- 不当解雇を裁判で争うには裁判所や弁護士に支払う費用が必要となる。
- 裁判所に支払う費用を節約することは難しいが、弁護士に支払う費用を節約したり、分割にしたりすることは法律事務所によっては可能。
- 不当解雇について無料で相談でき、着手金の分割払いに応じてくれる法律事務所に相談することが重要。
【Cross Talk 】会社から不当に解雇された!裁判で争うにはどれくらいお金がかかる?
私は運送会社で働く40代の男性です。先日、突然社長に呼びだされて「新型コロナウイルスの影響で会社の業績が悪いので、明日から会社には来なくていい」と言われました。
未払いになっている給料もありますが、「支払えない」の一点張りです。
一体どうすれば良いのでしょうか。
日本の労働法制においては、解雇が非常に厳しく制限されています。合理的な理由なく一方的に労働契約を解消するのは不当解雇に他なりません。
ご相談者様の場合、未払いの賃金や慰謝料を請求する権利があると考えられますが、交渉で会社が支払いに応じないのであれば訴訟を提起するしかありません。
裁判を起こすということですね。裁判というと多額の弁護士費用がかかるというイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。
私は突然仕事を失って手持ちの資金も少ないので、できるだけ費用は節約したいのですが、そのようなことは可能でしょうか。
新型コロナウイルスの影響で会社の業績が悪化し、従業員が一斉に解雇されたというニュースをよく目にするようになりました。解雇とは会社が一方的に労働者との契約を解除することをいいますが、日本では法律や過去の判例によって解雇は非常に厳しく制限されており、多くのケースにおいて不当解雇であるとして会社側に未払い賃金や慰謝料の支払いが命じられています。
今回は、不当解雇を裁判で争うときにどのような費用がかかるのか、どうすれば費用を節約することができるのかについて説明いたします。
不当解雇で裁判をするとどのような費用がかかるのか
- 不当解雇の裁判を提起するためには、裁判所に支払う印紙代、予納郵券代がかかる。
- 法律事務所によっては無料で弁護士に相談できる。
不当解雇の裁判を提起するためにはどのような費用がかかるのでしょうか?すぐに思いつくのは弁護士費用ですが、他にもあるのでしょうか?
訴訟を提起するための費用には、裁判所に納める印紙代、予納郵券代、そして弁護士に支払う弁護士費用があります。印紙代と予納郵券代はほぼ決められた金額がありますが、弁護士費用は法律事務所によって基準が異なります。
まずは弁護士に相談してみてどの程度の費用がかかるか確認してみるのが良いでしょう。
相談者:裁判を提起するときに裁判所にお金を支払う必要があるとは知りませんでした。弁護士に相談するためにもお金がかかりそうですね。
それぞれの費用について詳しく教えていただけますでしょうか。
裁判自体にかかる費用
裁判を提起するためには裁判所に手数料を支払う必要があります。これは裁判の運用にお金がかかるから、というだけでなく、嫌がらせなどの目的でむやみやたらに訴えが提起されることを防ぐためという意味もあります。
裁判所に支払う手数料は訴状に印紙を貼り付けることにより支払います。印紙代は訴額、すなわち訴訟の目的の価額によって決まります。
例えば訴額が100万円なら印紙代は1万円、500万円なら3万円、1000万円なら5万円となります。
不当解雇訴訟の目的には、解雇後の賃金や慰謝料のほか、「雇用契約上の権利を有する地位の確認」という金銭的に算定するのが困難なものも含まれます。
そこで、「160万円」か「解雇後の賃金」のいずれか高い方に、慰謝料の金額を足した金額が訴額とされます。請求する賃金の額や不当解雇の態様にもよりますが、不当解雇訴訟における印紙代は数万円で収まるのが一般的です。
裁判所に支払った印紙代が返金されることはありません。
裁判所に支払う費用には、印紙代の他に予納郵券代もあります。予納郵券代とは、裁判所から事件の当事者(例えば相手方の会社)に対して訴状などの郵便物を送付するための切手代です。
予納郵券代の額は裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合は合計6,000円となっています。切手の内訳は、500円が8枚、100円が10枚、84円が5枚、50円が4枚、20円が10枚、10円×10枚、5円が10枚、2円が10枚、1円が10枚です。
