自己破産した場合の職業制限について、職種や業種などを挙げながら分かりやすく説明します。
ざっくりポイント
  • 自己破産したら退職しないといけなくなるの?
  • 制限がかかる職業ってどんなものがあるの?
  • 資格制限のある仕事に従事している場合はどうなるの?
  • 復権ってなに?

目次

【Cross Talk 】自己破産したら職業が失われちゃうのでしょうか!?職業制限と復権について教えて!

もし自己破産してしまった場合、今勤めている仕事は辞めなくてはいけないのでしょうか。また自己破産したことで、就けない仕事やできない職業などはありますか。自己破産してしまったせいで仕事ができなくなると困ります。詳しく教えてください。

基本的には自己破産しても勤めている会社を辞める必要はありませんよ。ただ自己破産によって、制限されてしまう職業があるというのも確かです。ただし一般的には、自己破産から復権するまでの期間の制限となっています。

自己破産によって制限される職業とはどのようなものがありますか。また復権について、詳しく教えてください。

自己破産をすると、一定期間就けない職業もあります。

自己破産をしてしまったら、日々の仕事にはどのような変化があるのでしょうか。公にその事実は知られてしまうのか、また知らせるべきなのか。自己破産後に経済的に立ち直り生活していくために、破産者にとって自己破産手続の仕事への影響は重要な関心事といえます。

基本的には破産を理由にして仕事を退職しなければならないということはありませんが、職種によっては、一定期間は、就けない仕事やできない職業もあります。資格制限を受ける職種の場合、復権するまではその仕事には従事できなくなってしまいます。

自己破産をすると、仕事にはどのような影響がでるのでしょうか。その職種や立場によって対応は違います。

自己破産したら会社に連絡は入る?自ら申告する必要はあるの?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 会社から借り入れをしていない限り会社には知られない
  • 退職金の一部を資産として計上する必要がある
  • 職業制限がある職種以外は申告する必要もない

自己破産をしたら会社に知られてしまうのでしょうか?

会社から借り入れをしていて債権者であるような場合等を除いて会社に知られることはありません。

自己破産をすると会社に連絡が入り知られてしまうのでしょうか?給与やボーナス・退職金の取り扱いなどと一緒に確認しましょう。

自己破産をしても会社に知られない

まず、自己破産をしても会社に知られません。
自己破産をしたからといって、裁判所や管財人から勤務先に連絡や通知をされることはなく、会社も自己破産をしているのを知りようがないです。
ただし、会社から借り入れをしている場合、会社の労働組合を通して労働金庫から借り入れをしている場合や、共済組合から借り入れをしている場合には、会社にも知られます。

給与を差し押さえられることはない

自己破産をしたことが原因で給与が差し押さえられることはありません。
給与は会社に対する債権として、その一部は差し押さえの対象となることがあります。
しかし、自己破産をしたからといって、裁判所・管財人が給与を差し押さえることはなく、むしろ今まで差し押さえられていた給与が、自己破産によって差し押さえが解除されることになります。

仕事道具を差し押さえられることはない

自営業の場合などに仕事道具などを差し押さえることはありません。
例えば、自動車を所有しているような場合に、債権者は自動車を差し押さえてお金に換えて配当を受けることができます。

しかし、仕事に欠くことのできない道具については、差し押さえなどの強制執行についての法律である民事執行法で差押禁止財産とされており、強制執行をすることはできないとされています(民事執行法131条)。
差押禁止財産は自己破産によっても差し押さえることはできないので、これらの仕事道具は差し押さえられないことになっています。

ただし、ローンで自動車を購入したような場合、信販会社が自動車の所有権を有していて、返済が受けられないと引き上げる担保権をもっていることがあります(所有権留保)。
この場合は、自己破産とは別に担保権の行使として引き上げられることがあります。

ボーナスを差し押さえられることはない

ボーナスを差し押さえられることはありません。
ボーナス・賞与は、給与にほかならないので、給与と同じように差し押さえられることはありません。

退職金の一部を資産として計上する必要がある

自己破産では退職金の取り扱いに注意が必要です。
退職金は給与の後払いとして資産としての性格があるため、自己破産手続きにおいて資産として計上する必要があります。
しかし、今すぐ退職して退職金を取得しなければならないわけではなく、次の区分に応じて資産として計上することになります。

・通常:現在退職した場合の退職金の1/8の金額
・近い時期に退職が予定されている場合:退職金の額の1/4

解雇されることはない

自己破産を理由として解雇されることはありません。
自己破産をしたことを会社は通常知ることができないうえに、自己破産は会社の職務とは関係ない個人的な事情なので、会社に対する背信行為として懲戒処分などの解雇理由になるものではないからです。
そのため、解雇をされた場合には不当解雇にあたります。

自ら申告する必要は基本的にはない

会社に自ら申告する必要はありません。
ただし、後述のとおり職種制限がかかる場合には、その仕事ができなくなるので、自己破産をするのであれば申告する必要があります。

自己破産するとできない職業はあるの?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産をすると制限される職業がある
  • 登録を取り消す必要がある

自己破産の手続中に働けない職業にはどのようなものがあるのですか?

