- 少数精鋭の仲間と共に交渉するほうが良い
- 「お願い書面」で穏便に交渉をスタート
- 「内容証明郵便」の書き方はそこまで複雑じゃない
- 専門家のチェックを受けた「内容証明郵便」ならば間違いは防げる
- 交渉が上手くいかなかったら、迷わず専門家に相談しましょう
【Cross Talk】在職中の交渉方法
自分の給料明細を見てみると、どうやら残業代が満額支払われてないようです。未払い残業代はきちんと支払ってもらいたいのですが、会社にもまだ在籍していたいので、なるべく事を荒立てないで支払ってもらうことってできないんでしょうか?
それなら弁護士を通じていきなり交渉を行うことや、労働審判・訴訟といった方法を取らないで、まずは会社とご自身で交渉してみるのが良いと思います。ご自身で交渉する際にできる書面の作り方を中心に説明しましょう。書面を自分で作るのであれば、専門家に依頼する費用が掛からないのも良い点ですね。
自分で書面を作るって、なかなか難しそうですね……。でも、費用があまり掛からないなら自分でやってようかな!?
残業代はきちんと払ってほしい。それでも、会社とはまだ事を荒立てたくないとお考えのあなたに。会社と残業代請求の問題で争う前に、在職中に会社とできる交渉について解説します。
残業代計算の方法など、残業代請求の基本的な説明は別のコラムで解説しますので、本コラムでは「残業代支払いのお願い書面」や「内容証明郵便」を使った交渉方法を説明しましょう。
残業代請求できそうな仲間がいると心強い
- 交渉するための仲間がいると証拠収集しやすくなる
- ただし、信頼できる仲間数人と一緒に行うのが良い
1人で交渉を行うのは心細いので、同僚をたくさん集めて交渉しようかなって思ったんですけど、これって大丈夫でしょうか?
うーん。確かに証拠収集などはしやすくなるかもしれませんね。ただ、穏便な交渉を行いたいのであれば、あまりに多くの同僚を集めて交渉することはやめておいたほうが良いかもしれません。
未払い残業代の支払いを受けたいと考えたときには、最低限の法的知識を得ること、証拠の収集すること、残業代の計算をすることが必要です。
特に、証拠収集に関してはタイムカードなどの重要な証拠は会社側が保有しているので、これを集めるのはなかなか難しいかもしれません。そこで、ご自身の職場で同じように残業代請求をしたいと考えている仲間を集めて準備を進めるのも良いでしょう。互いに協力して、証拠収集を行うことができる上に、自分一人ではないといった精神的な安心感が得られるのがメリットです。
ただ、残業代請求をしたいと考える人をむやみに集めると、一部信用できない人が入り、請求自体を阻害する可能性がありますし、事件の方針についてグループ内で合意を形成するのも難しくなる可能性もあります。
複数人で交渉を行おうと考えるならば、信頼できる少数の仲間とともに行うことが、交渉の勝率を上げる秘訣となるでしょう。
穏便に済ませる方法「残業代支払いのお願い書面」
- まずは「お願い書面」で会社に未払い残業代があることを示して交渉をスタートさせる
- 人事労務の決定権のある者に手渡ししましょう
- あくまで、「お願い」の手紙、交渉のきっかけになればGood!
任意交渉での書面の作り方って難しそうですね。「残業代支払いのお願い書面」ってどんな書面なんでしょうか?
「残業代支払いのお願い書面」は様式が決まっていない自由な書面です。そこまで気張らずに、気軽に作成できます。
「残業代支払いのお願い書面」って?
穏便な交渉の第一歩として、「残業代支払いのお願い書面」(以下「お願い書面」と言います。)を作成します。「お願い書面」とは、残業代を支払うようにお願いする書面で、単なる手紙です。決まった様式などはなく、自由に作成することができます。
「請求書」という名目で書面を作成すると、会社側も争う姿勢を示す可能性があります。そこで、あえて「お願い」という形で、会社側に対して穏便な交渉姿勢を示します。
誰に送るべき?
上司ではなく、人事部長や総務部長、社長へ送りましょう。人事労務の決定権を有する者であることが重要です。
在職中ならば手渡しするのが良いでしょう。「なんでこんなもの渡すんだ、直接言え!」と言われても、「記録に残すため」とは言わずに、「口頭では要領よく話せないので」などごまかしましょう。穏便に交渉を進めるために、攻撃的な姿勢を示さないでおきます。
「残業代支払いのお願い書面」の具体例
それでは、「お願い書面」についての具体例です。こちらを参考にしてご自身で作ってみてください。
「残業代支払いのお願い書面」(案)
書き方のポイントは、以下の通りです。
- 在職中の請求なので、「貴社ますますのご繁栄を……」などの挨拶文句は不要
- 「お願い書面」なので、あまり強い言葉を使わないこと
- 会社側に残業代の未払いがあることを示す
- 残業代請求の法的根拠を簡単に示す
- 具体的な未払い残業代の計算方法とその額を示す
お願い書面を無視されたら「内容証明郵便」
- 内容証明郵便は法的請求の第一歩
- 様式をきちんと確認して、正確な文章を書くように心がける
- 弁護士、社会保険労務士、でチェックしてもらうのがベスト
- 無視されたら早めに専門家に依頼しましょう
「内容証明郵便」って聞いたことがあります。仰々しい書面のイメージがあります!これを送ることに何か重要な意味があるんですか?
「内容証明郵便」は、「いつ、どのような内容の郵便物を、誰から誰に送ったか」を郵便局で証明する書面です。民法153条の「催告」にあたり、内容証明郵便を出したあと、6ヵ月以内に裁判等で請求すると、時効を中断できる効果があります。法的請求の色彩が強いので、会社側が交渉のテーブルに着く可能性が高くなるかもしれません。
内容証明郵便の意義と効力
内容証明郵便って?
