- 「年俸制だから残業代が出ない」は大きな誤解
- 年俸制の残業代計算には特別な計算式は必要ない
- 業務委託契約、裁量労働制、管理監督者などの年俸制で残業代が出ないケースを押さえておく
【Cross Talk】年俸制って残業代請求できないイメージがある!?
私が勤めている会社はベンチャー企業で年俸制を導入しているのですが、残業がとても多く、この間時給換算したらアルバイトよりも給料が安いことが判明しました……。私は事務職の平社員なのですが、年俸制だから残業代をもらえるはずもなく……。
年俸制でも多くの場合は、労働基準法の適用を受けるので、残業代を請求することができますよ!
え!?本当ですか!?詳しく教えてください!
多くの方は、給与について「年俸制」と聞くと、特殊な給与体系で残業代が請求できないのでは?と思われているようです。今回は、「年俸制」の場合に残業代が請求できるのかどうかについてご紹介します。
原則、年俸制でも残業代は発生する
- 年俸制で残業代が当然含まれている!と考えるのは誤解
- 年俸制でも労基法上の「労働者」ならば残業代を請求できる可能性がある
- 年俸制の残業代計算は月給制などの残業代計算方法と同様
年俸制ってプロスポーツ選手の報酬の支払いで有名ですよね。残業代請求とは縁がないような感じがしますが……。残業代請求ってできるんですか?
年俸制で残業代請求ができないのは誤解です!それに、残業代の計算方法も年俸制だからと言って特別変わったことはありませんよ。
年俸制のイメージ
ひと昔前では、「年俸制」と聞くと一部プロスポーツ選手の報酬としてマスメディアで耳にするぐらいでしたが、最近では、外資系企業に始まり、ベンチャー企業のみならず国内大手企業においても「年俸制」を導入する企業が多く見られるようになりました。
もっとも、「年俸制」という言葉が当たり前になってきた一方で、「年俸制」と聞くと、成果主義や能力主義といったイメージが先行してしまい、その内容についてはあまり浸透されていないようです。その最たるものが残業代請求です。前記のような成果主義や能力主義というイメージからか、残業代は請求できない、当然年俸に含まれていると思われている方が多いようですが、それは大きな誤解です。
「年俸制だから残業代が出ない」は大きな誤解
会社(使用者)と雇用関係にある従業員(労働者)については、労働基準法の適用を受けます。そして、労働基準法第37条から、法定労働時間を超え残業をした場合には残業代が発生し、原則、会社は従業員に対し、残業代を支払わなければなりません。
そして、このことは、給与が「年俸制」であるかどうかは重要ではなく、労働基準法上の「労働者」であれば、当然に労働基準法の適用を受けるのです。つまり、「年俸制だから残業代が出ない」は大きな誤解で、年俸制であったとしても、「労働者」であれば、労働基準法の適用を受け、法定労働時間を超え残業をした場合には残業代が発生し、原則、会社は従業員に対し、残業代を支払わなければならないのです。
年俸制の残業代計算
ただでさえ、年俸制について、残業代が出ないと誤解されているのですから、残業代が発生していたとしても、何か特別な計算が必要なのではと思われている方も多いようです。
しかしながら、年俸制の残業代計算において、特別な計算は必要なく、以下の基本的な算定式を用います(詳しい計算方法については、「私の残業代はいくら?残業代計算方法【図解で分かり易く解説】」を参考にしてみてください。)。
{(月の支給額-家族手当-通勤手当-住宅手当)÷(所定労働日数×一日あたりの所定労働時間数) }×割増率×残業時間数
例外、残業代が発生しない場合
- 年俸制でも「雇用契約」でなければ残業代請求はできない
- 業務委託契約か労働契約かは実質的に判断!迷ったら弁護士に相談
- 管理監督者、裁量労働制の適用を受ける場合も請求できない
労基法上の「労働者」ならば、年俸制でも残業代請求の可能性があるんですよね。僕の好きなプロ野球選手とかも労基法上の「労働者」なんですか?それに、年俸制で残業代請求ができない場合はあるんですか?
