- 日本では、時間当たりの生産性の低さを、長時間労働によって補い会社の業績を高めようとする下地がある一定の時間労働したとみなす制度
【Cross Talk】残業で生産性を補う日本の会社?
私の会社は残業するのが当たり前になっています。自分の担当業務が完了しても、退社しづらい雰囲気があります。上司も早く帰れと言っていますが、上司も遅くまで残業しています。どうして残業が減らないんですかね?
一概には言えませんが、日本では長時間労働を行うことで仕事の生産性の低さを補おうとしている傾向があると思います。高度経済成長期の成功体験から脱せず、時間あたりの個人の労働生産性の見直しや、労働集約型による生産性の向上の見直しといった点に注意を払ってこなかったことが、長時間労働を助長、あるいは削減しづらいといったことの下地になっているのかもしれませんね。
どうにかして残業は減らせないものなのでしょうか……。
働き方改革が進められている日本ですが、長時間労働が劇的に改善されたわけではありません。なぜ残業は減らないのでしょうか?
本コラムでは、残業代請求から少し離れて、「残業が減らないホントの理由」について一つの考え方を示してみたいと思います。気軽に読んでみてください。
残業が発生してしまう理由
- 残業が発生してしまうのは、古い成功体験から抜け出しきれていないから
- 労働集約型産業では人手不足の影響などで労働時間が長時間化しがちである
先生、冒頭での説明から、時間当たりの労働生産性が低いため、会社も労働者側も労働時間を延長して、これを補おうとする傾向があることが理解できました。しかしながら、その個別の中身について、具体的にはよく解らないので、教えて頂けないでしょうか。
そうですね。様々な理由があると思いますが、とりあえず日本の経済の背景と、労働者・会社・業界の三つの立場から考えてみましょうか。
日本の経済背景
かつての高度成長期やバブル期までは、世界におけるITなどの種々の技術水準が低く、会社の生産性の多くが、労働集約的な効果によって産出されてきた背景があります。
当時の技術水準では、高いレベルの生産を行おうとすれば、必然的に個人の労働者の献身が必要となり、日本では一般にその生真面目な気質が大きく寄与し、前記の時代では、高い成功を獲得することができました。残念ながら人間というものは、一度ある方法での大きな成功体験をしてしまうと、なかなか、その体験から脱するのは難しく、したがって、各種の技術革新が進んだ現在においても、その過去の成功が忘れられず、労働集約型の生産価値の増産に固執してしまうという状況があるものと推察されます。
日本の労働生産性
日本の生産性はOECD各国と国際比較すると、2017年のデータでは、時間あたりは47.5ドルとOECD加盟国中20位であり、先進主要7か国中、最下位であったとの報告があります。
一概には言えないことですが、生産性の低さと残業が減らないことに一定の相関関係のあることは、既にいくつかの研究で発表されています。
いくつかの研究によれば、残業の削減は労働者1人当たりの時間当たり生産性を高めるものの、チームでの活動が企業全体の生産性にプラスで働く結果、残業時間の削減が企業の総生産性を押し下げる効果のある可能性が示唆されています。
参照:平成22年度「ワーク・ライフ・バランス社会の実現と生産性の関係に関する研究」報告書 阿部 正浩『働き方と生産性』
このような風土や環境が長年継続してきた結果、会社側としては残業を削減するといったインセンティブが働きづらく、また、一方で労働者側としては、残業を減らすことが自己の会社からの評価で消極となる危険がともない、実行しづらいといった背景が浮かび上がってきます。
労働者側の理由
労働者側の理由としては、大きく2つ考えられます。
まず、1つは残業により会社の評価を高めるためです。冒頭から説明をしてきているとおり、会社にとっては、長時間の労働は、会社全体の生産性を高めるため、業績の向上に高く貢献しているとの評価の基準が残業時間に偏るといった向きがあります。
もう1つは生活型残業です。固定残業制や、フレックスタイム制の場合には、該当しづらいですが、近年はかつての時代ほど賃金が上昇しないため、残業によって不足する分の賃金を獲得しようといった向きがあります。
会社側の理由
会社側の理由としても、大きく2つが考えられます。
