同時廃止と管財事件の違いや見分け方を解説いたします。
ざっくりポイント
  • 自己破産には同時廃止・管財事件の2種類がある!
  • 管財事件は時間がかかる
  • 20万円以上の財産がなければ同時廃止になることが多い
  • 振り分けの基準は地域によって変わるので詳細は弁護士にご相談を

目次

【Cross Talk】自己破産の手続は2種類ある?

借金の返済が難しくなってきたので、自己破産を考えています。自己破産には2種類あると聞いたのですが、本当ですか?

確かに、破産手続には、同時廃止と管財事件の2種類があります。管財事件とは、裁判所に選ばれた破産管財人という弁護士が財産を清算する手続のことで、法人や法人の代表者が法人と一緒に破産する場合、原則として管財事件になります。これに対して、個人が自己破産する場合、同時廃止になるのかそれとも管財事件になるのかについては、処分する財産があるかどうかによって分かれることになります。

僕はどちらになるのか教えてください!

同時廃止と管財事件の特徴は何?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 処分すべき財産がなければ同時廃止になることが多い
  • 同時廃止は破産手続の開始と同時に終了する
  • 管財事件は管財人が財産を清算するので費用と時間がかかる

同時廃止と管財事件はどう違うのですか?お金もないし早く精神的に楽になりたいので、できれば費用も時間もかからない方がいいのですが…

ざっくりいえば、処分する財産があるかないかで同時廃止になるか管財事件になるか決まることが多いです。基本的に財産がない場合は同時廃止となり、破産手続は開始と同時に終了します。財産がある場合は管財事件になり、破産管財人が財産を清算することになるので、費用と時間がかかってしまいます。

同時廃止の特徴

破産手続は、債務者の財産を清算する手続きをいいます。(破産法2条1項)
つまり、債務者の財産を調査し、換価(売却)して、債権者に弁済・配当することが、本来予定されている破産手続となります。

しかし、破産事件の中には、債務者に処分するような財産が全くなく、清算手続を継続しても債権者に弁済・配当すべきお金が出てこないと考えられる場合も少なくありません。

そこで、「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」と定められています。(破産法216条1項)
破産手続の廃止とは、破産手続を終了させることをいいます。
破産手続の開始と同時に破産手続を終了させることから、このような場合を「同時廃止」といいます。

同時廃止になるか、それとも管財事件になるかの振り分けは、裁判所が判断します。
東京地裁の場合、自己破産の申立件数が非常に多いので、迅速に処理するために「即日面接」という方式がとられています。
これは、弁護士が破産の申立てをする場合に、申立てがなされた後に弁護士と裁判官が面接し、同時廃止とするか管財事件とするかの振り分けを行うというものです。
裁判官は、面接の結果、同時廃止が相当と判断した場合は、破産手続開始決定と破産手続廃止決定をします。
ですから、この方式によれば、申立てをしてから破産手続が終わるまで、そこまで期間がかからないことになります。

なお、破産手続で債権者に支払われなかった債務については、破産手続と別の「免責手続」によって、支払義務を免除するかどうかが決められることとなります。
同時廃止であっても管財事件であっても、免責決定を得れば債務の支払義務が免除されることに変わりはありません。

管財事件の特徴

これに対し、債務者に処分すべき財産がある場合、原則どおり管財事件となります。

管財事件では、裁判所によって選任された破産管財人が、債務者の財産調査、管理、処分を行い、債権者への弁済、配当をします。ですから、同時廃止のように、すぐに手続が終わるというわけにはいかず、相応の時間がかかります。

破産管財人は、通常、弁護士の中から選任されます。弁護士に裁判所の破産手続を助力してもらうわけですから、無報酬というわけにはいきません。
そのため、管財事件では、管財人の報酬を含めた破産手続にかかる費用を、あらかじめ裁判所に納めなければならないこととなっています。

このように、管財事件は、同時廃止と比べると時間と費用がかかるという特徴があります。

裁判所から求められる引継予納金の額は、債権者数や債務額によって変わりますが、少なくとも50万円は必要になります。

しかし、50万円という額は、自己破産を考えている方にとっては非常に大きな負担になります。これでは、予納金が準備できないために破産申立てができず、いつまでも経済的な更生ができないということになりかねません。

