- 熟年離婚の準備で重要なお金、財産分与と年金分割の請求は2年以内に
- 子どもがおり引き取る場合は養育費請求、相手にDVや不貞行為があったときには要件を満たすと慰謝料請求ができる
- 年金分割後の女性の平均受給額は月5万円程度。老後資金の準備も忘れずに
【Cross Talk 】熟年離婚の準備は何をすれば良いのでしょうか?
結婚して23年、離婚を決意しました。準備すべきことはありますか?
まずは離婚後の生活費のシミュレーションから始めましょう。また、早めに財産をリストアップしておくことをおすすめします。熟年離婚は共有財産が多いため財産分与で時間がかかる場合が多いです。
詳しく教えてください!
近年同居期間が20年以上の夫婦の離婚、いわゆる熟年離婚が増加傾向にあります。
熟年離婚は共に築き上げた財産が多いため、財産分与の話し合いが難航する事例も少なくありません。
財産分与以外にも、年金分割や子どもがいる場合の養育費など、取り決めることが多いため、念入りに準備を行っておきましょう。
今回は熟年離婚で準備することの一覧表、財産分与と年金分割、慰謝料・養育費・退職金について、専業主婦・共働き・男女別などケース別に解説していきます。
増加傾向にある熟年離婚、準備するべきこと一覧
- 同居期間20年以上の夫婦の離婚率は、2020年で 21.5%に上る
- 熟年離婚の準備は、離婚後の生活費のシミュレーションや財産のリストアップ、子どもがいる場合は親権・養育費など。離婚を切り出す前に仕事を決めておくのも有効な手段
離婚を切り出す前に準備しておいた方が良いことはありますか。
離婚を切り出すと、中には財産を隠す配偶者もいるため、夫婦で築き上げた財産は事前に調査しておくことをおすすめします。また、結婚中仕事をしていなかった方はフルタイムの仕事に就き経済的な自立をしてから離婚すると経済的な不安が和らぐでしょう。
同居期間20年以上の夫婦の離婚率は増加傾向にある
厚生労働省の「2022年度 離婚に関する統計の概況※1」によると、離婚した夫妻の同居期間について、「20 年以上」の割合が上昇傾向にあり、2020年は 21.5%に上ります。
2007年4月以後に離婚した場合に対象となる年金分割制度も一因と推測されます。
熟年離婚は、婚姻期間が長いため夫婦で築き上げた財産が多くなる傾向があり、準備が重要となります。
熟年離婚で準備すべきことを見ていきましょう。
別居、生活費のシミュレーション・・・熟年離婚で準備するべきこと一覧
熟年離婚にあたって準備すべきことを、以下の一覧表で見ていきましょう。
財産分与の準備 |
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離婚後の生活費 | 離婚後にかかる生活費をシミュレーションする |
年金分割の準備 | 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある、当事者の合意または裁判手続きにより按分割合を定めた、離婚日の翌日から2年を経過していないという要件※3を満たしたときには2人の年金を分割できる |
慰謝料 | 配偶者にDV・モラハラ・不貞行為などの不法行為があった際には、損害および加害者を知った時から3年以内であり、不法行為のときから 20 年以内※4であれば慰謝料請求ができる |
子どもについて |
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その他 |
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熟年離婚では、夫婦で築き上げた財産が多い傾向にありますので、財産分与の話し合いが難航する事例が多くなっています。
財産分与は基本的に2人で公平に分けますが、離婚後の生活保障や慰謝料の代わりに上乗せするという場合もあります。結婚中に2人で協力してマイホームを購入した場合は、マイホームも分与対象です。
年金分割はまず「年金分割の要件を満たしているか」を確認しましょう。
民法第709条※「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に基づき、DV・モラハラなど不法行為があった際には慰謝料を請求できます。
ただし「損害および加害者を知った時から3年以内であり、不法行為の時から 20 年以内」であることが必要です。
未成年もしくは経済的に独立していない子どもがいる世帯では、子どもに関する事項を取り決めておく必要があります。
離婚の前に「とりあえず別居をしてから検討する」という事例もあります。
とりあえず別居をする場合は、別居中の婚姻費用について取り決めましょう。
たとえ別居中であっても、夫婦には婚姻費用分担の義務がありますので、収入が低い方(または無い方)は多い方に婚姻費用を請求できます。
熟年離婚の準備で重要な「お金」、財産分与と年金分割とは
- 財産分与は、婚姻期間中に夫婦で協力して形成した財産が対象で、結婚前の預貯金や相続・贈与で得た財産などは対象外
- 離婚時の年金分割、期限は離婚日の翌日から2年以内
マイホームの頭金を私の親に出してもらいましたが、公平に分割すべきでしょうか?
