- 退職代行会社にできるのは退職の意思を伝えることだけ
- 違法な退職代行会社に依頼すると退職に失敗するなどの危険がある
- 残業代請求や退職条件の交渉などができるのは弁護士だけ
【Cross Talk】退職代行会社は違法なの?
上司との折り合いが悪いので退職を考えているのですが、上司に退職するとなかなか言い出せません。最近、インターネットで退職代行サービスというのをよく見かけますが、退職代行サービスを利用すれば、スムーズに退職できるでしょうか?
確かに退職代行サービスが流行しているようですね。
しかし、退職代行サービスができるのは、退職の意思を依頼者の代わりに会社に伝えるだけということに注意が必要です。
たとえば、未払いの残業代があっても請求することはできませんし、仮に請求すれば違法になりトラブルに巻き込まれるおそれもあるのです。
ですから、退職代行サービスを利用するかどうかは慎重に考えた方が良いでしょう。
できないこともあるんですね…それなら退職したいときはどうすればいいんでしょうか?
この1~2年ほどの間で、「退職代行サービス」が広く知られるようになりました。
ブラック企業に勤めている方や上司との人間関係にお悩みの方など、退職手続を代わりにしてほしいと考える方は意外に多く、退職代行が流行になっています。
しかし、退職代行サービスについては、弁護士法で禁止されている「非弁行為」にあたり違法ではないかと批判されることがあります。
そこで今回は、退職代行会社は違法ではないかを解説した上で、違法な退職代行会社に依頼した場合のリスク等についても紹介します。
退職代行会社とは
- 法律上、労働者には退職の自由がある
- 会社からの引き留め、脅しなどを避けるために退職代行が流行に
インターネットではよく見かけますが、そもそも退職代行会社ってどんな会社なんですか?テレビでも取り上げられたと聞きましたが、なんでこんなに話題になっているんですか?
法律上、労働者には退職の自由が認められているので、本来,労働者が退職することは難しくないはずです。
しかし、実際には退職の意向を示すと会社から強引に引き止められたり、ひどい場合はおどしのようなことを言われたりして、自由に退職できないこともあります。
そこで、労働者に代わって退職の手続を行う退職代行会社が登場したのです。
退職代行会社とは、退職を希望する労働者に代わって退職の手続を行うサービス(退職代行サービス)を提供する会社のことです。
法律上、労働者には退職の自由が認められています。
まず、期間の定めのない雇用契約についてはいつでも解約の申し入れをすることができ、解約申し入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了します(民法627条1項)。退職の理由に制限はなく、どのような理由でも構いません。
また、期間の定めのある雇用契約であっても、やむを得ない事由があるときは、直ちに契約の解除をすることができるとされています(民法628条)。
しかし、法律でこのように定められているからと言って、実際に労働者が自由に退職できるとは限りません。
人手不足など様々な事情によって、会社から後任が見つかるまで退職は認めない等と言われて引き止められたり、突然退職されると会社に損害が生じるのでその賠償を請求する等と脅されたりして、なかなか退職できないということがあるのです。
このような事態を避けるために登場したのが、労働者に代わって退職手続を行う退職代行会社です。
数年前からインターネット上では話題になっていましたが、テレビでも取り上げられたことから、この1~2年で広く知られるようになり、利用者も増加しているようです。
退職代行は違法なの?
- 退職代行は非弁行為にあたり違法の可能性がある
- 退職の意思を伝えるだけの「使者」であれば合法
退職代行会社が流行している理由はわかりましたが、そもそも他人に退職の手続を代わりにしてもらうことに問題はないのですか?
退職代行会社は、弁護士でない者が弁護士業務を行う「非弁行為」に該当し、違法である疑いが指摘されています。ただ、純粋に退職の意思を伝えるだけであれば合法と言っていいでしょう。
非弁行為の疑い
退職代行会社は、労働者に代わって退職の手続を行うわけですが、このような行為は「非弁行為」に当たるのではないかとの指摘があります。
非弁行為とは、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業務として、法律事件に関して法律事務を行うことをいい、弁護士法72条で禁止されています。
退職代行会社は民間の企業ですから、報酬を得る目的があることや、退職代行を業務として行っていることはまず間違いないでしょう。
したがって、退職代行会社が提供するサービスが法律事務にあたる場合には、非弁行為に該当し、違法ということになります。
単に退職の意思を伝えるだけなら合法
とはいえ、退職代行会社のサービスがすべて違法というわけではありません。
非弁行為に該当する「法律事務」の代表的な例は、「代理」です。
代理とは、本人に代わって別の者が法律行為をし、その効果が本人に帰属する制度をいいます。
たとえば、交通事故の被害者が弁護士に対し、示談交渉の代理を依頼した場合、弁護士は依頼者に代わって加害者と交渉し、賠償額について合意に至れば示談をします。弁護士がした示談の効果は依頼者に帰属するので、依頼者は示談で決められた金額の支払いを受けることができる一方、示談で決められたことを超える要求を加害者にすることはできなくなります。
退職代行会社がこのような「代理」をすれば、非弁行為にあたることになります。ですから、たとえば、退職代行会社が本人に代わって会社と何らかの交渉を行うようなことはできないのです。
なお、代理と似た制度に「使者」というものがあります。
「使者」とは、本人が決定している意思を相手方に表示し、または完成済みの意思表示を伝達する者をいいます。
代理の場合、代理人に意思決定の自由があるのに対し、使者の場合は使者に意思決定の自由はなく、単に本人の決定した意思を伝えるだけという点に大きな違いがあります。
そうすると、退職代行会社が代理人ではなく使者である場合、いいかえれば退職するという本人の意思を伝えるだけである場合、法律事務には当たりません。
したがって、退職代行会社の提供するサービスが使者の範囲内である場合には、非弁行為には該当せず、合法ということになります。
違法な退職代行会社に依頼すると
- 退職できない可能性がある
- 刑事事件に巻き込まれる可能性がある
退職代行が違法な場合もあるんですね…もし知らずに違法な退職代行会社に依頼してしまったらどうなるんでしょうか?
