- サービス残業はあってはならない
- 残業命令には拒否できる場合と拒否できない場合がある
- 法律上は残業命令を拒否できたとしても、ノーリスクとはいえない社会実態には注意
【Cross Talk】サービス残業は拒否して帰りたい!
私の会社では、人手が足りないため、どうやっても定時で帰れません……。当然、仕事を終わらせないと帰れる雰囲気ではないですし……。かといって、残業代も支払われません……。どうやっても帰れないのでしょうか?
いわゆるサービス残業の状態となっている可能性が高いので、残業代を請求できる可能性があります。他方、残業命令を拒否することについては、法律と社会の認識とで乖離があるようです。
法律ではどのように定められているのか教えてください。
残業代が支払われないサービス残業は拒否できるのでしょうか?そもそも残業命令がどのような根拠のもとに行われているか分からない方も多いと思います。
そこで、本コラムでは、残業命令の法的な根拠と、残業命令を拒否するために必要なこと、残業命令拒否の社会実態的なリスクを分かりやすく解説します。
サービス残業とは
- サービス残業とは、賃金が支払われない残業
- 残業代が支払われない残業などあってはならない
よくサービス残業という言葉を耳にしますが、普通の残業と違うのですか?
サービス残業とは、賃金が支払われない残業をさし、基本的にあってはならないことです。
サービス残業
サービス残業という言葉は社会に広く浸透し、かつ、残業代が支払われていないケースが多いこともあいまって、残業一般を指す用語に近くなってきているのが現状です。しかし、サービスとは文字通りノーペイ、つまり賃金なしという意味です。
サービス残業とは、賃金が支払われない残業を指します。
サービス残業の適法性
残業代について、労働基準法37条1項は、「使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については……割増賃金を支払わなければならない。」と規定しています。
基本的に、会社は従業員に対し、残業の対価たる賃金を支払わなければなりません。残業代が支払われない残業などあってはならないのです。
しかしながら、管理監督者にあたる場合などの例外もありますので、残業代を請求しようと思った場合には、まず、弁護士など法律の専門家に問い合わせてみましょう。
残業命令を拒否することができるか
- 黙示的な指示でも残業命令と認められる可能性がある
- 36(サブロク)協定と就業規則で残業命令が規定されているか確認
- 36協定と就業規則で規定されていても、正当な理由があれば残業命令は拒否できる
残業代が支払われていないので、残業を拒否することはできますか?
残業命令については、拒否できる場合と拒否できない場合があります。
残業命令
会社が残業をしてださいと明示的に指示した場合、これはもちろん残業命令にあたりますが、明示的ではなく黙示的、例えば冒頭トークのように「仕事を終わらせないと帰れる雰囲気ではない」場合も、残業命令にあたります。
残業命令の拒否
残業命令を拒否できるか否かについては、次の2段階で考える必要があります。
⇒No 適法に残業命令を出せる会社でない場合、残業命令は法律上拒否できます。
⇒Yes 適法に残業命令を出せる会社の場合、(2)を検討します。
(2)拒否できる正当な理由があるかどうかを検討します。
⇒No 拒否できる正当な理由がない場合、残業命令を法律上拒否できません。
⇒Yes 拒否できる正当な理由がある場合、残業命令を法律上拒否できます。
適法に残業命令を出せる会社かどうか:検討事項(1)
労働基準法32条1項には、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」と規定され、同条2項には、「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」と規定されています。
つまり、原則、1週40時間超、1日8時間超の労働は違法となります。
もっとも、労働基準法36条に例外が定められていて、残業に関し、会社とその会社の労働者代表との間で書面による協定(いわゆるサブロク協定)が結ばれ、かつ、就業規則で残業命令について規定されている場合には、労働時間の伸長(残業)は適法となります(もちろん限界がありますが、ここでは省略します)。
そこで、まずは、あなたの会社にそれらがあるかどうかを探す必要があります。
会社は、サブロク協定と就業規則について、従業員に対する周知徹底が義務付けられているので、適正な手続でそれらを定めている会社であれば、社内の見やすいどこかにそれらがあるでしょう(サブロク協定については、「36(サブロク)協定があれば残業(時間外労働)は自由にさせられる?残業代請求はできるの?」をご覧ください。)。
拒否できる正当な理由があるかどうか:検討事項(2)
仮に、検討事項(1)について、会社が適法に残業命令を出せる会社の場合であっても、拒否できる正当な理由があれば、残業命令を法律上拒否することができます。
正当な理由とは、病気や怪我などの体調不良、育児や介護の具体的な必要性など、残業命令を断るにつきやむにやまれない事情を指します。
残業命令を拒否することのリスク
- 法律上は残業命令を拒否できたとしても、ノーリスクとはいえない社会実態には注意
- 違法な残業命令の拒否で懲戒処分を受けたら、専門家に相談
残業命令を法律上拒否できる場合、拒否しても問題ないのでしょうか?
法律上は拒否できますが、社会実態としてリスクがないかといわれると難しい問題です。
社会実態とリスク
会社が残業命令をしてきた場合、従業員として、その残業命令が適法ではないことを理由に拒否することで、何らの問題も発生しないかといわれると、ケースバイケースとしか答えようがないところがもどかしいのが現状です。
当然、法律上は、何らの問題も発生させるべきではないのですが、言わずもがな、社会実態として、その会社の持つ歴史、企業風土、文化、人的関係などに大きく左右されます。
残業命令を拒否することで、例えば、職場雰囲気の悪化、評価の低下を招くことも予想され、戒告や解雇などの懲戒処分などのリスクが発生することもあるので、注意が必要です。
解雇された場合、不当解雇の可能性もあるので、「これって不当解雇?不当解雇チェックリスト」を参考にしてみてください。
デメリットが発生したら
もっとも、違法な残業命令を拒否したことによって懲戒処分を受けた場合には、それは不当な懲戒処分である可能性が極めて高いですので、すぐに弁護士や労働基準監督署に相談すべきでしょう(弁護士への相談を検討されている方は、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。
まとめ
サービス残業と残業命令の根拠規定を説明しましたが、いかがでしたでしょうか。サービス残業に悩まされている方は、まずは36協定と就業規則の規定を確認するという意識が大切です。違法な残業命令かと思った場合には、弁護士や労働基準監督署などに相談しましょう(就業規則の確認方法については、「残業代請求をする前に、就業規則を確認しよう~就業規則を見せてもらえる?~」を参考にしてみてください。)。