- カメラマンに限定されず、メディア業界の人たちにも残業代は支払われる権利がある
- サービス残業が当たり前であったり、美化する点と、未払い残業代は別問題である
- ポイントをおさえれば未払い残業代の請求が可能
【Cross Talk】カメラマンには残業代などないとの会社の発言は正しいのでしょうか
私はカメラマンとして番組制作会社に勤務しているのですが、特に海外ロケなどの長期にわたる場合があります。
このような場合、肉体的にはかなりキツイのですが、会社に残業代について相談すると、そんなものはないといったことでした。
残業代を出さないといった会社側の主張は誤りである可能性があります。
相談者さんのお話には前後の詳細がないため、明確には申し上げることはできませんが、カメラマンだからといって、労基法などの法律の規定の適用が除外されるといった事実はありません。
AD(アシスタント・ディレクター)、AP(アシスタント・プロデューサー)、ディレクター、技術職(カメラマン、音響、照明、編集、CG開発など)など、デザイン会社、制作プロダクション、広告代理店などのメディア業界で働く人にとって、サービス残業は、ある意味当たり前となっています。記憶に新しいところでは、2015年の電通社員の過労自殺事件などがあります。
このように、メディア業界の人たちは、長時間労働している一方で、残業代の未払いといった問題があります。この記事では、未払い残業代を請求するポイントについてご紹介します。
メディア業界で残業代未払いが多い理由
- サービス残業が古くからの業界の体質である
- SNSなどの新興メディアの影響による製作費の削減が残業代の未払いの遠因となっている
TV、メディア業界で働くAD、APなどのメディア業界ではどうして未払い残業代が多いのでしょうか。
大きなながれとしては、ITメディアの勃興により従来の、映像制作会社などに支払われる製作費が減少していることと、日本の社会全体の人手不足があげられます。
また、従来からの体質として、テレビ番組などの制作会社において、サービス残業などの長時間労働が当たり前となっているような悪しき伝統が背景にあるものと考えらます。
とくに、制作予算の減少などは、YouTubeに代表されるように、個人が情報の発信が容易となり、また、こうした強力な発信力を持つタレントが「ユーチューバー」として認識されるなど、広告ビジネスにおける予算配分が、少なからずこうした新興メディアに移動していった結果として、旧来の映像ビジネスにおける予算が減少している傾向が考えられます。
したがって、このような状況から、会社が残業代を出し渋る場合があり、結果として残業代の未払いが横行しているものと予想されます。
メディア業界で未払い残業代請求する6つのポイント
- 残業代請求は証拠集めが重要である
- 会社側の変形労働制であるや、みなし残業制である、または、裁量労働制であるなどの主張は鵜呑みにしない
私はADを務めているのですが、この度、あまりの激務に耐えかねて、転職を考えています。これを機会に残業代の請求をしたいのですが、どのように準備などを勧めれば良いのでしょうか。
なるほど、相談者さんは、よほど大変な思いをされたのですね。残業代請求のポイントとしては、下記のものが考えられます。
残業代請求の基礎知識を得る
残業代請求の前提として、当たり前かもしれませんが、「残業を行った記録」が必要となります。また、どの業務が「残業」に該当するのかは、雇用契約書と就業規則を確認しないとわからない場合があります。
残業代請求を考える場合には、まずはご自身の勤務の記録などの証拠集めを準備されるとよいでしょう。
なお、残業代請求は、残業代の計算、時効中断措置、交渉を行い、示談交渉が奏功しない場合には、支払い督促、労働審判、最終的には訴訟が行われます。
詳細は「業界的に「サービス残業」が当たり前になってしまっている場合の残業代請求交渉」を参照してください。
メディア業特有の証拠
メディア業界特有の証拠としては、下記のものがあります。
メディア業特有の証拠
- タイムカード、シフト表、事件等があった日の記録、業務報告メール、通話記録
- セキュリティーカードの入退館記録・ログ
- パソコンのログイン記録、サーバーアクセスログ
- 取材時のICレコーダー記録、映像の撮影日付
- メールの送信記録
このほかにも、無料の勤務時間管理のアプリがあるのでそうしたものを活用するといったことも考えられます。スイカやパスモの記録を取得するといった方法も考えられます。
証拠の集め方については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」を参考にしてみてください。
変形労働制だから残業代請求はできないのは誤解
変形労働制であったとしても、所定労働時間を超過した場合には、当然に残業代が発生します。まったく残業代が生じないといった趣旨の会社の主張は、誤った認識である場合が少なくありません。
また、変形労働制には、1か月単位と1年単位のものがあり、それぞれ有効要件が異なりますが、この要件を事実上満たしていない場合があります。
このような場合には、前提として、有効な変形労働制ではないことから、労働者は通常どおりの残業代の請求を行うことができます。変形労働制でも、残業代請求ができる。詳細は別コラムをご参照ください。
「みなし残業(固定残業制)だから残業代は出ない」は誤解
「みなし残業(固定残業制)だから残業代は出ない」との主張は有効ではない場合が少なくはありません。みなし残業(固定残業制)の制定には、就業規則などにより労使間での合意が必要ではありますが、仮に、就業規則などに規定があったとしても、労働者が常にみられるような状態ではない限り、有効ではないと判断される場合があります(労基法106条1項、労基法施行規則52条の2)
このように、当該制度が有効ではない場合には、労働者は通常どおり残業代の請求を行うことができます。
みなし残業(固定残業制)の要件は厳格ですので、詳細は別コラム(固定残業制(みなし残業)とはどんな制度?残業代請求に必要な基礎知識を解説)をご参照ください。
フレックスタイム制でも残業代請求はできる
会社の主張するフレックスタイム制は法的には有効ではない場合があります。例えば、有効なフレックスタイム制の場合、原則的には、勤務時間について労働者側に裁量を認めるといった内容であるところ、定期的に早朝のある時間に出席義務のある会議を入れるなどが横行している場合には、有効な制度であるとは評価されない場合があります。
また、仮にフレックスタイム制が有効であったとしても、その清算期間(1か月または3か月)において、法定労働時間を超過した時間については、賃金の全額支給の原則に基づき、残業代を請求することができます。
フレックスタイムでの出退勤に裁量があるだけで、残業代請求ができるのは変わらない。詳細は別コラムをご参照ください。
裁量労働制でも残業代請求はできる
まず、法律上裁量労働制が適用できる労働者の範囲は非常に限定的です。したがいまして、会社で用いられている名称が「裁量労働制」であっても、実質的に細かく勤務時間を管理されたり、会社の指揮命令にしたがうような場合、さらには、そもそも法律上規定されている対象業務に対象となる労働者が該当しない場合には、法律上の裁量労働制は適用されません。
このような場合には、通常どおり、1日8時間1週間40時間を超過する場合には、残業代を請求することができます(労基法37条)。
事業場外みなし労働制の適用は、労働時間の把握ができる現代では適用されにくい。詳細は別コラムをご参照ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか、TV、メディア業界で働くAD、APなどの人が残業代を請求するポイントはご理解いただけましたでしょうか。常に現場は人手不足である一方、最近は製作費の減少で、会社は残業代支払いを渋る場合があります。残業代が支払われず困った場合には、弁護士に相談しましょう。
弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」をご参照ください。