離婚後に生活保護を受ける手順や要件、制限されることなどを解説いたします。
ざっくりポイント
  • 最低生活費より収入が低い、扶養義務者からの援助が受けられないなどの要件を満たすと生活保護が受給される
  • 生活保護の受給を希望する方は、居住地を管轄する福祉事務所で相談を
  • 生活保護を受給すると、住む場所やお金の使い道が制限される、クレジットカードが作れないなどの制約が生じる

目次

【Cross Talk 】離婚後に生活保護を受給したい

離婚して2カ月、仕事はしていますが生活費が足りません。恥ずかしながら子どもの給食費を捻出するのも厳しいです。生活保護は受給できますか?

最低生活費より収入が低い、親や兄弟などから援助が受けられないなどの要件を満たすと生活保護が受給できます。住む場所やお金の使い道など制約もありますので、慎重に判断しましょう。

詳しく教えてください!

離婚後に生活保護を受給できる要件5つ、申請の手順などについて解説していきます。

「離婚後生活費が足りないから生活保護を受けたい」「生活保護を検討しているが、どのような制約があるの?」という人もいらっしゃるでしょう。
生活保護は厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費より収入が低い、保有する資産・稼働能力などすべてを活用してもなお生活に困窮するなどの要件を満たすと受給できます。
申請する際にはまず最寄りの福祉事務所に相談します。
今回は生活保護を受給できる要件5つ、申請の手順、生活保護で制限されることと子どもの大学進学などについて解説していきます。

離婚後に生活保護を受給できる?いくらもらえる?申請の手順も

知っておきたい離婚のポイント
  • 受給要件を満たすと生活保護が受給できる。地域によって受給額が異なるのであらかじめチェックを
  • 申請をしたい方は、まず最寄りの福祉事務所で相談を

自動車があると生活保護が受給できないって本当ですか?

はい。生活保護は資産、能力などあらゆるものを活用してもなお保護が必要な世帯に支給されますので原則受給できません。ただし、障害がある方の通勤や通院などに必要な場合など例外的に認められることがあります。

生活保護の受給要件5つと受給できない場合

厚生労働省のホームページによると、生活保護制度は「生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的」としています。

世帯単位で行いますので、例えば「配偶者が生活費を渡してくれず生活できない」といった場合、生活保護は受給できません。ただし配偶者が困窮すると分かっていながら生活費を渡さない行為は、夫婦の同居、協力及び扶助の義務や婚姻費用の分担義務を怠っており法定離婚事由(法的に離婚が認められる理由)の1つとみなされる可能性があります。配偶者が生活費を渡してくれないなどの理由で悩んでいる場合には、弁護士に相談してみるのもいいでしょう。

生活保護を受給できる要件※1は以下の5つです。

1.厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費より収入が低い
2.保有する資産(預貯金など)、稼働能力などすべてを活用してもなお生活に困窮する
3.子どもが小さい、持病があるなどの事情で働けない(または働いても最低生活費を下回る)
4.扶養義務者(直系血族及び兄弟姉妹、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族)からの援助が受けられない
5.居住地の福祉事務所から受給の申請が認可された

1の最低生活費は、年齢、世帯の人数等により定められており収入が最低生活費に満たない際に、下図(※2)のように「最低生活費―収入」の額が保護費として支給されます。

最低生活費は、厚生労働大臣が要保護者の年齢、世帯構成、所在地などの事情を考慮して扶助別に定めます。

※3
例えば世帯に小学生、中学生がいる場合は義務教育にかかる必要な学用品費や教材代、給食費などを補填するものとして「教育扶助」が支給されます。基準額は小学生が2,600円、中学生は5,100円です。

2については、「資産、能力などあらゆるものを活用してもなお保護が必要」という世帯に対して生活保護が支給されます。

例えば不動産、自動車、預貯金などの財産を保有していない(または活用できない)ことも要件の1つです。ただし、不動産、自動車は例外的に保有が認められる可能性があります。厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A※4」によると、障害がある方の通勤や通院などに必要な場合には自動車の保有を認められることがあります。
加えて就労できない(または就労していても最低生活費に満たない)、 年金や各種手当などの社会保障給付の活用をしても生活費が足りないなどの事例で生活保護が認められます。
民法第877 条※5の1項では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められており、2項には「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」という規定があります。

直系血族とは親・子、祖父母や孫、曾祖父母や曾孫などが該当します。兄弟姉妹と直系血族が生活保護申請者を扶養できないときには優先的に保護されます。
厚生労働省のホームページには「扶養義務者の扶養は保護に優先しますが、例えば、同居していない親族に相談してからでないと申請できない、ということはありません※6」と記載されています。

