- いくらなら自己破産できるという明確な基準はない
- 自己破産開始の要件は「支払不能」にあるとき
- 「支払停止」があれば通常は支払不能
- 判断が難しいので弁護士に相談を
【Cross Talk】自分の借金額で自己破産できる?
毎月借金の返済に追われて大変なんです。いっそ自己破産しようかと思うのですが、どのぐらい借金があれば自己破産できるのですか?
いくら以上借金があれば自己破産できるというような明確な基準はありません。借金を返済することが可能かどうかが問われるため、借金の額だけではなく、収入や財産等も関係するからです。ですから、自己破産ができるかどうかはケースバイケースということになりますね。
なるほど、一律いくらとはいえないんですね。
借金の返済に悩み、自己破産をお考えの方の多くが疑問を持たれるのは、どのぐらい借金があれば自己破産ができるのか、自分は自己破産できるのかということではないでしょうか。
実は、破産法には、いくら以上借金があれば自己破産できるというような明確な基準はありません。
破産ができるかどうかを判断するには、借金の額そのものではなく、支払いができるかどうかが重要になります。
そこで今回は、自己破産の手続を開始する要件について解説しますので、自己破産を検討されている方は、ご自身が要件を満たすのかを考えながら読み進めてください。
自己破産が開始する要件って何?
- 個人の場合は支払不能が破産手続開始の要件
- 支払を停止すれば支払不能と推定される
借金の額で決まらないのなら、自己破産ができるかどうかはどうやって決まるのですか?
個人の自己破産の場合、支払不能にあることが破産手続を開始する要件とされています。また、債務者が支払を停止したときは、支払不能と推定されることになっています。
裁判所は、「債務者が支払不能にあるとき」は、申立てにより、決定で、破産手続を開始するとされています(破産法15条1項)。
債務者が会社などの法人の場合、支払不能だけでなく債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済できない状態)も破産手続開始の原因とされていますが(破産法16条1項)、債務者が個人(自然人)の場合は、「支払不能」だけが破産手続開始の原因ということになります。
また、債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定されます(破産法15条2項)。
法律でいう推定とは、ある事実から他の事実を推認する(推測し、認定する)ことです。
したがって、破産をしたい側は、支払停止を証明すれば支払不能まで証明する必要はなく、支払不能ではないと主張する側が、支払不能ではないことを証明しなければなりません。
支払不能と支払の停止って何のこと?
- 支払不能はなすべき債務の履行ができない状態をさす
- 支払不能であると外部に表示することが支払停止
- 何が支払停止に当たるかは債務者の属性も含めて判断される
支払不能や支払停止が重要ということはわかりましたが、具体的にどうなると支払不能や支払停止と認められるのですか?
ざっくり言うと、支払不能とはなすべき債務の履行ができない状態をいい、支払停止とは支払不能であると外部に表示する行為を言います。どのような行為が支払停止に当たるのかについては、裁判例を紹介しましょう。
支払不能と支払の停止とは
支払不能とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます(破産法2条11項)。
つまり、支払不能といえるためには、
- 支払能力を欠くこと
- 弁済期にある債務の弁済ができないこと
- 一般的かつ継続的に弁済ができない
- 客観的に上記の状態であること
という要件を満たす必要があります。
支払能力とは、金銭など財産上の給付を履行しうる債務者の経済的力量を意味し、債務者の財産、信用、労務の3要素から構成されます(伊藤眞・岡正昌・田原睦夫・林道晴・松下淳一・森宏司著『条解破産法』41頁(弘文堂、2014年、第2版))。
支払不能とは、なすべき債務の履行ができない状態を指しますから、ここでいう債務は弁済期にあることが必要とされます。
一般的とは、すべてまたは大部分の債権者に対して履行ができないことをいいます。継続的とは、一時的な資力の欠乏ではないことを意味します。
さらに、支払不能は、客観的に債務の履行ができない状態であり、債務者の主観とは関係ありません。
次に、支払停止とは、債務者が支払能力を欠くため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいいます(最判昭和60年2月14日裁判集民事144・109参照)。
支払不能が客観的な状態であるのに対し、支払停止は債務者の行為です。