1つはたとえ、長時間労働によって、時間当たりの生産性が低下した場合であっても、会社全体でみれば、長時間労働の方が、労働生産量の総量がたかまり、企業業績に寄与するといった理由です。
もう1つは、日本は伝統的に、「仕事はチームでするもの」といった考え方が根付いていることから、労働者個人の業務内容を明確に定義するといったことを訓練してきませんでした。また、会社の管理職はかつての成功体験の文脈から脱せてなく、かつ、前記のような訓練をしてこなかった結果、管理すべき部下に対して、その業務内容を明確化して指示するといったマネジメント力が不足しているといったことが考えられます。
業種・業界の理由
業種・業界の理由では、中小企業白書などで繰り返し触れられていますが、構造的に労働集約型の業種・業界の生産性は低く、また、これに少子化に伴う人手不足が加わった結果、労働時間が延長するといった悪循環が生じています。
代表的な業種としては、小売り・流通・サービス業があげられ、業界としては、ホテル・宿泊・警備業等がその傾向が著しい状況です。また、運輸・建設業分野でも同様の傾向があります。
各業界の残業代請求方法については、以下のリンクを参考にしてみてください。
美容業界(美容師、エステティシャン等)の残業代請求のポイントを詳しく解説
運送業(タクシー、トラック、配送の運転手等)の残業代請求のポイントを詳しく解説
TV、メディア業界で働くAD、APなどの人が未払い残業代請求をする6つのポイント
飲食店(居酒屋、ファミレス等)の残業代請求のポイントを詳しく解説
工場で働く人・製造業が未払い残業代の請求する4つのポイント
コンビニ従業員・ショップ店員などの小売・販売業で未払いの残業代請求する4つのポイント
建設業界で働く人が未払い残業代請求をする5つのポイント
介護福祉士、薬剤師、看護師等の医療職で未払い残業代請求をする6つのポイント
広告代理店・ウェブデザイン会社で働く人が未払い残業代請求をする5つのポイント
残業が減らないホントの理由
- 残業が減らないのは、個人で減らせる残業には限界がありから
- 残業を減らすためには、企業は人的投資を行うために、先行して、労働に依存しない仕組みでの生産方法を考えるべきである
残業が減らないのにはいろいろな原因があるんですね。先生は残業を減らない理由は何が一番問題だと思ってるんですか?
労働者の努力だけでは残業は減らないと思います。労働集約型の構造を変える必要があるのではないでしょうか。例えば、コンビニエンスストアなどは24時間有人営業が当たり前ですが、無人での営業を可能にするような、技術的な投資を行うことによって、労働集約に依存しない生産ができれば残業は減るのかもしれませんね。
労働者個人の努力で削減ができる残業は上記「日本の経済背景」の事由に限定されます。真に残業時間を削減しようとするならば、労働集約型の構造から脱して、技術により労働力依存を低下させ、これによって得られた利益を人材に再投資するといったことが必要ではないでしょうか。
かつては、企業が財やサービスを生産するには、労働力そのものに依存する必要がありましたが、現在は、ITやAI技術などの新しい仕組みにより、労働者の労働に依存しない形式のサービスが生まれつつあります。
このほか、情報化技術の進展により、高速・大容量通信が可能となった結果、会社などの事業所に出勤しないリモートワークの可能性が広がってきています。フリーランス人口の増加がこの可能性が正しいことを示唆している状況です。この機会に社会全体で残業時間の削減のため、考えてみることは良いことなのかもしれません。
まとめ
昨年の平成30年には、働き方改革関連法案が通過し、残業時間の短縮を含めて、社会全体が労働の在り方について注目しています(働き方改革については「すぐ分かる「働き方改革」とは?~目的や背景について解説~」を参考にしてみてください。)。これまでは、労働者の「労働時間の延長」という献身に支えられて、企業は業績を維持してきましたが、世界の潮流はもはや、労働集約型から離れつつあります。我々は、このような潮流をとらえ、再度、業務の在り方について考えていく必要があるでしょう。
労働者側で出来る残業を減らす方法については「明日から実践できる!残業を減らす8つのテクニック」を参考にしてみてください。