職務手当と残業代請求との関係を詳しく解説します。
ざっくりポイント
  • 職務手当の性質を就業規則給与規定から判断する
  • 職務手当をもらっていても残業代が出る!
 
目次

【Cross Talk】職務手当の額が少ないんだけど……

毎日のように残業をしているのですが、会社からは「残業代は職務手当に含まれている」と言われました。確かに職務手当をもらっているのですが、そんなに大きな額じゃありません。普通に残業代を計算してもらった方が多くなるような気がします。職務手当をもらっていたら本当に残業代は請求できないんですか?

職務手当がどのような性質かを検討する必要がありますが、職務手当を支給していれば無制限に残業をさせてもいいというわけではなく、残業代を請求できる可能性が高いでしょう。

残業代をもらえるんですね!

職務手当をもらっていたら残業代を請求できないのか知りたい!

基本給以外に「職務手当」「営業手当」などの名称の手当が支給していることを理由に残業代を支払わない会社があります。

会社の主張の理由としては、職務手当が実質的な時間外手当である、あるいは職務手当は管理職の役職に対する手当であり、管理職には残業代は支給しなくていいといったものがあげられます。

会社からそのような説明を受け、諦めてしまっている方もいるかもしれませんが、実は職務手当が支給されていても残業代を請求できる場合があります。

そこで今回は、職務手当とは何か、職務手当をもらっていても残業代を請求できるのはどのような場合かなどについて、詳しく解説します。

そもそも職務手当って何?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 就業規則で職務手当の趣旨を確認する
  • 職務手当以外の名称の場合も同様

そもそも職務手当って何ですか?

形式的には特定の職務に要求される技能、資格や責任の程度に対応して支給される手当ということになりますが、その趣旨はさまざまです。詳しいことを知りたい場合は会社の就業規則を確認する必要があります。

職務手当とは、形式的には文字通り特定の職務に要求される技能、資格や責任の程度に対応して支給される手当のことをいいます。ただし、同じ職務手当と言っても、残業代を含むものとして額が決められたものや、役職に応じて額が決められたものなど、その趣旨は会社によって違います。

ですから、職務手当がどういった趣旨のものかを確かめるには、就業規則、給与規定を確認する必要があります(就業規則については「残業代請求をする前に、就業規則を確認しよう~就業規則を見せてもらえる?~」を参考にしてみてください。)。

なお、手当の名称も会社によって異なる可能性がありますので、「報償手当」、「営業手当」、「職能手当」、「職位手当」などの名称で手当が支給されている場合も同様です。

職務手当をもらっていても未払い残業代は請求できる!

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 固定残業制であっても残業代を請求できる場合がある
  • 管理職であっても残業代を請求できる可能性が高い

職務手当の性質によって残業代がもらえるかどうかが変わるのですか?

職務手当には、残業代を支払う代わりに支給するものや、役職に応じた手当として支給されるものなどいろいろな性質のものがありますが、いずれも残業代を請求できる可能性があります。

時間外労働の対価としての性質を含んでいるケース

職務手当が時間外労働の対価としての性質を含んでいるケースがあります。たとえば、「職務手当は月○○時間分の時間外手当を含む」とされている場合などです。

このような実労働時間に関わらず、一律に一定の時間残業したものとみなし、それに対応する時間外手当を支給することを固定残業制みなし残業)といいます。

職務手当が固定残業手当の趣旨である場合、会社は、職務手当の名目で支払済みだと主張するでしょう。

しかし、このような会社の主張が常に成り立つわけではありません。たとえば、次のような裁判例があります。

イーライフ事件(東京地判平25・2・28労判1074号47頁)
みなし残業合意が有効とされるためには、
  • 当該手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有していること
  • 定額残業代として労基法所定の額が支払われているか否かを判定することができるよう、その約定(合意)の中に明確な指標が存在していること
  • 当該定額(固定額)が労基法所定の額を下回るときは、その差額を当該賃金の支払時期に精算するという合意が存在するか、あるいは少なくとも、そうした取扱いが確立していることが必要不可欠である

との判断基準を示しています。

この事件で裁判所は、ポータルサイトの運営等を目的とする会社の元従業員に支給されていた「精勤手当」について、これらの3つの要件をいずれもみたさないと判断し、みなし残業の合意は無効であるとして、元従業員の未払割増賃金請求を認めました。

この裁判例に従うとすれば、これらの要件を満たさない場合にはみなし残業の合意は無効であり、残業代が支払われたとは言えないので、残業代を請求することができます。

また、仮にこれらの要件を満たし、みなし残業の合意が有効であったとしても、実際には合意で定められた時間よりも多く残業した場合には、固定の手当てとの差額を請求することができます

このように、職務手当が時間外労働の対価としての性質を持つものだとしても、残業代を請求することができる可能性があるのです。

役職に応じた手当の性質を含むケース

職務手当が、役職に応じた手当の性質を含むケースもあります。

たとえば、会社から「部長」「課長」などの役職が与えられ、その役職に応じて役職手当や管理職手当の額が決められている場合などです。このような場合、使用者は、労働者が「管理監督者」に当たるから残業代を支給しないと主張することがあります。

労働基準法は、「監督若しくは管理の地位にある者」については労働時間、休憩、休日、年次有給休暇等に関する労働基準法の規定を適用しないと定めています(労基法41条)。労働時間や割増賃金に関する規定が適用されないため、「管理監督者」には残業代を支払う必要がないということになります。

ブラック企業では、残業代を削減するためにこの規定を悪用し、実際にはそれほど権限がない従業員に「部長」「課長」「店長」などの肩書を与え、「管理監督者」に当たるとして残業代を支給しないという扱いが横行していました。これがいわゆる「名ばかり管理職」の問題です。

しかし、一般に管理職と言われる「部長」「課長」などが、つねに労基法にいう「管理監督者」に当たるとは限りません。

厚生労働省の行政解釈によれば、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」とされています(昭63・3・14基発第150号)。

裁判例では、以下のような要件を検討して管理監督者にあたるかを判断しています。

育英舎事件(札幌地判平14・4・18判タ1123号145頁、労判839号58頁)
管理監督者に当たるかどうかを判断するに当たっては、
  • その従業員が、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか
  • 自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか、
  • 賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうか
などの具体的な勤務実態に即して判断すべきものである。

この事件で裁判所は、学習塾の営業課長について、
  • 社長や他の営業課長らが構成するチーフミーティングに出席していたが、そのミーティング自体が社長の決定の諮問機関の域を出ず、それへの参加が何らかの決定権限や経営への参画を示すものではない
  • 出退勤についてはタイムカードへの記録が求められている
  • 給与面等での待遇や賞与の支給率は、その役職にふさわしい高率のものであるともいえない
として管理監督者に当たるとは言えないと判断しました。

このようにみると、一般的に管理職と言われる役職であっても、労基法にいう「管理監督者」には当たらないケースが十分に考えられます。

そうなると、労基法41条には該当しませんから、原則通り、労働時間や割増賃金に関する労基法の規定が適用され、残業をした場合には残業代を請求できるということになります。

名ばかり管理職について気になる人は、「管理監督者とはどんな立場?「名ばかり管理職」チェックリスト」へどうぞ!

まとめ

職務手当と残業代請求との関係について解説しましたが、参考になったでしょうか。
職務手当をもらっていても残業代を請求できるケースがあります。会社の言い分を鵜呑みにして,残業代の請求を諦めてはいけません。 ただし、職務手当の性質を判断し、使用者に請求できる残業代を計算することは簡単ではないでしょう。(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。
残業代の証拠収集方法については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」をご覧ください。