プロ野球選手の契約類型については、私は当事者ではないので分かりませんが、一般的には請負契約の色彩が強いと思われるので、労基法上の「労働者」には当たらないかもしれません。他にも、年俸制で残業代が発生しない例外がありますので、ひとつひとつ解説しましょう。
年俸制であっても、すべての場合に残業代が発生するわけではありません。どんな場合に、残業代が発生しないのかを見ていきましょう。
労働基準法の適用外
前記のとおり、年俸制であっても労働基準法の適用を受ける場合には、原則残業代が発生します。裏を返せば、労働基準法の適用を受けない場合には、残業代は発生しません。つまり、「労働者」の前提となる「雇用契約」でない場合には労働基準法の適用を受けません。以下は、労働基準法の適用を受けない契約形態の一例です。
- 業務委託契約
- 請負契約
- 委任契約
などなど
もっとも、以上の契約形態に該当するからといって、必ずしも労働基準法の適用を受けられないというわけではありません。例えば、形式的に請負契約や業務委託契約を締結しているにもかかわらず、勤務実態としては雇用契約と何ら変わりない場合などは、実質的には労働契約であるとして、労働基準法が適用される場合もありますので、まずは弁護士に相談してみましょう。
「管理監督者」にあたる場合
年俸制については成果主義や能力主義とイメージされがちですが、そのイメージ自体が間違っているわけではありません。なぜなら、年俸制が結果を求められる一部の役職者の方や高所得者の方に導入されている側面もあるからです。
ここで注意しておきたい点は、いわゆる「管理監督者」にあたるかどうかです。労働基準法第41条2号から、いわゆる「管理監督者」にあたる場合には、「労働者」であっても残業代は発生しません。
管理監督者について詳しく知りたい方は「管理監督者とはどんな立場?「名ばかり管理職」チェックリスト」を参考にしてみてください。
「裁量労働制」の適用を受ける場合
また、年俸制については一部の研究職や企画職など一部の専門業務に従事する方に導入されている側面もあります。
ここで注意しておきたい点は、「裁量労働制」の適用を受けているかどうかです。労働基準法第31条の3及び同条の4から、「裁量労働制」の適用を受ける場合には、「労働者」であっても残業代が発生していない可能性が高いです。
裁量労働制全般について知りたい方は「裁量労働制とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」を参考にしてください。
例外、残業代が含まれている場合
- 固定残業制の有効性の問題は年俸制でも同じ
- 固定残業代に残業代がすべて含まれていれば残業代請求は認められない
そういえば、私の勤めている会社の年俸制は、残業代が含まれているって上司が言ってたような……。年俸に残業代が含まれていれば残業代請求はできないんですか?
年俸に残業代が含まれている場合は、請求できないかもしれません。ただ、その場合でも固定残業制の有効性の問題や、請求できる残業代が固定残業代を超えているかという問題が残っています。ですから、弁護士にきちんと相談することが大切ですよ。
年俸制であっても、すべての場合に残業代請求が認められるわけではありません。年俸に残業代が含まれている場合もあります。
固定残業代が有効な場合
固定残業代とは、月額の基本給とは別に、月額の固定の残業代として支給されているものを指しますが、年俸制の場合にも、固定残業代を含んで支給されているケースがあります。
もっとも、固定残業代については、(1)従業員に対し固定残業代について具体的な明示があるか、(2)従業員が基本給と固定残業代を明確に区別できるか等によって、その有効性が問題となります。
年俸制においても、固定残業代の有効性が問題となることは同様です。
残業代が固定残業代を超えない場合
固定残業代が有効であったとしても、固定残業代を超えた残業代が発生している場合には、当然、会社は従業員に対し、その超過分を支払わなければなりません。裏を返せば、固定残業代を超えた残業代が発生していなければ、固定残業代に残業代はすべて含まれている(未払いの残業代は発生していない)こととなり、残業代請求は認められません。
固定残業制(みなし残業)について詳しく知りたい方は「固定残業制(みなし残業)とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」を参考にしてみてください。
まとめ
年俸制だからといって残業代が出ないというのは誤解です。労働基準法の適用を受ける場合には、当然残業代は発生しています。もっとも、年俸制だからといって、必ず残業代請求ができるというわけではありません。
年俸制だからといって残業代を諦めているあなた、一度、法律の専門家である弁護士に相談、依頼してみてはいかがでしょうか(弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。