予納郵券代は印紙代と異なり、余ったときは還付してもらうことができます。
弁護士に相談する費用
弁護士に依頼する前に事案の内容を説明して簡単なアドバイスをもらったり、訴訟になったときの見通しや必要な費用について説明を受けるための費用を相談料といいます。
相談料の基準は法律事務所によって異なりますが、「45分5,000円」「1時間10,000円」などが一般的です。
法律事務所によっては、不当解雇の相談を無料で行っているところもあります。未払い賃金や慰謝料を回収できる見込みがどれだけあるのか、費用がどれくらいかかるのかといった点について確認したい場合は無料で相談できる弁護士を探すのも良いでしょう。
弁護士に依頼する費用
- 弁護士費用には着手金と報酬金の2種類がある。
- 着手金は弁護士に依頼するときに支払い、報酬金は事件が終了したときに支払う。
- 不当解雇訴訟は法律のプロである弁護士に依頼した方が良い。
裁判所に支払う費用や弁護士への相談料については理解できました。では、実際に弁護士に依頼することになったらどのような費用がかかるのでしょうか。
弁護士に支払う費用には大きく分けて着手金と報酬金の2種類があります。
着手金は弁護士に依頼するときに支払う費用で、報酬金は事件が終了したときに成果に基づいて算定される費用です。
弁護士費用は2回に分けて支払うのが一般的ということですね。弁護士に依頼せずに自分で裁判を起こす手続もあると聞いたことがありますが、実際のところ、それでも何とかなるものなのでしょうか。不当解雇の裁判を提起するための費用についてもう少し詳しく教えてください。
弁護士費用には大きく分けて「着手金」と「報酬金」の2種類があります。
着手金とは、弁護士が案件に着手するときに発生する費用です。
着手金は事件や手続の種類に応じて法律事務所ごとに設定されるのが一般的です。
着手金は弁護士に依頼したときに支払うものですので、この後にご説明する報酬金と異なり裁判の結果として相手方から回収した金額によって額が変わることはありませんし、結果に不満があったとしても返金を求めることはできません。
着手金は一括で支払うのが原則ですが、事務所によっては分割払いに応じてくれる場合もあります。
報酬金は、事件が終了したときに裁判の結果に対して支払うものです。報酬金の額は「経済的利益」、すなわち相手方から回収に成功した金額に応じて決定されるのが一般的です。
例えば裁判の結果として相手から500万円の未払い賃金や慰謝料を獲得することができ、報酬金の基準が「経済的利益の10%」と定められていた場合、500万円の10%である50万円を弁護士に支払うことになります。
相手方から支払われた額を上回る報酬金が発生することは基本的にありません。実際には、裁判により獲得できた金銭が法律事務所の口座に入金され、そこから弁護士の報酬金の分を差し引いた額が本人に支払われますので、報酬金が分割払いで支払われることは通常ありません。
ここまでの説明を読んで、「そもそも弁護士に依頼する必要があるのだろうか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
不当解雇を裁判で争うときには、自分で訴えを提起する方法と、弁護士に依頼する方法の2つのパターンがあります。
弁護士に依頼せず自分で裁判に対応することを「本人訴訟」といいます。
つまり不当解雇の裁判は弁護士に依頼しないとできないわけではありませんが、結論から申し上げると弁護士に依頼した方が最終的には利益になるケースがほとんどです。
不当解雇訴訟では、裁判官に自分の主張を認めてもらえるよう、様々な証拠を集めたうえで法律的な主張を組み立てる必要があります。
相手方である会社側から反論がなされたら、それに対して説得力のある再反論を行わなければ相手方に有利な判決が出されてしまうかもしれません。このような対応を本人の代わりに行ってくれるのが法律の専門家である弁護士です。
すでにご説明したとおり、弁護士に依頼するためには弁護士費用がかかります。
しかし、結果を見れば弁護士に依頼した方が本人にとって得であるケースがほとんどです。
例えば、慰謝料や未払いの賃金など合計500万円を会社に請求できる見込みの不当解雇訴訟を弁護士に依頼した結果、満額を回収できたとします。もし弁護士費用の基準が着手金20万円で報酬金が獲得した金銭の10%だとすると、弁護士に支払う費用は税込みで77万円となり、423万円が手元に残ります。
