- 残業代は賃金なので、労働基準法の賃金支払の5原則が適用される
- 残業代をまとめて支払うことは、原則として賃金支払の5原則に違反する行為である
- 未払いの残業代を請求するには、証拠の存在が重要になる
【Cross Talk 】会社が残業代をまとめて支払うことは許されるの?
会社の指示で一生懸命残業をしたのですが、「今期は余裕がないから残業代は後でまとめて支払う」と言われました。残業代をまとめて支払うことは、法的に許されるのですか?
残業代をまとめて支払うことは、原則として賃金支払の5原則に違反する行為です。労働基準監督書に通告したり、会社に未払いの残業代を請求するなどして対処法を検討しましょう。
残業代をまとめて支払うことは、法的に問題があるのですね!賃金支払の5原則についても、詳しく知りたいです。
経営状態に余裕がないなどを理由として、会社が残業代を後でまとめて支払おうとする場合があります。
しかし、残業代は賃金であり、労働基準法における賃金支払の5原則が適用されるので、会社の都合で後でまとめて支払うことが許されるわけではありません。
そこで今回は、会社が残業代を後でまとめて支払うことが、原則として適法でないことを解説いたします。
残業代支給のルール
- 残業代は賃金(給与)にあたるので、労働基準法に規定されている賃金支払の5原則が適用される
- 残業代をまとめて出す方法は、原則として賃金支払の5原則に違反する違法な行為である
「今期は余裕がないから、残業代は後でまとめて支払う」と会社に言われてしまいました。残業代をまとめて払うことは、法的に問題ないのでしょうか?
残業代は賃金にあたるので、労働基準法が規定する賃金支払の5原則が適用されます。残業代をまとめて支払うことは、原則として賃金支払の5原則に反する違法な行為です。
残業代は賃金の支払いである
賃金とは、労働の対価として会社から支払われるもの(原則として金銭)であり、残業代も賃金に含まれます。
つまり、残業代は会社からの特別なボーナスや施しという性質のものではなく、労働の対価として正当に受け取るべき賃金にあたるということです。
賃金支払いのルール
賃金(給与)の支払いについては、労働基準法において厳密なルールが定められており、一般的に賃金支払の5原則といわれています。
賃金支払の5原則が定められている理由は、会社が賃金の支払い方について勝手に決められるとすると、労働者にとって不都合な方法で賃金が支払われてしまい、労働者の生活に悪影響が生じる可能性があるからです。
労働基準法が定める賃金支払の5原則は、以下の通りです(労働基準法第24条)。
賃金は原則として通貨(日本国内で通用する貨幣)で支払わなければならず、現物支給や外貨での支払いは原則として禁止されるというルールです。
現物支給や外貨での支払いが原則として禁止される理由は、換金しなければならない不便さや、価値の変動によるリスクから労働者を保護するためです。
・直接払いの原則
賃金は原則として、労働者本人に直接支払われなければならないというルールです。
親権者などの法定代理人や、労働者の委任を受けた任意代理人への支払いも原則として禁止されます。
本人以外の第三者に賃金が支払われることで、中間搾取などによって労働者が賃金を受け取れなくなることを防ぐためです。
・全額払いの原則
賃金は原則として、その全額が支払われなければならないというルールです。
法令などに基づくことなく、賃金を勝手に控除したり、積み立てたり、債務と相殺したりすることは、原則として禁止されます。
・毎月1回以上払いの原則
賃金は原則として、1ヵ月に1回以上の頻度で支払われなければならないというルールです。
・一定期日払いの原則
賃金は原則として一定の期日を決めて、定期的に支払われなければならないというルールです。
賃金の支払期日が不定期になると、労働者の生活が不安定になるおそれがあるからです。
残業代をまとめて出すのは違法
残業代は賃金にあたるので、賃金支払の5原則が適用されます。
そのため、残業代をまとめて出すという方法は、賃金支払の5原則のうち、全額払いの原則と毎月一回払いの原則に違反するものです。
賃金支払の5原則は労働基準法に規定されている法的なルールなので、賃金支払の5原則に違反する行為は、すなわち労働基準法に反する違法な行為、ということになります。
