借金を分割返済する際に期限の利益は重要なもので、これを喪失すると分割での返済ができなくなる
ざっくりポイント
  • 期限の利益とは、期限までは借金を返済しなくて良い、という内容
  • 消費者金融や銀行からお金を借りたときには期限の利益がある
  • 期限の利益は法律の規定や契約によってなくなり(喪失)、その後は残金を一括で請求される

目次

【Cross Talk】期限の利益は誰のためのもの

私は消費者金融から借金をしていて、3ヶ月ほど支払いができなかったのですが、消費者金融から一括返済を求められています。
遅れてはいても支払うから待ってくださいとお願いしたのですが、消費者金融の担当者から「期限の利益を喪失していますので」という答えが返ってきました。
どういう事なのか教えてもらえますか?

期限の利益を喪失すると一括で支払う義務がありますね。詳しくお伝えします。

債務者は期限までは請求されないという期限の利益を有しているが、これを喪失すると一括請求される

費者金融や銀行などからの借入については、借入した金額を契約で決めた期日に入金すれば良く、全額を直ちに請求されても拒否することができます。
この債務者の利益を「期限の利益」と呼んでいます。期限の利益は民法や契約上に規定されている事態が発生することによって喪失することになります。
そうすると、今滞納している借入金はもちろん、本来であれば来月以降の支払いで良かったはずの残債務も一括して支払う必要が出てきます。
そうなると一括して返済するしかなく、早急に債務整理が必要になります。

期限の利益とは?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 借金をしても、返済期限まで全額を支払う必要はないという債務者側の利益のことを期限の利益という
  • 期限の利益を喪失すると一括請求される

まず、期限の利益という言葉が聞き慣れないので詳しく教えてもらっても良いですか?

借金は契約で定められた期限までに、定められた金額を支払えばよく、それより前には全額の支払い義務はありません。このような債務者側の利益のことを期限の利益といいます。

まず、期限の利益というのがどのようなものなのかを知りましょう。
期限の利益とは、債務の履行に関して、履行期まで債務の履行、つまり返済をしなくても良いという債務者側にとっての利益のことをいいます。
例えば借金で考えてみましょう。

消費者金融から50万円を借り入れたとして、その50万円は、1回返済ではない限り、直ちに全額を支払わなければならないのではなく、契約で定めた所定の期日に所定の金額を返済する、という契約になっています。
毎月25日に1万円の支払いをすることになっている場合に、25日より前に消費者金融が債務者に返済を求めても、債務者は期限の利益があるからといって断ることができます。
また25日以降でも1万円(および遅れている場合には遅延損害金も入れて)支払う義務はありますが、50万円全額を返せと請求されても、1万円と遅延損害金を支払えばよく、50万円全体の債務不履行にはなりません。
しかし、後述しますが長期の延滞のように返済が滞るなどした場合には、この債務者の期限の利益を喪失する場合があります。

期限の利益を喪失すると、消費者金融が債務者に50万円全額の請求をしてもよくなるため、上記のご相談者様のケースのように一括請求となるのが通常なのです。

どのような場合に期限の利益が喪失する?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 期限の利益の喪失には法律による場合と契約による場合の2種類がある

どのような場合に期限の利益を喪失するのでしょうか。

法律に規定されているものと、契約で定めたものの2種類がありますので知っておきましょう。

では、期限の利益はどのようなときに喪失するのでしょうか。
当然ですが、債権者が自由にこの期限の利益を喪失させることができるのであれば、この規定の意味がありません。
期限の利益は、債務者のためにあるので、債務者を保護するべきではなくなったと評価できるような事が生じたときに喪失となります。
期限の利益の喪失は、法律に規定されているものと、契約により定められたものがあります。

民法上のもの

民法第137条では次の3つの場合に期限の利益を主張できない、つまり喪失すると規定してします。

1つ目は債務者が破産手続開始の決定を受けたときで、この時には債権者としては全ての債権が履行期にあるものとして処理しなければならないのでこのような規定が置かれています。

2つ目は、債務者が担保を滅失・損傷・減少をさせた場合に期限の利益が喪失します。
例えば借金の支払いに抵当権などの担保をつけた場合には、債権者はいざとなった場合には担保に入っているものを競売して代金を回収できると期待しています。
にもかかわらず債務者が担保を消滅させた場合には、債権者の上記期待を裏切ったといえ、もはや債務者に期限の利益を主張させることを認める必要はないからです。

3つ目は、担保を供する義務を負う場合であるにもかかわらず、これをしないような場合です。例えば、債務に保証人をつけている場合で、保証人が支払能力を失ったような場合には新しい保証人を立てるか担保を供与しなければならないとされています(民法第450条、民法第451条)。
この時に、新しい保証人も担保も用意できない場合には期限の利益を失うことになります。

契約による場合

以上のように法律で3つのケースについて定めていますが、実際に実務ではこれのみだと期限の利益を喪失させるべきケースとしては少なすぎるという指摘があります。
また、契約によっては柔軟に変更する必要があるため、契約によって期限の利益を喪失する条件を規定しているケースもあります。
一般的な貸金業者との金銭消費貸借契約においては、破産手続開始決定のもっと前である、信用不安を起こすような事由や、支払停止などの事由があった場合にも期限の利益の喪失を認めています。

期限の利益が喪失したらどうなる?

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 期限の利益を喪失した後にどのような事が起きるかを知る

期限の利益を喪失するとどのような事が起きるのですか?