違法な行為をする業者ですから、いいかげんな対応で退職ができない可能性が考えられます。また、非弁行為には刑罰が科せられるので、依頼をした側も警察から話を聴かれるおそれもあります。
退職に失敗する可能性がある
これまで解説した通り、退職代行会社が合法的にできることは限られています。
しかし、単に退職の意向を伝えるだけで料金が発生するというのでは、依頼者はなかなか納得せず、顧客を獲得することは難しいでしょう。
そのため、非弁行為にあたる交渉などまで行う退職代行会社もあるようです。
しかし、あえて違法な非弁行為を行うような会社は、いいかげんな対応でかえって状況を悪化させてしまうことが考えられます。
そうなると、退職までに時間がかかったり、離職票などの書類が送られてこなかったりするなど、スムーズに退職ができない可能性があります。また、突然の退職により納期に間に合わずに会社に損害が発生したなどと言われ、会社から損害賠償を請求されるおそれもあります。
刑事事件に巻き込まれる可能性がある
非弁行為は法律で禁止されており、これに違反した場合、2年以下の懲役または300万円以下の懲役に処せられます(法人の代表者が、法人の業務に関して非弁行為をしたときは、代表者の行為を罰するほか、法人も300万円以下の罰金に処せられます)。
非弁行為をした者に依頼をした者まで処罰される可能性は低いのですが、退職代行会社が非弁行為で逮捕等された場合、非弁行為の内容を具体的に明らかにする必要から、依頼した者も関係者として警察や検察から事情聴取を受ける可能性があります。
退職代行会社にできないことの例
- 法律相談ができない
- 未払い残業代の請求や退職条件の交渉もできない
違法な退職代行会社に依頼することのリスクはわかりました。
そういう会社に依頼しないで済むように、退職代行会社にできないことを教えてください。
退職代行会社ができないことの代表的な例としては、法的な権利義務に関する法律相談、未払いの残業代の請求、退職日の調整などの退職条件の交渉があげられます。
これらは法律事務に当たるので、弁護士でなければすることはできません。
退職代行会社は法律事務をすることができないと解説してきました、退職代行会社ができないことの具体的な例は、次のようなものです。
法律相談
会社を退職する際には、未払いの残業代はないか、退職金はどうなるのか、会社から損害賠償を請求されるおそれはないか等、さまざまな問題について前もって考えておかなければなりません。
これらの問題について判断するには専門的な知識が必要になりますから、自分ではわからないので誰かに相談したいと考える方も少なくないでしょう。
しかし、法的な権利・義務に関する法律相談を業務として行うことができるのは弁護士だけですから、退職代行会社に法律相談をすることはできません。
残業代請求
残業しても残業代が支払われないので退職を決意した場合など、退職をしようとする際に未払いの残業代を請求することがあります。
退職代行会社に依頼する方としては、退職の意思を伝えてもらうだけでなく、未払いの残業代の請求もしてほしいと考えるでしょうが、このような金銭の請求はまさに法律事務の典型ですので、退職代行会社が残業代の請求をすることはできません。
退職条件の交渉
退職する際には、退職日を決めるだけでなく、それまでの有休の消化や引継等の調整などの交渉をすることが必要になります。
しかし、退職代行会社にできることはあくまで本人の意思を伝えることだけで、これらについて交渉をすることはできません。
まとめ
今回は退職代行会社について解説しました。違法な退職代行会社に依頼してしまうとトラブルに巻き込まれてしまう危険があります。
退職代行会社への依頼を考えている方は、まずこの記事で退職代行会社ができることを確認してください。退職代行会社にはできないことを自分に代わってしてほしいと考えている方は、法律事務の専門家である弁護士に相談するようにしてください。