- 借金をなくすためには免責を認めてもらう必要がある
- 免責不許可事由は法律で定められている
- 免責不許可事由に該当しても裁量免責が認められる場合がある
- 免責不許可を避けるためには弁護士に相談するのがおすすめ
【Cross Talk】自己破産の申立てをしたら必ず借金がなくなるわけではないの?
借金の返済ができなくなってしまったので自己破産をして、借金を帳消しにしたいのですが、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
裁判所に自己破産の申立てを行い、免責を許可してもらう必要があります。ただし、事情によっては免責が許可されない場合もありますので注意が必要です。
申立てをしたら必ず借金がなくなるわけではないのですね。詳しく教えてください。
自己破産は裁判所を通じて借金を帳消しにしてもらうことができる手続です。
自己破産の申立てを行うと、資産や負債の状況、破産の申立てをするに至った事情等について裁判所による調査が行われます。調査をした結果、裁判所が「借金をなくして問題ない」と判断すると免責を許可する決定が出されます。免責許可決定後に一定の期間が経過し、免責許可決定が確定して初めて借金の支払い義務がなくなります。
ところが、免責することがふさわしくないと考えられるような場合は免責を許可してもらえないことがあります。どのような場合に免責が不許可となるかは破産法という法律に定められています。
自己破産における免責とは
- 自己破産申立てをしても、免責許可が出ないと借金はなくならない
- 自己破産申立てをしても、事情によっては免責が許可されない場合もある
- 免責不許可事由は法律で定められている
自己破産における免責というのはどういう意味ですか?
免責とは、借金を返済する義務を免除する手続をいいます。破産手続が開始されると消費者金融など債権者からの取り立てがストップしますが、それだけでは借金はなくなりません。裁判所は自己破産の申立てを行った人に免責許可決定を出していいのか慎重に検討し、問題ないと判断したときにはじめて免責許可決定を出します。自己破産をするためには費用がかかりますので、申立てをする前に、免責許可がされないような事情がないか確認しておくと良いでしょう。
自己破産とは、借金の返済が困難になった方が経済的に再出発できるように借金から解放させる制度です。債務整理の手段には様々な種類がありますが、借金をゼロにすることができる手続は基本的に自己破産だけです。破産手続開始の申立てを行った方を「破産者」と呼びます。
自己破産は借金の返済に苦しむ方にとって非常に大きなメリットがある制度ですが、同時に、お金を貸した側に不利益を強いる手続でもあります。自己破産が債権者の一定の犠牲のもとで成り立っている以上、自己破産を希望する全ての方に免責を許可することはふさわしくありません。例えば、返済できないことがわかっていたのにギャンブルのために借金を重ね、自己破産制度を悪用しようとしているような方に免責を許可するべきではないでしょう。
そこで、破産の申立てが行われると裁判所は免責を許可するべきでないような事由がないか審査を行います。免責を許可すべきでないとされている事由のことを「免責不許可事由」といい、破産法という法律に定められています。
自己破産における免責不許可事由
- 免責不許可事由(具体例4つ)
- 借金をした理由によっては免責が許可されないことがある
- 破産手続を適切に進めないと免責が許可されないことがある
免責不許可事由にはどのようなものがあるのですか?
破産法に免責不許可事由として規定されている事由は全部で11個です。本コラムでは、「不当に破産財団の価値を減少させる行為」、「浪費または賭博その他の射幸行為」、「虚偽の債権者名簿を提出する行為」、「調査協力義務に違反する行為」の4つを具体的に取り上げて、説明します。
不当に破産財団の価値を減少させる行為
自己破産をすると、原則としてそれまで有していた財産はお金に換えて債権者に分配しなければいけません。財産をお金に換えることを「換価」、債権者に分配することを「配当」といいます。
不当に破産財団の価値を減少させる行為とは、換価の対象となる財産を壊したり、隠したり、不当に安く処分したり、価値を下げるような行為をすることをいいます。
なお、これらの行為が免責不許可事由に該当するのは、これらの行為が債権者の利益を害する目的で行われた場合であり、例えば資金繰りの必要に迫られ、車を相場より多少安い価格で売却した場合等、債権者の利益を害する目的がない場合はこれに当たりません。
