- 売掛金があると個人再生の返済額が増加する
- 自己破産の場合、売掛金は原則として債権者に分配される
- 債務整理が難しくなるので弁護士に相談を
【Cross Talk】債務整理をすると売掛金はどうなる?
借金が増えて自転車操業になってしまったので債務整理を考えています。
ただ、私は自営業をしているのですが、取引先への売掛金があります。債務整理をすると売掛金はどうなりますか?
債務整理の方法によって違います。個人再生の場合は返済額が増えることになり、自己破産の場合は原則として回収して債権者に分配することになります。
手続によって違うのですね。どう違うのか教えてください!
自営業者や個人事業主が、事業がうまくいかなくなって債務整理をすることがあります。
ただ、自営業者等の場合、手元にはめぼしい財産がなくても、取引先に対して売掛金があることも珍しくありません。
売掛金を回収できればその分だけ債務者の財産が増えるわけですから、債務整理において売掛金を考慮に入れる必要があるのではないかという疑問が生じます。
そこで今回は、自営業者や個人事業主の売掛金が債務整理においてどのように扱われるかについて解説します。
そもそも売掛金とは
- 売掛金とは、掛取引による物やサービスの代金等を受領する権利
- 自営業者や個人事業主には売掛金があることが多い
そもそも売掛金って何ですか?
後払いで売った物やサービスなどの代金を請求できる権利のことをいいます。事業をしている場合、売掛金があることは珍しくありません。
売掛金とは、掛取引(代金後払い)で売った物や提供したサービスなどの代金を請求できる権利のことをいいます。
自営業者や個人事業主など事業を営んでいる場合、代金と引き換えに物を販売したりサービスを提供したりするのではなく、後日、請求書を送付するなどして代金を請求することが広く行われています。
債務整理における売掛金の扱い
- 個人再生の場合、売掛金があると返済額が増える可能性がある
- 自己破産の場合、原則として破産管財人が回収して債権者に配当する
債務整理をする場合、売掛金はどのように扱われますか?
債務整理の中でも個人再生をする場合、売掛金そのものがなくなるわけではありませんが、返済額が増える可能性があります。
また、自己破産をする場合は、原則として売掛金は債権者に配分されることになります。
個人再生の場合
債務整理のひとつに、民事再生という手続があります。
民事再生は、債務者の債務を減額したうえで分割返済させることで、債務者の経済的な更生を図る裁判所を通した手続です。
民事再生の中で、対象となる債務の額が5000万円以下であることなど一定の要件を満たすものについては、小規模個人再生というより簡易な手続を利用することができます。
個人再生によってどの程度債務を減額させられるか、すなわち個人再生をしても弁済しなければならない額(最低弁済額)はいくらかについては、債務の総額から算定する方法と、清算価値から算定する方法の2つの算定方法があります。
債務の総額による算定方法は、次のようになっています。
債務の総額 | 最低弁済額 |
100万円未満 | 全額 |
100万円以上500万円未満 | 100万円 |
500万円以上1500万円未満 | 債務総額の5分の1 |
1500万円以上3000万未満 | 300万円 |
3000万円以上5000万円以下 | 債務総額の10分の1 |
このような債務の総額による算定とは全く異なる算定方法として、債務者の財産の清算価値から算定する方法があります。
清算価値とは、ざっくり言えば、債務者の財産を清算(換価処分)したときに得られる価値(金額)のことをいいます。この価値(金額)は,破産手続きをとった場合に債権者への支払いに充てられる金額と基本的に同額となります。
個人再生の場合、最低でもこの清算価値に相当する額を返済しなければならないとされています(清算価値保障の原則と言います)。
なぜなら,個人再生では、自己破産の場合と違って,原則として債務者は財産を処分する必要がなく,売掛金もそのまま債務者の手元に残りますが,一方で債権者を保護するため、最低でも債務者が保有する財産と同額(自己破産した場合に債権者に支払われる金額)の返済をしなければならないと考えられているためです。
結論として、個人再生をした場合の最低弁済額は、債務の総額から算定された額と、債務者の財産の清算価値から算定された額のいずれか多い方ということになります。
自営業者や個人事業主の売掛金は、代金を請求する権利であるため、債務者の財産として扱われることになります。
つまり、売掛金があると、債務者の財産の清算価値が大きくなるということです。その結果、清算価値が債務の総額から算定された返済額を超える場合には、清算価値に相当する額を返済しなければならなくなります。
このように、個人再生をする場合、売掛金があることで、返済額が増える可能性があるのです。
自己破産の場合
自己破産は、債務者の財産を清算(換価処分)したうえで債務の返済に充て,それでも残ってしまった債務の支払義務を免除して,債務者の経済的な更生を図る裁判所の手続です。
自己破産の場合、債務者に財産があるときは、裁判所によって破産管財人が選任され、破産管財人が財産の管理、処分を行い、集めたお金を債権者に分配することになります。
売掛金も債務者の財産にあたるため、売掛金がある場合、原則として破産管財人が売掛金を回収し、債権者に分配します。
したがって、自己破産をした場合、原則として売掛金は債務者の手元を離れ、なくなってしまいます。
ただし、個人が自己破産をする場合でも、一定の財産は清算の対象とならず債務者の手元に残すことが認められています(自由財産といいます)。
破産手続開始決定後に取得した財産、差押禁止財産、99万円以下の現金が自由財産にあたります。また,自由財産拡張手続により裁判所から拡張が認められた財産,破産管財人が破産財団から放棄した財産も自由財産にあたります。
売掛金が前者の自由財産にあたらない場合でも,後者の自由財産拡張手続により、売掛金を手元に残すことが出来る場合もあります。
売掛金があると債務整理が難しくなる
- 売掛金があると債務整理の難易度が上がる
- 債務整理の専門家である弁護士に相談を
売掛金があると手続が複雑になるのですね。自分ではできそうにないです…
そうですね、手続の難易度が上がるので、専門家である弁護士に依頼することを検討したほうがいいでしょう。
これまで解説したように、売掛金が存在すると、売掛金の計算や売掛金の回収及び債権者への分配などの手続が増えてしまいます。
そうなると、どうしても債務整理の難易度が上がってしまうので、自らそれらの手続をすることは困難であるといえるでしょう。
ですから、売掛金がある自営業者・個人事業主が個人再生や自己破産を検討されている場合は、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
自営業者や個人事業主が債務整理をする場合の売掛金の扱いについて解説しました。
個人再生や自己破産は手続が複雑になりますので、これらの債務整理の方法をお考えの方は、債務整理に詳しい弁護士に依頼をすることが望ましいといえます。