夫婦財産契約の概要・メリット・デメリットなどを解説いたします。
ざっくりポイント
  • 夫婦財産契約とは「法定財産制」と異なる財産の契約をする制度
  • 夫婦財産契約のメリットは離婚時のトラブルが回避できることがある、金銭感覚のすり合わせができること
  • 契約を考えているカップルはまず弁護士に相談を

目次

【Cross Talk 】夫婦財産契約とは?

海外のハリウッドセレブが夫婦財産契約をしていると聞きました。結婚を考えている人がいるのですが、どういう制度なのでしょうか?

結婚した夫婦の財産は民法760条~762条に規定がありますが、民法とは異なる内容の契約をしたい人向けの制度です。

夫婦の財産については民法に定めがあるのですね!詳しく教えてください。

夫婦財産契約とは?メリット・デメリット、契約書の書式などを解説

夫婦財産契約とは、民法の法定財産制とは異なる内容の契約をしたい人向けの制度です。民法では婚姻費用の分担・日常の家事に関する債務の連帯責任・夫婦間における財産の帰属に関して規定をしています。

基本的に婚姻中協力して築いた財産は夫婦の共有財産となりますが、夫婦財産契約を結ぶことで「婚姻期間中の株式を特有財産にする」といった契約が可能になります。
夫婦財産契約の概要とメリット・デメリット、契約の手順を解説していきます。

夫婦財産契約の概要とメリット・デメリット

知っておきたい離婚のポイント
  • 夫婦財産契約とは結婚前に夫婦の財産に関する契約を結ぶこと。登記もできる
  • 婚前契約は結婚全般に関する契約であるのに対し、夫婦財産契約は財産に関する契約に限定されている

夫婦財産契約を結ぶメリットには何がありますか?

離婚時のトラブルを回避できる可能性が高くなる、結婚前に金銭観のすり合わせができることが挙げられます。

夫婦財産契約とは?

結婚した夫婦の財産については、法定財産制として民法760条~762条に規定されています。

第760条(婚姻費用の分担)
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
第762条(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

夫婦財産契約とは、上記とは異なる内容で夫婦の財産について契約することです。
民法756条の「法定財産制と異なる契約」に該当します。

第755条(夫婦の財産関係)
夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
第756条(夫婦財産契約の対抗要件)
夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

夫婦財産契約は不動産や法人のように登記が可能です。登記の件数は近年増加しています。

R112-【図解】夫婦財産契約とは?民法の条文やメリット・デメリット・書式などを解説

参照:政府統計の総合窓口 e-Stat 登記統計 総括・不動産・その他 種類別 夫婦財産契約の登記の件数
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003268738

必ずしも登記をしなければならないという訳ではありませんが、登記をすることで財産を奪われてしまった場合などで権利を主張することが可能となります。
夫婦財産契約は「プレナップ(prenup)」と呼ばれることもあり、ハリウッドスターなど海外のカップルで交わす事例もあります。

主に上記の民法760~762条の「婚姻費用の分担」「日常の家事に関する債務の連帯責任」「夫婦間における財産の帰属」に関して契約ができます。

一方で、夫婦財産契約では民法に定められた「婚姻」を否定するものは無効となります。
例えば民法752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という同居・協力・扶助の義務を否定するものは無効となる可能性が高いでしょう。
また、離婚時の財産分与では基本的に1/2が原則とされていますので、著しく不平等な契約は無効となるおそれがあります。

実家が資産家であり相続で親から多額の財産を譲り受けた、収入が高い方は契約を結ぶことがあります。
カップルの一方が経営者で自社株を持っている、再婚する場合でも、契約によって2人の財産を結婚前から明確に区分することができます。