いいえ。親からの贈与は夫婦で築き上げた財産ではありません。マイホームの価額から頭金部分を差し引いた後の額を財産分与の対象とします。
財産分与は結婚中に協力して築いた財産が対象となる
財産分与は、結婚中に夫婦で協力して形成した財産が対象で、結婚前の財産や相続・贈与で得た財産などは対象外です。
離婚時にはどちらがどの財産を譲り受けるのか、分与の割合などを取り決めます。
2人の意見がまとまらないとき、話し合いができないときには離婚時から2年以内に家庭裁判所に調停または審判※7を申立てることが可能です。
熟年離婚は夫婦で築き上げた財産が多くなる傾向があり「財産分与すべき財産なのか、そうでないのかよく分からない」という事態も想定されます。
詳しく知りたい方は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
離婚時の年金分割、手続きは2年以内に
離婚時には、一定の要件を満たすと結婚中の2人の厚生年金を分割することが可能です。
年金分割には「合意分割」と「3号分割」という制度があります。
合意分割とは当事者からの請求により、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を分割できる制度です。合意分割は、(1)婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある、(2)当事者の合意または裁判手続きにより按分割合を定めた、(3)請求期限(原則、離婚をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないという3つの要件を満たす必要があります。
3号分割は、基本的に当事者の合意は必要ありません。
婚姻期間中に2008年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間がある、請求期限(原則、離婚をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないという2点を満たすと請求ができます。
いずれにせよ、離婚の翌日から2年を経過してしまうと請求できなくなってしまいますので期限に注意しましょう。
厚生労働省の「2022年度厚生年金保険・国民年金事業の概況※」8によると、年金分割改定前後の平均年金月額は以下の通りです。
男性は改定後の平均年金月額が2022年で131,139円ですが、女性は51,793円となっています。
専業主婦・共働き・男女などケース別での熟年離婚の準備を解説
- 専業主婦はまず離婚後の生活費のシミュレーションを行い、就労について検討を
- リタイアが近い方は早めに老後資金の準備を
専業主婦ですが、離婚後やっていけるか不安です。でも旦那と一緒に暮らすのも辛いので・・・大丈夫でしょうか?
まずは離婚後に毎月生活費がいくらかかるのか、試算してみてはいかがでしょうか。試算の結果を考慮して仕事を探し離婚前に職場を見つけることで経済的な不安が和らぐでしょう。
専業主婦が熟年離婚で準備すべきこととは
結婚中は家事や育児に専念するため「専業主婦(夫)だった」という方は、まず離婚後の生活費のシミュレーションを行いましょう。
財産分与でもらえる財産や、子どもがいる場合は養育費を考慮し、毎月いくら必要になるかを試算し就労について検討していきましょう。できれば、仕事を決めてから離婚を切り出すことをおすすめします。
離婚後の住まいは、マイホームがある場合は相手から譲り受けることで金銭的な負担が少なくなることが推測されます。また、財産分与では離婚後の生活保障として多めに分与してもらうよう交渉してみるという方法もあります。特に上記の年金分割のデータによると、女性は老後の年金収入が少ない傾向があります。
資格を持っていない場合は共働きの世帯よりも、自身の収入が低くなることが推測されますので、より有利な条件で離婚できるように、相手と交渉してみましょう。
共働き夫婦の熟年離婚の準備とは
共働き夫婦で2人ともフルタイムで働いている場合も、離婚後自身の収入だけで生活できるかを試算してみましょう。
生活費が足りないと思われるときには、転職・副業といった方法があります。
パートなど短時間勤務の方は、離婚後フルタイムで働くことを検討しましょう。
現在の勤務先でフルタイムにしてもらうもしくは転職するなど収入アップを目指します。
2人ともそれぞれ厚生年金に加入していた夫婦は、年金分割が不要ですので手続きが少ないというメリットがあります
男女別・熟年離婚の準備で重要なポイント
近年働く女性が増え、中には女性の方が高収入の世帯や妻が家計を支えているという家庭もあるでしょう。
しかし、2023年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査 結果の概況※9」によると、男性の平均月収は約35.1万円、女性の平均月収は26.3万円とおよそ月9万円のかい離(開き)があることが分かります。
よって女性は特に離婚後の収入について試算し、検討してみることをおすすめします。
まとめ
熟年離婚の準備は、やるべきことが多く「何から手を付けたら良いのか分からない」という方もいらっしゃるでしょう。その場合はまず離婚後の生活費がいくらかかるのか、試算してみることをおすすめします。
年金分割や財産分与などで分からない部分がある、慰謝料の相場を知りたいといった方は弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
離婚問題に詳しい弁護士に相談することで、対処法を知ることができる、問題解決につながることなどが期待できます。