よく問題になるのは宅建士・警備員・保険募集人です。他人の財産を預かることになるので登録をするような職業がこれにあたります。

自己破産をするとできない職種として、よく挙げられるのは宅地建物取引士・警備員・保険募集人です。
宅地建物取引士は、宅建業法18条1項2号で、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は登録ができないとされています。
同様の規定が、警備員につき警備業法3条1項1号で、保険募集人は保険業法297条1項1号で規定されています。
これらの職業は、他人の財産を預かる可能性があるため、自己破産をする場合に登録ができないとされているものです。

ですので、実は弁護士も、自己破産をすると職業制限がされています(弁護士法7条4号)。
そのため、同じように登録が必要なものでも、医師・看護師・薬剤師のように、人の生命や身体への影響を考慮して資格・登録制となっているものについては制限がされていません。

制限される職業一覧

制限される職業には次のようなものがあります。

  • 貸金業(貸金業法6条1項2号)
  • 教育委員会の委員(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第4条3項1号、第9条1項1号)
  • 行政書士(行政書士法第2条の2 2号)
  • 銀行の取締役・執行役・監査役(銀行法第7条の2  2項2号)
  • 警備員(警備業法14条1項、3条1号)
  • 建築士(建築業法8条1号)
  • 公安審査委員会の委員長および委員(公安審査委員会設置法7条1号、第8条)
  • 公証人(公証人法14条2号)
  • 公正取引委員会の委員長および委員(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律31条1号)
  • 公認会計士(公認会計士法4条4号)
  • 国家公安委員会の委員(警察法7条4項1号)
  • 質屋(質屋営業法3条1項6号)
  • 司法書士(司法書士法5条3号)
  • 社会保険労務士(社会保険労務士法5条2号)
  • 商工会議所の会員(商工会議所法15条2項2号)
  • 信用金庫等の役員(信用金庫法17条1項3号)
  • 生命保険募集人(保険業法279条1項1号、307条1項1号)
  • 税理士(税理士法4条2号)
  • 宅地建物取引士(宅地建物取引業法18条1項2号)
  • 土地家屋調査士(土地家屋調査士法5条3号)
  • 日本銀行の役員(理事を除く)(日本銀行法25条1項1号)
  • 不動産鑑定士(不動産の鑑定評価に関する法律16条2号)
  • 弁護士(弁護士法7条4号)
  • 弁理士(弁理士法8条10号)
  • 旅行業の登録(旅行業法6条1項6号、26条1項3号)

この職業制限は、破産手続開始決定から復権まで続きます。
そのため、自己破産手続きが終わって免責されると復権となるので、その時点で再度これらの職業につくことが可能です。

現在登録している人は登録を取り消すなどが必要

既にこれらの職業についている場合でも、自己破産をした段階で届け出をして登録を取り消すなどする必要があります(例:宅建業法21条2号)。

家族が職業制限を受けることはない

なお、この職業制限は本人のみで、家族が影響を受けることはありません。
そのため、夫が自己破産する場合でも妻が職業制限を受けることはなく、また親が自己破産するからといって子どもが職業制限を受けることもありません。

資格をとること自体は可能

登録を受ける前提として国家資格を受験する必要があるものがあります(弁護士や司法書士などの士業などがこれに該当)。
国家資格の受験をして資格をとることは自己破産手続き中でも可能です。

自己破産後の職業制限を受ける期間

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 復権するまでの期間
  • 復権の種類
  • 復権の手続き

自己破産を申告して、復権するまでには、どのくらいの期間が必要なんですか。復権すれば職業制限を受けている仕事でも、また元通り復帰することができるんですよね?

そうですね。復権というのは、もうあなたは破産者ではなくなりましたよ、という意味になりますから、また以前と同じように仕事をすることができるようになります。復権までの期間については、復権をどのようにするかによって違ってきます。最も多い免責許可決定確定による復権の場合であれば、破産手続を申立ててから3~6カ月程度で復権できることが多いです。

自己破産手続開始決定により職業制限を受けても、復権をすればまた元通り仕事をすることができます。復権をするには、どのような方法があるのか見てみましょう。

復権には、「当然復権」と「申立てによる復権」の2種類があります。

当然復権というのは、自己破産の手続きを行ったあと、そのまま何の手続きをしなくても勝手に権利は復活するというものです。当然復権には、免責許可の決定が確定、債権者全員の同意によって破産手続きの廃止が確定、再生計画の許可決定が確定、詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したときなどの4つのケースがあります。

免責許可決定の確定

当然復権となる場合では、多くの場合免責許可決定の確定により復権します。自己破産手続においては、免責許可決定により債務を帳消しにしてもらいます。そのような決定が出されるということは、破産者を経済的に再生させることが認められたということであり、その効果として復権となるわけです。

債権者全員の同意により破産手続きの廃止が確定

破産者が破産手続の廃止を訴え、債権者全員がそれに同意してくれた場合には、破産の事実はなくなりますので、当然のごとく復権となります。
ただし債権者が返済の目途もないのに同意することは難しく、あまり現実的とはいえません。

再生計画の許可決定の確定

免責許可決定が出されなかった場合、個人再生手続を申立て、再生計画の許可が下りれば復権することができます。

詐欺破産罪で有罪になることなく10年が経過したとき

こちらも免責許可免責許可決定が出されなかった場合ですが、こちらはその後特に何も手続きをしなかったとしても、破産詐欺罪の罪に問われず10年経過すれば、自動的に復権することができるというものです。

申立てによる復権というのは、自ら申立てて復権するというものです。破産者がその債権について弁済を行って債権者に対して責任を免れた場合には、裁判所に復権の申立てをし、決定してもらうことができます。

まとめ

自己破産をして免責許可が下りれば、借金は帳消しとなります。しかしその分、様々な面で影響を及ぼすことになってしまいます。しかし、そういったことにとらわれて、悩んでいても問題は解決しません。
そういった意味では自己破産も、これからの自分の未来のため、大きな選択肢のひとつとしてとらえてみるのもいいでしょう。
職業制限とはどういうものか、どのくらいで復権となるのか、しっかりと理解しておけば、これからの計画もしっかりと立てることができるはずです。