別居する際には住民票を移すべきか?
ざっくりポイント
  • 別居により住民票を移すべき場合とは?
  • 別居で住民票を移すメリットとデメリットとは?
  • 別居で住民票を移す際の注意点とは?

目次

【Cross Talk 】夫婦が別居する際には住民票を移すべきですか?

夫との別居を検討しています。その場合、住民票を移すべきでしょうか?

別居に際して住民票を異動させることにはメリットとデメリットがあります。

住民票の異動を検討する際のポイントを教えてください。

夫婦が別居する際に住民票を異動させる場合の注意点

夫婦が婚姻関係を継続しながら別居して生活する場合、住民票を移した方がいいのでしょうか。
別居する際には住民票を異動させた方が良いのはどのような場合なのでしょうか。そして、住民票を異動させることにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
このコラムでは、上記のような疑問点について弁護士が解説していきます。

別居したら住民票は移すべきか?

知っておきたい離婚のポイント
  • 別居した場合の住民票の扱いとは?
  • 住民票を移すメリットとデメリットとは?

別居した場合には、住民票を移すべきなのでしょうか。

住民票を異動させることにはメリットとデメリットがあります。

住民票を移すべき場合

夫婦が別居をした場合には、住民票を異動させるべきなのでしょうか。

そもそも、住民票とは、居住している市区町村に住民登録している方が、住民基本台帳を管理している市区町村役場に請求できる住所関係の記録を公証した証明書です。住民票の写しは、各種手続きの際に住所を証明するために用いられることになります。
住民票には、氏名、生年月日、性別、住所、住民となった年月日、届け出日などの情報が記載されています。

そして、以下のような場合は、別居の際に住民票を移した方が良い可能性があります。

  • 離婚を前提に別居する
  • 別居婚をする

まず、離婚を前提に別居を開始し、離婚後も将来的に異動先で住み続ける予定である場合には、住民票を移すべきでしょう。もし、復縁の可能性があるのであれば別居・同居のたびに住民票を異動させるのは手続的に面倒です。しかし、復縁の可能性がないと思っているのであれば、生活の拠点が変わるため、新生活の準備をスムーズに行うためにも、住民票は移すべきでしょう。

次に、別居婚をする場合にも住民票は移すべきでしょう。
別居婚とは、法的に婚姻関係にある夫婦が、お互いに納得して別々の拠点で暮らしている生活スタイルのことを指します。
別居婚を選択してカップルは、それぞれ自分の住むところに住民票を移すようにするべきでしょう。

例えば、自分が同居の家を出ていき別居する場合は、自分の別居先に自分の住民票を移すことになります。
別居婚は、共同生活をせずに生計も別々にすることを目的にされることが多いため、住民票も夫婦で別々にするのが通常です。

住民票を移すメリット

住民票を移すメリットには、以下のようなものがあります。

  • 別居状態にあることを簡単に証明できる
  • 異動先で各種手当を受け取れる
  • 転校や転園がスムーズにできる

別居状態にあることを簡単に証明できる:
住民票を異動させることで、夫婦が別居状態になっていることを形式的・客観的に証明するための資料になります。住民票を異動させて一定の期間が過ぎると、夫婦の協力関係がなくなり夫婦関係が破綻していることを推認することができるため、一般的に裁判上の離婚を請求できるようになります。
このように、別居状態が長期間続いていることは、離婚成立に傾く重要な事情です。

異動先で各種手当を受け取れる:
中学生以下の子どもと同居している場合には、所得や年齢に応じて児童手当を受給することができます。
子どもを連れて配偶者と別居する場合には、住民票を移すことで直接児童手当を受けとれるようになります。
離婚を前提に配偶者と別居して、子どもと同居している場合には、その事実を確認できる書類(離婚協議申し入れにかかる内容証明郵便の謄本、調停期日呼出状の写し、家庭裁判所における事件係属証明書、調定不成立証明書など)の提出を求められる場合があります。

転校や転園がスムーズにできる:
高校生以下の子どもを連れて別居する場合、住民票を移すことで、転校や転園の手続きがスムーズに行える可能性があります。保育園は、基本的にはその地域に住民票をおいている方に限り受け入れる運用がされています。また、公立の小中学校も学区が定められており、住んでいるところによって通うべき学校が決まるというのが原則です。
そのため、子どもを連れて別居する場合には住民票を移動させる必要があります。

