

- 口約束しかない養育費の有効性
- 口約束の養育費が未払いの際の対処法
- 口約束の養育費の注意点
【Cross Talk 】口約束しかない養育費も有効
養育費の受け取りを口約束でしていても大丈夫ですか?
口約束であっても有効ですが、未払いのリスクがあります。
養育費が口約束の場合について、詳しく教えてください。
夫婦が離婚する際、未成年の子どもの月々の養育費の支払いを取り決めることが一般的です。
養育費に関する取り決めは口約束であっても有効なのでしょうか。また、口約束しかない養育費の支払いが止まってしまった場合には、どうすればいいのでしょうか。
このコラムでは、口約束の養育費の問題について解説していきます。
口約束による養育費の有効性

- 養育費とは?
- 口約束の養育費の有効性
養育費の受け取りは、口約束でもできるのでしょうか。
養育費の支払い合意は口約束であっても有効です。
養育費とは?
養育費とは、未成年の子どもが経済的または社会的に自立するまでに必要となる費用のことです。
夫婦関係は、離婚によって終了しますが、親子関係は離婚によっても存続することになります。
民法には、「直系血族…は、互いに扶養する義務がある」と規定しており(民法第877条1項)、親には未成年の子どもを扶養する義務があります。そして、民法には、「父母が協議上の離婚をするときは、…子の看護に要する費用の分担その他子の看護について必要な事項は、その協議で定める」とされています(民法第766条1項)。
そのため離婚の際に、親権者となる親は、他方の親に対して養育費の支払いを請求することができます。
具体的に養育費に含まれる費用としては、以下のようなものがあります。
- 子どもの衣食住に必要な経費
- 子どもの教育費用
- 子どもの医療費など
養育費の支払いは口約束でもできる
養育費の内容については、夫婦が話し合って決めることになります。
養育費の金額や支払方法など内容については、父母が協議によって自由に決めることができます。実務的には、養育費算定表を利用して、親権者に交付する養育費の月額が決定されることが一般的です。養育費算定表は家庭裁判所の裁判官による研究報告として標準的な養育費の額を簡易迅速に算出するために公表されているため、誰でも自由にチェックすることができます。
この算定表を使えば、子どもの年齢・人数、両親の収入から、標準的な養育費の月々の金額を算出することができるのです。
そして、養育費の内容については、夫婦間に合意が成立すれば、口約束であっても法的には有効です。
しかし、子どもの成長・教育に関わる養育費の約束を口約束だけでしておくのはおすすめしません。
特に、養育費は、離婚してから子どもが経済的・社会的に自立するまで十数年にわたり支払いが継続していくものです。そのため、養育費の支払いに関する取り決めや合意が口約束しかない場合には、支払われなかった際に、養育費の内容についてトラブルが発生するリスクがあるのです。
口約束の養育費が未払いの場合

- 口約束の養育費が未払になったら?
- 養育費請求調停を利用できる
口約束していた養育費が未払いになったらどうすればいいでしょうか?
養育費が未払いの場合について解説していきます。
相手方に連絡する
口約束の養育費の支払いが滞った場合には、まずは、相手方に連絡する必要があります。
これまで養育費が毎月支払われていたのに、突然支払いが止まったという場合には、単に忘れていただけや、たまたま期限までに支払えない事情などがある可能性もあります。このような場合であれば、相手方に直接連絡することですぐに支払いが再開される場合もあります。
しかし、相手の経済状況が悪化している場合や、意図的に支払いを拒否している場合には、催促の連絡を入れたとしても効果は弱いでしょう。口では「払う、払う」と約束しておきながら、一向に支払おうとしないという場合もあります。
家庭裁判所に調停を申立てる
相手が話し合いに応じない場合や、養育費の支払いを拒否している場合には、家庭裁判所に養育費請求調停を申立てることができます。たしかに口約束により養育費の取り決めはしたけれど、その内容は不確定のものであるとして、調停手続きを利用して養育費の内容を改めて定めることができます。
調停手続きとは、家庭裁判所の調停員会が当事者の間に入って、双方から事情を聴きながら最終的に話し合いで解決できる道を探る手続きです。この調停委員会とは、家庭裁判所の裁判官1名と一般市民の中から選ばれた調停委員2名によって構成されています。
調停によって話し合いがまとまれば、調停調書が作成されます。
強制執行する
既に口約束による合意が成立しているとして、養育費の未払いは債務不履行であるとして相手方の財産に強制執行をしていくという方法が考えられます。
ただし、強制執行をするためには、契約に基づく養育費支払請求の訴えを提起し、請求認容判決などの債務名義を取得する必要があります。
具体的には、以下のような公文書が債務名義となります。
- 確定判決
- 仮執行宣言付判決
- 和解調書
- 調停調書
- 仮執行宣言付支払督促
- 執行認諾文言付公正証書
強制執行を利用することで養育費を支払わない親から強制的に支払いを実現することができます。
養育費について口約束しかない場合の注意点

- 養育費の請求には時効がある
- 口約束だけでは強制執行できない
養育費について口約束しかない場合には、どのような点に注意する必要がありますか?
口約束しかない場合には、未払いの対応に注意しておく必要があります。
養育費の請求権には時効がある
養育費支払請求権には、消滅時効があります。
養育費については、「権利を行使することができることを知ったとき」から「毎月発生する養育費の請求権」は原則5年で時効にかかり、「養育費をもらう権利そのもの」も10年で時効にかかるおそれがあります。
口約束だけでは強制執行できない
また、口約束だけでは相手の財産に対して強制執行をすることができません。前述の通り、強制執行をするためには、債務名義が必要です。
裁判所の手続きで養育費に関する取り決めを行った場合には、調停調書・審判書・和解調書・判決書などが債務名義となります。また、裁判外で作成できる債務名義としては、「強制執行認諾文言付き公正証書」があります。
いずれにしても口約束だけの場合には、強制執行を行うことができません。
まとめ
以上、養育費については、口約束であっても父母間に合意が成立している以上は有効となります。
ただし、養育費について、口約束だけの場合には、そのような合意があったことを客観的に証明することが難しく、未払いがあった場合にも強制力がありません。
口約束の養育費が未払いとなってお悩みの方は、家事事件を専門的に取り扱っている弁護士に相談されることをおすすめします。