離婚時の財産分与で預貯金を隠すまたは隠される行為について解説いたします。
ざっくりポイント
  • 離婚の財産分与で預貯金を隠す行為は、刑事罰の対象とならないが民事上の不法行為である
  • 相手が財産を隠している可能性がある場合は、弁護士に依頼し「弁護士会照会制度」を利用する方法が
  • 共有財産を隠したまたは隠されたことでトラブルに発展しそうなときには弁護士にご相談を

目次

【Cross Talk 】離婚の財産分与で預貯金を隠すと罪に問われますか?

配偶者が不倫をしたので、離婚する予定です。悔しいのでせめて預貯金を隠して、全て自分のものにしたいのですがばれたら罪になりますか?

刑事罰には問われませんが、民事上の不法行為にあたるおそれがあります。相手にばれてしまうと財産分与のやり直しと損害賠償を請求される可能性があります。辛い気持ちは分かりますが、不倫に対しては慰謝料を請求するなど別の方法を考えましょう。

詳しく教えてください。

離婚の財産分与と財産隠し、請求の手順について解説していきます。

離婚時の財産分与で預貯金など財産を隠す行為は、刑事罰には問われませんが民事上の不法行為にあたります。
自身が預貯金などの財産を隠している場合は民事訴訟を起こされるリスクが生じ、財産分与のやり直しと損害賠償を請求されるおそれがあります。一方で、相手が財産を隠していると思われる場合には弁護士に依頼し弁護士会照会制度を利用すると金融機関などに照会が可能です。

今回は離婚の財産分与における財産隠し、財産分与請求の手順を解説していきます。

離婚の財産分与、預貯金などを隠すことは民事上の不法行為となる

知っておきたい離婚のポイント
  • 分与の対象となる財産は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産で結婚前の預貯金や相続・贈与で得た財産は対象外
  • 「財産隠し」はリスクが高い行為なので、相手と交渉して財産を多めにもらうなど別の方法を検討する

そもそもどのような財産が財産分与の対象になるのでしょうか?

結婚中に2人で協力して形成した財産です。結婚前の預貯金や相続・贈与で得た財産は対象外です。

分与の対象になる財産、ならない財産とは

分与の対象となる財産は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産です。

預貯金・有価証券・不動産・保険などが対象となります。
例えば夫婦のうち夫が働きに出て、夫の名義で不動産を購入した場合でも妻が家事などで財産の形成に寄与した場合には夫婦が協力して築いた財産として分与の対象になります。

一方で、結婚前の預貯金や嫁入り道具、相続・贈与で得た財産は財産分与の対象外です。

「財産隠し」は刑事罰の対象とならないが、民事上の不法行為となる

刑法235条では「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」という規定があります。
刑法235条の2項では不動産に関しても「他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する」と定められています。

ただし、同法244条によると親族間の場合窃盗罪では処罰されません。

  • 第244条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
    2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
    3 前2項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

このように、夫婦間で預貯金を隠す事は刑法では罪には問われませんが、一方で、民法709条「不法行為」に該当するおそれがあります。

  • 第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

預貯金を隠したことが明らかになり、民事訴訟を起こされた場合は財産分与請求に加え損害賠償を請求できる可能性があります。

「離婚後の生活が経済的に厳しいから、預貯金を隠したい」「相手が許せないから預貯金を自分のものにしたい」など様々な理由で「預貯金を隠したい」と思ってしまうこともあるでしょう。
しかし夫婦間の預貯金を隠し、財産分与で有利になるように動くことで損害賠償を請求されるリスクが生じてしまいます。

相手に慰謝料を請求する、交渉して財産分与を多めにもらうなど別の方法を検討しましょう。

財産分与の請求期限は2年

夫婦の一方が隠した預貯金が発覚した場合には、財産分与請求を申立てることができます。

ただし、財産分与の請求期限は離婚成立から2年以内です。

離婚時に財産分与を請求する手順

知っておきたい離婚のポイント
  • 相手が財産を隠していると疑われる際には、弁護士に相談し弁護士照会制度の利用を検討
  • 財産分与でトラブルになりそうな場合は専門家への相談を

定期預金の通帳が見当たりません。財産隠しをされている場合にはどうすれば良いのでしょうか?

まずは弁護士に相談し、弁護士会照会制度を利用して事実確認をおすすめします。

相手と話し合う

相手と話し合い、財産分与の方法や割合などを決定します。
まずは全ての財産をリストアップし、共有財産と固有財産(個人の財産)に分けます。
全財産のうち共有財産を分与することになりますが、相手が財産を隠していると思われる場合は弁護士照会制度の利用をおすすめします。

弁護士会照会制度とは、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会が企業などの団体に対して依頼を受けた事項を調査・照会する制度です。
弁護士照会制度によって情報・証拠が得られると事実に基づいた紛争解決ができるようになりますので、民事司法制度を支える重要な制度として機能しています。

2021年度の弁護士会照会の受付件数は、全国で年間およそ20万件です。

なお不動産の分与で、不動産のローン残債が売却価格を上回るオーバーローン状態の場合は資産価値がマイナスですので注意が必要です。
ローン返済など、慎重に話し合いを進めていきましょう。

合意ができた際には合意書・公正証書を作成

話し合いに双方が合意した場合には合意書もしくは公正証書を作成します。
合意書と公正証書はどちらも取り決めた内容を書面化したものですが、公正証書は公証役場で作成する公的な書類です。

公正証書を作成すると、財産分与について取り決めたことに加え、例えば離婚後にローン返済や養育費について取り決めたことについて支払い義務を負う人が「支払いが滞った場合に強制執行を受けることを認諾する」(強制執行認諾文言)を記載できます。

公正証書に強制執行認諾文言を記載することで、調停や審判といった家庭裁判所での手続きを経なくとも、直ちに強制執行の手続きを行うことができるようになります。

合意できなかった場合は財産分与請求調停を申立てる

財産分与について合意できない場合には財産分与請求調停を申立てます。
調停の前には弁護士に相談すると、調停の流れや調停委員への質問への回答など対処法を知ることができます。

財産隠しなどトラブルがあった場合は専門家に相談を

共有財産を隠された、財産隠しがばれそうなどトラブルが起こりそうな場合は早めに弁護士への相談をおすすめします。

相手と直接話し合うことが困難な場合でも、弁護士を通すことでスムーズに解決できる可能性があります。

まとめ

離婚時の財産分与で財産を隠す行為はリスクが高いので、別の方法を検討しましょう。
相手が財産を隠していると思われる場合には、弁護士に相談し弁護士会照会制度を利用するという方法があります。財産分与に関するトラブルでも、弁護士に相談することでスムーズに解決できる事例があります。