- 労働審判手続は、通常の民事訴訟に比べ、早期かつ実情に即した解決を図れる
- 労働審判手続は、広く利用されていて、手続内で解決することが多い
- 交渉で解決しない場合には、労働審判手続へ
【Cross Talk】裁判以外の手段ってあるの?
会社に対して残業代の請求をしたのですが、会社が全く交渉に応じてくれません。このような場合、もはや裁判を起こすしかないのでしょうか?
もちろん裁判(民事訴訟)を申し立てることも一つの方法です。もっとも、残業代請求のような労働事件の場合には、裁判前の手続として「労働審判手続」という手続もあります。
労働審判手続はどのような手続なのでしょうか?
残業代請求をするときって、「労働審判」になるケースもあるって聞いたけど……、「労働審判」ってそもそもどういう手続なのか分かりませんよね。そこで、労働審判の内容と実情を解説しましょう。
労働審判手続とは
- 労働審判手続は3か月~6か月ほどで終了する
- 原則、当事者の出廷が必要
- 裁判官1人と労働審判員2人で審判を行う
- 調停不調かつ審判にも不服が出れば、民事訴訟に移行
労働審判手続とはどのような手続なのでしょうか?通常の民事訴訟とは何が違うのでしょうか?
それでは、労働審判手続の特徴について、ポイントを絞ってみていきましょう。
労働審判手続とは、裁判所によると、「解雇や給料の不払など、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的」とする手続とされています。もっとも、これだけではどのような手続か想像しにくいかと思われます。
労働審判手続の大きな特徴は、期日(労働審判においては協議審理が行われる回数)が最長3回までで、当事者の出廷が必要で、当事者双方のほかに、裁判官1人、労働審判員2人が加わり協議審理され、双方納得がいけなければ通常の民事訴訟に移行することが挙げられます。では、具体的に通常の民事訴訟と比較しながらみていきましょう。
期日(迅速な解決)
労働審判手続は、迅速な解決を目指す手続ですので、原則、期日は最長3回までとなっており、場合によっては1回の期日で解決することもあり、労働審判の申立てから3か月~6か月ほどで終了することがほとんどです。
これに対して、民事訴訟は主張反論を繰り返していく手続で、長期化する傾向にあります。申立てから解決するまで1年半~2年かかることも珍しくありません。
出廷(実情に即した解決)
労働審判手続は、実情に即した解決を目指す手続ですので、当事者から直接話を聞くため、代理人が就いていたとしても、原則、当事者の出廷が必要となってきます。そのため、お仕事をされている方は、会社をお休みしていただく等の対策が必要となってきます。
もっとも、期日については、約1か月前より裁判所から打診され調整していくことになりますので、急に明日休む必要があるということではありませんので、御安心ください。
これに対して、民事訴訟は、代理人が就いている場合には、尋問(裁判所での質疑応答)等の手続を除き、基本的に代理人が出廷をすれば足ります。
協議審理(適正)
労働審判手続においても、通常の民事訴訟同様適正な解決を目指す手続ですので、当然、裁判官1名が協議審理に参加します。また、裁判官に加え、労働関係に関する専門的な有識者2名を裁判所が労働審判員として選任し、協議審理に参加させます。そして、協議審理においては、裁判官や労働審判員が、当事者に対して、直接、第三者の視点で意見を述べることもあります。
これに対して、民事訴訟は、基本的には裁判官1名もしくは3名が担当し、当事者双方の主張反論を審理していきます。
審判(実効性)
労働審判手続においても、通常の民事訴訟同様実効性を有する手続ですので、協議審理を経て、労働審判手続内で当事者双方が合意に達すれば調停成立となり、合意に達しなければ審判が下され、その通りに従う必要があります。
もっとも、当事者の一方からでも不服が出れば、審判の効力は失われ、通常の民事訴訟に移行します。
労働審判手続の現状
- 労働審判手続は多く利用されている
- 多くの場合は労働審判手続で解決する
労働審判手続がどのような手続かはなんとなく分かりました。でも、どのくらいの人が労働審判手続をとるのでしょうか?労働審判手続で解決しないことも多いのですか?
それでは、労働審判手続の実情についてみていきましょう。
労働審判手続の件数
次の図は、国内の労働審判手続と労働関係を扱う通常の民事訴訟の受付件数を表したグラフです。これを見ると、ここ数年の労働審判手続の件数は毎年約3500件で推移しています。また、ここ数年の労働関係を扱う通常の民事訴訟も毎年約3300件を推移しています。単に双方の件数を比較すると、労働関係の問題については、労働審判手続が、民事訴訟よりも、多く利用されていることが分かります。
引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構「図3-1 労働関係民事通常訴訟事件と労働審判事件(新受件数 地方裁判所)」(参照 2019/2/4)
労働審判手続での結果の割合
次の図は、国内の労働審判手続における結果ごとの件数を表した表です。これを見ると、労働審判手続において調停成立(話し合いで合意に達すること)が全体の約70%を占めています。そして、審判が全体の約18%未満となっていますが、その内約40%(全体の約7%)は不服申立てがなく終わっています。これに対して、審判となり不服申立てがあったケースは全体の約10%となっています。
つまり、この表からは、労働審判手続で全体の約90%の件数が解決もしくは終了していることが分かります。
引用:日弁連『弁護士白書』基礎的な統計情報(2016年)「労働審判事件の新受・既済件数(地裁)」(参照 2019/2/4)
どのような場合に労働審判手続が必要か
- 労働審判手続は、通常の民事訴訟に比べ、早期かつ実情に即した解決を図れる
- 労働審判手続は、広く利用されていて、手続内で解決することが多い
- 交渉で解決しない場合には、労働審判手続へ
労働審判手続が広く利用されていて、その手続内で解決していることが多いことも分かりました。でも、私のように、そもそも労働審判手続になることは多いのでしょうか?
鋭い御指摘ですね……。交渉のみで解決するケースもありますから、必ずしも労働審判手続を利用したケースが多いとも限りません。ただ、交渉でうまくいかなかった場合に労働審判手続を利用するのが良いでしょうね。
まずは交渉から
労働関係のトラブルにおいても、他のトラブル同様、できれば労働審判手続や民事訴訟などにならずに解決したいと思われている当事者の方が多いです。弁護士に御依頼いただいた場合にも、まずは交渉から始めていくことがほとんどですし、法律上の争点がない場合には、交渉で解決することも多いです(残業代請求の交渉については「残業代請求を会社に交渉する方法」を参考にしてみてください。)。
交渉で解決しなければ労働審判手続へ
しかしながら、交渉の結果、双方合意に至らない場合もあります。他方、会社によっては頑なに交渉を拒む会社もあります。そのような場合には、労働審判手続などを利用し、解決に向かって進んでいきましょう。
まとめ
労働審判手続を適切に利用し、解決に向かって進んでいきましょう!