では、本人訴訟の場合はどうでしょうか。500万円の請求権があると思われる事案であっても、法的に説得力のある主張を裁判所に対して行うことができなければ満額を回収できるとは限りません。
もし400万円しか認められなかったとすると、多大な労力と時間をかけたにもかかわらず弁護士に依頼した場合よりも少ない金額しか手元に残りません。
十分に注意しなければいけないのは賃金債権の時効です。
賃金は発生から3年が経過すると時効にかかり請求できなくなってしまいます。したがって時効が到来しそうなときには、相手方に内容証明郵便を送付して督促を行い、その後に訴訟を提起するなどして時効を中断する必要があります。
弁護士に依頼することで、時効にかかりそうな賃金があるか検討し、必要に応じて督促を行って時効を中断してもらうことができます。
このように弁護士費用は一見すると高額に思われるかもしれませんが、回収できる金額や確実性を考慮すれば弁護士に依頼した方がいいケースが多いと思われます。
不当解雇で裁判する場合の費用の節約のコツ
- 裁判所に支払う印紙代や予納郵券代を節約することは難しい。
- 弁護士を選ぶ際には無料で相談できる弁護士を選ぶと良い。
- 着手金の分割払いに応じてくれる弁護士もいる。
弁護士費用というと非常に高額なイメージがあります。正直、私は会社をクビにされたばかりでまとまったお金が手元にないのですが、裁判にかかる費用を少しでも節約する方法はありますか?
裁判所に納める印紙代と予納郵券代はあらかじめ決められているものですので節約する方法はありませんが、弁護士に相談するための費用に関しては、相談料が無料の法律事務所を選ぶことで節約することができます。
また、弁護士に依頼するときにかかる着手金の分割払いに応じてくれる法律事務所もあります。
それを聞いて安心しました。裁判にかかる費用を節約する方法について、もう少し詳しく教えてください。
裁判自体にかかる費用は節約できない
不当解雇訴訟にかかる費用を少しでも抑えたいときにはどうすれば良いのでしょうか。
まず、印紙代と予納郵券代は訴訟を提起するときに必ずかかる費用ですので、どの法律事務所に依頼しても支払い金額が変わることはありません。
印紙代は「民事訴訟費用等に関する法律」という法律によって定められているもので、全国で一律となっています。予納郵券代は裁判所によって若干異なる場合もありますが、違うとしても金額の差は微々たるものです。
したがって裁判自体にかかる費用を節約することはできません。
不当解雇問題は無料で相談できる弁護士に相談するのが良い
節約できる余地があるのが弁護士費用です。
すでにご説明したとおり、弁護士に支払う費用には相談料、着手金、報酬金などがあり、法律事務所によって基準が異なります。
相談料は数千円から10,000円程度ですが、依頼したい弁護士に出会えず数件の法律事務所を回れば相談料も積もり積もって高額になるおそれがあります。
すでにご説明したとおり、法律事務所によっては不当解雇に関する法律相談を無料で行っているところがあります。
このような弁護士に相談することで不当解雇訴訟にかかる費用を節約することができます。
分割払いでも良い事務所に相談する
着手金は依頼する前に一括で支払うのが原則ですが、相手方から実際に回収した費用から支払いに回すことが可能な報酬金と異なり、着手金は依頼するときにまとまったお金を用意するのが困難なケースがあります。
着手金の一括払いが難しい場合、法律事務所によっては分割払いに応じてくれるところがあります。職を失ったばかりでまとまったお金を用意するのが難しいということであれば、分割払いが可能な法律事務所を選ぶのが良いでしょう。
すでにご説明したとおり、報酬金は相手方の会社から回収した金銭から支払うことができますので、分割払いの問題が生じることはありません。
まとめ
会社によって不当に解雇された皆様の中には、突然生活の糧を失い、金銭的にも大変な思いをされている方もいらっしゃると思います。
不当解雇されたときに訴訟を提起して会社に未払いの賃金や慰謝料を請求することは法律により認められた当然の権利です。「少しでも費用を節約しながら不当解雇を裁判で争いたい」とお考えの方は、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします