- 個人再生をしても賃貸マンション等にはそのまま住み続けることができるのが原則
- 個人再生の開始前に家賃の滞納が生じている場合には要注意!
- 個別の契約に特約が設けられている場合もあるため、契約書の内容も確認する
【Cross Talk】そのまま住み続けられるのが「原則」。では、「例外」はどんなとき?
借金を返済していくことが難しくなってきたため、個人再生の手続を利用しようと考えています。現在の住まいは持家ではなく賃貸マンションなのですが、個人再生をすることで追い出されるようなことがないか不安を感じています。
個人再生は自己破産と異なりマイホームを残すことができる手続ですので、住宅ローンを支払い中のサラリーマンなどに人気のある手続ですが、もちろん賃貸マンション等に住んでいる方でも利用することができます。個人再生をしたからといって賃貸マンション等を追い出されるようなことは原則としてありません。
それを聞いて安心しましたが、「原則として」とおっしゃったのが気になります。例外もありえるのでしょうか。
仰るとおり、貸主によって賃貸借契約を解除されてしまう可能性もゼロではありません。詳しくご説明しましょう。
個人再生を利用したからといって、賃貸借契約を解除され、賃貸マンション等を追い出されるようなことは基本的にはありません。
ただし、個人再生が開始する前に貸主に契約の解除権が発生している場合などに、例外的に契約を解除されてしまう可能性もあります。
手続の準備段階で十分に注意しておけばそのような事態は避けることができますので、よく確認しておくようにしましょう。
個人再生しても原則は賃貸マンション等を追い出されない
- 個人再生をしたときに賃貸借契約を継続するかどうかは借主が決めることができる
- 貸主は、借主が個人再生をしたからといって契約を解除することはできない
- 賃貸借契約を継続することを選択すれば賃貸マンション等を追い出されることはない
個人再生をした後も賃貸借契約は継続できるのが原則と仰いましたが、それはなぜでしょうか。
個人再生の手続は「民事再生法」という法律に定められています。この法律には個人再生が開始したときにまだお互いに履行が完了していない契約があるときの扱いについて定められており、賃貸借契約についてもこの規定が適用されます。
法律で決められているのですね。詳しく教えていただけますでしょうか。
住居は人が生活していくうえで必要不可欠なものです。
賃貸物件に住んでいる方で個人再生を検討している方の中には、「個人再生の手続をした後も今の物件に住み続けられるのだろうか」と不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。賃貸物件に住んでいる方が個人再生の手続をした際、賃貸マンションや賃貸アパートを追い出されてしまうことはあるのでしょうか。
結論から申し上げると、個人再生をしたからといって賃貸マンション等を追い出されることは原則としてありません。
個人再生の手続は「民事再生法」という法律に定められており、その49条1項には個人再生が開始した時にまだ履行が完了していない双務契約があるときの扱いについての規定があります。「双務契約」とは契約当事者が互いに債務を負担する契約をいい、借主が貸主に家賃を支払って貸主が借主に不動産を使用させる契約である賃貸借契約もこれに含まれます。
民事再生法の規定によると、個人再生の手続が開始した時点で賃貸借契約が締結されていたときには、借主である再生債務者が、契約を終了させるか継続させるか選ぶことができます。つまり貸主側に賃貸借契約を終了させる権限はなく、借主側からあえて契約を解除しなければ借主は賃貸マンション等に住み続けることができます。
ただし、これはあくまで「原則」であり、例外もありえます。たとえば家賃を滞納していたような場合です。例外については次の項目で詳しくご説明いたします。
特約で解除権が留保されている場合
- 個人再生の開始決定後も家賃の支払いは認められる
- 個人再生の開始決定前に賃貸借契約の解除理由が生じていたときには解除のリスクが生じる
- 契約の内容によっては個人再生を利用したときに契約を解除されてしまう場合がある
個人再生の開始後も賃貸借契約が継続するのが「原則」だということはよくわかりました。では、「例外」はどのような場合なのでしょうか。
一つは、個人再生の開始前に賃貸借契約の解除権が発生している場合です。個人再生の開始決定が出されると再生計画の認可が下りるまでの間は弁済が禁止されるため、家賃だけ支払って滞納を解消することはできなくなってしまうのです。もう一つは、賃貸借契約の契約締結時に特約を結んでいた場合です。
私は法律に詳しくないので、すでに頭がこんがらがってきました。それぞれのケースについてわかりやすく説明していただけますでしょうか?