浪費または賭博その他の射幸行為
無駄づかいや競馬、競輪、競艇、パチンコなどのギャンブルにより借金を重ねた場合がこれに当たります。
何をもって浪費とするかは、裁判官の価値観だけでなく、社会において一般に通用している価値観を考慮して判断されます。例えば、ブランド品を買い集めること、キャバクラや風俗に通うこと、ギャンブルをするために借金をすることなどがこれに当たります。
虚偽の債権者名簿を提出する行為
破産の申立てを行う際には、裁判所に対して債権者の一覧表を提出します。このとき、債権者を害する目的で記載すべき債権者をわざと記載しなかったり、架空の債権者の名前を記載した場合は免責不許可事由に該当します。例えば、親族や親しい知人からの借入について、その親族や知人を債権者として記載しなかった場合が考えられます。
わざとではなくうっかり債権者の記載漏れをしてしまった場合は免責不許可事由には該当しませんが、その債権者に対する債権が免責されない可能性があります。申立てを行う際には、依頼する弁護士に、全ての債権者を漏れなく申告しましょう。
調査協力義務に違反する行為
破産手続においては、破産者の財産や負債の状況、免責不許可事由の有無について裁判所や裁判所から選任された破産管財人による調査が行われ、破産者はこの調査に協力する義務を負います。破産者が裁判所の調査において説明を拒んだり、虚偽の説明をしたときには免責不許可事由に該当します。
「免責を受けたい」という思いから免責不許可事由にあたる事情を隠したいという気持ちは理解できますが、事実を隠したり、嘘をついたりすること自体が免責不許可事由となるということを知っておきましょう。なお、免責不許可事由に該当する事情があったとしても、裁判所の裁量で免責が許可される場合も多々あります。
自己破産における裁量免責
- 免責不許可事由があっても裁判所の裁量により免責を許可してもらえる可能性がある
- 裁量免責を許可するか否か判断するときは様々な事情が総合的に考慮される
- 裁判所に裁量免責を許可してもらうには弁護士に相談するのがおすすめ
免責不許可事由があると必ず免責は不許可になってしまうのでしょうか。
免責不許可事由に該当する事情がある場合でも、裁判所は裁量によって免責を許可することができます。免責不許可事由があっても諦めず、裁量による免責を許可してもらうような努力をすることが大切です。
裁判所は、破産者のそれまでの経緯やその他の一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときには免責許可決定をすることができます。これを「裁量免責」といいます。
裁量免責を許可するかどうか判断するときに考慮されるのは、まず免責不許可事由に当てはまる行為の悪質さの程度です。形式的には免責不許可事由に該当する行為をしていても、それが一時の気の迷いによるもので、反省の情が見られるような場合には悪質性が低いと判断されて裁量免責が許可される可能性があります。
その他にも、借金をすることになった理由、現在の破産者の生活や収入の状況などが考慮されます。
免責を不許可とすべきなのは、債権者の犠牲のもとに破産者を救済し、破産者の経済的な再生を図ることが破産者にとっても社会にとっても好ましくないと判断される場合に限るべきだと考えられており、実際に免責不許可決定が出されるのは極めて僅かだと言われています。
裁量免責を許可してもらうためには、自己破産後は生活を立て直して真面目に生活していくということを裁判所にアピールすることが重要です。裁判所から呼び出されたときには必ず応じて真摯に手続に協力し、浪費を抑え、仕事で得られる収入の範囲で生活を送っていると 裁量免責が認められやすくなります。免責不許可事由について反省文を書いて裁判所に提出することもあります。
裁量免責の考慮要素はたくさんありますので、具体的に何をすべきかについては個々の事情によって異なります。裁量免責を許可してもらうためには、自己破産手続の専門家である弁護士に相談してアドバイスを受けることをお勧めおすすめいたします。
自己破産以外の借金免除制度
- 自己破産以外の借金減額・免除の制度
- 自己破産以外の借金減額・免除を弁護士はどう使うか
自己破産について今まで教えてもらっていましたが、自己破産以外に借金免除をしてもらえる制度はないのでしょうか?
