- 親の借金であっても支払い義務はない
- 相続で自分の債務となる事で支払い義務が生じる
- 相続放棄で簡単に支払い義務から免れる
【Cross Talk】借金の相続!?どうすればよい?
先日父が亡くなりまして、実家を整理していると消費者金融から大量の請求書が来ていました。これはやっぱり私たちが相続して支払いをしなければならないのでしょうか。
相続放棄という制度を利用すれば、相続した負債の支払いから免れることが可能です。
たとえば親が商売をやっていて多額の借金を負っているような場合、よくドラマなどでは親の借金を子が肩代わり…というようなシーンを見るかもしれませんが、実際には支払い義務はありません。
ただ、親が亡くなって自分が相続人である場合には相続をいたします。
相続というと家・土地などの不動産、株式などの有価証券、多額の現金・預金というイメージがあるかもしれませんが、借金というマイナスの資産も同時に相続をいたします。
相続によって自分の負債となるので、これに対しては支払義務が生じることになります。
この場合には、債務に対する手当が必要なのですが、さまざまな方法の中でも相続放棄が一番わかりやすく、簡単な手続きになります。
子に親の借金を払う義務はない
- 子など身内であっても親の借金を支払う法的な義務はありません
私は父の相続人になるのですが、父が生前から支払を滞らせていた際に、代わりに払ってくれと債権者に言われて支払っていたこともあります。過ぎた事ですが、このような支払いに義務はあるのでしょうか。
お父さまの借金について保証人になっているような事がなければ支払義務はありません。
たとえば、親が個人で商売をやっていて、銀行からお金を借りていたような場合には、子には支払い義務があるのでしょうか。
この点については、たとえば金銭債権について主張できるのは債務者に対してのみで、親が債務者である場合には、たとえ子が商売を手伝っていた・同居をしていた・生計を一緒にしていた、などの事情があったとしても支払い義務はありません。
よく、ドラマや読み物などで、親の借金を支払わされた…というような表現を見かけますが、法的な義務は一切ないのです。
ただ、親の債務について保証をしているような場合には支払い義務があります。
事実を観察すると親の債務の支払いのように見えるかもしれませんが、法的には保証をしたことによって自分で保証債務を負った、という評価がされます。
相続で親の借金を受け継いでしまうことはある
- 相続は資産のみならず負債のようなマイナスの財産も引き継ぐ
父が亡くなって借金を相続したと債権者に主張されているのですが、そもそも相続っていうのはお金持ちが家や土地などの不動産やお金を受け継ぐというイメージしかないのですが、借金も相続の対象になるのですか?
相続は資産を譲り受けるというより、亡くなった人の資産に関する法的な立場をまるまる引き継ぐものであるとされているので、資産だけでなく借金のような負債も相続すると考えてください。
「相続」というと、経済紙などで、相続税対策、家・土地などの不動産、預金をどうするか、といったプラスの資産についての話題が多いのですが、借金のような負債もまた相続の対象です。
これは、相続というのが、亡くなった方のものの所有権や債権、債務などの法的な権利義務についての地位をそのまま譲り受けることによります。
ですので、家・土地の所有権というような資産の承継があるのと同時に、借金の債務者という地位も承継するのです。
幼いころに離婚した親に借金がある場合
- 両親が離婚している場合でも親子関係がある以上相続する
さきほどから「父」と表現しているのですが、実はこの父は幼い頃に私の母と離婚をして別の場所で暮らしていました。私はほとんど会うようなこともなかったのですが、このような場合でも相続はするのでしょうか。
残念ですが、両親が離婚をしていても親子関係については影響がなく、今回は相続人ということになります。
ご相談者様のケースのように、幼い頃に離婚してそのまま離別した親でも相続をすることになるのでしょうか。
仮に親が離婚をしても、法律上の親子関係には影響はありません。
親が亡くなった場合に子が相続をすることになりますが、ここに言う子は今の配偶者との間の子でなければならない、という規定はなく、交流がなくても相続人になります。
離婚した親がそのまま別の方と再婚をして、再婚相手との間に子がいる場合には、その子とも共同相続人になります。
そのため、借金がある場合には借金も相続することになるので、対策が必要です。
親の借金を払わないようにするための対処法4つ
- 親の借金を払わないための方法は4つあり、もっとも現実的なのは相続放棄
父の借金を相続することはわかりましたが、ちょっと金額が大きすぎて支払えないのですが…
対策として考えられるのは4つですが、現実的には相続放棄が一番良いでしょう。原則として相続が開始したことを知った時から3ヶ月という期限のある手続きになりますので、なるべく早く弁護士にご相談してください。
相続によって借金を返済しなければならなくなった場合に、親が商売をやっていて銀行から多額の貸付を受けていたようなケースでは、子に返済を求められても対応できないというケースもありますし、そもそも借金を相続したからといって子がその借金の全額を返済する、または、子が自己破産などの債務整理をしなければならない…というのは納得いきません。
