離婚後の慰謝料請求について解説いたします。
ざっくりポイント
  • 離婚後は、元配偶者の不法行為によって離婚に至った、時効を迎えていないなどの条件を満たせば慰謝料請求ができる
  • DV・モラハラ・不貞行為など、離婚・慰謝料請求の原因となった事柄の証拠を集めておく
  • 対面で話し合いができない場合には内容証明郵便を送付し、代理人を立てて交渉する

目次

【Cross Talk 】離婚後でも慰謝料請求できるのでしょうか?

元配偶者の不倫で離婚してから2年が経ちます。離婚するときには慰謝料はいらないと思っていましたが、今でも元配偶者の不倫を思い出すと辛いです。慰謝料請求はできますか?

はい、不貞行為が原因で離婚したということですね。離婚時に慰謝料を請求しない旨の取り決めをしていないのであれば、時効を迎えていないので慰謝料を請求できます。

詳しく教えてください。

離婚後でも一定の条件を満たせば慰謝料請求は可能。

夫婦の場合は、不貞行為・DV・モラハラなどに対して慰謝料を請求できます。慰謝料請求の時効は、基本的に離婚後3年以内です。
時効を迎えておらず、慰謝料を請求する元配偶者の言動(モラハラや不貞行為など)が原因で離婚した場合、離婚後に慰謝料請求しないという取り決めを交わしていないのであれば請求が可能です。
離婚後に慰謝料を請求するための条件と請求方法、DV・不貞行為・モラハラなどの場合別対処法について解説していきます。

離婚後に慰謝料請求できる3つの条件と請求方法

知っておきたい離婚のポイント
  • 慰謝料を請求できる期間は、原則離婚から3年以内
  • 対面で話し合えない方は、まず内容証明郵便で慰謝料の請書面を送付

慰謝料を請求したいのですが、元配偶者からモラハラを受けていたので、怖くて話し合えません。

内容証明郵便で慰謝料を請求することを記載した書面を送りましょう。可能であれば、送付する前に弁護士と話し合っておきましょう。

離婚後に慰謝料を請求できる条件は3つ

離婚後に慰謝料を請求できる条件は、以下の3つです。

1.相手のDV・不貞行為などを理由に離婚することになった
2.損害及び加害者を知ったときから3年以内かつ不法行為のときから20年以内※1
3.離婚時に「慰謝料を請求しない」という取り決めを交わしていない

慰謝料は、民法709条※2の「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」という不法行為による損害賠償として請求します。
元配偶者のDVやモラルハラスメント・不貞行為などで精神的苦痛があり、結果的に離婚した場合には、離婚後に慰謝料を請求できます。

不法行為には時効があり、「『損害及び加害者を知ったときから3年以内かつ不法行為のときから20年以内』のいずれかのうち早い方」とされています。
基本的に離婚後3年以内に慰謝料を請求しなかったときには、時効を迎えることになります。

また、離婚時に離婚協議書や公正証書で「慰謝料を請求しない」という約束を交わしていないかどうかも確認しておきましょう。

なお、慰謝料を請求する相手が不倫相手の場合の時効期間は、不貞行為があったことと不倫相手が誰なのかを知ってから3年以内です。
不倫相手の名前や住所など特定できる情報を知らなければ、不貞行為を知ってから3年を経過しても時効は成立しません。請求相手が元配偶者の場合には、慰謝料を請求できる期間は原則離婚から3年以内です。

慰謝料請求は、まず内容証明郵便を送付

慰謝料請求の手順は、元配偶者に慰謝料を請求する旨を伝え、協議したうえで決定します。
しかし「元配偶者と顔を合わせたくない」という方も多いでしょう。対面で交渉したくない方は、まず内容証明郵便で慰謝料の請求書面を送ります。
内容証明郵便では、一般書留郵便物の内容文書について郵便局に証明してもらうことが可能です。
「いつ、どのような内容の文書を誰から誰あてに差し出されたか」を、差出人が作成した謄本によって証明できます。※3

元配偶者が慰謝料の支払いに合意すれば、合意書を作成し、慰謝料の支払い方法などを決めていきます。
元配偶者が合意しない場合には、調停または訴訟の手続きを進めていくことになります。訴訟は、請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、請求額が140万円超の場合は地方裁判所において行われます。
調停は、あくまで話し合いで解決を図る場所ですので、相手が欠席する、または合意しないときには不成立になってしまいます。

