- 立証責任は請求者側にある
- 業界、職種ごとの証拠を集めるべき
- 証拠が足りない場合には、弁護士にすぐに相談するべき
【Cross Talk】証拠集めって何をするの?
残業代の概算、時効停止措置も終わりました。次は証拠集めですね。刑事ドラマで犯人を追い詰めるのにも証拠が必要だって分かるんですけど、残業代請求でも同じですか?そして、実際に自分で証拠を集めるって決めたら、どうしたらいいのか分かりません…。
大分準備が進んでいるようですね。素晴らしい。そして、証拠が重要なのはおっしゃる通りです。請求する会社との駆け引きの部分もありますので、証拠集めの基本方針と業界別に有力となる証拠の解説などを通して、証拠集めの基本を理解しましょう!
基本的なところから教えていただけるなんてありがたいです。証拠をがっちり集めて、残業代請求を成功させるぞ!!
「残業代請求で重要なのは証拠です!」と言われても、具体的にどんな証拠が必要なのか分かりませんし、どう集めるかも分からないでしょう。そこで、このコラムでは残業代請求の証拠集めの基本方針やコツを解説して、あなたがスムーズに証拠収集できるように解説いたします。
残業代請求の証拠集めの基礎
- 残業代請求の立証責任は、請求者側にある
- 労働条件、業務時間、業務内容が分かる証拠が必要
- 証拠集めの基本方針は、極秘に集める、2年分を集める
証拠集めって言われても何が証拠になるか分からない……。それに在職中なら会社内で集められるけど、退職しちゃったらどう集めよう……。とにかく何からしていいか分かりません!どうしたらいいんでしょうか?
証拠集めの基本方針としては、証拠はなるべく極秘で集める、過去2年分の証拠となるものを集める、何が証拠となるか分からないから多く集める、の3つのことを意識して集めると良いですね。在職・退職で方針も少し変わりますので、そこもお話ししましょう。
残業代請求では証拠が重要と言われます。それはもし仮に裁判になった場合、残業代請求をする側が、その請求が正しいといえる証拠を提出して裁判官を納得させなければならないからです。法律用語で立証責任というのですが、立証責任は請求者側にあります。
そこで、客観的な証拠を集め「裁判官を納得させる」ということを最終地点に置いて考えることが必要です。これを踏まえて証拠収集の基本方針や基本的な証拠の例、在職中・退職後の請求について解説いたします。
残業代請求の証拠収集の基本方針
証拠は極秘で集める
残業代を請求することが会社に知られていない段階では、なるべく極秘で証拠集めをするのが良いでしょう。会社側としては、残業代が請求されると分かると、払いたくない一心で必要な証拠を隠滅する可能性があるからです。
過去2年分の証拠を集める
残業代請求には時効があります。各月の給料日翌日から2年分の残業代しか請求できません。多くの残業代を請求できるように、2年前まで遡れる部分は遡れるだけ集めましょう。
とにかく多く集める
裁判官を納得させるための証拠として、何が有力となるかは証拠収集の時点では判断が難しいでしょう。そこで、証拠の質より量を優先させ、後に必要な証拠を選別するといった形の方が良いでしょう。
ゼッタイ、ダメ!!証拠のねつ造
証拠は裁判官と会社を納得させるために必要なものです。したがって、証拠のねつ造が判明すれば、裁判官と会社は他の証拠の信憑性も疑うでしょう。会社が残業代請求をされた場合は、その請求を阻止するために残業代の計算方法から、計算額、残業時間など細かい部分まで全て調査します。嘘は簡単にバレます。正々堂々、真実の証拠で残業代を勝ち取りましょう!
