残業代請求の交渉方法をお伝えいたします。
ざっくりポイント
  • 入念な準備が交渉成功のカギ
  • ご自身、弁護士を通しての交渉のどちらが良いかは状況次第
  • 録音・冷静・根拠を持った交渉術が重要
  • 労働審判、訴訟、和解という手続もある
 
目次

Cross Talk : 残業代請求の交渉方法

会社が残業代を支払ってくれないので、残業代請求をしようと思ってます。でも、何から始めたらいいのかも分からないですし…自分で交渉するべきか、専門家に頼るべきか、どう決めたらいいかもわからないです。どうしたらいいですか?

残業代請求について、基本的な法律の知識を得てからでも遅くはありません。しっかりとした準備をしてから、自分で交渉するべきか、専門家に依頼するかどうか判断しましょう。ひとつひとつ説明しますので焦らなくても大丈夫ですよ。

そうですかそうですか…焦っては元も子もないですね。ぜひ教えてください。

交渉方法って何があるの?

残業代請求がしたいからといって、いきなり訴訟を行うというのは早計です。まずは、会社との交渉をしましょう。ただ、ご自身で交渉するのか、弁護士を通じて交渉するのか、どちらが良い方法なのか悩むかと思います。本コラムにて、会社との交渉方法を比較しながら手続きについて解説いたします。

交渉の前に必要な準備

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 最低限の法的知識を得る、証拠を集める、残業代を計算する、ことの3つが大切
  • 入念な準備は残業代請求の勝率を上げる

未払いの残業代を支払ってもらいたくて、会社と交渉してみようと思います。交渉を有利に進めるためには、どんな準備が必要ですか?

交渉するためには、最低限の法律知識を持っていなければなりませんね。そして、証拠に基づいて労働時間を算定して、残業代を正確に計算して示さなければ、会社は取り合ってくれません。入念な準備が交渉成功のカギです。

残業代請求の最低限の知識を得る証拠を集める残業代を計算する、という3つのことが大切です。3つの入念な準備をすれば、交渉失敗のリスクが減り、最終的に残業代請求を成功させることにつながります。

残業代請求の最低限の知識を得る

残業代請求に関する最低限の知識がないまま請求したとしても、会社との交渉はまとまりません。基本的な知識は本コラムサイトをお読みいただくことで習得することができますのでしっかりと読み進めていきましょう。

「割増率」「法内残業」「法外残業」「労働時間」「時効」などさまざまな法律用語があって最初は戸惑うかもしれません。しかし、ひとつひとつゆっくりと読み進めていくと次第に内容が分かってくると思います。じっくりと取り組むことが大切です。

気になる方はこちらのコラムもご参照ください。「会社に対する残業代請求で、自分で出来るところ」

証拠を集める

「証拠は命」。証拠がなければ会社は請求には応じません。あなたの残業代請求が正しいと証明できる「証拠」を集める必要があります。

労働条件に関する証拠(「雇用契約書」、「就業規則」のコピーなど)、勤務時間に関する証拠(タイムカードやシフト表など)、業務内容に関する証拠(残業の指示が分かるメールやメモ書きなど)を集めましょう。証拠収集に関する詳細な説明としては別のコラムをご覧ください。

残業代を計算する

残業代を請求するには、あらかじめ正確な残業代を計算しておかなければなりません。

残業代計算の方法の図解

請求できる残業代 = 【A:残業時間】×【B:1時間当たりの基礎賃金】×【C:割増率(100%+割増%)】

【B:1時間当たりの基礎賃金】=手当を除いた月額給与-1ヵ月に働く平均時間数(月平均所定労働時間)

 

以上が残業代の基本的な計算式です。ABCそれぞれに数字を入れれば残業代の計算ができます。計算方法の詳細は別のコラムを参照してください。

計算が難しいとお悩みの方は、「残業代請求・簡易計算ツール 」がありますので、お試しください。

交渉手段はどうする?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 請求額が少額ならば、ご自身で交渉しましょう
  • 手間と時間をかけず、確実に残業代を回収したいならば、弁護士に依頼するのがベスト
  • ご自身での交渉の際には、労働基準監督署へ相談するのがオススメ

