- 個人再生は債務整理の手段の一つで、圧縮された債務を分割で返済するものです。
- 個人再生ができる条件は、・債務総額が5,000万円以下であること、・継続的または反復して収入を得る見込みがあることです(給与所得者再生手続の場合は・継続的収入の変動幅が小さいと見込まれることも必要)。
- 個人再生が向いているのは、任意整理ができないけれども、住宅ローンを抱えていて家を維持したい人or自己破産をすると制限を受ける職業に就いている人に向いています。
【Cross Talk】私は個人再生できますか?
債務整理を検討しているのですが「個人再生」を考えています。私は個人再生ができるでしょうか?
どうして「個人再生」が良いと思いましたか?
住宅ローンがあってもそのまま家に住める…という内容だったからです。任意整理との違いは正直わからなかったのですが、自己破産よりかはいいかな…と思いました。
相談者様の詳しい状況次第というところではあるのですが、「個人再生」を検討する場面ですね。
借金の返済に困ってしまった場合の方法として「債務整理」があるのですが、債務整理の方法の一つとして「個人再生」というものがあります。
個人再生はだれでもできるわけではなく、一定の条件があり、利用するにあたっての向き不向きがはっきり分かれる手続です。
このページでは個人再生の利用の条件と、どのような人に向いているのか、という事を中心にしてお伝えいたします。
個人再生とはどのようなものなのかを知る
- 個人再生は主に3つある債務整理の手段の一つ
- 残債務額を任意整理で支払えない場合に検討すべき法的手続の一つ
そもそも「個人再生」ってどんな手続なのですか?
債務額に応じて借金を法律の定めにしたがった金額・割合へと圧縮し、これを原則36回(3年)払いで支払っていくようにするものです。
借金返済に困った方が利用する債務整理の中でも任意整理と自己破産との中間的なものです。
そうなのですね。
借金が膨らんでしまって返済に困ったときに、借金を免除してもらったり支払い条件を軽くしてもらう手続のことを「債務整理(さいむせいり)」と呼びます。具体的には、任意整理・自己破産・個人再生という主に3つの手続のどれかによって借金の返済を免除あるいは長期分割にするものです。
任意整理というのは、貸金業者と債務の内容についての返済条件について話し合いをして、支払いの条件を緩めてもらうことをいい、現在の債務整理に関する実務では残債務額を原則36回(3年)を上限として返済する手続です。
自己破産というのは、裁判所に申し立てをした上で、一定の資産があればこれを金銭に換えて配当に回し、税金や養育費といった一部の債務を除いて支払いを免除してもらう手続です。
個人再生というのは、裁判所に申し立てをした上で、債務の総額に応じて法律の定めにしたがった金額に圧縮してもらったものを原則で3年を上限とした分割弁済にしてもらう手続をいいます。
3つの手段のどの手続によるべきかについては、残債務額と月々に支払いが可能な額がどの程度あるのか、どのような資産を持っているのか、どのような職業についているのか、本人の意向などによって異なります。
基本的には残債務を36回(3年)で支払うことができるかどうかによって、支払うことができる場合の「任意整理」を利用するのか、支払うことができない場合に「自己破産」もしくは「個人再生」を利用するのかということを検討し、支払いができない場合に自己破産手続を検討するのが一般的です。
借金がいくらあればどの手続になる、というような一律的な決め方ではなく、あくまで総債務額と月々の支払い可能額などとの相関関係になりますので、どの手続が適しているかは弁護士に相談をした上で決めることになります。
個人再生の種類と利用する条件
- 個人再生手続には大きく分けて小規模個人再生手続と給与所得者再生手続の2つがある
- どちらの手続も・債務総額が5,000万円以下、・継続的または反復して収入を得る見込みのある者であることが条件
- 給与所得者再生手続ではさらに・継続的収入の変動幅が小さいと見込まれることが条件となる
どの手続が適しているかは弁護士と相談して決めるのはわかりました。ところで個人再生をするにはどのような条件が必要なのでしょうか。
細かい条件まで考えると様々あるのですが、個人再生手続には大きく小規模個人再生手続と給与所得者再生手続の2種類の手続が存在し、それぞれ一部利用条件が異なります。