そこで、東京地裁では、破産手続を利用しやすくするため、
手続を簡略化し、引継予納金を原則20万円とする「少額管財事件」
という運用を行っており、都市圏を中心に類似の運用をする裁判所も多くあります。

ただし、少額管財を利用できるのは、弁護士が代理人として破産申立てをした場合に限られます。これは、弁護士が代理人となり、申立前に財産の調査などを適切に行っていることが、手続を簡略化する前提とされたからです。
したがって、弁護士に依頼をせず、自分で申立てをしたり、司法書士に依頼をしたりした場合には、少額管財を利用することはできず、通常の管財事件となります。

私はどっちの手続になるの?見分け方は?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 評価額20万円以上の財産があれば管財事件に
  • 33万円以上の現金があれば管財事件になる可能性がある
  • 基準は裁判所ごとに違う

同時廃止になるのか管財事件になるのかは、どのように決められているのですか?

裁判所によって違いますが、東京地裁の場合、財産の評価額が20万円以上、33万円を超える現金を持っている場合は管財事件となる可能性があります。

「同時廃止と管財事件の特徴は何?」で解説した通り、破産法では「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」は同時廃止すると定められているに過ぎないので、法律上の明確な振り分け基準はありません。
そのため、各地の地方裁判所がそれぞれの基準を定めています。
ここでは東京地裁の振り分け基準を紹介します。

33万円以上の現金を保有している場合

法人と異なり、個人の場合は破産申立てをした後も生きていかなければいけません。ですから、例えば現金20万円が全財産であるという方に、20万円を全納させて少額管財にするというわけにはいきません。
そこで、東京地裁では、33万円以上の現金を保有している場合に、管財事件に振り分けています。
逆に言えば、現金が33万円未満の場合は、自分の生活費として使用することが認められ、基本的には同時廃止として扱われることとなります。

20万円以上の価値のある財産を保有している場合

20万円以上の価値のある財産を保有している場合

・預金・貯金

・報酬・賃金(給料、賞与等)

・退職金請求権・退職慰労金
退職金の見込み額の1/8(既に退職している、または破産手続中に退職することが予定されている場合は1/4)が、20万円以上かどうかが問題となります。

・貸付金・売掛金等

・積立金等(社内積立、財形貯蓄、事業保証金等)

・保険(生命保険、傷害保険、火災保険、自動車保険等)
保険の解約返戻金が20万円以上かどうかが問題となります。

・有価証券(手形・小切手、株式、社債)、ゴルフ会員権等

・自動車・バイク等
業者に査定してもらい、査定額が20万円以上になるかが問題となります。
なお、普通自動車は初年度登録から6年、軽自動車は初年度登録から4年が経過すれば資産価値を0として良いとされています。

・不動産(土地、建物、マンション等)
不動産がある場合、原則として管財事件に振り分けられます。
ただし、不動産に住宅ローンの抵当権等の担保が設定されている場合、被担保債権が不動産の価値の1.5倍以上あるときは、資産として評価しないこととされています。

・相続財産(遺産分割未了の場合を含む)

・事業設備、在庫品、什器備品等

・その他破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産

ここで注意が必要なのは、
上記の財産ごとに20万円以上かどうか判断する

ということです。
つまり、「預金・貯金」が20万円以上とならないか、「報酬・賃金」が20万円以上とならないか…というように、財産ごとに審査をするのであって、全財産の合計が20万円以上かを判断するわけではないとうことです。
ですから、例えば預貯金合計が10万円、解約返戻金が10万円の場合、財産の項目ごとにみると20万円未満であるため、管財事件に振り分けられず、同時廃止になると考えられます。

個人事業主の場合

以上の財産がない場合でも、個人事業主である場合は基本的に管財事件となります。

個人事業主は、通常のサラリーマンよりも個人事業として様々な財産を扱うこととなります。
経理処理などを通じて違法に資産を隠している可能性もあるため、慎重に手続きを行うこととなります。