基本的な証拠の例
残業代請求の証拠集めの意識ができたとしても、具体的な証拠のイメージがわきませんよね。そこで、誰が請求するとしても必要になる基本的な証拠について説明しましょう。基本の証拠は以下の3種類です。
(2)実際の労働時間(始業・終業時刻)が分かる証拠
(3)残業時間中の業務内容が分かる証拠
(1)労働条件、時間外労働の合意を立証する証拠
「雇用契約書」(もしくは「雇用通知書」)と「就業規則」のコピーです。「雇用契約書」は、労働者と会社の基本的な契約関係を示す書類で、契約期間や給料額などの記載があります。「就業規則」は会社側が定めた決まりで、就業時間や時間外労働、休日などの規定があるのが普通です。
なお、就業規則は労働基準法で労働者に掲示などをして周知することが義務付けられていますので、会社が開示するのを拒むことは違法です。その場合は労働基準監督署にご相談して、開示してもらうようにしましょう(就業規則の開示については「残業代請求をする前に、就業規則を確認しよう~就業規則を見せてもらえる?~」を参考にしてみてください。)。
(2)実際の労働時間(始業・終業時刻)が分かる証拠
タイムカードや日報、備忘録など、毎日機械的につけている資料です。始業・終業時刻が分かる資料では、刻印されている時刻まで会社にいたことを立証します。
これらの証拠は、できるだけ具体的な数字の記載がされていることが望ましいです。「8:30~19:00勤務」と大まかに記載されたものよりも、「8:27~18:51勤務」と分単位で記載されているものの方が、より信憑性が高いです。メモ書きや備忘録、個人的な日記の記載なども同様です。毎日定期的に記載されている証拠の方が信憑性は高いので、細かく具体的な記載のある証拠を集めることを意識しましょう。
(3)残業時間中の業務内容が分かる証拠
残業の指示が分かるメールやメモ書き、残業を承認する書面などです。実際に残業代請求をした場合に、会社側が「残業は指示してない」と反論する可能性があります。
上司や同僚からの残業の指示が形として残っていない場合には、残業時間中に利用した業務用メールアカウントの履歴や、業務内容が分かる業務日誌などをコピーしておくと良いでしょう。
在職・退職による集め方の違い
在職中と退職後では、証拠収集の方針も少し異なります。なお、当然のことですが残業代の請求は退職後であっても可能です。
在職中は、会社に籍を置いているため、先ほど挙げた就業規則やタイムカードや日報などを入手することは比較的容易でしょう。在職中の場合、会社に残業代請求をすることをなるべく悟られずに、重要な証拠を集めるといった方針となります。
一方で、退職後の証拠集めは在職中に比べて難しくなります。就業規則のコピーやタイムカードは会社の内部にあるもので、部外者がこれらの証拠を入手するのは難しいでしょう。退職前の同僚に頼んで証拠を集めることもできますが、それも退職時に会社との関係が悪化していた場合には困難です。
退職後の証拠集めは、弁護士を通じた方法で集める方針になるでしょう。
会話は録音せよ!!
在職中でも退職後でも、会社と交渉する場合には、書面やメールを保管するだけでなく、スマートフォンの録音機能やレコーダーなどを使い、会話を録音しましょう。メールなどの文書のやり取りは記録に残りますが、会話は発言内容の食い違いでもめることがあります。会話の録音は重要です。
残業代請求の立証責任が労働者側にあるから証拠が重要
- 残業代請求を最終的にジャッジするのは裁判所
- 裁判のルールでは原告に立証責任がある
- 証拠の有無は全ての交渉過程に影響する
証拠集めは残業代を請求するにあたって、どのくらい重要ですか?
証拠の有無は残業代請求に大きく影響します。
残業代請求をするにあたって証拠はどうして重要なのかを確認しましょう。
立証責任という考え方から証拠は重要である
民事裁判のシステムで立証責任という考え方があります。
民事裁判において、裁判所は裁判を拒否することができず、かならずどちらかの言い分が正しいという判断をしなければなりません。
裁判をするにあたっては、当事者は事実を主張し、その事実が真実であることを証拠によって裏付けして、裁判所の判断を仰ぎます。
このときに、基本的には権利を主張する原告が証拠を提出しなければなりません。
この責任のことを立証責任といいます。
原告が主張と立証を行うと、被告がこれに反論をして原告の主張と立証を崩す立証を行うことになります。
残業代請求でいうと、原告がタイムカードを示して残業をした事実を立証し、被告である会社は残業の指示はしたものの実際にタイムカードで示した時間までの作業は指示していない、という反論を行うようなイメージです。
原告である労働者が立証をできなければ裁判は負けてしまうので、証拠は非常に重要といえます。
証拠の有無は残業代請求の全過程に影響を及ぼす
裁判の証拠という機能からは、証拠は最終段階である裁判時にのみ問題になるようにも思えます。
しかし、実際は残業代請求の全過程に影響します。
まず、証拠がなければ、残業代の細かい計算が難しくなります。
細かい計算ができないと、会社に証拠がないことを見抜かれる可能性があり、会社は「どうせ裁判されても立証できないだろう」という態度で残業代の支払いに応じない態度を見せてきます。
そのまま労働審判や訴訟になっても証拠がなければ不利を強いられるだけです。
逆に、残業代の未払いの明確な証拠があるような場合には、労働者としては労働基準監督署に通告をすることもできるようになりますし、裁判になって悪質であると判断されれば付加金によって大きく支払い額があがる可能性もあります。
会社としても、労働基準監督署への通告・裁判を起こされる前に解決をする必要があるので、有利に交渉が進みます。
業界、職種別にみる残業代請求の証拠の集め方
- 証拠を複数利用することで労働時間を推認することもある
- その業界、職種特有の業務内容と証拠は密接につながっている
基本的な証拠については理解できましたが、さらに役に立つ証拠はあるのでしょうか?
