- 裁量労働制とは労働者に働き方の裁量を与える制度
- 裁量労働制には、専門業務型と企画業務型がある
- 会社の説明する「裁量労働制」は労基法上適法でない場合がある
- 裁量労働制でも残業代請求ができる可能性がある
【Cross Talk】裁量労働制なのに裁量がない?
会社に裁量労働制だと言われて営業職として入社したのですが、私の勤務時間などについて全く裁量がありません。私の知人の社労士に聞くと、適法な裁量労働制を採用している会社はすくないだろうとのことですが、一体どういうことなのでしょうか。
昨今、私もそのようなお話をいくつか耳にしますが、適法な裁量労働制を採用している会社は少ないように思われます。裁量労働制には厳格な法律上の規制があります。また、その内容としては、専門業務型と企画業務型がありますが、一般的に考えて「営業職」が、このいずれかに該当する可能性は低いように思われます。このように会社側自身が、裁量労働制について良く理解せずに労働者に説明を行う場合が少なくはありません。
なるほど。会社側が「裁量労働制」を採用していると説明しても、そのままその説明が正しいとは限らないということですね。
裁量労働制ってどんな働き方?
- 裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」がある
- 裁量労働制が適法に適用される場合は、労働時間は「みなし労働時間」となる
会社に「うちは裁量労働制だから」といわれたのですが、裁量労働制とはどういった内容なのですか?
一定の働き方をしている労働者に対して、実際に働いた時間にかかわらず一定時間労働したものとみなすという制度です。
裁量労働制とは研究開発者・システムエンジニアなどの専門職や、企画・立案・調査・分析などを行う働き方をしている人に対して、実際に働いた時間にかかわらず一定時間労働したものとみなすという制度です。
これらの職業の人々は労働時間の長さ(量)よりも、労働の成果(質)による個別的な管理をするのが望ましいとされるのが特徴です。
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型があります。いずれの場合でも、その実態として業務の遂行をその労働者にゆだねる必要があり、その手段や労働時間の分配など、会社が指示を与えないといった実態を備えている必要があります。
裁量労働制が適法に適用された場合には、事前に会社との間で決めた時間(これを「みなし労働時間」といいます)を働いたとみなします。
実際の労働時間がこの時間よりも短い場合であっても、また逆に長時間にわたる場合であっても、この「みなし労働時間」働いたとして法的に評価されます。ただし、この「みなし労働時間」が、当初より8時間を超過している場合には、その超過分は割増賃金が支払われます。
この場合、長時間勤務の危険があるため、「当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置」を会社が講ずる必要があります。このようなことから、残業時間を発生させない方便としての「裁量」は法的に有効な「裁量労働制」と評価される可能性は低いでしょう。
裁量労働制が適用される二つの基準
- 専門業務型の場合対象となる業務は限定的に解される
- 企画業務型の対象となる労働者は会社の主観ではなく客観的にその業務を適切に遂行する知識経験を有することが必要
裁量労働制には、適用される二つの基準があると聞きますが、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
「専門業務型」と「企画業務型」で適用される基準が異なります。
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」の二つの基準があります。具体的には次の要件を備える必要があります。それぞれ説明します。
専門業務型の要件
・対象業務であること(労基法規則24条の2の2第2項に限定列挙される範囲に限られます。)
・労使協定(会社と社員の間で結ばれる書面での決まりごと)を締結・労基署への労使協定の届け出があること※
・適用される社員の健康確保・苦情の処理のための措置・社員に適用した措置の保存(3年間)
※3年以内とすることが望ましいとされています。当該協定は事業場ごとに適用される必要があります。
専門業務型の場合には、労使協定を結ぶことだけでなく、就業規則にもその内容をもりこみ、対象労働者へ周知する必要があります。
<対象業務一覧>
1 研究開発
2 情報処理システムの分析・設計
(プログラミング業務は除く、大阪高判平成24・7・27労判1062号63頁参照)
3 取材・編集
4 デザイナー
5 プロデューサー・ディレクター
6 その他厚生労働大臣が指定する業務
コピーライター、システムコンサルタント。ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、大学での教授研究、公認会計士、弁護士、税理士など(平成9・2・14労告7号、平成14・2・13厚労告22号、平成15・10・22厚労告354号)なお、税理士資格を有していない従業員による税務書類の作成等の業務は「税理士の業務」には当たらない(東京高判平成26・2・27労判1086号5頁)
企画業務型の要件
・対象業務であること
・対象労働者であること※
・労使委員会(会社と社員の間で結成され、裁量労働制について意見交換する委員会)を設置
・適用される個別の従業員の同意
・委員の4/5以上の合意のもとに労使協定を締結・労基署への労使協定の届け出
※対象労働者は「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であって客観的にその業務を適切に遂行する知識経験を有することが必要
対象業務は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があること、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(労基法38条の4第1項1号)となります。
裁量労働制で残業代請求がしたい
- 労基法所定の要件をみたす裁量労働制はすくない
- 会社の主張する「裁量労働制」が無効な場合は原則どおりの残業代請求ができる
会社が「裁量労働制」だと主張しても残業代を請求できる場合はあるのでしょうか。
裁量労働制が適法に実施されていない可能性がありますので、残業代請求ができる可能性はあります。詳しくは弁護士等の専門家に相談するのが良いですね。
これまで説明をしてきたとおり、労基法に規定される適法な裁量労働制の施行には厳格な要件があります。
裁量労働制の要件を満たしていない場合には、労基法上の原則的規定が適用されるため、法外残業を行った場合は、会社はその超過分に対して割増賃金を支払う義務があります(労基法37条)。
裁量労働制の残業代請求については、「裁量労働制(みなし労働制)の場合の残業代請求」をご覧ください。
まとめ
裁量労働制を採用する会社は多くありますが、法的に有効でないと評価される場合もあります。裁量労働制には、専門業務型と企画業務型があるものの、いずれの制度も一定の範囲の業務内容と実態を備えている必要があります。要件が具備されていない場合は、有効な裁量労働制と評価されない場合があります。このような場合には、通常どおり、法外残業が発生すれば、会社は原則どおり残業代を支払う義務が発生します。
類似制度であるフレックスタイム制と変形労働制について知りたい方は「フレックスタイム制とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説」「変形労働制を採用している場合の残業代計算方法」をご覧ください。