親子関係不存在確認の訴えとは何か、嫡出否認との違いや判例などを解説いたします。
ざっくりポイント
  • 「親子関係不存在確認の訴え」は、法律上の親子関係を争う
  • 親子関係不存在確認の請求は、調停で不成立になった場合に訴えを起こす
  • 嫡出推定を受ける子どもと親の関係を否定したい場合は、嫡出否認調停を申立てる

目次

【Cross Talk 】親子関係不存在確認の訴えとは何でしょうか?

親子関係不存在確認の訴えとは、誰がどのような場合に提起するのでしょうか?

法律上の親子関係を争うものです。例えば父親が長期の出張で母親と性交渉をすることが不可能にもかかわらず、嫡出推定により戸籍上父親の子どもとされてしまった場合などです。

詳しく教えてください!

親子関係不存在確認の概要、嫡出否認との違いや判例・裁判例などを解説していきます。

「離婚した後に妊娠し、父親は夫ではないにもかかわらず民法の規定により夫との子どもとされてしまった」という事例が存在します。
民法第772条2項において、婚姻中または離婚後300日以内に生まれた子どもは、夫の子どもと推定(嫡出推定)されることが定められているのです。
このように、法律上の親子関係を否定したい場合には家庭裁判所に調停を申立てますが嫡出推定されているか否かによって、申立てる調停が異なります。
今回は親子関係不存在確認の概要、嫡出否認との違いや判例・裁判例などを解説していきます。

親子関係不存在確認の訴えとは?誰がどのような場合に申立てる?

知っておきたい離婚のポイント
  • 親子関係不存在確認の訴えは、法律上の親子関係を争う手続き
  • まず親子関係不存在確認調停を申立て、調停が不成立になった場合は訴訟を起こす

何故まず訴訟を起こすのではなく、調停を申立てなければいけないのでしょうか?

日本の家事事件では「調停前置主義」という方針が採用されています。調停を行うことができる事件について訴訟を起こす者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければいけません。

離婚・相続などで法律上の親子関係について争う「親子関係不存在確認の訴え」

親子関係不存在確認の訴えは、子どもの法律上の親子関係を争う手続きです。
子どもは母親のお腹の中から生まれてきますので、基本的には「法律上の父親が誰か」を訴訟で明らかにすることになります。
申立てられる方は、子ども・父・母・祖父母など親子関係について直接身分上利害関係を有する第三者です。

婚姻中または離婚後300日以内に生まれた子どもは、夫の子どもと推定(嫡出推定)されます。

民法第772条※1 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
2 前項の場合において、婚姻の成立の日から二百日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

ただし夫(または元夫)が長期の海外出張・受刑・別居などで母と性的交渉がなかった場合といった母が夫の子を妊娠する可能性がないことが客観的に明白であり、推定を受けないものと判断されるときには子ども・母などが父親に対して「親子関係不存在確認調停」の申立てをすることができます。

また、離婚後300日以内に母親が未婚の状態で出産した子どもが元夫の子どもではない場合でも親子関係不存在確認調停」の申立てが可能です。

相続時に亡くなった方(被相続人)の子どもと名乗る者が現れたときに、「親子関係不存在確認調停」を申立てる事例もあります。

法律上の親子であると認められると、父親は養育費を支払う義務があり子どもには相続の権利があるといった権利・義務が生じます。

上の図に書かれている通り、事実確認をするために子どものDNA鑑定を行う事例もあります。
場合によってはDNA鑑定により、子どもが精神的にショックを受けてしまう可能性がありますので、子どものことを考えてから調停を申立てることをおすすめします。

調停を申立てる裁判所・必要な費用・必要書類もチェックしておきましょう。

親子関係不存在確認は、調停で不成立になった場合に訴えを起こす

家事事件手続法第257条※2では、一部の事件を除き「調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない」という「調停前置主義」が定められています。
家事事件では、一部を除き先に調停申立て調停委員を通じて話し合いをした後に不成立となった場合に訴訟を起こすことが可能となります。親子関係不存在確認も調停を経てから訴訟を起こします。
調停では、相手が欠席した、こちらの申立てを否定または拒否をするといった際に不成立となります。

調停で子どものDNA鑑定が行われることも

親子関係不存在確認調停の、一般的な手続きの流れは以下の通りです。

親子関係不存在確認の訴えと嫡出否認の違いとは?判例も

知っておきたい離婚のポイント
  • 結婚中または離婚後300日以内で、嫡出推定を受ける子どもと親の関係を否定したい場合は嫡出否認調停を申立てる
  • 子どもの戸籍の問題でお困りの方は弁護士に相談を

嫡出否認調停というものもあると聞いたのですが、親子関係不存在確認調停との違いは何ですか?