例えば、運送業でのタコグラフ(タコメーター)や、会社員のパソコンでログイン・ログアウトの時間とか、飲食店でのシフト表などが挙げられますね。いずれにせよ、これといった確実な証拠と言われるものはありませんが、実際にはいろいろな証拠を踏まえて残業時間を認定することになります。ここではとりあえず業界・職種別に有力な証拠を見てみましょう。
先ほども述べた通り、何が残業代請求の証拠となるかは、難しいところがあります。そこで、業界別に残業時間を認定するのに利用される証拠を見てみましょう。長時間残業となりがちな、運送業、美容系、営業、飲食、医療系、建設業、ITメディア業界などを挙げてみました。
運送業(長距離ドライバー、トラック運転手、バス運転手、タクシー運転手など)
長距離の運転が必要なドライバーは労働時間が長い傾向にあります。また、タクシー運転手なども三交替制等をとっており、夜遅くに仕事をすることになることも多いでしょう。
・配車報、タコグラフ(デジタコメーター)、車載カメラの記録、高速道路の利用履歴
・業務報告メール、FAXの受信記録、携帯電話の発着信記録、社内無線の使用履歴
・アルコール検知記録
・ETC、荷物管理データベース
運送業特有の証拠では、タコグラフ(デジタコメーター)や、高速道路の利用履歴、アルコール検知記録などでしょう。タコグラフは車両総重量7トン以上または最大積載量4トン以上の事業用トラックについて装着が義務付けられています。また、アルコール検知器は、事業所に設置されているもののほか、遠距離の運転では携帯型の検知器を携行させることもあるため、有用な証拠となる可能性があります。
運送業の方の残業代請求について知りたい方は、「運送業(タクシー、トラック、配送の運転手等)の残業代請求のポイントを詳しく解説」を参考にしてみてください。
美容系(美容師、エステ、セラピスト、ネイリスト、マッサージ業)
美容系の業界は、技術向上のためなどと言って、営業時間終了後でも居残り練習などを行うことも多く、残業が多くなりがちです。都市部では店舗が多く低価格競争にさらされ、ブラックな労働環境となりがちなのも長時間労働が多くなる理由と言えるでしょう。
・業務報告メール、業務日誌
・防犯カメラの映像、警備会社による会社の錠の開閉記録、入退館記録(大きなビルなど)
・開店・閉店時刻
・予約表、シフト表
特に意識すべき証拠は、防犯カメラ、警備会社による会社の錠の開閉記録や、入退館記録でしょう。タイムカードがないような会社では、店舗への出入りの時間がはっきりと分かる証拠になり、労働時間を推認する有用な証拠となる可能性が高いです。
美容業界の残業代請求について知りたい方は、「美容業界(美容師、エステティシャン等)の残業代請求のポイントを詳しく解説」を参考にしてみてください。
飲食業(コンビニ、ファミレス、居酒屋、カフェ、バーなど)
飲食業は夜遅く営業していることが多いうえに、人が集まりにくい、従業員の離職率が高いこと、人材不足に陥っていることなどから、一人当たりの仕事量が多くなりがちで、残業時間が長くなりがちな傾向にあります。「名ばかり店長」の残業代請求が有名となった事件もある業種です。
・業務日誌
・レジの記録
・開店・閉店時刻
・防犯カメラの映像、警備会社による会社の錠の開閉記録、入退館記録
・シフト表、予約リスト
レジの記録など、自分が業務をしたことが登録者情報から判明する可能性があります。美容系などとも同様に、大きなビル内に店舗がある場合には、防犯カメラの映像や警備会社による錠の開閉記録、入退館記録など、建物に出入りしたという証拠から、労働時間を推認することも可能です。
飲食店の残業代請求について知りたい方は、「飲食店(居酒屋、ファミレス等)の残業代請求のポイントを詳しく解説」を参考にしてみてください。
営業職
客先に赴く必要があり、事業所の外で働くことが多い営業職も長時間労働が常態化しやすい業種です。会社側が労働時間を詳細に把握できないとして、「みなし残業制」を採用しているなど、残業代請求に争いが出る職種です。
・交通系電子マネーの利用履歴、タクシーのクレジットカード明細
・パソコンのログイン記録
・メールの送信履歴、携帯電話の通話記録
・自動車のETC記録
・スマートフォンやタブレット端末などのGPS(位置情報)記録