一般的に、客観的な状態を証明することは難しい場合があるので、債務者の行為によって客観的な状態を推定する規定を設けたのです。
そのため、実務上は支払の停止があったかが重要になります。
事例で学ぼう!最判平成24年10月19日判時2169-9の解説
それでは、具体的にどのような行為が支払停止に当たるのか、裁判例をご紹介しましょう。
最判平成24年10月19日判時2169-9
- 債務者の代理人弁護士が、債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為は、上記通知に、上記債務者が自らの債務整理を弁護士に委任した旨並びに当該弁護士が債権者一般に宛てて上記債務者、その家族及び保証人への連絡及び取立て行為の中止を求める旨の各記載がされていたこと、上記債務者が単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないことなど判示の事情の下においては、上記通知に上記債務者が自己破産を予定している旨が明示されていなくても、「支払の停止」に当たる
この裁判例では、弁護士が債権者一般に対して債務整理を受任したことを書面で通知した行為を、債務者が支払不能であることを外部に表示した行為ととらえています。
ただし、そのように判断した理由の一つに、「債務者が給与所得者であり広く事業を営む者ではないこと」が挙げられています。
そうなると、債務者が広く事業を営む者である場合には結論が変わるのかという疑問が生じます。
この点について、上記判例の須藤正彦裁判官の補足意見は、次のように述べています。
法廷意見は、消費者金融業者等に対して多額の債務を負担している個人や極めて小規模な企業についてはよく当てはまると思われる。
このような場合、通常は、専ら清算を前提とし、後に破産手続が開始されることが相当程度に予想されることからもそのようにいえよう。
これに対して、一定規模以上の企業、特に、多額の債務を負い経営難に陥ったが、有用な経営資源があるなどの理由により、再建計画が策定され窮境の解消が図られるような債務整理の場合において、金融機関等に「一時停止」の通知等がされたりするときは、「支払の停止」の肯定には慎重さが要求されよう。
このようなときは、合理的で実現可能性が高く、金融機関等との間で合意に達する蓋然性が高い再建計画が策定、提示されて、これに基づく弁済が予定され、したがって、一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないとはいえないことも少なくないからである。
法廷意見は補足意見ほど直接的な表現はしていませんが、「債務者が給与所得者であり広く事業を営む者ではないこと」を理由に挙げていることからすると、補足意見と同様、一定規模以上の企業の場合には支払停止に当たらないと判断する可能性があると考えられます。
つまり、支払停止に当たるかどうかは、債務者が個人であるかどうかや企業の規模といった債務者の属性もふまえて判断されるということです。
具体的にいくらぐらいなら破産できるの?
- いくらなら破産できるかの判断は難しい
- 破産を検討しているなら弁護士に相談を
これまでのお話からすると、いくらぐらいで自己破産できるかは人によって違うということになるのですか?
そのとおりです。全く収入がない方の場合は数十万円で自己破産が認められることもあります。逆に、年収が1000万円以上あるような方が数百万円の借金で自己破産することはできないでしょう。
自己破産できるかどうかの判断は難しいので、迷ったときは専門家である弁護士に相談したほうがいいでしょう。
支払不能といえるかは債務者ごとに違うので、いくら以上借金があれば自己破産ができるとは一概には言えません。
たとえば、生活保護を受給している場合、最低限の生活ができる金額が支給されているだけですから借金の返済をする余裕はないでしょうし、資産もないはずですから、数十万円の借金で自己破産が認められる可能性が十分にあります。
これに対して、給与所得者など一定の収入がある方の場合、数十万円の借金で自己破産をすることは難しいでしょう。
おおまかな目安としては、借金を3~5年程度で返済ができるかどうかと言われることがあります(返済できるなら破産をしなくても任意整理で解決できるので)。
ただし、あくまで目安ですから、絶対にそうなるというわけではありません。
このように、自己破産ができる金額は債務者ごとに大きく異なるので、自分が自己破産できるかどうか気になるという方は、弁護士に相談するといいでしょう。
まとめ
今回解説したように、いくら借金があれば自己破産できると一概には言えませんので、借金でお悩みの方は、債務整理に詳しい弁護士に相談し、債務整理の方針を決めるといいでしょう。