そのため、管財人を選任して詳しい調査を行う必要があるので、管財事件となります。
なお、管財事件の中でも簡易な手続きである少額管財を利用することは認められています。

免責不許可事由がある場合

免責不許可事由があると、裁判所はそのまま免責許可決定をすることはできません。(破産法252条1項)

この場合でも、破産手続開始の決定に至った経緯、その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると裁判所が認めれば、免責をすることが可能です。(裁量免責:破産法252条2項)

そこで、免責を許可することが相当かどうかを判断するために、管財事件となります。
この場合も、少額管財を利用することは認められます。

どちらの手続きの方が簡便か

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 弁護士費用・手続きの負担・管財人費用を考えると同時廃止の方が簡便
  • 同時廃止が利用できない場合は、管財事件しか利用できない

同時廃止と管財事件があるのですね。どちらの方が簡便なのでしょうか。

同時廃止の方が弁護士費用・手続き負担・管財人への費用を考えると簡便です。同時廃止が利用できる場合は同時廃止によるべきでしょう。

同時廃止と管財事件ではどちらの方が簡便なのでしょうか。
結論から言うと、同時廃止の方が簡便に手続きを終えることができます。

管財事件になると、管財人との面接、裁判所での免責審尋期日の2つのステップが必要で、同時廃止よりも手続きの手間が増えてしまいます。
また、管財人が選任されるので、管財人に対して支払う費用が発生し、手続きが同時廃止よりも多いので弁護士費用も高くなる傾向にあります(費用については後述します)。

同時廃止は資産となるものがなく、個人事業主でもなく、免責不許可事由がない場合に利用できるのですが、もし同時廃止が利用できるのであれば同時廃止の方が簡便でしょう。

弁護士費用・管財人への報酬が発生するため管財事件の方がお金がかかる

管財事件では、同時廃止よりも弁護士費用・管財人の費用で余計にお金がかかります。

まず、上述したように、同時廃止よりも管財事件の方が、申立てをしてからの手続きとして管財人との面接・裁判所での面接の2つのステップがあります。
その分弁護士としてもやることが多いので、弁護士費用が余計にかかることがあります。

さらに、管財人に対する報酬を申立て時に支払う必要があります。
管財人は弁護士が裁判所から選任されるのですが、東京地方裁判所の場合、少額管財で20万円以上、特定管財の場合は50万円以上の支払いが必要となります。

これらの費用は弁護士に依頼してから積み立てを行うことができるので、無理なく支払うことが可能ですが、同時廃止よりも費用がかかることは事前に把握しておきましょう。

自己破産の場合、弁護士費用の支払いが難しい場合の対応方法

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産の相談の多くは無料で行うことができる
  • 弁護士費用は分割で払える事務所に依頼する

自己破産の費用もかなりかかるのですねぇ…ちょっと費用の支払いは厳しいのですが。

自己破産の場合、弁護士費用の支払いが厳しい場合でも対応方法があるので確認しましょう。

自己破産を依頼したいが弁護士費用の支払いが難しい場合の対応方法を確認しましょう。

相談は無料のところを選ぶ

自己破産を弁護士に依頼するときは、まず弁護士に法律相談・借金相談をすることとなります。

弁護士に相談する際は、通常、30分5,000円程度の費用が必要となります。
市区町村が主催している弁護士相談・地域の弁護士会への相談などを利用すれば、無料で相談することもできます。

また、借金問題に詳しい専門家であれば、弁護士への相談料の支払いも難しい状況であることは承知しているので、
無料で相談ができる場合が多いです

弁護士報酬の分割払いができる事務所に依頼する

弁護士報酬のうち、着手金に関しては通常、弁護士に依頼する際に一括で支払うのが原則となります。

しかし、自己破産の場合は、どの事務所に依頼する場合でも20万円程度の報酬が発生することが多いため、自己破産を検討している方は、このような費用を支払えない方が大多数でしょう。
そこで、借金問題に詳しい弁護士であれば、報酬を分割で支払うことを認めている場合が多いです。

