不当解雇された場合の賃金などの請求について、時効の問題を解説いたします
ざっくりポイント
  • 不当解雇について争うこと自体は、時効にかからない
  • 不当解雇に関して賃金や慰謝料を請求する場合は、時効にかからないように注意が必要
  • 不当解雇について時効の完成を阻止するには、まずは内容証明による催告

目次

【Cross Talk 】不当解雇について争う場合は、時効に注意する必要がある?

会社に不当解雇されたので、まずは不当解雇だと認めてもらい、賃金や慰謝料を請求したいです。しかし、解雇されてからずいぶん時間が経ったので、時効にかからないか心配です。

不当解雇を争うこと自体は時効にかかりませんが、賃金や慰謝料などの請求権については時効の期間が定められているので、注意が必要です。

賃金や慰謝料を請求する場合は、時効に気をつける必要があるんですね。時効の期間や完成猶予の方法なども教えてください!

不当解雇された場合の時効の期間や、時効の完成猶予の方法とは?

会社に不当解雇された場合は、不当解雇を撤回させたり、不当解雇された期間の賃金の支払いなどを請求したくなりますが、請求をしている間に時効にかからないかは気になるところです。
また、不当解雇について時効にかからないようにするために、時効の完成を猶予させる方法があるかも知りたいところでしょう。

そこで今回は、不当解雇された場合の請求に関する時効の問題と、時効の完成猶予の方法について解説いたします。

不当解雇を争うときの時効の問題

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 不当解雇の時効については、賃金や退職金など種類ごとに個別に検討しなければならない
  • 不当解雇を争うこと自体には、時効はない

会社に不当解雇されたので、解雇された期間の賃金や慰謝料を請求するつもりです。不当解雇における時効のルールについて教えてください。

不当解雇を争うこと自体は時効にかかりません。ただし、不当解雇に基づいて賃金や慰謝料などを請求する場合は、それぞれ時効の期間などが異なるので注意しましょう。

不当解雇では何を主張するか

会社が行った解雇が、不当解雇にあたると裁判などで請求する場合、一般に以下の点について主張します。

  • 会社が行った解雇が不当解雇にあたり、無効であるとの主張
  • 不当解雇によって支払われなかった賃金の請求
  • 不当解雇によって受けた苦痛に対する慰謝料の請求
  • 退職金の請求(懲戒解雇によって退職金が支払われなかった場合など)
  • 解雇予告手当の請求

注意点として、上記の全てを請求するわけではなく、自分の希望や解雇の状況によって請求する内容は異なります。

例えば、会社の解雇は不当解雇にあたるので無効であり、従業員として職場に復帰して働き続ける場合は、退職しないので退職金は請求しません。
いずれにせよ、不当解雇の時効については、上記それぞれの請求ごとに別個に見ていく必要があります。

解雇の無効を請求することに時効はない

解雇の無効を請求すること自体には、時効はありません。
つまり、会社が行った解雇が不当解雇にあたるので無効であるとして、従業員としての地位の確認を求めること自体は、時効にかからないので、解雇から何年経過していたとしても、請求することは基本的に可能です。
解雇が無効であり、依然として従業員であると主張することは地位の確認であって、金銭などの債権的な請求とは異なるため、時効にかからないからです。(もっとも、契約期間が定められていた場合には、注意が必要です。)

ただし、解雇が無効であることを前提として未払いの賃金などを請求する場合は、賃金などは債権にあたるため、時効が適用される点に注意してください。

つまり、解雇からかなりの年月が経過してから、不当解雇として無効であると請求した場合、裁判の結果により不当解雇であると認められたとしても、賃金などについては時効によって請求が認められない場合があるということです。

賃金が3年の時効にかかっていると解雇期間中の賃金の支払いを求められない

不当解雇について賃金を請求する場合、賃金については3年の時効があります(労働基準法第115条)。
もし請求しようとしている解雇期間中の賃金が、3年の時効にかかっている場合、賃金の支払いを請求できなくなってしまいます(相手が時効を援用した場合)。

注意点として、2年の時効が適用されるのは2020年4月1日以降の賃金です。それ以前の賃金については、労働基準法の改正前のルールが適用されるので、時効は3年になります。