親子関係不存在確認調停は何らかの事情により実の親ではない方の子として戸籍が作られているときに、親子関係の不存在を確認するためのものです。一方で、婚姻中または離婚後300日以内に生まれた子どもが夫の子どもとして嫡出推定されることを否認する手続きが嫡出否認調停です。

嫡出推定を受ける子どもと親の関係を否定したい場合は、嫡出否認調停を申立てる

上記の通り離婚後300日以内に生まれた子は元夫の子と推定されますが、夫との間の子どもであることを否定するためには家庭裁判所に「嫡出否認の調停」※4を申立てます。

嫡出否認調停で夫婦の子どもではないという合意ができ、家庭裁判所が事実の調査を行い正当な合意であると認められると、合意に従った審判が下されます。
当事者同士が合意できない場合、または裁判所が正当な合意ではないとみなした際には調停が不成立
となります。

親子関係不存在確認の調停は、母親が離婚後300日以内に子どもを産んだものの未婚の状態である場合、婚姻中または離婚後300日以内に生まれた子であっても、夫と別居中、長期間の出張など母親と性的交渉がなく、夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白であり、「嫡出推定を受けない」と判断される事例などで申立てが可能です。

2024年4月1日から嫡出推定制度が改正され、離婚日から300日以内に子どもが生まれた場合であっても、母が元夫以外の男性と再婚した後に生まれた子どもは「再婚後の夫の子」と推定することになりました。また、女性の再婚禁止期間が廃止されるなどの改正もあります。※5
改正により、嫡出否認の訴えの出訴期間は1年から3年に延長され、改正法は2024年4月1日以後に生まれる子に適用されますが、子ども・母親は、施行日から1年間に限り施行日前に生まれた子どもについて否認ができます。※6

親子関係不存在確認の訴えの判例・裁判例。認められた事例、認められなかった事例

2014年7月17日最高裁判所判決親子関係不存在確認請求事件 は、戸籍上Aの嫡出子とされているBがAに対して提起しました。
母親はAと婚姻中にDと性的関係を持ち、DNA鑑定によるとBはDの生物学上の子どもである確率が99.9999988です。
しかし、判決では「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり(略)子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから(略)嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である」として判決は破棄されました。

一方で、2022年6月24日最高裁判所判決の親子関係不存在確認請求事件 では、亡Aおよび亡Bの孫であり、亡Cの戸籍上の甥であるXが提起しました。

Xは亡Aおよび亡Bの子である亡Dの戸籍上の法定相続人はXと亡Cの子どもたちで、亡Dの相続では「親子関係の存否によりXの法定相続分に差異が生ずる」と主張しました。最高裁判所は「本件訴えにつき法律上の利益を有するというべきである」と訴えを認め、第1審に差し戻されました、

お困りの方は弁護士に相談を

離婚後に子どもの父親について揉めている、戸籍上父親は元夫になっており困っているという方は弁護士に相談することをおすすめします。

親子関係の確認は、デリケートな問題ですので他人には相談しづらく1人で悩みを抱えてしまう方は少なくありません。
しかし弁護士は法律の専門家です。守秘義務がありますので外部に漏れることはありません。

まとめ

法律上の親子関係を否定したい場合には、早めに対処することをおすすめします。
時間が経過してから調停を申立てると、当事者や関係者が当時のことを覚えていないという事態に陥り問題が長期化してしまう恐れがあります。また、相続時にトラブルに発展してしまうでしょう。
お困りの方は、弁護士に相談することを検討してみましょう。