- 慰謝料を支払ったのに離婚しないことは可能か
- 慰謝料を支払った後に離婚を請求することは可能か
- 離婚する場合の注意点
【Cross Talk 】慰謝料を支払ったのに離婚しないと言っている妻と離婚できますか?
妻と離婚を検討しています。きっかけは私が不倫をしたことが原因で不和になったためなのですが、慰謝料を支払ったにも関わらず離婚はしませんでした。このような場合で私から離婚を請求することができるのでしょうか?
不倫をした側の配偶者のことを有責配偶者と呼ぶのですが、有責配偶者からの離婚請求はかなり要件が厳しくなります。今の状況についてお伺いできますか?
はい、よろしくお願いします。
不倫をした場合に、相手方配偶者から慰謝料請求されることがあります。
この場合に離婚をするかも問題になるのですが、不倫をした配偶者から慰謝料の支払いを受けて離婚はしないということも可能です。
その場合慰謝料を支払った側は離婚を求めることができるのでしょうか。このページで解説いたします。
慰謝料を支払ったのに離婚しないことは可能?
- 慰謝料を支払ったのに離婚しないことは可能か
- 離婚しない配偶者に対して離婚の請求をすることは可能か
慰謝料を支払ったのに離婚しないことは可能なのでしょうか?
はい、可能です。慰謝料の支払いと離婚の関係について確認しましょう。
慰謝料を支払ったのに離婚しないことは可能なのでしょうか。
慰謝料請求は法的にどのような場合に可能?
そもそも、不貞行為を行った配偶者に対して、一方の配偶者が慰謝料請求をするのは、法的にどのような場合なのでしょうか。
慰謝料請求は、精神的苦痛を与えられたことを根拠に、不法行為に基づく損害賠償請求として行います(民法709条・710条)。
一方が不貞行為を行った場合、通常はもう一方の配偶者に対して精神的苦痛を与えることになります。
そのため、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料請求をすることが可能となります。
なお、不貞行為時に、既に婚姻関係が実質的に破綻していたような場合には、精神的苦痛を与えることにはならないので、慰謝料請求はできません。
慰謝料請求と離婚する・しないは関係しない
では、慰謝料請求と離婚との関係はどうなっているのでしょうか。
不貞行為による精神的苦痛は、不貞行為が原因で離婚をする・しないに関わらず発生します。
そのため、不貞行為を許し離婚をしない場合でも、慰謝料請求は可能です。
逆に言うと慰謝料請求をしたからといって、離婚をしなければならないということもありません。
なお、不貞行為の慰謝料請求にあたって、当事者が離婚をしたか、しなかったかは、精神的苦痛の程度に影響します。
離婚をすることになった場合の方が精神的苦痛は大きいといえるためです。
そのため、当事者が離婚をした場合のほうが、慰謝料の額は大きくなります。
不倫した側からの離婚請求はできるの?
不倫によって慰謝料を請求された後に、離婚をしなかったとしても、夫婦仲が元に戻るとは限りません。
また、有責配偶者の側でも慰謝料を払って離婚をして、不倫相手と再婚をしたいと考える場合もあるでしょう。
このような場合には、不倫をした側から離婚請求をすることができるかが問題となります。
協議離婚・調停離婚で離婚をする場合には、当事者が合意すれば離婚できます。
当事者が離婚に合意しない場合には、離婚訴訟で離婚をすることになるのですが、離婚訴訟を提起するためには、民法770条1項各号に規定する離婚原因が必要です。
民法770条1項1号は「配偶者に不貞な行為があったとき」と規定していますが、これは相手が不貞行為を行った場合で、不貞行為を行ったのが自分である場合には適用がありません。
1号~4号の規定に該当しない場合でも、5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当する場合には離婚訴訟を提起できます。
では、本件のような事例では、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するとして、離婚裁判を起こすことはできるのでしょうか。
本件のような、自分が離婚原因にあたる行為を行った配偶者のことを、法律用語で「有責配偶者」と呼んでいます。
自分で夫婦関係が破綻するに至る行為をした有責配偶者からの離婚請求を認めることは、最高裁判所が判決で「俗にいう踏んだり蹴ったりである」と表現することからも分かるように妥当ではありません。
参考:最高裁判所昭和27年2月19日判決|裁判所ホームページ
そのため、原則として有責配偶者からの離婚請求は認めないとされています。
しかし、いつまでたっても離婚ができないとするのも妥当ではありません。
そのため、
・その間に未成熟子がいない場合
・相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がない
以上の3要件から、離婚を認める最高裁判所判例があります。
相当の長期間別居の目安としては、一般的に7年~10年が目安とされます。
社会正義に反するといえるような特段の事情の有無については、離婚によって他方の配偶者が生活に困ることがないかで判断されるので、経済的援助があるか等の事情を参考に決定されます。
具体的な判断は非常に難しいので、弁護士に相談してみることをおすすめします。
慰謝料・離婚の請求に関する注意点
- 離婚を請求するためのポイント
- 不倫相手に慰謝料を請求してきた場合の注意点
別居が長期間とはいえないので、私が離婚をするためには協議離婚・調停離婚しかなさそうですね。
そうですね。話し合いのポイントを確認しましょう。
有責配偶者が離婚する場合や、慰謝料の請求をされる場合についての注意点を確認しましょう。
協議離婚・調停離婚で離婚するためには
有責配偶者側が上述した3要件を満たさないうちに離婚するためには、当事者の合意で行う協議離婚・調停離婚によるしかありません。
協議離婚・調停離婚に応じない理由には、人によって次のような理由があります。
・専業主婦から働くことになるので自由な時間が減る
・周囲の目がある
離婚に応じてもらうためには、相手がどのようなことに不安になっているかをしっかり把握して、適切な対応をすることで、協議離婚・調停離婚に応じてもらえるようにしましょう。
不倫相手に慰謝料を請求してきた場合の注意点
なお、配偶者の慰謝料請求は、配偶者である自分ではなく、不倫相手に行われる場合が多いです。
不倫は一人ではできないので、不倫という行為があった場合には共同不法行為として、それぞれが損害の全額に対して責任を持ち、後に負担割合に応じて当事者間で解決することがあります。
例えば、配偶者が被った精神的苦痛が100万円だとして、不倫に至った事情が配偶者側から誘ったものであり、帰責性の割合は7:3であるというような場合を想定しましょう。
当事者はそれぞれ全額に対して責任を負うので、100万円の損害賠償請求を不倫相手にした場合には、不倫相手は100万円を支払う義務があります。
100万円を支払った不倫相手は、7割の責任がある配偶者のほうに70万円の請求をすることができます(このような請求権のことを求償権と呼んでいます)。
このような場合、不倫相手から金銭の請求をされる可能性があります。
また、慰謝料をどちらが払うかは、慰謝料に関する請求権・求償権の問題で、有責配偶者であるかどうかの認定に影響を及ぼしません。
自分が慰謝料を払わなかった場合でも、有責配偶者であることにかわりはないので注意をしましょう。
まとめ
このページでは、慰謝料を支払ったにもかかわらず、離婚しないことができるのか、相手が離婚してくれない場合に離婚の請求ができるのかについてお伝えしました。
不貞行為を行った配偶者である、有責配偶者から離婚の請求をすることは難しいです。
要件を満たしているかについては弁護士に相談して、協議離婚・調停離婚ができないかを検討してみましょう。