内容証明とは、送付する手紙を、発信者、受信者の他に郵便局でも保管する制度です。郵便局でも手紙を保管することで、送付した内容を証明します。
また、インターネット上に書面をアップロードする形で、内容証明郵便を送ることができる「e内容証明(電子内容証明サービス)」というものもあります。幾分か料金が安いのでこちらを利用するもの良いかと思います。詳しくは郵便局のWebサイトを参照してください。
参考:郵便局「e内容証明(電子内容証明サービス)」(参照 2019/2/10)
内容証明郵便の効力
民法153条の「催告」にあたり、内容証明郵便を出したあと、6ヵ月以内に残業代を裁判等で請求すれば、残業代を請求する権利が時効になるのを防ぐことができます
残業代請求の時効は、各月給料日の翌日から2年間です。詳しくは別のコラムを参照してください。
内容証明郵便の書き方
内容証明郵便は様式が決まっています。とはいっても複雑なものではありません。一枚あたりの行数と、一行当たりの文字数が決まっているだけです。
区別 | 字数・行数の制限 |
---|---|
縦書きの場合 | ・1行20字以内、1枚26行以内 |
横書きの場合 | ・1行20字以内、1枚26行以内 ・1行13字以内、1枚40行以内 ・1行26字以内、1枚20行以内 |
参考:郵便局「内容証明 ご利用の条件等」(参照 2019/2/10)
「以内」ということなので、これより少ないのであれば問題ありません。枚数には制限はありません。様式についての詳細は、前述の郵便局のホームページを参照してください。
作成の際は、お手持ちのワードソフトなどで、行数・文字数を設定しましょう。ただし、文字数に関しては、「。」「、」「,」などの句読点も一文字としてカウントしますのでご注意ください。(なお「,」については日本語としては一般的ではありませんが、裁判所の判決文などの法的文書で用いている慣習があるので使用しております。)
これだけでは分かりにくいと思いますので、内容証明郵便の具体例があります。こちらを参考にしてください。
(横書き、1行20字、1枚26行で作成)
「内容証明郵便」(文例)
書き方のポイントとしては、以下の通りです。
- 事務的な請求になるので余計なことは書かない
- 攻撃的な文章にしない
- 事実に即した表現にする
- 最初からすべての主張や、証拠を記載する必要はない
- 支払い期日を示す
- 誤字脱字がないかチェックする
- 未払い残業代の存在、法的根拠、計算方法と額を示す
- 計算方法や計算額については「別に郵送するのでご確認ください」と別送の旨を記載する
できれば専門家のチェックを受ける
内容証明郵便は法的請求の第一歩です。それだけに、文書の内容については正確さと慎重さが求められます。できれば、弁護士や社会保険労務士などの労働法の知識を有している専門家のチェックを受けた上で、作成するのがおススメです。
内容証明郵便を無視されたら
ご自身で内容証明郵便を出す場合は、弁護士の名前で出しているわけではないので、会社側から無視される可能性もあります。無視された場合にはなるべく早く専門家に依頼しましょう。
内容証明郵便を出してから6ヵ月以内に裁判上の請求等を行わなければ、時効は中断しません。内容証明郵便を出してから5ヵ月目に専門家に依頼した場合、残りの1ヵ月で専門家が交渉を行わなければならず、残業代請求が上手くいかない可能性が高くなるからです。
未払い残業代交渉における注意点
- 冷静かつ謙虚な交渉姿勢はリスクを減らす
- 証拠資料を提示するのを忘れない
- ICレコーダーでの録音は必須
残業代支払いのお願い書面や内容証明郵便を出したら、会社側から話を聞かせてほしいと連絡が来るかもしれませんよね?そのときやっと具体的な交渉ができると思うんですけど、気を付けることってありますか?
あくまで穏便に未払い残業代の支払いを受けたいのであるならば、謙虚な姿勢で冷静に交渉することを忘れないでください。法的な根拠を示しながら交渉しましょう。他にも、交渉内容を「記録」に残すことも大切ですね。
謙虚な姿勢で交渉、冷静に交渉を行う
在職中の穏便な交渉を望むのであれば、謙虚な姿勢で冷静に交渉を行うことが大切です。会社側はあなたの話をまるで聞かないで、ぞんざいに扱うこともあるでしょう。会社との話し合いでヒートアップしてしまうと、スムーズに交渉ができないだけでなく、自分に不利なことを口走ってしまう可能性もあります。交渉失敗のリスクを減らすためにも、冷静さが肝心です。
根拠を示しながら交渉する
交渉の下地となる証拠や残業時間などの計算表などを具体的に提示しながら交渉しましょう。交渉の際にお互いに何が重要であるか混乱してしまい、話が進まない可能性があります。会社側を納得させる必要もあるので、根拠を示しながら交渉を行いましょう。
会社側からの対応は「記録」に残す
会社側から何らかの応答があった場合にはその記録は残しておくようにしましょう。例えばメールで連絡が来た場合には保存しておくようにしてください。交渉が上手くいかず、訴訟などの手続に進んだ場合に、残業代を支払っていないことを認める証拠となります。
特に口頭で交渉を行う際にはICレコーダーでの録音は必須です。「言った、言わない」の水掛け論にならないために必ず録音するようにしましょう。
まとめ
在職中の会社との交渉に必要な書面の書き方を中心に、交渉方法を解説いたしました。書面を作って誠実な交渉を心がけても、会社側がきちんと向き合ってくれるとも限りません。その場合には、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談して交渉を進めていきましょう(弁護士の探し方などについては「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。