- 早朝出勤も「残業」にあたる場合がある!
- 労働時間にあたるかが重要!
- 使用者の指揮命令下に置かれていれば「労働時間」
【Cross Talk】早朝出勤なのに「残業(労働時間)」なの?
うちの会社は定時に帰れるんですけど、始業時間よりも早く出勤するように言われています。でも、始業時間より早く出勤しても給料は変わりません。始業時間の前から働くのも、終業時間の後も働くのも、決められた時間以上に働いていることは同じなのに、おかしくないですか?
早朝出勤や朝型勤務も、自発的なものではなく会社の命令によるなど一定の要件を満たす場合には、労働基準法上の「労働時間」にあたります。労働時間にあたる場合には残業代を請求することができますし、早朝出勤を含めると1日8時間を超える場合には、割増賃金を請求することができます。
残業代をもらえる場合があるんですね!
ここ数年、時差通勤による渋滞・公共交通機関の混雑の回避、列車の遅延による遅刻の回避、残業時間の削減など、さまざまな理由から早朝出勤、朝型勤務が広まりつつあります。
しかし、始業時間よりも早く出勤して終業時間まで働くとすると、本来の労働時間よりも長く働くことになってしまいます。「残業」というと、終業時間を過ぎた後も働くことをイメージする方も多いと思われますが、始業時間前から働いた場合でも、一定の要件を満たせば「残業」にあたり、残業代を請求することができます。
今回は、どのような早朝出勤、朝型勤務が残業にあたるのかについて、具体例をあげながら詳しく解説します(いろいろな場合に残業に当たるかが問題となるので、それらを知りたい方は、「「残業」とは?残業の種類と定義について」をご覧ください。)。
早朝出勤、朝型勤務も「残業」にあたる可能性がある
- 労働時間にあたれば早朝出勤や朝型勤務も残業にあたる
- 使用者の指揮命令下に置かれた時間といえるかが重要!
早朝出勤や朝型勤務も「残業」にあたるのですか。
早朝出勤や朝型勤務が労働基準法にいう「労働時間」に該当する場合には、「残業」にあたります。「労働時間」にあたるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれた時間と評価できるかどうかで判断されます。
「残業」と言うと、定時を過ぎた後も夜遅くまで働くことと思われがちです。しかし、「残業」は終業時間後に働くことだけを意味するものではありません。
残業は、法律上は「時間外労働」といって、本来決められた労働時間よりも長く働くことを意味します。始業時間の前に働くことも終業時間の後に働くことも、法律上の区別はないのです。
したがって、早朝出勤や朝型勤務が労働時間と言える場合には、時間外労働にあたり(早出残業と呼ばれることがあります)、時間外労働に対する手当を請求することができます。
(時間外労働に対する手当の請求手順はこちら!【図解】残業代請求の全手順を詳しく説明)
しかし、一口に早朝出勤・朝型勤務と言っても、いろいろな理由が考えられます。上司の指示で仕方なくしている場合もあれば、通勤ラッシュを避けるために自発的に早く出勤し、始業時間まで新聞を読むなどしてくつろいでいる場合もあります。
いったいどのような場合に早朝出勤や朝型勤務が労働時間と認められるのでしょうか。
この点について、最高裁は、労働基準法にいう労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である」という判断枠組みを示しました(三菱重工長崎造船所事件:最判平成12・3・9民集54巻3号801頁)。
使用者の指揮命令下に置かれた時間と評価できるかは、その間の労働者の行為が業務に関連するか、使用者の明示または黙示の指示があったかによって判断されます。
上記事案を例にすると、
- 造船所の就業規則で、労働者が始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に実作業を開始し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定められていた
- 労働者は実作業に際して、保護具等の装着を所定の更衣所または控え所で行うことを義務付けられ、これを怠ると懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった
- 労働者は始業時刻前に散水を義務付けられていた
などの事情から、実作業前の更衣・装着、散水、実作業終了後の更衣所までの移動、更衣に要した時間などを、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価でき、社会通念上必要と認められる時間であるとして労働基準法上の労働時間に当たると判断しました。
【具体例】労働時間(残業)に当たるの?当たらないの?