それでは、小規模個人再生手続と給与所得者再生手続にはどのような違いがあるのでしょうか。
個人再生手続のうち、一般的に多く用いられているのは小規模個人再生手続です。小規模個人再生手続は、原則として次の最低弁済基準にしたがって残債務を圧縮した金額(最低弁済基準額)を分割で返済するものです。債務総額が、
・100万円未満だと債務総額を分割で返済する。
・100万円以上500万円以下だと100万円を分割で返済する。
・500万円を超え1500万円以下だとその5分の1を分割で返済する。
・1500万円を超え3000万円以下だと300万円を分割で返済する。
・3000万円を超え5000万円以下だとその10分の1を分割で返済する。
ただし、個人再生手続で返済する金額は清算価値保障の原則に反してはならないという制限が存在します。清算価値保障の原則とは、破産手続きを行った場合に弁済される配当額(清算価値)以上を支払わなければならないというものです。アンダーローンや担保の付いていない不動産などの資産価値の高い財産を持っている場合に問題となります。そのため、上記の最低弁済基準額と清算価値の内、より高い金額を分割で返済することとなります。
一方で、給与所得者再生手続では、上記の最低弁済基準額と清算価値だけでなく、これに可処分所得の2年分以上の金額を併せた3つの金額の中で一番大きい金額を分割で返済することとなります。可処分所得の2年分以上の金額を算定する方法は複雑ですが、一番大きい金額が返済額として選択される仕組み上、返済金額が多くなる可能性が高くなるため、小規模個人再生手続より返済の上では不利な手続といえます。
それでは、なぜ給与所得者再生手続が存在するのかというと、小規模個人再生手続ですと、債権者の内、頭数あるいは総債権額で半数以上が反対の意見を提出すると手続を進めることができなくなります。他方、給与所得者再生手続ではこのような多数決の定めは存在しないため、債権者の意向に関わらず手続を行うことができるのです。そのため、申し立てをする前に債権者の意向を確認し、個人再生に反対することが明らかな債権者が多い場合には給与所得者再生手続を検討することとなります。
次に、それぞれの手続の利用条件について見ていきます。
両方の手続に共通する条件として民事再生法には次のような規定が存在しています。
民事再生法 第221条 1項
第二百二十一条 個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
分かりやすく解説しますと、個人再生手続を利用するためには、①債務総額が5,000万円以下であり、かつ②継続的または反復して収入を得る見込みのある者であることが条件となります。
これは、個人再生手続が通常の民事再生手続を簡素化したものであることからあまりに高額な債務については通常の民事再生手続によるべきと考えられていること(①)、原則3年間の分割返済を前提とするため将来継続的に収入が得られることが前提であること(②)によるものです。さらに、給与所得者再生手続の利用条件については次のような規定が存在しています。
民事再生法 第239条 1項
第二百三十九条 第二百二十一条第一項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
つまり、給与所得者再生手続を行うためには、上記の①②に加えて、③継続的収入の変動幅が小さいと見込まれることが要求されるのです。
具体的には、年ごとの計算のもと過去2年の年収で変動の幅が20%以内である必要があります。もっとも、変動が20%を超えていても、その理由が転職や再就職による場合などについては例外的な取り扱いも存在しますので、詳しくは専門家である弁護士に相談するのが良いでしょう。
以上のように、給与所得者再生手続は債権者の意向に関わらず手続を行える代わりに、小規模個人再生手続よりも利用条件が厳しくされているのです。
また、以上の①から③までの条件に加え、「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれ」(支払不能になってしまうおそれ)といった、民事再生手続を行うための一般的な条件も必要となることにもご注意ください。いずれにせよ、どういった手続を選ぶことが適切かは弁護士に相談して決めるのが良いでしょう。