このような事務所に依頼すれば、手持ちのお金が乏しくても、すぐに弁護士に依頼することができます。

法テラスを利用する

既に職業を失っているような場合は、分割での支払いすらできない可能性があります。

このような場合には法テラスを利用して、民事扶助によって弁護士報酬の立て替えをしてもらいましょう。
毎月5,000円~立て替えてもらった費用を償還するのみで依頼ができますし、生活保護を受けているような場合は償還すら不要となります。

自己破産手続きの流れ

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 自己破産手続きの流れ

なるほど、自己破産手続きがどのような流れで進むか教えてもらって良いですか?

はい、自己破産手続きの流れを確認しましょう。

自己破産手続きは次のような流れで進行します。

1)申立て準備までの流れ
弁護士に依頼すると、弁護士は債権者から取引履歴・債権届出を受け、正確な債務額を調査します。
債務額の調査は2ヶ月~3ヶ月程度で終了します。

もし、過払い金が発生しているような場合、回収可能な貸金業者である場合はこの段階で取り立てを行います。
弁護士費用を分割で支払う場合、基本的には申立てまでに分割して支払いを行います。
弁護士費用の分割支払いが終わる頃に、申立書の作成と添付資料の収集を行います。

また、管財事件となる場合で、管財費用の準備ができない場合は、申立て前に積み立てを行って、支払えるようになってから申立てをすることが多いです。

2)同時廃止の申立て後の流れ
同時廃止の申立てをすると、裁判所が書類を確認し、問題がなければ破産手続開始決定を行います。

裁判所での面接(免責審尋)が行われる日程が提示され、不明点がある場合は裁判所から問い合わせが弁護士に対して来ますので、弁護士がそれに対して回答を行います。
指定された期日に裁判所へ赴いて、書類に基づく質疑応答を行います。

借金をした事情などについての一般的な質問が中心ですし、仮に答えに困るような内容でも、弁護士に依頼をしていれば回答してくれますので、特に心配する必要はありません。
問題がなければ破産手続きは終了し、免責許可の決定が出て、1ヶ月後に免責が確定すれば破産手続きは終了となります。

管財事件の申立て後の流れ

管財事件の場合、裁判所が書類を確認し、問題がなければ破産手続開始決定を行います。

破産管財人が選任され、管財人と面談の日程が調整されます。
管財人から、申立ての内容で不明な点がある場合は、弁護士に問い合わせがくるので、弁護士がそれに対して回答を行います。
免責不許可事由があるような場合は、反省文の提出などが求められることもあるので、弁護士が一緒に文面を考えて作成することが一般的です。

管財人との面接では、破産に至った事情や、免責不許可事由がある場合はどうしてそのようなことをしたのか、反省しているのかなどについての質疑応答が行われます。
一般的なことについての質疑応答で。弁護士に依頼すれば弁護士が同席していますので、こちらも心配する必要はありません。

管財人は面談の結果を裁判所に報告し、あらかじめ決められた日程に、裁判所で面接が行われます。
裁判所では、管財人が破産手続きについての報告と、一般的には、免責不許可事由がある場合は裁量免責が相当であるという陳述を行い、裁判官との多少の質疑応答がなされる程度で面接は終了します。

こちらも、弁護士に依頼していれば弁護士が同席して対応してくれますので、特に心配の必要はありません。
問題がなければ破産手続きは終了し、免責許可の決定が出て、1ヶ月後に免責が確定すれば破産手続きは終了となります。

まとめ

同時廃止と管財事件の違い、振り分け基準等について解説しました。
振り分け基準は法律で明確に定められているものではなく、裁判所ごとに違いますし、同じ裁判所でも運用が変わることがあるので、最新の知識がなければ正確に判断することはできません。
ですから、自己破産を検討されている方は、まずは借金問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。
また、明らかに管財事件になってしまうという方の場合、弁護士に破産申立てを依頼すれば、少額管財事件として予納金を抑えることができる可能性があるので、やはり弁護士に相談した方が良いといえるでしょう。