個人再生の開始前に解除権が発生している場合
不動産賃貸借契約においては、借主が家賃を支払う義務を負い、貸主が不動産を使用・収益させる義務を負います。契約当事者の一方が契約上の義務を果たさないことを「債務不履行」といいます。
契約の一方の当事者に債務不履行が発生したとき、もう一方の当事者は契約を解除することができるとされています。
もっとも、不動産賃貸借契約においてたった一度の家賃未払いで契約を解除されてしまうと借主は不安定な立場に置かれてしまいます。
そこで借主を保護する観点から、貸主と借主の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行がなければ、その契約を解除することができないとされています。逆にいえば、借主の家賃の未払い等により当事者間の信頼関係が破壊されたといえるときには、貸主は契約を一方的に解除することができます。
個人再生の開始決定が出された後は、再生計画の認可が下りるまでの間は債務の弁済が禁止されます。もっとも、家賃や水道光熱費は例外として随時弁済を行うことが認められています。これは家賃や水道光熱費が法律で「共益債権」とされているためです。
つまり、個人再生の開始決定前に家賃の滞納が発生していない場合には、個人再生の開始決定後も家賃を支払い続けることにより賃貸物件に住み続けられることになります。
他方で、個人再生の開始決定前に家賃の滞納が発生していた場合には問題となります。
個人再生の開始決定前に滞納した家賃は再生債権として減額の対象となるため、弁済は禁止され、勝手に滞納分の家賃を支払うことはできなくなります。
さらに家賃の滞納が長期間にわたるなど貸主と借主の信頼関係が破壊されたといえるような事情がある場合には、貸主に解除権が発生してしまい、マンション等を明け渡さなければいけない場合があります。
そのような事態にならないように、家賃を滞納している場合には個人再生の開始決定が下りる前に清算しておくことが必要になります。万が一、個人再生の開始決定後に家賃の滞納が生じてしまった場合には、家族や親戚に代わりに支払ってもらう方法があります。
特約で解除権が留保されている場合
賃貸借契約書に「借主が倒産した場合には解除権が生じる」という規定が盛り込まれている場合があります。これを「倒産解除特約」といいます。「倒産」とは自己破産等の総称で、個人再生もこれに含まれます。
倒産解除特約が盛り込まれている賃貸借契約で借主が個人再生の手続を利用した場合は、賃貸借契約を解除され、マンション等から追い出されてしまうのでしょうか。
実は倒産解除特約は有効性そのものが問題とされており、裁判でも何度か争われています。
たとえば最高裁平成20年12月16日の判決では、トラッククレーンのリース契約において倒産解除特約が設けられていた事案で、以下のように、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする部分については、特約の効力が否定されました。
「民事再生手続は、経済的に窮境にある債務者について、その財産を一体として維持し、全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき、債務者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し、債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり(民事再生法1条参照)、担保の目的物も民事再生手続の対象となる責任財産に含まれる。
ファイナンス・リース契約におけるリース物件は、リース料が支払われない場合には、リース業者においてリース契約を解除してリース物件の返還を求め、その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものであるが、同契約において、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは、このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないから、民事再生手続の趣旨、目的に反することは明らかというべきである。」
ただし、これは全く違う契約の際の判断ですので、賃貸借契約の際は有効性が認められる可能性も十分に考えられます。賃貸借契約書に倒産解除特約が設けられている場合には、弁護士に相談し、個人再生をしても問題がないか検討してもらうことをお勧めいたします。
まとめ
個人再生の手続をしたからといって賃貸マンションや賃貸アパートを追い出されることは原則としてありません。ただし、例外的に貸主に解除権が発生する場合もありますので、個人再生の準備をする段階でよく確認をしておくことが重要です。
どのような場合に解除権が発生するか判断する際には、法律の規定の内容や解釈が問題となるため、個人再生の申立てを行う前に法律の専門家である弁護士に相談するようにしましょう。