- 仮眠時間も使用者の指揮命令下に置かれていた場合は労働時間に当たる
- 通勤は基本的に労働時間には当たらない
- 物品の運搬・監視を伴う出張の移動時間は労働時間に当たる可能性がある
【Cross Talk】仮眠時間でも労働時間として扱われる?
宿直があるのですが、仮眠時間中も対応しなければならないことがあります。でも、会社からは仮眠時間は労働時間じゃないから残業代は出ないと言われています。
労働時間にあたるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれていたかどうかで判断されます。仮眠時間であっても、使用者の指揮命令下に置かれていたと認められれば、労働時間に当たり、残業代の計算にも含まれることになります。ほかに労働時間に当たるかが争われるものに、移動時間があります。限定的ですが、移動時間が労働時間に当たる場合もあります。
残業代がもらえる可能性があるんですね!
たとえば、宿直や24時間勤務の場合、仮眠時間が設けられていることがあります。「寝ているんだから休憩時間ではないか」と思われるかもしれませんが、仮眠時間中にも対応を迫られた場合はどうでしょうか?
また、日常の通勤や出張の際の移動時間はどうでしょうか?出張の目的が遠方の顧客に物を届けることである場合など、移動自体が業務ではないかと考えられるものもあります。
今回は、仮眠時間や移動時間が労働時間として認められることがあるのか、認められることがあるとしてどのような要件を備える必要があるかについて解説します(労働時間一般については「「残業」とは?残業の種類と定義について」を、休憩時間について知りたい方は「労働時間か?休憩時間か?知っておきたい休憩時間の法規制」を参考にしてみてください。)。
仮眠時間でも労働時間・残業の計算に含まれる可能性がある
- 仮眠時間であっても労働時間にあたる可能性がある
- 労働から離れること(労働からの解放)が保障されていたといえるかが重要!
私の職場は夜勤があるのですが、仮眠時間中に何度も対応を迫られ、ろくに休めません。これって実質的には働いているのと同じじゃないですか?
勤務体制などから仮眠時間中も実作業に従事する必要がある場合には、仮眠時間も労働時間に当たり、残業代の計算に含まれる可能性があります。
看護師や警備員など、宿直や24時間勤務のある業務の場合、途中に仮眠時間が設けられていることがよくあります。仮眠時間中は完全に業務から切り離されるのであれば、仮眠時間は休憩時間といえますが、職場の勤務体制などによっては、仮眠時間中に対応を余儀なくされることもあるでしょう。
このように、一口に「仮眠時間」と言っても、その内実はケースバイケースです。そのため、過去の裁判例でも、仮眠時間が労働時間と認められた事例もあれば、認められなかった事例もあります。
両方の代表的な判例を紹介しますので、どのような事情で判断が分かれたのかを確認しましょう。
労働時間と認められたケース
最高裁は、従業員は労働契約上の義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに対応することを義務づけられており、実作業への従事の必要が皆無に等しいなど実質的に上記義務づけがされていないと認めることができる事情も存在しないから、仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、会社の指揮命令下に置かれている時間に当たり、労働基準法32条の労働時間に該当すると判断した。
このビルでは、防災センター裏にある仮眠室で夜間の仮眠をとる者と、防災センターとは別の場所にある仮眠室で仮眠をとる者の2人1組で業務が行われていたところ、前者については、
- 常時、モニターでビル内を監視する
- 防災センター内の各種警報装置に注意を払う必要がある
- 不審者の侵入や地震等の災害などの緊急時に第一次的な対応を求められていた
- 入退館者のためのドアの開閉に対応することが必要である
- 休息を取る場所としてはソファーが設定されているのみである
労働時間と認められなかったケース
- 緊急事態への対応が数ヶ月に1回の割合であるものの、常に業務への対応を求められていたとは認められない
- 独立した一室であり、一応ベッドが用意され、宿泊施設として最低限の体裁がある
- 警報装置など警備業務用の機器の設置もない
裁判例から推察される考慮要素を挙げてみますと、以下の通りです。
2 実際対応を迫られる頻度
3 仮眠の態様
通勤時間は原則として労働時間に当たらない
- 通勤は労務提供の準備行為
- 通勤時間は基本的に労働時間には当たらない
通勤にかなり時間がかかるのですが、通勤時間も労働時間に当たりますか?
通勤時間は原則として労働時間には当たりません。
労働者は、雇用契約に基づいて、使用者に労務を提供する義務(債務)を負っています。通勤は、この労働者の労務を提供する債務を履行するための準備行為にすぎず、使用者の指揮命令下に置かれているとまではいえません。
したがって、通勤時間は原則として労働時間には当たりません。裁判例で労働時間に当たらないとしたものがあります。
寮から各工事現場までの往復の時間が通勤時間の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上、これについては原則として賃金を発生させる労働時間に当たらないものというべきである
出張の移動時間
- 出張の移動時間も原則として労働時間に当たらない
- 例外的に労働時間に当たる場合もある
- 出張の移動時間中にも具体的な労務提供があるかが判断の分かれ目
遠方に出張する場合の移動時間は労働時間に当たりますか
原則として当たりませんが、物品の監視や運搬などを命じられた場合など、例外的に労働時間と認められることもあります。
出張先との往復の移動時間は、一般的に自由度が高く、使用者の指揮命令下に置かれているとは言えません。したがって、出張の移動時間は、原則として労働時間には当たらないと考えられます。裁判例でも、同様の結論を下したものがあります。
ただし、会社からの指示で重要書類や物品の監視・運搬のために出張する場合などは、移動時間も業務に従事し、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるので、移動時間も労働時間に当たると考えられます。裁判例でも同様の判断をしたものがあります。
上記3つの裁判例を検討すると、出張の移動時間が労働時間に含まれるか否かの判断の分かれ目は「出張の移動時間中にも具体的な労務提供があるか」かと思われます。
まとめ
仮眠時間や移動時間が労働時間に当たるかについて解説しました。本コラムの初めのほうで紹介したように、同じ会社の宿直の仮眠時間であっても、具体的な内容次第で労働時間に当たるかどうかの判断が分かれることがあります。残業代を請求できるかを検討するには専門的な知識が不可欠です。
ご自身の仮眠時間や移動時間が労働時間に当たるか知りたい方がいらっしゃいましたら、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。