残業代が正しく支払われない場合の対処方法
- 残業代がきちんと支払われない場合、労働基準監督署に通告したり、会社に請求するなどの方法がある
- 残業代を請求するには、きちんと証拠が揃っていることが重要
会社が残業代をきちんと支払ってくれません。どのような対処法があるか教えてください。
残業代の未払いについて労働基準監督署に通告することや、会社に対して未払いの残業代の支払いを請求することが考えられます。なお、会社を退職する前に働きながら残業代の支払いを請求することは心理的なハードルが高く難しいことが多いので、一般的には、未払いの残業代の支払いを請求するのは、退職後が多いです。
労働基準監督署に通告
後でまとめて支払うなどと、会社が残業代をきちんと支払ってくれない場合は、労働基準監督署に通告する方法があります。
労働基準監督署とは、労働基準法などの労働に関連する各種の法規について、会社がきちんと遵守しているかなどを確認・指導する機関です。
残業代をまとめて支払うことは、原則として労働基準法に違反する行為なので、労働基準監督署に通告すれば、会社に対して是正勧告などの措置を取ってくれる場合があります。
労働基準監督署が是正勧告などの措置を行った場合、会社がこれまでの行為を改めて、残業代をきちんと支払うようになる可能性がありますが、一方で労働基準監督署が行うのは会社に改善を促すなどの間接的な措置が基本になるため、通告者に対して未払いとなっている残業代を会社から強制的に徴収できるわけではありません。
残業代請求
会社と直接交渉をした結果、もしきちんと残業代を支払ってもらえれば、裁判などの法的な手続きをする手間や費用を省くことができます。
ただし、自分だけで会社と交渉をしたとしても、会社がきちんと残業代を支払ってくれるとは限りません。退職した従業員の言うことなど聞かなくてもいいと考えるなど、きちんと対応してくれない可能性があるのです。
また、残業代を支払う場合、一定の割増率を乗じた金額で支払う必要があります。
この割増率は、最低限のものが労働基準法に規定されており、多くの会社では、労働基準法と同じ内容の割増率を定めていることが多いのですが、労働者が自分で労働基準法を調べて割増率を算出・計算することは容易ではありません。
そこで、自分で会社と交渉してもうまくいかない場合や割増率の計算が困難な場合などは、労働問題の経験が豊富な弁護士に交渉を依頼する方法もあります。
弁護士が出てくることで、会社は危機を感じて交渉に応じることが期待でき、退職した会社と自分で交渉しなければならない、という負担から解放されるメリットがあります。
また、適正な割増賃金の計算をしてもらえるというメリットもああります。
交渉をしても会社が残業代を支払わない場合は、裁判や労働審判などの法的手続きを検討する必要がありますが、弁護士であれば、これらの手続きについて適切に対処することができます。
残業代請求は証拠によって左右される
労働基準監督署に通告するにせよ、会社に残業代を請求するにせよ、適正な残業代を計算するためには、未払いとなっている残業代の金額を計算・証明できる証拠の存在が重要です。
もしそのような証拠がなければ、労働基準監督署がスムーズに動くのは難しくなりますし、会社に請求をしてもとぼけられてしまう可能性が高くなります。
裁判や労働審判などの法的手続を利用する場合も、裁判官などの第三者が納得できるような、客観的な証拠があることが重要です。
残業代の金額を計算・証明できる一般的な証拠としては、労働契約書や就業規則などの契約に関する資料や、タイムカードや業務日報などの実際の労働時間に関する資料、給与明細など賃金の内容に関する資料などが考えられます。
まとめ
残業代は賃金に含まれるので、賃金の支払いについて規制するルールである、賃金支払の5原則が適用されます。
残業代をまとめて支払うことは、原則として賃金支払の5原則に違反する、違法な行為です。
残業代の未払い問題については、労働基準監督署に通告する、会社に残業代を請求するなどの対処法を検討しましょう。
自分で会社と交渉するのが難しそうな場合などは、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。