・商談で利用したお店のレシート
・会社の取引先、同僚の証言
営業職では交通系電子マネーの利用履歴や、メールと通話記録などが、特筆して挙げられます。移動時間中や営業先でも上司の指示に従って仕事をしていたという証拠となるでしょう。また、取引先や同僚の証言も有用でしょう。ただ、証言に関しては、会社側の味方となる可能性もあるため、必ずしも期待できる証拠とは言えません。
営業職の残業代請求については、「外回り営業職で「事業場外みなし労働」の対象者だから残業代は出ないと言われた場合」や「歩合の営業職でも残業代請求は可能!~歩合制の残業代計算~」を参考にしてみてください。
IT、メディア業界(SE、PG、カメラマン、アシスタントディレクター、新聞記者など)
IT業界は、成長著しい分野であり、多くの新興企業がひしめき合う業界です。取引先の納期に追われることも多く、労働時間が長時間になりがちです。また、メディア業界では朝の番組の準備では午前3時出勤となったり、深夜の番組があったり、放送日の締め切りがあるなどの理由で、不規則勤務が当たり前となり、長時間労働となりがちです。
・入退館記録(大きなビルなど)防犯カメラの映像
・スマートフォンやタブレット端末などのGPS(位置情報)記録
・パソコンのログイン記録
・タクシーのネット予約記録、タクシーのクレジットカード明細
・取材時のICレコーダーの録音時間
パソコンのログイン記録などは、IT系では、考えやすい証拠でしょう。自宅に仕事を持ち帰った場合でも残業代請求が認められる可能性があるため(持ち帰り残業問題)、意識すべき証拠です。ほかにも、業務報告メール、通話記録、GPS情報などは、外出先でも上司の指示を受けていたという証拠になるでしょう。メディア系では事件があった日の記録と同様に業務の内容を思い出して証拠とすることもできる可能性もあります。
メディア業界の残業代請求について知りたい方は、「TV、メディア業界で働くAD、APなどの方が未払い残業代請求をする6つのポイント」を参考にしてみてください。
建設業(現場監督、作業員など)
建設業は多重請負体質となっているケースが多く、納期が短期となりがちなうえに、天候の影響もあって、計画通りに進まないことも多いことが、長時間残業となる原因と言えるでしょう。そして、現場監督は管理職の残業代請求の問題もはらんでいるため、残業代請求で争いになることが多いでしょう。
・ETC車載記録、業務日誌危険予知活動(KY活動)実施の記録
・会社が施主や元請業者に提出した作業報告書
遠距離の勤務地などの場合にはETC車載記録などで、業務をしていたことが立証できる可能性があります。また、業務日誌危険予知活動実施記録は、安全衛生の基本の報告書であって、多くの事業所で利用されていることも多く、証拠として意識するべきものです。
建設業の残業代請求について知りたい方は、「建設業界で働く人が未払い残業代請求をする5つのポイント」を参考にしてみてください。
医療・介護系(医師、看護師、介護福祉士など)
患者対応で不規則な業務となることが多く、長時間の労働となりがちなのは医師や看護師です。特に医師に関しては高額な報酬や年俸制を採用しているからといって残業代請求が認められないといった反論もありますが、残業代請求が認められた事案もあり、注目すべきです。また、介護業界も人手不足や従業員が定着しにくいことなど、飲食店等と同じような理由で長時間残業が常態化している業界です。
・カルテ、医療記録
・入退出記録・出入館記録
・監視カメラの映像、パソコンのログイン記録
カルテ・医療記録などは、病院特有の証拠です。患者への医療行為などを記録に残す必要があるため、業務内容や時間がはっきり記載されていることから、重要な証拠となる可能性が高いです。介護業界では、シフト表やタイムカード、監視カメラの映像など、建物への入退館の記録などを利用して労働時間を推認することもできます。
医療・介護業界の残業代請求について知りたい方は、「介護福祉士、薬剤師、看護師等の医療職で未払い残業代請求をする6つのポイント」を参考にしてみてください。
証拠がなくてもあせらない、弁護士にご相談しよう
- 弁護士会照会、証拠保全手続、文書提出命令などの方法で証拠を確保できる可能性もある
- 証拠が足りなくても、「一応の立証」や労働時間の推定などで、請求が認められる可能性がある
