- 「働き方改革関連法」により2019年以降の労働環境に大きな影響がある。
- 正社員も非正規労働者のいずれの労働者であっても、「働き方改革」の影響は大きい。
【Cross Talk】働き方改革とはいったい自分にはどんな影響があるのでしょうか。
「働き方改革」を国が中心となって推進していますが、具体的には、私たちにはどういった影響があるのでしょうか。
国が進める働き方改革とは、大きく、ⅰ)労働時間法制の見直し、ⅱ)雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保、の2点に大別されます。ⅰ)については、2019年4月1日以降は、時間外労働の法律上の上限が変更されます(中小企業は2020年4月以降)。
ⅱ)については、同一企業内における正社員とパートタイム労働者などの非正規労働者との間の不合理な待遇差を是正するための法規制とその具体的な内容を定めたガイドラインが作成されます。
なるほど、そうすると、2019年以降は、それ以前と比較して、労働環境に関する規制が大きく変化するということですね。
2018年7月に働き方改革関連法が成立し、会社も労働者も、「働き方」について関心が高まってきています。政府が推進している働き方改革とは、「働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講じる」とされています。ここではその内容について解説していきます(ここで書かれていない高度プロフェッショナル制度については、「高度プロフェッショナル制度」が導入されると残業代請求はどうなる?」を参考にしてみてください。)。
働き方改革の背景と内容
- 働き方改革の背景は社会全体で「働き方」を見直すといった目的がある。
- 労働時間法制の見直しがなされた。
- 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保。
働き方改革の内容とはどういったものがあるのでしょうか。
働き方改革の内容は、冒頭でもご説明したとおり、2つに大別されます。1つは労働時間に関する規制です。もう一つは、正規、非正規間の不合理な待遇差に関する規制です。
働き方改革の背景
経済の国際化が進展し、競争が激化した現代社会においては、会社も生き残るのに必死であり、労働者の処遇や私生活が軽視する会社もありました。その結果、労働者が長時間労働を強いられる問題、正社員よりも低い給与で非正規労働者を雇う、、その二次的な影響としての少子高齢化などの問題が生じてきていました。
こうした状況を改善することが「働き方改革」の目的です。長時間労働の問題については、時間外労働の上限を設けること、正規・非正規間の待遇改善については「同一労働同一賃金の原則」を法規制(※)として盛り込むことで労働者の働き方の改善を図るっているのです。
※「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」3条、8条など。会社は、原則的には、給与その他の待遇面において、正規・非正規間の不合理な待遇差を設けることが禁止されます。
働き方改革の内容
働き方改革の内容とは、大きく下記の2点に大別されます。
i) 労働時間法制の見直し※大企業:2019年4月1日~、中小企業:2020年4月1日~
ii) 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
i) 労働時間法制の見直し
今までは、法律上、使用者は、労働者に対し、1日については8時間、1週間については40時間を超えて労働させることが原則として禁止されており(労基法32条)、例外的に、いわゆる三六協定を締結すれば、1か月45時間、1年間で360時間まで残業をさせることができました(労基法36条2項、平成10年12月28日労働省告示第154号)。
もっとも、この例外にはさらに例外があり、使用者と労働者で、「特別条項」という労使協定を締結すれば、際限なく労働時間を延長することが認められていました。
働き方改革では、この「特別条項」に新たな制限を設けています。
これまでは「特別条項」の規制は、厚生労働大臣が定めていましたが、これを法律で規定することとなりました。
そして、「特別条項」で労働時間を延長できる上限は、
【1】1か月の時間外労働時間と休日労働時間の合計時間数を100時間未満にする
【2】連続する2か月、3か月、4か月、5か月、6か月のそれぞれについて1か月あたりの時間外労働と休日労働の合計時間数を80時間以内とする。
【3】1年の時間外労働時間を720時間以内とする
といった具合に制限されています(改正労基法36条5項)。
ii) 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
これまで、人件費を削減する目的で、正社員の数を減らし、非正規社員やパートタイム労働者、派遣社員、契約社員の人数を増やす会社も少なくありませんでした。特に、近年問題となっているのが、正規・非正規間の待遇差ですが、これについては、いくつかの裁判例によって原則的には消極に解されるほか、法律によって原則的に禁止され、その具体的な内容についてはガイドラインで示されるように改正されました。
特に長時間労働是正に関する法規制は、労働者への影響が多いものと予想されます。これまでは、サービス残業などによって支えられてきた会社の見かけの収益は、不払いの残業代債権として残っています。今後は、ますます、「働き方改革」の一環として、残業代請求が活況となるかもしれません。不払いの残業代があるならば、これを機会に会社に請求してみると良いでしょう。
自分の働き方を変えたいならば自分で行動するのが良い
- 会社自身が「働き方改革」を行うインセンティブは低い。
- 働く環境を変えたい場合は自分で行動してみるのが良策。
「働き方改革」といっても、具体的に会社の対応が大きく変化したとは感じません。どのようにすればよいのでしょうか。
なるほど、相談者さんのおっしゃる内容の悩みは最もだと考えます。まず、前提として、一般論としては、会社自身が働き方改革を行うインセンティブは低いと考えます。
その理由は、働き方改革を行ったとして、その行動が会社の目に見える利益、例えば、わかりやすく会社の収益などが増加することがないからでしょう。
したがって、これまでは、少ない人的コストで、大きな売り上げを確保するために、長時間労働などや、不払いの残業代(サービス残業)が横行してきたものと推察されます。
長時間労働や非正規労働にたよる経営のやり方を見直す時期
激しい競争の中で生き抜くために、これまでは長時間の労働や、非正規労働者を冷遇することによって、会社は見た目の収益を確保してきました。ところが、その弊害として、直接的には、ブラック企業の横行や、離職率の高止まりなどが生じ、恒常的な人材不足が生じるといった悪循環に陥っています。
他方で、間接的な弊害としては、長時間労働の影響による少子高齢化の遷延、長時間労働による離職、女性が参画しづらい企業文化などが発生し、人材の活用面などに限定されず、社会全体として人口減に直面するといった悪循環へと陥っています。
労働環境を変えたければ自分が行動すべき
会社には働き方改革へのインセンティブが働きにくいといったことを説明しましたが、人材の確保の面で、待遇改善することによって、良質な人材を集めよう(維持しよう)といった動きは高まりつつあります。
労働環境を変えたいのであれば、ご自身で会社に働きかけるのも一つの手段です。また、外の会社で、待遇の良い会社があるのであれば、転職するといったことも検討内容の一つに入れても良いのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。働き方改革により、ⅰ)労働時間法制が見直されるⅱ)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を図るなど、会社に対する規制が強化されています。「働き方改革」を無視された場合、未払給与や未払残業代が発生している場合もありますので、不安に感じたら、弁護士などに相談すると良いでしょう(弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。