってしまいかねません。
そこで破産法252条2項は、免責不許可事由がある場合でも、一切の事情を考慮したうえで、裁判所の権限で免責を認める「裁量免責」という制度を設けています。
そして、破産手続においては多くの場合でこの裁量免責によって免責が認められています。
免責不許可事由があっても免責される場合
- 手続きに誠実に協力することで裁量免責が得られる可能性が高くなる。
裁量免責についてもっと教えてください。どのような事をすれば裁量免責が認められるというのはあるのですか?
借金をするに至った事情、借り増しをするに至った事情などを踏まえて判断するので、明確に「これ」というものはありません。
裁量免責がどのような場合で認められるかについて、条文上は「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるとき」としているので(破産法252条2項)、明確にこれとあれをする…という事を言えるわけではありません。
いくつかの例を見てみましょう。
借り入れ後にボーナスがカットされ多重債務に陥ったAさんの場合
Aさんは営業職で、接待をするためにキャバクラを利用することが良くあり、たまの息抜きにもキャバクラを利用していました。
年に2回ボーナスがあるときに、借入していたものを一気に返済していたのですが、ある年会社の業績悪化に伴い、ボーナスが不支給とされてしまい、借金の返済ができませんでした。
そのため、さらに借金を増やすようになってしまったAさんは借金を返し切れなくなり自己破産手続を利用しました。
このような場合では確かにキャバクラを利用しているのですが、営業目的に利用していることもあり、一概に浪費とは判断できないので、破産手続に誠実に協力している限りは裁量免責がされることが期待できるでしょう。
ひたすら趣味のプラモデルの収集のために借入を続けたBさんの場合
Bさんはプラモデルの収集が趣味で、時には借金をしてでもプラモデルを収集していました。
ある日、お気に入りのキャラクターに関するイベントや限定プラモデル販売といったものが重なり借金を増やします。
かなりの金額を借りてしまったBさんは、そのまま返済ができなくなり、2社・3社と返済のための借金を増やしていき、自己破産手続の利用を検討することになりました。
このような場合では、特にBさんに同情するような事情もないことから、免責はできないようにも思えます。もっとも、破産手続に協力的であったり、管財人の求めに応じて反省文を提出したりしている場合には、基本的に裁量免責をしてもらえる可能性が高いといえます。
破産手続申立後に連絡が取れなくなったCさんの場合(免責不許可)
Cさんは、ブランド品の購入のしすぎで多重債務に陥り、自己破産手続の申立てを始めました。
破産手続の中で、管財人に購入したブランド品の一部が手元にないことを指摘され、換金行為が発覚した後、Cさんは管財人や申立代理人弁護士とも連絡が取れなくなってしまいました。
このような場合ですと、申立人に誠実に手続きを進める意思がなく、免責の効力を与えるのが不適当な場合といえますので、免責されなくなります。
免責不許可事由がある場合の自己破産手続
- 免責許可事由がある場合には必ず管財事件になる
- 管財人から様々なことが求められる
- 免責されない債権もある
私のように免責不許可事由がある場合には自己破産手続利用にはどのような注意が必要でしょうか。
必ず管財事件になるので、それに向けての準備が必要です。
免責不許可事由がある場合の自己破産手続についてはどのような注意をしていれば裁量免責をもらえるかを検討しましょう。
管財事件という手続きになる
自己破産手続には、同時廃止という簡単な手続きで終わらせる場合と、管財事件という管財人がつく正式な手続きの2種類があります。
免責不許可事由がある場合には、裁量免責を下してよいのかを調査するために、原則として管財人がつく管財事件手続となります。
管財事件の手続きとなった場合には、申立時に管財人に対する予納金(東京地裁の場合は最低20万円)といったものの支払いが必要なほか、破産者宛ての郵送物が一旦管財人のところに届き、管財人がその全ての郵送物を開封し中身を確認した後で、破産者のもとに届くことになります。
管財人からの要求実例
先ほども少し述べましたが、管財人は借金が膨らんだ事情を調査し、裁量免責しても良いか否かの意見を裁判所に報告します。
免責するか否かは裁判所の専権ですが、裁判所は管財人の意見を十分に尊重するので、管財人の要求にはきちんと応じる必要があります。
例えば,管財人は申立代理人弁護士を通じて破産者に対して反省文の提出を求めたり,今後借入をしないための方策を具体的に要求したりします。。
例えば、上述のフィギュア収集やブランド品収集の場合では、どのような場合に収集したくなるのか,欲しくなったときどのように対応すれば次は購入しなくてもよくなるか,等の報告を求めることもあります。
免責が許可されても免責されない債権もあるので注意
なお、仮に裁量免責が認められる場合であったとしても、税金・養育費といった政策目的で重要なものとされる債権に関しては、免責されない,つまり破産手続きが終了したとしても,支払の必要がある注意が必要です。
まとめ
このページでは、免責不許可事由がある場合の処理についてお伝えしました。
免責不許可事由があったとしても、多くの場合には裁量免責で免責してもらえるので、諦めずに弁護士に相談をしてみましょう。