親権喪失とは何か、親権停止と管理権喪失との違いなどを解説いたします。
ざっくりポイント
  • 親権喪失は父母の親権を失わせることができ、親権停止は一定期間親権をストップさせる制度。管理権喪失は親権のうち財産管理権を喪失させる
  • 親権喪失・停止の審判申立ては、本人(子ども)もできる

目次

【Cross Talk 】親権喪失とは何でしょうか?

親戚の子どもが虐待に遭っているようです。親権喪失という制度があると聞いたのですが、どのような制度なのでしょうか?

親権喪失とは、父または母が虐待やネグレクトをする、もしくは親が親権の行使が著しく困難又は不適当であるときに親権を失わせることができる制度です。他に親権停止、管理権喪失という制度もあります。

詳しく教えてください!

父または母の親権を失わせる親権喪失とは?親権停止・管理権喪失との違いや例、申立て方法を解説!

親権喪失とは、父母のいずれかが子どもに虐待・ネグレクト(育児放棄)をする場合、子ども本人や親族などが家庭裁判所に申立て親の親権を失わせる制度です。
親権停止という一定期間親権をストップさせる制度や、親権のうち財産管理権のみを失う管理権喪失という制度もあります。
今回は親権喪失制度の概要と親権停止・管理権喪失との違い、実際の事例や申立て方法を解説していきます。

親権喪失とは?親権停止・管理権喪失との違い

知っておきたい離婚のポイント
  • 親権喪失とは、父または母が虐待・ネグレクトをする等の事情がある場合に、審判によって親権を失わせる制度
  • 親権停止は一定期間親権をストップさせ、管理権喪失は親権のうち財産管理権のみを失うという違いがある

親権喪失と親権停止は何が違うのでしょうか?

親権喪失の審判が下されると親は親権を失いますが、親権停止は2年以内の範囲で親権を停止させるという違いがあります。

親権喪失とは?

親権喪失とは、父もしくは母が虐待・ネグレクトをする場合などに、審判によって親権を失わせる制度です。

民法※1第834条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

悪意の遺棄とは、正当な理由なく子の監護養育をしないことです。
親権とは親が子どもの財産を管理する財産管理権、身の回りの世話をする身上監護権という2つの権利を指します。

食事を与えない、学校に連れて行かないなどのネグレクトは子どもの利益に反する行為ですので親権喪失の対象となる可能性があります。

父または母に重度の疾患がある、服役中などの場合は「親権の行使が著しく困難又は不適当」とみなされ親権喪失または停止となるでしょう。ただし、親権喪失には「2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない」という規定があります。

例えば「服役中で2年以内に出所する予定」であれば、親権喪失の原因が2年以内に消滅する見込みですので親権喪失は難しいでしょう。この場合、「親権喪失」ではなく、親権停止となる可能性があります。

親権喪失だけではなく、親権停止や管理権喪失という親権を制限できる制度があります。親権喪失とどのような違いがあるのでしょうか?

親権停止・管理権喪失との違い

親権喪失は親権を失わせることが可能ですが、親権停止は2年以内の期間を定め親権を停止させる制度です。2011年の民法改正により創設されました。

※2
親権停止は、民法※1第834条の2において「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」に、家庭裁判所や子ども、その親族・未成年後見人などの請求により親権停止審判を申立てることが定められています。さらに2項で「家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める」という規定があります。

親権喪失は親権を失いますが、親権停止は一定期間親権をストップするという違いがあります。

管理権喪失とは、親権のうち財産の管理や代わりに契約を行うといった「財産管理権」を喪失させるものです。「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき(民法835条※1)」に審判により喪失させることができます。

子どもの預貯金を勝手に使い込む、自身が利益を得るために子どもに契約をさせるなどの行為は管理権喪失となる可能性があります。
親権喪失・親権停止・管理権喪失は「親権制限事件」と呼ばれ、近年増加傾向にあります。

親権喪失審判の例、申立て方法とは

知っておきたい離婚のポイント
  • 親権喪失の審判は子ども本人、子どもの親族、検察官、児童相談所長、未成年後見人及び未成年後見監督人が家庭裁判所に申立てる
  • 親権喪失の原因で最も多いのはネグレクト、次いで身体的虐待

親権喪失は誰でも申立てられるのでしょうか?

いいえ。親権喪失を申立てられる方は、子ども本人、子どもの親族、検察官、児童相談所長、未成年後見人及び未成年後見監督人です。

親権喪失の審判は利害関係者が家庭裁判所に申立てる

親権喪失の審判は、2011年の法改正により、申立権者が増えました。

※2
具体的には子ども本人、子どもの親族、検察官、児童相談所長、未成年後見人及び未成年後見監督人が該当します。(改正前は子の親族と児童相談所長・検察官のみ)
申立て人は、子どもの住所を管轄する家庭裁判所に申立てます。

親権喪失・停止の審判申立ては、本人(子ども)からも可能

親権喪失・停止の審判の申立ては、2011年の法改正により当事者である子どもから申立てができるようになりました。
申立てが受理されると、家庭裁判所で審理が行われます。

親権喪失が認容される事例は子どもへのネグレクトや身体的虐待が多い傾向にある

親権喪失が家庭裁判所に認容される原因は以下の通りです。

※3

親権喪失の原因で多いのはネグレクト、身体的虐待です。親権停止もネグレクトが多く、次いで身体的虐待と心理的虐待が同数です。

親戚の子どもが虐待されているといった場合は親権喪失の審判の申立てを検討してみましょう。
また、近所で虐待が行われている可能性がある場合には児童相談所に通報することを考えてみましょう。児童相談所長は親権喪失の申立てができますので、事態が改善されるかもしれません。

まとめ

「親戚の子どもが虐待されており、親権喪失の審判を申立てたいけど迷っている」等という方は、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
親権について詳しい弁護士に相談することで、悩みや疑問が解決される可能性があります。