子が借金を払わないようにする方策としては次のようなものがあります。
親が健在のうちに親が債務整理をする
そもそもの借金の支払い義務は親にあるのです。
まだ親が生存していて、相続によって子が借金を返済しなければいけない事態が予想できるような場合には、親に自己破産をはじめとする債務整理をしてもらうのが一番現実的でしょう。
実際に高齢になってからの生活にかかる費用は高額になり、借金の返済を最優先している場合ではないので、債務整理をして家計を楽にするのは親の老後生活の安定のためにも有用であるといえます。
債務整理というと自己破産・個人再生・任意整理という方法がありますが、個人再生や任意整理は返済を続けることが前提なので、高齢などで長期の支払いに耐えられないと判断されれば利用できないこともある点に注意が必要です。
当然ですが、親が債務整理をすることは親がまだ存命である場合にできる措置であって、親が亡くなってしまった後にはできません。
親が債務整理をすると、親本人はもちろん、周りの方にどのような影響を及ぼすかについては、「債務整理で保証人や周囲に与える影響について」で詳しくお伝えしておりますので、ご参照ください。
債務整理の手法をとる
相続をした親の債務を子が自身の債務として、債務整理をすることが考えられます。
ただし、後述の手続きの利用ができなくなった場合にのみ検討するようにしましょう。
相続放棄をする
相続で負った債務については、「相続放棄(そうぞくほうき)」という法律上の手続きを利用すれば、その債務を支払わなくて済みます。
相続放棄は、家庭裁判所に申立てをして行う手続きで、相続人であった者が初めから相続人ではなくなるという法律上の効果が発生するものです。つまり、相続人ではなくなるので債務も相続をしなくてよくなります。
ただ、資産も負債も全て放棄しなければならないので、例えば家・土地がありながら一方で借金がある場合に、借金だけ相続放棄するということはできないので注意が必要です。
また、相続放棄は原則として相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に行う必要があり、3ヶ月を過ぎた場合には3ヶ月を過ぎた事について合理的な理由を説明する必要があります。
3カ月という期間は、「相続の開始があったことを知った時から」なので、離婚した親の死亡を知ったのが1年後であるような場合には、その時から計算をいたします。
相続放棄の手続き自体は自己破産や個人再生のような周到な準備が必要なものではないのですが、遺産の処分をすると相続放棄の手続きを利用できなくなる場合があるので、弁護士へのご相談は早めに行うようにしましょう。
限定承認をする
相続の方式として限定承認という方法があります。
これは、プラスの遺産の範囲でのみマイナスの財産を相続をする、という方法です。
相続にあたって債務がどれくらいあるのかは、相続開始の時点ではわからないこのとほうが多いです。
そのため、家・土地があるので相続自体はしたいのだが、借金も相当ありそう、という場合には、家・土地の金額以上の借金があった場合には相続はしません、という事ができるのが限定承認です。
限定承認は相続放棄と違い、相続人全員で行う必要があります。
どれを利用するのが現実的か
以上のように複数の手続きがあるのですが、どの手続きを利用するのが現実的なのでしょうか。
まだ親が存命で、まだこれから先生活をしていかなければならない、介護のために費用がかかるというのであれば、親の自己破産手続きを早めに行うことを検討すべきです。
すでに親が亡くなっているような場合には、比較的簡単な手続きでできる相続放棄が一番現実的な方法といえます。
親の借金の調査方法
以上の方法をとる前提として、親の借金はどのように調査をするのでしょうか。
銀行・消費者金融などからの借入については、信用情報に登録がされています場合が多いです。
親が亡くなった後には、相続人などから開示を請求することができますので、これを利用して調査をいたします。
信用情報機関
・JICC
・CIC
・全銀業
いずれのページでも法定相続人からの開示についての記載を選択すると、開示の申込書や、必要となる身元確認資料、手数料を確認することが可能です。
これらを相続人である子が単独で取得で取得可能となるのは、あくまで信用情報に登録されている親が亡くなっている場合ですので、親本人が存命中は、本人の許可を得て代理権をもらって取得をすることが可能です。
信用情報に登録されない個人や勤務している会社からの借入については、このような登録がありませんので、親が存命中であれば親に、すでに亡くなっている場合には債権者を探す必要があります。
事業をしていて、買掛金や借金があるかは、事業に関する帳簿を確認しましょう。
まとめ
このページでは、親の借金などの負債についての支払い義務についてお伝えしてきました。
相続放棄という債務整理よりも比較的簡単な手続きで、債務を処理できますが、期間制限や、遺産の処分によって利用できなくなるなど、注意すべき点もありますので、早めに弁護士にご相談をするようにしてください。