- 労働者の解雇は簡単にはできず、非常に厳格な要件を満たす場合に限定的に解雇が可能
- 普通解雇、懲戒解雇、整理解雇それぞれ要件は異なる
- 解雇を宣告されたら解雇理由証明書の交付を求める
【Cross Talk】不当解雇ってどうしたら判断したらよいのだろうか?
先生、会社から突然、「解雇だ」と言われてしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。確かに、私は上司の言うように、営業成績はよくなく、細かなミスを指摘されること多かったと思います。こうした場合は、通告された解雇に納得するしかないのでしょうか。
労働者を解雇する場合、会社側はしばしば、労働者の能力不足などの理由を述べて解雇することがあります。わが国の私的分野においては「私的自治」が原則ですので、民法上は雇用者も労働者も一定の条件を満たせば事由に契約関係を解約し終了させることができます(民法上「解雇事由」)。
しかしながら、現実的には、使用者と労働者とは対等な関係とは言えないため、正当に解雇を行うためには、多くの規制があります。また、仮に特定の法的基準に形式的に合致したとしても、その実質として、客観的にみて合理性の認められ、社会通念上相当なものとして是認できるか(「解雇濫用権法理」)に合致しない解雇は、不当解雇の可能性が高まります。 したがいまして、営業成績が良くないといった内容のみで、会社が解雇を行ったとすれば、不当解雇の可能性が高いでしょう。解雇について口頭で通告されたのみでしょうから、まずは、会社に労働基準法22条に基づく、退職理由証明書の交付を請求してみてはいかがでしょうか。
まったく知りませんでした。営業成績がわるく、ミスも多いのでてっきり、解雇に理由があるから、反論できないと思い込んでいました。早速、いわれたように、会社に解雇理由証明書の交付をもともて、解雇について争っていこうと思います。
使用者側が解雇することができるのは、さまざまな法律などの制限による厳格な要件をクリアした場合などです。仮に形式的に特定の基準を満たすとしても、その解雇が客観的にみて社会通念上相当なものとして是認できない場合には、解雇権の乱用として、解雇無効と評価される可能性が高まります。
不当解雇チェックリストを確認してみよう
- 解雇要件は厳格なので会社が行う解雇は不当解雇の可能性がある
- 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇のそれぞれで解雇要件の詳細は異なる
自分が解雇された場合にその解雇が不当解雇なのかどうかはどのように判断すれば良いでしょう?
そうですよね、会社の解雇が正当と認められることはそもそも、難しいといったことは冒頭でも説明はしましたが、具体的な場合わけで、どういった場合が不当解雇になるのかについて、例をあげたほうが分かり易いかもしれません。 下記に不当解雇チェックリストを記載していますので、ご自身の場合について確認をしてみると良いでしょう(まず、解雇の種類や要件がどのようなものかを確認した方が分かりやすいので「会社をクビになった!そもそも解雇とは?~解雇の種類や要件を解説~」をご覧ください。)。
普通解雇のケース
- 業務上に傷害を負って、療養中もしくは回復後30日が経っていない
- 業務外で傷害を負ったが、早期に回復が見込めるか、休職等の措置が取られていない
- 労働契約で約束した能力や資質が、実際の能力・資質とあまり変わりない
- 業務の教育を受けていない、適切な教育や指導があれば能力の向上が見込める
- 配置転換を試みていない
- 上司や教育担当による対応がなされていない
- 重要な業務命令違反がない
- 早退、欠勤、遅刻が多くない
- 職場における暴言、セクハラなどをしたことがない
- 他の従業員に対する処分とのバランスがとれていない
- 事前により軽い懲戒処分を受けていない
- 解雇の手続が就業規則に定めた通り行われてはいない
- 会社側と話し合いの機会が設けられていない
- 労働者側の反論をさせてもらえない
整理解雇(リストラ)のケース
- 企業の財政状況に全く問題がない
- 整理解雇をしつつ新規採用もおこなっているなどの矛盾した行為がある
- 業績不振に陥り人員整理を行わないと経営が重大な危機に瀕していると社会的にいえる
- 残業の削減、一時休業などを行っていない
- 余剰人員の配置転換・出向、自宅待機、非正規従業員の雇止め・解雇をしていない
- 希望退職者の募集を行っていない
- 勤務成績が良い、勤続年数が長いなど会社に対する貢献度が高い
- 労働者の生活上の打撃が大きい(扶養家族がいるなど)
- 人員整理の必要性、解雇回避の方法、整理解雇の時期・規模・人選の方法などの説明がない
- 労働組合と協議していない、合意を得ていない
- 解雇を受ける可能性の高い者に個別に意見を聞く手続を取っていない
チェックリストに該当することが多ければどうするべきか
- チェックリストに複数該当すれば不当解雇の可能性
- 不当解雇の可能性がある場合にはまずその理由書の交付をもとめましょう
先生、早速チェックリストを確認してみたら、いくつかの項目に私の場合の解雇があてはまりました。こうした場合は、どうすればよいのでしょうか。
不当解雇チェックリストに複数該当する場合には、その解雇が不当解雇である可能性が高いといえます。まずは、会社がどのような理由で解雇をおこなったのか、書面による交付を求めてみましょう(労基法22条「解雇理由証明書」)。
会社は法律上、「労働者が、退職の場合において、(中略)退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」(労基法22条1項)ことになっています。
ただし、会社側が事前に法律上の解雇予告通知書の交付を行っている場合には、「労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要し」ません(労基法22条2項)。
よく聞かれることなのですが、会社から解雇予告を受けた場合には、解雇無効を争えないのかといったことがあります。
しかし、そもそも、会社が法律上の有効な解雇予告を行うには要件がありますし、仮に要件を満たし、労働基準法上の解雇となったとしても、これは契約関係が一応は終了したという意味であって、会社のおこなった解雇そのものの正当性を立証するものではありません。
したがって、解雇予告の通知を受けた場合であっても、その後、会社側と解雇について争うことができます。
争う趣旨として、会社に留まりたいといった場合には、解雇無効確認及び、地位確認の利益があるので、この点を争う余地があります。
他方で、もはや会社に戻る意思がない場合には、当該解雇が不当な(違法な)解雇であるとして、損害賠償請求(慰謝料請求)を行うことができます(民法709条)。
通常、不法行為責任を相手側に追求する場合には、証明責任が主張者側にあるので、その分の負担がありますが、労働契約においては、これまで説明してきたとおり、正当に解雇を行う要件は厳格であることから、当該解雇が不当解雇であるといった証明を行うことによって、一般的な不法行為責任を追及する場合と比較すれば、会社側への責任追及が容易と言えます。
まとめ
これまでみてきたとおり、一般の方が認識しているほど、法的に正当な解雇を行うには、厳格な要件が求められます。法的解雇の要件が厳格であるのは、歴史的にみて労働者と使用者の関係が対等とは言えず、使用者側の恣意的な解雇権の運用を認めると、社会的に相当と考えることができないためです。
そのため、わが国においても、労働契約法、労働基準法、労働組合法、労働安全衛生法、育児・介護休業法、男女雇用機会均等法などにより、解雇に関して法律上の制限があります。とくに、解雇権濫用法理(労働契約法16条)は判例法理から導かれたものであり、いずれの解雇の場合であっても、その解雇が解雇権の濫用であるとの法的評価を受ける場合には、その解雇が無効と判断される可能性が高まります。
不当解雇だと思った方は専門の機関に相談した方がよいので、「不当解雇の相談先:不当解雇と残業代請求を争う方法」もご覧になってみてください。