調停と訴訟のどちらが良いかは、場合によるといえます。
そのため、まずは弁護士に相談してから検討するのも良いでしょう。

DV・モラハラ・不貞行為など、状況別の証拠収集方法

知っておきたい離婚のポイント
  • DVには身体的暴力だけではなく、モラハラや経済的な虐待も含まれる
  • 不貞行為は元配偶者と不倫相手に慰謝料を請求できるが、慰謝料が2倍になるわけではない

結婚中、元配偶者に殴られたり蹴られたり暴力を受けました。元配偶者は暴力の事実を否定しており、もう傷は治っています。証拠がない状態で、慰謝料は請求できますか?

傷は治っていても、暴力があったことを周囲に相談したメッセージアプリの履歴や日記・メモなど、他に証拠となるものは残っていませんか?弁護士に相談してみるのも良いでしょう。

DV

DVとは「domestic violence(ドメスティック・バイオレンス)」の略で、家庭内暴力を意味します。
身体的暴力だけではなく、精神的・経済的・性的な暴力もDVに含まれます。日本では2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が施行されました。※4
身体的暴力には、殴る・蹴る・小突く・タバコの火を押し付けるなどが当てはまり、経済的暴力には、生活費を渡さない・働くことを妨害する・家計について教えないなどが該当します。

いかなる理由があっても、暴力は重大な人権侵害であり不法行為です。民法上では慰謝料請求の対象となります。
結婚中にDVを受けた方は、暴力の証拠となる写真や主治医の診断書、暴力で壊されたものなどが証拠となる可能性があります。日記やメモ・メッセージアプリの履歴なども証拠となる事例がありますので、できる限り収集しておきましょう。

モラルハラスメント

モラルハラスメントとは、言葉や態度などで繰り返し相手を攻撃する行為を指します。精神的な暴力・虐待とも言われており、DV防止法では精神的暴力として2004年に規定されています。
精神的暴力には以下の例※5があります。

  • 何でも従えと言う
  • 発言権を与えない
  • 交友関係やメールの内容を細かく監視する
  • 外出を禁止する
  • 何を言っても無視する
  • 人前で侮辱する
  • 大事なものを捨てる、壊す
  • 罵詈雑言を浴びせる
  • 夜通し説教をして眠らせない

言葉だけではなく、状況によっては「無視」「ため息」「舌打ち」などの行為も精神的暴力とみなされる可能性があります。
モラハラをする人の中には、相手を洗脳して従わせようとする人もいます。
別居後冷静になった際に、「離婚後に元配偶者の行為がモラハラだったことに気づく」という例もあります。
モラハラについては、音声を録音したボイスレコーダーや日記・メモなどが証拠となる事例があります。

不貞行為

不貞行為とは、既婚者が自分の意思で配偶者以外の異性と性的関係を持つことをいいます。
不貞行為による慰謝料の金額は、婚姻期間の長さや不貞行為の期間・頻度、子どもの有無などによって異なります。元配偶者と不倫相手に連帯責任として慰謝料が請求できますが、不倫相手に関しては「元配偶者が既婚者であることを知って関係を持った」場合に請求が可能となります。
また、慰謝料を2人に請求したとしても、請求できる金額が2倍になるわけではありませんので、その点に注意しましょう。

不貞行為については、ホテルから出てきた写真や、ホテルの利用・不倫相手に対するプレゼントの領収書、メッセージアプリやSNSの記録などが証拠となる可能性があります。

その他

夫婦関係では、上記の他に「悪意の遺棄」が不法行為にあたると考えられます。
悪意の遺棄とは、正当な理由がなく夫婦間の義務(同居・協力・扶助義務)に違反する行為です。理由もなく家を出て行く、生活費を渡さないなどの理由で離婚に至った際には、慰謝料が請求できる可能性があります。
また、夫婦であっても性行為の強要は強姦にあたり、慰謝料請求の対象となるでしょう。
元配偶者に傷やあざなどをつけられたときには写真に撮っておきましょう。
他にはメモや日記などが証拠となるかもしれません。

まとめ

離婚後3年以内で、元配偶者の不法行為によって離婚し、慰謝料を請求しない約束を交わしていない場合には慰謝料請求が可能です。
「まずは専門家に相談したい」「1人ではどうしたら良いか分からない」という方は、弁護士に相談をしてみるのも良いでしょう。