- 上司などの「明示もしくは黙示の指示」があるかが基準
- 人事査定上の不利益があるか否かも業務関連性にかかわる
- 具体的な事案で労働時間に当たるか判断するのは難しい
指揮命令下に置かれたかどうかが重要と言われても、なかなかイメージできません。
それでは、いくつか具体例をあげて労働時間に当たるかどうかを考えてみましょう。
「勉強のために1時間早く出勤しなさい」と言われた場合
上司が新入社員などに、勉強のために1時間早く出勤するようにと言うことがあります。業務との関連は比較的認められやすいと考えられますが、使用者の指示によるといえるかは必ずしも明らかではありません。
単に新人の心構えを説いただけで、従わなくても特段の不利益がない場合には、使用者の指示があったとまでは認められにくいでしょ<う。
これに対し、従わない場合には労働者に人事査定上の不利益がある場合には、使用者の指示があったと認められる可能性があります。
「就業の前に制服に着替えて所定の位置につけ」と言われた場合
1.で紹介した最高裁判例の造船所のように、使用者から始業時間前に着替え等をすませておくよう指示される場合があります。
制服や作業着などへの着替えが業務上義務付けられているか(黙示の指示も含む)、または労働安全衛生法などの法律上義務付けられている場合には、業務との関連性が認められやすいといえます。そのような場合には、使用者は労働者に対し、就業規則や法律を守るように指示するでしょうから、使用者による指示も認められやすいでしょう。
また、着替えそのものではありませんが、電鉄会社の駅務員の就業前の出勤点呼と出勤点呼後点呼場所から勤務開始場所までの移動について、
- 点呼は就業を命じられた業務の準備行為であり(業務関連性)、使用者が各駅長に駅務員の点呼を実施するように指示し、接遇マニュアルを作成、配布して駅務員に点呼の方法の周知を図るなどしていることから、点呼は使用者から義務付けられた行為(黙示の指示)であり、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価すべき
- 点呼が使用者から義務付けられた行為であるから、出勤点呼後点呼場所から勤務開始場所までの移動も使用者の指揮命令下に置かれたものと評価すべき
と判断した裁判例があります(東京急行電鉄事件。東京地判平成14・2・28労判824号5頁など)。
暗黙の了解で上司より早く出勤せざるを得なかったら?
明確な指示はなくても、上司が早く出勤しており、暗黙の了解で部下も早く出勤せざるを得ないという場合もあるでしょう。
早く出勤して通常の業務を行った場合には、業務との関連性は認められるでしょう。しかし、暗黙の了解の場合、使用者の指示があったといえるかは微妙です。
たとえば、早朝出勤をしないと(本来の労働時間だけでは)与えられた仕事が終わらず、早朝出勤せざるをえないとか、早朝出勤をしないと人事査定上不利益を受けるなど、早朝出勤が事実上義務付けられていると言えるような場合には、明確な指示がなくても使用者の黙示の指示があったと評価できるでしょう。
これに対して、単に上司が早く来ているから気を遣って自分も早く出勤しているだけで、本来の労働時間で仕事を終わらせることは可能であり、早朝出勤をしなくても人事査定上不利益を受けないような場合には、使用者の指示があったとは認められにくいでしょう。
始業時間前に朝礼がある場合
始業時間前に朝礼をしている職場は少なくありません。
朝礼についても、参加しないと人事査定上の不利益などを受ける場合や、朝礼で業務の遂行上必要な業務連絡が行われる場合など、参加が不可欠といえるときは業務との関連性や、使用者からの指示があったと認められやすいといえます。
通勤混雑を避けるために自らの意思で早朝出勤したら?
通勤混雑を避けるためという目的は、業務との関連性が薄いと言わざるを得ません。また、自発的にしたとすれば、使用者の指示も認められません。
したがって、このような場合は使用者の指揮命令下に置かれた時間とは評価できず、残業には当たりません。
まとめ
早朝出勤・朝型勤務が残業になるための要件等を解説しました。 具体例の解説でも指摘したとおり、業務関連性や使用者の指示があったといえるか微妙なケースもありますので、早朝出勤をしているが残業代をもらっていないという方がいらっしゃいましたら、労働問題に詳しい弁護士に相談してはいかがでしょうか(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」をご覧ください。)。 残業代の証拠収集方法については、「未払い残業代請求のための証拠の集め方」をご覧ください。