慰謝料が発生する場合は3年の時効にかかっていると請求できなくなる

不当解雇の態様が悪質であるなど、不当解雇が不法行為(民法第709条)に該当する場合には、不当解雇に対して慰謝料を請求できる場合があります。

不当解雇について慰謝料が発生する場合、不法行為に関する時効の規定が適用されるので、慰謝料の時効の期間は3年になります(民法第724条)。
そのため、慰謝料が発生してから3年の時効にかかっていると、原則として慰謝料を請求できなくなるので注意してください。

注意点として、不法行為の時効は「損害および加害者を知った時」からカウントされますが、不当解雇の場合は、どの時点から時効をカウントすべきかはケースによることがあります。
一般的には解雇日から3年を経過すると時効にかかりますが、上記のようにケースによるので、詳しくは弁護士に相談することをおすすめします。

退職金は5年が経過していると請求できない

会社を退職する場合の退職金については、退職金を得られる日から5年が経過すると、時効によって請求できなくなります(労働基準法第115条)。
例えば、退職日から1ヶ月後に退職金が支払われるとの規定がある場合、その日から5年が経過すると、退職金は原則として時効にかかってしまいます。

時効にかからないために

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 時効にかからないためには、時効の更新と完成猶予が重要
  • 催告によって時効の更新をし、その間に労働審判や訴訟提起をする方法がある

不当解雇について賃金や慰謝料を請求したいのですが、あと少しで時効が完成してしまいます。時効を止める方法はありませんか?

まずは内容証明で催告をして、時効の完成を猶予しましょう。その間に労働審判をしたり、裁判を起こしたりできます。

時効の完成猶予と中断

時効を止める方法として、更新と完成猶予があります。これらは民法の時効制度が改正された後の用語であり、改正前は更新は中断、完成猶予は停止という用語が用いられていました。
時効の更新とは、一定の事由が発生した場合に、それまで蓄積されていた時効のカウントが一旦ゼロに戻って、その時から新たな時効のカウントが始まる制度です。

例えば、3年で時効が完成する請求権について、あと1ヶ月で時効が完成するときに、時効の更新事由が発生すると、時効が完成するにはそこから新たに3年が経過する必要があります。

内容証明で請求をする

時効の完成猶予とは、一定の事由が生じた場合に、時効が完成するのがしばらく猶予される制度です。
時効の更新との違いは、更新は時効のカウントがゼロに戻るのに対し、完成猶予は蓄積されていた時効のカウントがゼロに戻らないことです。
完成猶予の方法はいくつかありますが、一般に手続きなどに時間がかからない方法として、催告(民法第150条)があります。

催告とは、債務者に対して債務を履行するように請求することです。例えば、不当解雇された期間の賃金を会社に請求することは、一般に催告にあたります。
催告する方法について法律上の制限はありませんが、催告がきちんと行われたことを証明するために、実務では内容証明郵便で請求をするのが一般的なので、会社に請求する場合も、内容証明郵便で行うことをおすすめします。

なるべく早く労働審判・裁判提起を

催告が行われると、催告の時から6ヶ月が経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます。
ただし、時効の完成猶予はあくまで一時的な措置なので、催告によって時効の完成が猶予されている間に、なるべく早く労働審判をしたり裁判を起こしたりすることをおすすめします。

労働審判や訴訟提起など(裁判上の請求といいます)をすると、手続が終了するまでの間は時効の完成が猶予されるので、不当解雇について時効を気にすることなく争うことができるからです(民法第147条)。
もし審判や訴訟が確定した場合は、時効の更新事由にあたるので、それまで蓄積された時効はゼロに戻り、再びカウントされます。

まとめ

不当解雇自体を争うことについては原則として時効はありませんが、不当解雇に関して賃金や慰謝料を請求する場合は、時効にかからないように注意しなければなりません。
もう少しで時効が完成する場合には、まず内容証明で催告をして時効の完成猶予をし、その間に労働審判や裁判を起こす方法があります。
時効がいつ完成するかはケースによる場合があるので、詳しくは労働問題の経験が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。