個人再生を利用するのが向いている2つのシチュエーション
- 任意整理に比べると自己破産も個人再生も手続的な手間はかかる
- 自己破産は経済的に立ち直るまでの期間が短いため、任意整理ができないのであれば自己破産が良い
- ただし、2つの場面で自己破産に適さない場合があるので、そのような人には個人再生が向いている
冒頭で私の状況なら個人再生を検討する場面とおっしゃっていたのですが、どのような場合に個人再生が向いているのでしょうか。
個人再生は自己破産同様に裁判所に申し立てをする手続なので、毎月の家計簿の作成や収入に関する書類を提出していただく必要があるなど、ご依頼者様に行っていただくことが多い点は共通します。一方で、個人再生は借金を圧縮するものの、圧縮後の金額は払っていく義務があり、自己破産は借金を免責してくれるという点で決定的な違いがあります。
なるほど、手続が終わったらすぐに借金がなくなる自己破産のほうが、早くやり直しのスタートラインに立てるということですね。
その通りです。ただ、住宅ローンがある場合で家を失いたくないような場合や、自己破産をすることで制限を受ける職業に就いている場合には、個人再生の利用を積極的に検討すべきケースなので知っておいてください。
個人再生がどのような人に向いているかということを検討するにあたっては、上記の手続の選択のお話しと連動して検討する必要があります。
まず、借金の額と月々の支払い可能な金額の関係で、支払不能、あるいはそのおそれがあるといえる状態にまでは至っていないと評価できる場合は、自己破産や個人再生は利用できないので、この場合は任意整理を検討することとなります。
また、逆に総債務額を36回の分割にしてもらってもなお支払いができないような場合には、原則として任意整理には適しません。
任意整理が利用できない場合には自己破産か個人再生となるのですが、両方とも裁判所に対する申立が必要な手続になりますので、ご自身で行っていただくことが多く手続上の負担が大きい点は共通します。他方で、両者には債務が残るのかそうでないのかという違いがあり、経済的に立ち直るという点では自己破産の方が早いといえます。
ただし、次の2つのケースでは個人再生を利用する方が向いているため、個人再生の利用を積極的に検討すべき場面といえます。
一つは住宅ローンで自宅を購入したけれども借金の返済に困っている場合です。
自己破産をすると住宅に住めなくなってしまいますが、個人再生を利用すると住宅ローンは従来通りそのままにできる規定があるので、自宅に住み続けられるというメリットがあります。もっとも、住宅ローンをそのまま維持するためにはいくつかの条件が存在します。
もう一つは、特定の資格や職種に就いていて、自己破産をすることによって、一時的にではありますが、その資格や職種の仕事ができなくなる人のケースです。
資格を利用して仕事をしている人の中には、その資格が自己破産をすると手続中は使えなくなる人がいます(欠格事由と呼んでいます)。弁護士、弁理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、公認会計士、税理士、行政書士、通関士、宅地建物取引士などがこれに当たります。
また、取締役など会社と委任関係にある会社役員は委任契約終了により退任となりますし、警備員や質屋を営む人のような他人の金銭や資産などが絡む職業についても制限がかかります。
自己破産によってどのような職業が制限を受けるのかについて、詳しくは「自己破産すると仕事ができなくなる!?職業制限はあるの?」の記事をご参照ください。
破産をすることで職業に制限がかかる人でも個人再生を利用すると原則としてこうした制限にはかからないので、この場合には個人再生を利用すべき場面といえます。
まとめ
このページでは、個人再生を利用するための条件と、向いている人についてという話題を中心にお伝えしてきました。
どのような手続が良いのかは、その人の債務の状況・月々の支払い可能な金額・資産や職業などによって違ってくるということをご理解いただいた上で、特に個人再生を検討すべき2つのケースがあることを知っていただき、最終的にどういった手続を選択されるかについては専門家である弁護士に相談をするようにしてみてください。