一括請求など様々な事が起きますので知っておきましょう。

期限の利益を喪失するとどのような事が起きるのでしょうか。

期限の利益を喪失した旨の通知書が送られてくる

まず、期限の利益の喪失は債権者がその通知を債務者にするところから始まります。
この段階になっている頃には債権者からかなりの数の通知が来ているので、中身を確認しない方もいらっしゃいますが、このような通知がされることもありますので、注意をしましょう。

貸金業者から借金の残額を一括請求される

期限の利益を失うということは、債権者が債務者に対して、借入をしている全てのお金について一括で返済するよう請求することができるということになります。

遅延損害金の支払いが生じる

期限の利益を喪失することによって生じる効果ではないのですが、期限の利益を喪失している場合には、返済が遅れてしまっている事が想定されます。
返済が遅れている場合には遅延損害金が発生しており、長期間放置をすると元金を超えるような額にもなりかねません。

不動産などを差し押さえられる可能性がある

支払いが遅延しているということは、債権者としては債権の回収をしなければならないという事になります。
そのため、債権者としては裁判を起こして勝訴判決をもらって、債務者の財産を差し押さえ、換価し、債権を回収することもできます。
債権者は、不動産があるような場合には不動産を差し押さえますが、不動産の他にも給与を差し押さえることもできるため、その場合には債務者が勤務している会社にも、債務者が借金をしていることや返済が遅延していること、裁判を起こされたこと等借金に関する事情が知られてしまいます。

期限の利益の喪失を事前に防ぐ方法

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 返済が遅れている場合に債権者ときちんと連絡をとる
  • 返済を引き落としにして忘れないようにする
  • 収入と支出を把握して返済額が増えないか確認する

期限の利益の喪失を事前に防ぐためにはどのような方法がありますか?

返済が遅れているときに、債権者ときちんと連絡をとって、返済に向けて前向きに協議をしておくのが良いでしょう。

期限の利益の喪失を事前に防ぐためには、次のような方法を検討しましょう。

返済が遅れている場合に債権者ときちんと連絡をとる

期限の利益の喪失は、返済が遅れた場合に、訴訟をする・代位弁済の請求をする前提として、一括して請求できるため行われます。
このように手続きをすすめるのは、督促しても債務者からの連絡がない、債務者がもう支払える状況ではない、という判断をするからです。

返済が遅れ始めたときに、債権者ときちんと連絡をとって、例えば利息だけでも返済する、定期的に返済に向けて現状を話し合うなど、連絡をとっていれば、期限の利益を失わせる必要はないと判断される場合もあります。
期限の利益の喪失をしたくない場合には、債権者ときちんと話し合うことも検討しましょう。

可能ではあれば返済を引き落としにする

返済ができていないのが、自分で返済することを失念してしまうことが原因の場合があります。
この場合、自動引落に変更してもらうことが可能な場合があります。
借金をしている貸金業者のホームページを確認して、自動引落に対応していないかを確認してみましょう。

収入と支出をしっかり把握し返済できる金額の捻出の可能性を検討する

返済が厳しくなっている場合には、目の前の返済日に返済することのみに集中する結果、現在の家計がどうなっているか、どれくらいの無駄があって、どれくらいの返済が現実的に可能なのかといったことを把握していないことがほとんどです。
そのため、収入と支出をしっかり把握して、家計の無駄な支出をしっかり把握しましょう。
無駄な支出を発見すれば、見直しをして返済のための資金を増やせることもあります。
また、見直したうえで、かなり無理をして返済をしていることがわかれば、早めに債務整理をしようという決心がつくこともあります。

期限の利益を喪失した場合の対処法

知っておきたい借金(債務)整理のポイント
  • 期限の利益を喪失した場合の対処は返済をするか債務整理をする

期限の利益を喪失してしまったらどう対応すれば良いのでしょうか

一括請求をされているものを支払うのが基本ですが、無理であれば債務整理をするようにしましょう。

期限の利益を喪失してしまった場合にはどのような対処をするのが良いのでしょうか。

一括返済を検討する

契約で定められた条件を守ることができていないため基本的には一括返済を検討することになります。
もっとも自分自身では支払いができなかったために期限の利益を喪失し待っているので、支払原資は親族や友人等に援助をしてもらうといった方法が一般的です。

債権者に相談する

親族や友人の援助によって支払えない場合の対処法も検討する必要があります。
まずは、借入をしている債権者に直接相談して分割弁済にしてもらう方法が考えられます。
この時には、返済ができなかった事情や、債権者の請求を無視していたような場合にはなぜ債権者の請求を無視していたか、今後の返済の事情などを話す必要があることが多いです。
一度期限の利益を喪失しても、債権者と話し合いをすることで再度の期限の利益を付与してもらえることもあります。

弁護士などに相談する

上記のように債権者に相談をして分割での支払いにしてもらうのも一つの手なのですが、この場合にすでに発生している遅延損害金や、利息などについても支払うことが前提の交渉になります。
そのような返済が難しい場合には、弁護士に相談をしたうえで債務整理をすることを検討しましょう。
収入がないなどで返済ができない場合でも自己破産手続によって債務を帳消しにできますし、返済を続ける場合でも任意整理によって遅延損害金の全部もしくは一部や将来の利息をカットして元金のみの返済にすることができます。

まとめ

このページでは、期限の利益についての知識と喪失についてお伝えしてきました。
返済をしているうちには毎月の支払いをしていればいいのですが、支払いができなくなったら一括請求されるという事の法律的な理屈について知っていただいたうえで、支払いが難しい場合には弁護士に相談をして債務整理をするなど、適切に対応しましょう。