住民票を移すデメリット

住民票を移すデメリットとしては、以下のようなものがあります。

  • 配偶者に居場所が知られる
  • 社会保険料を支払わなければならない
  • 住宅ローンの契約違反になる

配偶者に居場所が知られる
夫婦が婚姻することで同じ戸籍に入ることになり、夫婦どちらかが住民票を移したとしても、すぐに他方の配偶者に転居先を知られてしまいます。なぜばら、配偶者は役所で手続きすることで、戸籍の附票や住民票(除籍票)を閲覧することができるからです。
身体的虐待(DV)や精神的虐待(モラハラ)被害から逃げるために転居をしたにもかかわらず、住民票を異動させてしまうと、法律上の配偶者は容易に住民票上の住所を知られてしまうことになります。
相手に転居先を知られたくない場合には、住民票の閲覧制限を求めることもできるため、不安な場合には弁護士に相談すべきでしょう。

社会保険料を支払わなければならない:
国民健康保険は、世帯ごとに加入し、世帯主が世帯全員分の保険料を納めることになります。
そのため、住民票を移せば世帯が分かれることになります。そうすれば、別居先で新たに国民健康保険へ加入することになり、ご自身で保険料を支払うことになります。
ただし、保険料は世帯の所得によって変わり、所得が低い場合には減免制度を利用することもできます。

住宅ローンの契約違反になる:
住宅ローンの名義人になっている場合には、ローンを返済し終わるまで住民票を異動することができないことが一般的です。住宅ローン契約に違反して住民票を異動させてしまうと、借り換えや一括返済を要求されてしまう可能性があります。また、住宅ローン控除を受けていたときは、住民票の移動後に控除が利用できなくなるため注意が必要です。

別居により住民票を移す際の注意点

知っておきたい離婚のポイント
  • 別居して住民票を移す際の注意点とは?

別居して住民票を移す場合には、どのような点に気を付ける必要がありますか。

別居により住民票を異動させる際の注意点についてお伝えします。

夫婦には同居義務がある

民法第752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定しています。
この条文を根拠に婚姻した男女は同居・協力・扶助の3つの義務を負っていると考えられています。
この同居義務は、夫婦同姓の原則や貞操義務などと並んで婚姻の身分的効力の代表的なものです。
そして、正当な理由なく夫婦の一方が家を出て行ってしまうと、夫婦の同居義務に違反することになります。夫婦それぞれが納得して別居して生活している場合には、正当な理由があると評価されるため同居義務に違反することにはなりません。
そのため、住民票を移そうとする場合には、原則として夫婦が別居することに納得している必要があります。

勝手に別居すると離婚原因となる

相手方配偶者とは一緒には暮らしていけないと思ったとしても、勝手に別居してはいけません。
夫婦のうちどちらかが、一方的に家出してしまうと「悪意の遺棄」に該当してしまう可能性があります。「悪意の遺棄」とは、正当な理由がなく夫婦間の同居・協力・扶助の義務を継続的に懈怠する場合を指し、裁判上の離婚を請求できる原因(法定離婚事由)になります。
一時的な喧嘩や口論で一方的に家出したり別居したりする場合には婚姻関係が破綻しているとまではいいにくく、正当な理由があるとは認められず同居義務違反となる可能性が高いでしょう。
そして、離婚の原因を専ら作った側は、自分からは離婚請求ができないことになります。
そのため、相手方から婚姻費用の分担や慰謝料の支払いなどを請求されてしまうリスクがあります。

不安な場合には弁護士に相談する

配偶者から身体的虐待(DV)や精神的虐待(モラハラ)の被害を受けている場合、その被害から逃げるために別居したとしても同居義務違反にはあたりません。身体や精神に対して今まさに危険が迫っている場合には自分や子どもの身の安全を守ることが最優先です。
別居で住民票を移した方がよいかどうかは状況により異なります。
そのため、別居を検討している場合は、まず離婚問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
離婚問題に強い弁護士であれば、住民票に関することのみならず、離婚までの道のりを見据えたうえで、別居について幅広くアドバイスをしてもらえます。

まとめ

以上、夫婦が別居した場合に住民票を移すべきかどうかについては、住民票を異動させることに伴うメリットとデメリットを考慮したうえで慎重に判断する必要があります。
また、子どもと一緒に出て行く方の負担は大きくなる傾向があるため、念入りな準備が必要です。

そのため、別居して住民票を移すことを検討されている方は、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめ致します。