夫婦財産契約のメリット・デメリット

夫婦財産契約を結ぶことで、離婚時のトラブルを回避できる可能性が高くなります。

離婚時の財産分与では、夫婦の共有財産は分与の対象となりどちらか一方のものである特有財産は分与の対象外です。

例えば相続・贈与で得た財産・結婚前の預貯金・一方がギャンブルなどでつくった借金などは「特有財産」とみなされます。

しかし、共有財産である住宅の頭金のみを親にもらった、特有財産であるが証明ができず相手は分与を請求しているなどの場合では離婚時にトラブルに発展することがあります。

夫婦財産契約に条項を設けて契約を結ぶことで、上記のようなトラブルを回避できるでしょう。
また、結婚前にお互いの金銭観のすり合わせができるというメリットもあります。

一方で、夫婦財産契約を結ぶことで「離婚前提なのではないか」と誤解が生じうるというデメリットも想定できます。

また、例えば民法761条「日常の家事に関する債務」をどちらか一方が負担する内容の取り決めは困難と予想されます。
加えて、夫婦財産契約の履行によって得た利益は、相続税法第9条の規定により贈与税の課税の対象になる可能性があります。

夫婦財産契約と婚前契約の違い

夫婦財産契約と婚前契約は同じ意味で利用されることがあります。
しかし、婚前契約は結婚前に財産を始めとした結婚全般に関する契約であるのに対し、夫婦財産契約は財産に関する契約に限定されているという違いがあります。

よって、婚前契約の一部に夫婦財産契約の条項が盛り込まれている場合もあります。

夫婦財産契約の方法

知っておきたい離婚のポイント
  • 夫婦財産契約は話し合いで合意した内容を契約書または公正証書に記す。法務局で登記も可能。
  • 契約の前に弁護士に相談することで、よくあるトラブルに対応できることがあり専門家からのアドバイスももらえる

夫婦財産契約を交わす前に弁護士に相談した方が良いのでしょうか?

相談することをおすすめします。契約は法的行為であり、その作成には法律の専門知識が必要です。離婚・男女問題に詳しい弁護士に相談することで、よくあるトラブルに対応でき現実的な内容の契約を結べる可能性が高くなるでしょう。

2人で話し合い取り決めを行う

夫婦財産契約について2人で話し合い、内容を取り決めます。
夫婦財産契約を結ぶのは民法の法定財産制と異なる取り決めをしようとする場合です。

よって主に「婚姻費用の分担」「日常の家事に関する債務の連帯責任」「夫婦間における財産の帰属」について契約することになります。
例えば以下のような取り決めが想定されます。

結婚後半年以内は○○(夫と妻のどちらか一方)が、婚姻費用を全て負担する
相続・贈与で得た財産を夫婦の共有財産とする
○○社の株式は夫の特有財産とする
○○社所有の××ビルは妻の特有財産とするなど

契約書の作成と登記について

「2人で話し合い取り決めを行う」で取り決めた内容を基に契約書を作成します。
登記は、契約内容を第三者に対抗するための要件です。ですので、登記をしなければ契約が無効となるものではなく、登記が必須というわけではありません。また、登記をする場合には法務局に登記の記録が残ります。どのような契約をするのかも含めて弁護士に相談することをおすすめします。

契約時は弁護士に相談したほうが良い?

契約書・公正証書といった書類の種類や登記の有無に関わらず、夫婦財産契約を検討している方は弁護士に相談することをおすすめします。

夫婦財産契約は夫婦の財産の帰属を明確にすることができます。
しかし、法律的な知識がないとどのような内容の契約を交わすことでメリットがあるのか、よくあるトラブルに対応できる契約内容を考えることが難しいでしょう。

離婚・男女問題に強い弁護士に相談することで、よくあるトラブルに対応できる契約書を作成してもらえる事例があります。法律の専門家にアドバイスをしてもらうことで、未然にトラブルを防ぐことも期待できます。

まとめ

夫婦財産契約を結ぶことで夫婦の財産を明確にする、離婚時にトラブルを回避できるなどのメリットがあります。お金に関するトラブルを避けたい方、結婚後も自身の財産としたいものがある人は夫婦財産契約について弁護士に相談することをおすすめします。