生活保護の判断は細かな規定があり※1、最終的には居住地を管轄する福祉事務所が決定します。

生活保護の申請手順

生活保護の受給を希望する方は、まず居住地を管轄する福祉事務所で相談をします。
生活保護に申請する場合は申請書に必要事項を記入し(特別な事情がありできない場合は申請書がなくても申請可能)、提出すると就労の可能性や資産などについて調査が行われます。

「生活保護の受給が必要」と認められると、厚生労働大臣が定める基準に基づく最低生活費から年金や就労による収入などを差し引いた額が保護費として毎月支給されます。

離婚後の生活保護、いくらもらえる?居住地の等級を確認しよう

生活保護には生活扶助(生活費や日用品費・各種加算など)や住宅扶助(家賃・補修費など)などがあり、世帯によって受給額が異なります。地域における生活様式や物価差により生活水準に差があることから、生活保護基準に「級地制度」という等級による差を設けています。

※7
例えば東京都23区や横浜市、大阪市は1級地の1です。

離婚後に生活保護が受給できたときにはいくらもらえるか、知りたい方はまず地域の等級を下記のサイトで調べてみましょう。

生活保護で制限されることとは。子どもが大学に行きたいと言ったらどうする?

知っておきたい離婚のポイント
  • 生活保護受給者は、特別な事情が無い限り現在の居住地で生活するなどの制約がある
  • 生活保護世帯の子どもが大学などに進学する場合は、子ども分は保護費の給付の対象外

生活保護を受給すると、子どもが大学に進学したときの学費は支給されないのですか?

はい。お子さまが大学に進学する場合、世帯が分離されお子さまは受給の対象外となります。奨学金の利用などを検討してみましょう。

住む場所や資産、お金の使い道が制限される

生活保護受給者でも転居することは可能ですが、事前に行政に伝えたうえ、許可を取る必要があります。

例えば仕事を退職したことにより社宅から転居する、国や自治体から立ち退きを要求されている、家賃が規定の上限額を超えているなどの場合、転居が許可されています。※8
一方、単身の入院患者が病院に入院中に転居をすることも認められていません。※9
特別な事情がある場合は引っ越しが認められる可能性がありますが、基本的には現在の居住地で生活することになるでしょう。

また生活保護法第8条の2項※10において、「(略)基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない」という規定があります。

また同法第60条では「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない」という義務も定められています。

事情を考慮した最低限度の生活費として支給されたものですので、お金の使い道が制限されことがあります。例えば、保護費から住宅ローンを返済することは、最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨とは異なりますので、原則として認められません。※11

子どもは大学に行けない?家計改善支援、世帯分離とは

厚生労働省の資料※12によると「生活保護制度は最低限度の生活を保障するものであり、世帯の子どもの大学などの進学については、生活保護を受給しない低所得世帯(生活困窮世帯)の子どもたちとのバランスを考慮する必要があることから、生活保護世帯の子どもが大学等に進学する場合は、その子ども分は保護費の給付の対象外」としています。
たとえ親子が同じ屋根の下で暮らしていても、形式的に生活保護世帯の生計からその子どもを別にする取り扱い(世帯分離)としているのです。

世帯分離をすることで、子どもが大学などに進学するときにはアルバイトや奨学金で学費や生活費を自ら賄う必要があります。ただし、子ども以外は生活保護の受給対象です。

厚生労働省は「大学等への進学を検討している高校生等のいる世帯への家計改善支援」として、希望する進路への進学に要する費用の相談やアドバイス、利用できる奨学金や貸付制度の紹介などを行っています。

お悩みの方は弁護士に相談という方法も

離婚後生活保護の受給を検討している方は、まず弁護士に無料で相談するという方法もあります。
法律事務所の中には、初回相談無料のところもあります。
離婚時の財産分与や養育費を弁護士が代理で交渉し今より多くもらうことで、生活保護を受給しなくても生活費を賄える可能性があります。一度相談してみるとよいでしょう。

まとめ

生活保護は国民の権利ですが、受給することで制約が生じてしまいます。子どもが大学に進学する場合、生活保護世帯とは分離してしまう点も注意しましょう。
離婚時に離婚後の生活保障として財産分与を多めにもらう、慰謝料として上乗せしてもらうなどの方法があり、生活保護を受給せずに生活ができることもあります。
気になる方は弁護士に相談してみましょう。