- 高度プロフェッショナル制度の対象労働者に残業代に関する法律は適用されない。
【Cross Talk】高度プロフェッショナル制度では残業代請求はどうなるの
今年の4月から、高度プロフェッショナル制度が施行となりますが、残業代請求はどのようになるのでしょうか。
まず、高度プロフェッショナル制度の対象労働者については、残業代に関する法律が適用されなくなります。高度プロフェッショナル制度は1,075万円以上で、会社との間で、職務が明確に定められている場合において、所定の手続きを経た場合に導入される制度です。
その目的は、専門的知識に基づく高度な知見を活かすために、柔軟な勤務が可能なように働き方を改革する点にあります。
2019年4月1日より、「働き方改革関連法」が施行(一部を除く)され、「高度プロフェッショナル制度」が創設されました。この制度は、柔軟な働き方を推進することによる「働き方」を改革することを目的としています。この制度の導入には、法律上の制約がいくつありますが、残業代の不払いの抜け道として利用される可能性があります。この記事では、新制度の「高度プロフェッショナル制度」について、わかりやすくご説明します。
高度プロフェッショナル制度とは何?
- 高度プロフェッショナル制度は成果主義に基づく報酬制度である。
高度プロフェッショナル制度やホワイトカラー・エグゼンプションって聞いたことがあるけれど、どういう制度なのでしょうか。
高度プロフェッショナル制度とは、日本版の「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼んでも良いでしょう。
ホワイトカラー・エグゼンプションとは、労働者の働いた労働時間ではなく、労働者の業務の内容や成果に応じて報酬が支払われる制度のことを言います。
ホワイトカラー・エグゼンプションでは、労働基準法上の残業代に関する規定が適用されない(exemption:適用除外する)ことになります。
いくつかの先進国(イギリス、ドイツ、アメリカ、フランスなど)では、すでに導入されていますが、日本でも、「働き方改革」推進の一環として、高度プロフェッショナル制度という名称で、2019年4月1日より導入されました(働き方改革について詳しく知りたい方は、「すぐ分かる「働き方改革」とは?~目的や背景について解説~」を参考にしてみてください。)。
高度プロフェッショナル制度はどういった場合に導入できる?
- 高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、改正労基則34条の2第3に列挙されている。
- 同制度対象となる労働者は少なくとも、1075万円以上の報酬を得ている必要があり、その職務内容も明確に合意されていなければならない。
なるほど、高度プロフェッショナル制度が導入されると、労働時間に応じて報酬が支払わられなくなるのですね。そうなると、私も残業代が支払われなくなるのですか。どの企業でも高度プロフェッショナル制度は導入できるのですか。
高度プロフェッショナル制度の適用にはいくつかの要件を充たす必要があります。具体的に説明しましょう。
高度プロフェッショナル制度の対象業務は?
高度プロフェッショナルの対象業務は、「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」(改正労基法41条の21項1号)とされています。そして、改正労基則34条の2第3項によれば、次のとおりとなります(2019年4月現在)。
i) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
資産運用会社が行う新興国企業の株式を中心とする富裕層向け商品(ファンド)の開発。
ii) 金融商品のディーリング業務
資産運用の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務、又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務。
iii) アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務。
iv) コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)
顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務(例としては、海外展開事業についての事業戦略を立案するコンサルティングファームでの業務)。
v) 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
新たな技術や、商品開発(先進的な技術分野の商品開発)などの研究開発(新薬の開発)を行う業務。
高度プロフェッショナルの対象業務は、上記業務に限定されているものと解されています。
高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は、年収1075万円以上の労働者?
高度の専門的な知識等を有していた場合であっても、報酬がこれに見合った金額を得ていない労働者は対象とはなりません。
法律上は、「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が規準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月決まって支給する給与の額を基礎として、厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省で定める額以上であること」と定められています。具体的には、1075万円以上(改正労基則34条の2第6項)の報酬を得ているなど、待遇面の規制があります。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、「職務が明確に定められている」労働者に限られる。
高度プロフェッショナルを導入するには、高度プロフェッショナル制度の対象者が際限なく広がることを防止する趣旨から労働者・使用者間で「書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること」(改正労基法41条の2第1項2号イ)が必要です。
合意の際には、1.業務の内容、2.責任の程度、3.職務において、求められる成果その他の職務を遂行するにあたって求められる水準を明らかにしたうえで、書面で定める必要があります(改正労基則34条の2第4項)。
労使委員会による決議の届け出
高度プロフェッショナル制度を導入する場合、会社は、 労使委員会を設置する必要があります。
労使委員会では、制度対象となる業務の範囲や対象労働者の範囲、健康管理時間(会社で勤務した時間及び、会社外で勤務した時間)を把握する措置及びその方法など、改正労基法41条の2第1項各号が記載する事項を決議しなければなりません。
そして、当該会社は、その決議内容を行政官庁に届け出なければなりません(改正労基法41条の2第1項柱書)。
対象労働者からの同意
高度プロフェッショナル制度を導入するには、その対象となる労働者の書面等による同意が必要です(改正労基法41条の2第1項柱書)。
高度プロフェッショナル制度のメリット
- 企業側には、残業代を抑えることができるというメリットがある。
- 労働者には、成果の出し方について大きな裁量が与えられるというメリットがある。
高度プロフェッショナル制度の導入には、いろいろと厳しい要件があるのですね。企業として、そこまでして導入するメリットはどういった点にあるのですか。
また、労働者から見てもメリットはあるのですか。
企業側一番のメリットは、高度プロフェッショナル制度を導入することで、労働基準法上の残業代に関する規定が適用されなくなることでしょう。その結果、残業代を支払う必要がなくなります。
労働者側のメリットとしては、どのように成果を出すかについて、大きな裁量が与えられ、労働時間に縛られずに仕事ができることでしょう。
高度プロフェッショナル制度が導入されると残業代は請求できなくなる!?
- 高度プロフェッショナル制度が適用に運用されている限り残業代は発生せず合意内容に応じて報酬の支払いが行われる。
- ただし、違法な高度プロフェッショナル制度であれば、残業代を請求できる可能性がある。
高度プロフェッショナル制度を導入すると対象労働者には残業代が支払われなくなるのですね。そうなると労働者としてはデメリットが大きいような気がするのですが、まったく残業代は支払われなくなってしまうのですか。
高度プロフェッショナル制度は、適正に運用がなされている限り、残業代に関する規定が適用されなくなるので、残業代は発生しないことになります。
したがって、達成した成果の大きさに応じて、報酬がしっかり支払われているかが問題になるだけです。
ただし、先ほど説明しましたように、高度プロフェッショナル制度を導入するには厳しい要件を充たす必要があります。要件を充たさずに高度プロフェッショナル制度を導入した場合、違法な制度運用ということになりますので、残業代に関する法律の適用除外の効果が発生せず、残業代を請求できる可能性があります。
まとめ
このように、高度プロフェッショナル制度は、使用者労働者双方にとってメリットがあります。ただ、形式的に高度プロフェッショナル制度を導入しても、法律上の要件を充たさない場合、残業代が発生する可能性もあります。また、企業は、高度プロフェッショナルを導入する場合、厳しい法律上の要件を遵守する必要があるので、同制度の導入に耐えることができるかを十分に吟味する必要があります。少しでも不安に感じた場合には、弁護士に相談するとよいでしょう(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。