会社との交渉ってどうすればいいのでしょうか?自分でもできると聞きましたが、弁護士に任せたほうが良いのか悩んでいます。

ご自身で交渉するのと弁護士を通じて交渉することには一長一短があります。両者のメリット・デメリットを解説しましょう。また、労働基準監督署を利用する方法もありますので、そちらも合わせて解説しますね。

未払い残業代を支払ってもらいたいと考えたとき、多くの人がイメージするのは「ご自身で交渉する」ことや「弁護士に依頼して交渉してもらう」という2つの方法でしょう。しかし、どちらを選べばよいか分からない人も多いと思います。請求方法について比較をまとめましたので、ご覧ください。

  ご自身 弁護士 労働基準監督署
費用 実費のみ。費用はほとんどかからない。 多くの費用(30万円~)が掛かる。事務所によっては相談料や着手金が掛かることもある。 相談は無料。実費のみ。
手間と労力 法律の知識を得る、証拠集収集、残業代計算、交渉のすべてを自身で行う必要がある。手間も労力もかかる。また、自身の勤務先との交渉になるため、精神的負担も大きい。 法律・裁判例の調査、証拠収集、残業代計算、交渉のすべてを弁護士が代行するので精神的な負担は軽減される。手間・労力はほとんどかからない。 労働基準監督署は、法違反状態が明らかでなければ、調査及び処分に踏み切らない可能性があるため、証拠をそろえきちんと主張を整理して申告する必要があり、手間と労力がかかる。
実効性 会社が誠実に交渉に応じてくれるとはとは限らない。請求に難癖をつけて結局支払わない可能性が高い。 ほとんどの場合、会社は話し合いに応じ、証拠がある請求については支払いがなされる可能性が高い。 労基署の是正勧告に違反するとそれが悪質な場合には逮捕や刑事罰の可能性があるため、会社が支払いに応じる可能性は高い。ただし、調査の結果、残業代を支払わないことが労基法に違反することが明らかといえない場合には処分に至らないことがある。

ご自身での交渉

ご自身での交渉では、資料を準備したり証拠を集めたりするために必要な実費のみを負担すればよいので、費用がほとんど掛からないというメリットがあります。

一方で、残業代の計算や証拠収集、会社とのやり取りのすべてをご自身で行わなければならず、大きな負担がかかります。特に残業代請求と同時に転職を考えている人にとっては大きなデメリットとなるでしょう。また、弁護士を通していない場合は、会社が請求を無視することも考えられ、実効性が低い点もデメリットの一つです。

しかし、弁護士に依頼する場合には弁護士報酬として最低でも30万円程度かかってしまい、30万円程度の残業代を弁護士に依頼して請求しても費用倒れに終わってしまう可能性があります。そのため、ご自身で残業代を計算して30万円を下回る場合は、ご自身で請求することが勧められます。

弁護士を通しての交渉

これに対して、弁護士に残業代請求を依頼した場合には、資料・証拠の収集、残業代の計算、交渉という、残業代の請求にあたって必要な手続のほとんどを弁護士が代理してくれるため、ご自身への負担が少なくなるといったことが大きなメリットです。

弁護士は、複雑な法律の知識から最新の裁判例まで熟知しており、また、残業代請求の経験も豊富であるため交渉力も高く、安心して交渉を任せることができます。また、会社が弁護士からの請求を無視することはほとんどなく、スピーディに残業代を回収することができる可能性が高い点もメリットになります。転職活動も同時に行いたい場合等手間暇をかけられない場合には弁護士を通した交渉が勧められます。

一方で、弁護士を通じての交渉は、費用がかかる点デメリットです。残業代の請求は、着手金だけでも30万円程度かかるのが相場になります。

ただ、相談料・着手金がかからない成功報酬制の法律事務所に依頼すれば初期費用の負担なく残業代の請求をすることができます。 また、一定の収入要件を充たさなければなりませんが、司法支援センター法テラス)の法律扶助制度(弁護士費用の立替・分割払い制度。)を利用すれば、無理なく弁護士費用を支払っていくことも可能です。

したがって、費用が払えないといったことで、弁護士への相談を諦める必要はありません(弁護士の探し方や相談の仕方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください)。