債務整理は何も自己破産だけではありません。特殊なケースで利用できるものも含めて確認しましょう。
自己破産は借金を免除してもらえるのですが、自宅を失う・職業につけないなどの制約もあります。
そのため、自己破産以外にはどのような借金免除の制度があるのか確認していきましょう。
任意整理
債務整理の主な手段の一つとして任意整理があります。
任意整理は、裁判所の手続をとらず、直接債権者と交渉して借金を減額させる方法で、将来の利息や既に発生した利息・遅延損害金などを免除してもらって、元金を分割して支払っていきます。
債務整理の主な3つの方法の中では一番減額幅も少ないのですが、奨学金などの連帯保証人のいる債務を除外できるなど、柔軟に債務整理を行うことができます。
任意整理については、「任意整理とは?~任意整理の手続やメリット・デメリットを解説!」で詳しく解説していますので併せて参照してください。
借金返済に困っているとはいっても、元金の36回~の長期での分割支払いが十分できる場合には、任意整理を検討します。
逆に元金の分割払いが厳しい場合には、任意整理ではなく自己破産を検討します。
特定調停
特定調停とは、借金について債権者と調停手続の中で、返済をし易くするものです。
調停とは、裁判官1名と調停委員2名が間に入り、相互から話を聞いて妥当と考えられる調停案を作成して、当事者がこれに同意する形で紛争を解決しようとするものです。
内容としては基本的には任意整理と同じく、元金のみを分割返済する内容で和解をすることを目指します。
特定調停は、債権者と債務者との間の返済内容をこの調停で定めようとするもので、かつて有名タレントもこれを使って債務整理をしたことが知られています。
弁護士・司法書士に依頼せずに利用することができるで、費用が安くて済むのですが、調停委員が借金問題のプロであるとは限らないため、任意整理のような有利な和解を必ず引き出せるわけではない上に、任意整理よりも強制執行が楽になるというデメリットがあります。
特定調停については、「借金が返済できない!どうにかしたい!借金(債務)整理の手続4種類の特徴を教えて!」こちらの記事の中でも詳しくお伝えしていますので参考にしてください。
個人再生
個人再生とは、裁判所に申立てをして、借金を減額した上で、分割で払っていく手続きをいいます。
任意整理は元金の分割返済が必要なのですが、額が多すぎるか返済可能な金額が少ないような場合には利用できません。
そのような場合には基本的には自己破産をして借金を免除してもらうのが良いです。
しかし、自己破産の場合、警備員・宅建士・保険募集人などの資格で仕事をしている方は仕事ができなくなりますし、住宅ローンで住宅を購入した方は住宅を手放すことになります。
個人再生であれば、上記の仕事の方も資格制限はありませんし、住宅ローンを支払い続けることで、住宅を維持することができます。
個人再生については、「自己破産はしたくない!個人再生手続ってどんなもの?メリット・デメリットを教えて! 」「個人再生ってどのくらいかかるの?個人再生の期間と費用を解説」でも詳しく解説しているので、気になる方は参照してみてください。
過払金請求
過払金請求とは、貸金業者に対して支払いすぎていた利息の返還を求める手続きです。
利息の上限を定める法律には、利息制限法・出資法という2つの法律があります。
現在ではどちらも上限が20%なのですが、かつては刑罰について定める出資法の上限は利息制限法よりも高い状態でした。
そのため、貸金業者の中には、利息制限法を超えながら出資法の利率内で貸し付けをする貸金業者が多数いました 。
最高裁は利息制限法を超える部分についての利息は払いすぎで無効であり、残高がある場合には相殺をして、払いすぎていた部分のほうが多い場合には、貸金業者に返還を求めることができるという判決を下しました。
この金銭の請求のことを[過払金請求]と呼んでいます。
今現在、残高があって長期間借り入れをしているような場合には逆にお金を返してもらえることがあり、そのお金で他の貸金業者も返済することができる場合があります。
過払い金請求については「過払い金請求が出来なくなる?お金を取り返す方法を解説! 」でも解説していますので参考にしてください。
相続放棄・限定承認
相続によって借金を支払うことになってしまった場合に利用できるのが相続放棄・限定承認です。
いずれも家庭裁判所に申述(申立て)をして、家庭裁判所の審判によって行なわれます。
相続放棄をすると、相続人ではなくなるので、借金を相続しません。
限定承認をすると、相続する資産の範囲でのみ負債を負うので、借金を負担する必要がありません。
相続放棄・限定承認については「あなたが背負う必要はありません!多額の借金を相続しても債務整理はできる!」で解説していますので参考にしてください。
消滅時効の援用
借金を返済できずに放置してしまって長期間経過している場合に、消滅時効にかかったと主張するのが消滅時効の援用です。
借金は貸金業者からすれば債権であり、債権は5年で時効にかかります。
最後に返済してから5年が経過している場合には時効にかかっており、時効の制度を利用しますという主張をすることで支払わなくてすむようになります(時効援用)。
時効援用に関しては「借金の消滅時効とは?期間と時効の援用について紹介 」で詳しくご紹介しているので参考にしてください。
まとめ
免責制度と免責不許可事由、裁量免責について解説いたしました。
自己破産の申立てをしたら必ず免責を許可してもらえるわけではなく、免責が不許可となる場合もあります。しかし、免責不許可事由があっても裁量免責により免責が許可される可能性がありますので、すぐに自己破産を諦めるべきではありません。裁判所に免責を許可してもらい、新たな人生への第一歩を踏み出すために、一度弁護士に相談することをおすすめします。