- 証拠が足りない場合には、弁護士にご相談する
証拠となりそうなものを自力で集めたんですが、これで足りるか不安です。先ほど挙げて貰った証拠のうち入手できなかったものも多くあるんです。残業代請求が失敗しちゃうのかな……。
まだ、焦るには早いです。証拠がなくても弁護士による照会や、裁判所による提出で、証拠を集めることも可能です。証拠が一部足りなくても、ほかの証拠を利用して労働時間を推認できることもあるので、焦らないでください。勝負はこれからです。
業界別の証拠を挙げたところで、これらの証拠が入手できないこともあるでしょう。それで、残業代請求を諦めてしまうことは、もったいないことです。証拠が足りない場合には、弁護士にご相談して、作戦を立て直すこととしましょう(弁護士の探し方やご相談の仕方については、「残業代請求について弁護士に相談する場合、どのように相談したらよい?」を参考にしてみてください。)。その際の証拠収集方法や、立証方針について、大まかではありますが説明いたします。
弁護士を通した証拠の収集(弁護士会照会、裁判所による提出)
弁護士会照会
会社側が保有している証拠で、ご相談者様が入手できなかった場合には、弁護士会照会といった方法で証拠を提出してもらうことができます。弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会が、官公庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会する制度です。
照会された企業等は、回答する法的義務はありませんが、準公的機関からの照会であることもあり事実上回答を強く促す効果を期待できます。
裁判所による提出
証拠保全とは、訴訟手続に至った場合に証拠調べを行うのを待っていた場合に、証拠を利用することが困難となる事情がある場合には、訴訟が係属中または係属前にその証拠を保全することができる制度です(民事訴訟法234条)。
この制度を利用できるのは、具体的には会社側がタイムカードを持っていて、改ざんするおそれがある場合などです。裁判所に書面で申立て、証拠保全の事由がみとめられた場合には、証拠を確保することができます。
そのほかにも、文書提出命令(民事訴訟法223条1項)で会社側などに証拠文書の提出を命じることを裁判所に申立てることもできます。
これらの方法は複雑ですので弁護士に任せるのが良いでしょう。
それでも証拠が足りないときは
コラムの冒頭の方で述べた通り、立証責任は請求者側にあります。証拠が足りない場合には請求者側の主張が認められないといった結果になるはずです。
しかし、会社側が労働者の労働時間を適切に把握する義務を負うことから、タイムカードなどの明確な証拠がない場合であっても、労働者が作成して使用者に提出する書面(出勤簿、業務日誌など)や個人的な日記・日誌、手帳、メッセージアプリの履歴などが提出された場合には、それらに基づいて裁判所が、出退勤時間についてこちらに有利な心証を形成する可能性があります。
上記証拠に基づいて、出退勤時間について裁判所がこちらに有利な心証を形成した場合には、会社側が有効かつ適切な反論をしなければ、労働者の請求が認められることがあるのです(「労働者側の立証責任が緩和される」といった言い方がされます。)。つまり、ある程度の証拠を提出して一応の立証をすれば、証拠が足りない場合であっても、請求が認められる可能性があります。
実際に、労働者が記載していたメモや日報に基づく推計などを証拠として採用して、請求が認められた事件があります(郡山交通事件:大阪高判昭和63・9・29労判546号51頁など)。
証拠が足りない場合であっても、ほかの証拠を用いて労働時間を推定することもできるため、焦る必要はありません。弁護士にご相談することで残業代請求が成功する可能性もあるのです。
まとめ
証拠集めの基本的な考え方と、業界別の具体的な証拠の種類、証拠が足りない場合の対応について説明しました。証拠収集は残業代請求を成功させるために一番重要と言っても過言ではありません。証拠の種類や証拠集めの方針をしっかりと決めて、ぜひとも残業代請求を成功させましょう。
ご自身での処理が難しい場合には、一度、弁護士に相談することをおすすめします。