労働基準監督署への相談

最後に、必ずしも一般的とは言えませんが、労働基準監督署を利用して残業代を請求する方法を紹介します。

労働基準監督署とは、労働基準法や労働安全衛生法などの法律に基づき、労働条件の確保や改善指導を行っている行政組織です。

残業代の未払いは、労働基準法違反に該当するため、証拠に基づき残業代が支払われていないことを説明すれば、労働基準監督署が会社に対し調査を行い、実際に未払いが明らかになった場合には、会社に対して是正勧告(残業代を支払うように指導)がなされます。会社が是正勧告に従わず、それがあまりに悪質であると判断された場合には、罰金刑が科される可能性があるため、相当程度の実効性が確保できます。そのため、ご自身で会社と交渉する際には、労働基準監督署への相談を並行して行っておくと良いでしょう

ただし、労働基準監督署は、人員が少なく、確固とした証拠がない場合には動いてくれないケースもあるため、注意が必要です。

ご自身で交渉する際の注意点

 

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 交渉過程の録音は交渉をスムーズに行う秘訣
  • 冷静かつ根拠を示して交渉すること

最初はとりあえず自分で交渉してみて、ダメでしたら弁護士に依頼しようと考えました。自分で交渉して支払いを受けられれば費用がほとんど掛かりませんしね。自分で会社と交渉する際に気を付けることって何かありませんか?

交渉する際には、会社側の発言は必ず録音しましょう。また、感情的にならず、一つ一つ根拠を示しながら請求するのが重要です。

やり取りは録音すべし

会社とのやり取りは録音しておくことをおススメします。会社と「言った、言わない」の水掛け論になってしまっては交渉が難航します。会社とのやり取りは確実に録音して証拠として残しておくことで、余計な水掛け論になることを防ぐことができます。

それに、発言をあとで確認することで、事実関係を正確に把握することにもつながりますので、会話の録音は非常に重要だと言えます。

感情的になったら負け、根拠を示して請求

感情的になって交渉した場合には、会社側も取り合ってはくれないだけでなく、自分にとって不利なことを言ってしまうかもしれません。感情的になっては負けです。冷静に交渉しましょう。

そして、交渉の際には、これまで集めた証拠や残業時間などの計算表などを具体的に提示しながら、交渉することも忘れないようにしましょう。根拠を伴わない請求には会社は応じてはくれません。ただし、証拠については破棄・改ざん等される恐れを防ぐため、写しを相手方に提示する等して、原本は自身の手元に確保しておくようにしましょう。

任意交渉から労働審判や訴訟へ

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 任意交渉によって支払ってもらえなければ、労働審判や訴訟手続を活用して残業代を回収する
  • 労働審判・訴訟手続の中で任意に支払ってもらえることもある

交渉が上手くいかなかった場合は、どのような方法で残業代請求をするのでしょうか?簡単に教えてくれませんか?

任意の交渉が上手くいかなった場合には、労働審判や訴訟提起をすることが考えられます。

ご自身での交渉或いは弁護士を通しての交渉でも会社が支払いに応じなかった場合には、労働審判訴訟をすることになるでしょう。

労働審判とは、労働審判官(裁判官)1人と労働審判員(労働関係に関する専門的な知識と経験を有する者)2人で組織された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理し、その都度調停を試みて、調停による解決に至らない場合には、調停委員会が解決案を提示する審判を行う手続です(詳しくは「残業代請求における労働審判とは?~どのような場合に労働審判手続が必要?~」を参考にしてください)。

また、訴訟(裁判)手続においては、厳密な主張・立証手続を経て、最終的には残業代請求を認める判決を取得することが最終目標になります。最後まで会社が任意の支払をしない場合には、判決に基づいて強制的に支払いを受けることができます。もっとも、訴訟手続の中で和解(お互いに譲歩して争いを止めること)が成立することもあります(「訴訟上の和解」といいます。)。

和解が成立した場合には、任意に残業代が支払われることが期待できます。このように任意の交渉が奏功しなかった場合でも、労働審判及び訴訟(訴訟上の和解)といった方法により、残業代を回収することができます。

まとめ

残業代請求の会社との交渉方法を解説いたしました。残業代請求の方針を決める一資料としていただければ幸いです。