- パート・アルバイトも正社員も法律上は「労働者」。残業時間が同じなら残業代も同じだけもらえる
- 残業には「法内残業」と「法定外残業」があり、パート・アルバイトは「法内残業」が多い
- 残業代は分単位で請求することになるため、日頃から証拠を確保しておくことが重要
- 残業代を請求する際は、証拠収集や訴訟に備えて専門家に依頼するのがおすすめ
【Cross Talk】パート・アルバイトも労基法上の「労働者」
アルバイトでも残業代が請求できるって本当ですか?
もちろん本当です。アルバイトもパートも正社員も労働基準法上は同じ「労働者」ですからね。
アルバイトやパートは、正社員とは認められる権利が違うと勘違いしてました……。
労働基準法では、パートやアルバイトも正社員と同等の扱いを受けていることをご存じですか?
「残業代は月給制で長時間働く正社員だけの権利でしょう?」「アルバイトの身分で会社に対して残業代請求するなんて、現実には無理!」そう考えている方にぜひ読んでいただきたいのがこの記事です。
この記事では、「パート・アルバイトと正社員の違い」を正確に説明したうえで、パート・アルバイトが会社に対して残業代を請求するために知っておくべきことをまとめています。
パート・アルバイトでも未払い残業代請求はできる!
- 「パート・アルバイト」と「正社員」は労働法で同じ労働者として扱われる
- パートタイム労働法では両者区別されるが、同法は残業代に関するルールを定めていない
- パート・アルバイトと正社員の捉え方は、法律・社会通念・現場でそれぞれ異なる。
半年前からはじめたアルバイトなのですが、契約時の説明よりも明らかに長時間労働をしているのに、残業代が支払われていません。これって問題ないんですか?
それはいけませんね。アルバイトも正社員と同じ「労働者」であることには変わりがないので、残業代を支払わないのは違法です。残業代請求権は労働者の権利です。アルバイトの身分だと労働時間の把握は会社にまかせきりで、惰性で働いてしまう人が多いように思いますが、労働時間を正確に計算して、残業代はきちんと請求しましょう。
パート・アルバイトも正社員も法律上は「労働者」
いわゆる残業代については、労働基準法37条1項に定められています。労働基準法は、「労働者」に適用されますが、パート・アルバイトも正社員も使用者に「雇用」されているため、同じ「労働者」です。労働者である以上、パート・アルバイトであっても当然残業代を請求できます。
なお、雇用されているのではなく、業務委託契約(請負契約、委任契約、準委任契約)で仕事をする人は、「労働者」とはいえず、労働基準法の規律を受けません。そのため、残業代の請求もできません。ただし、業務委託契約とは名ばかりで、使用者の指揮監督を受け、実質的に雇用関係にあるといえる場合は、労基法の規律を受けることに注意してください。
法内残業が多いパート・アルバイト
- パートやアルバイトでは「法内残業」が大半
- 法内残業とは「会社の定めた所定労働時間以上、法律が定めた労働時間以内」の時間で残業すること
- 不規則な労働時間の仕事では、時間外労働・深夜労働・休日労働の判断がつきにくくなるので注意
アルバイトだと残業はあまり多くない印象があります。
たしかにそうですね。アルバイトの残業は、所定労働時間を超えても労基法の定める労働時間は超えない「法内残業」が大半です。法内残業では通常の賃金分しか残業代を請求できません。
パートやアルバイトといった働き方は、1日8時間、週40時間より短い場合が多いです。
そのためパートやアルバイトの残業は「法内残業」が大半です。法内残業とは「会社の定めた所定労働時間以上、法律が定めた労働時間以内」の時間で残業することです。法律が定めた労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて労働した分は「法外残業」となります(残業自体について詳しく知りたい方は「「残業」とは?残業の種類と定義について」を参考にしてみてください。)。
法内残業で請求できる残業代は、「残業時間×時給換算した所定賃金」です。割増賃金は請求できませんので注意してください。
(所定労働時間)9時〜16時 | (所定労働時間)9時〜17時 | (所定労働時間)9時〜18時 | |
9時〜18時まで労働した | 2時間の法内残業 | 1時間の法内残業 | 法内残業なし |
9時〜20時まで労働した | 2時間の法内残業と2時間の法定外残業 | 1時間の法内残業と2時間の法定外残業 | 法内残業なし、2時間の法定外残業 |
なお、「法内残業」といっても、労働していた時間帯が深夜や法定休日(週1日または4週を通じて4日。曜日は問わない。)である場合、深夜割増賃金や休日を別途請求できることは当然です。
たとえば、コンビニのように年中無休24時間営業の職場だと所定労働時間が何時までか分からなくなるでしょう。そのため労働時間に対する感覚が麻痺してしまい、「何時からが時間外労働なのか」「今日は法定休日なのか」を意識することなく、上司に命じられるまま過剰な残業・労働をしがちです。
「年中無休24時間営業」の看板はあくまで企業の経営方針に過ぎず、個々の労働者には労働基準法が定める労働時間のルールが適用されることを忘れないでください。
残業代は1分単位で請求しよう
- 残業代は1分単位で計算・請求すべし
- タイムカードがなくても、パソコンや業務日誌の記録などから残業時間を計算することは可能
- 日頃から手帳などに勤怠記録をつけておくとあとで証拠として使える
時給で働いているということは、残業代を請求するときも1時間単位で計算・請求するのでしょうか?
いいえ、残業代は1分単位で計算・請求してください。
時給制で働いていると「1時間を超えて働かないと給料がもらえないのでは・・・・・・?」と勘違いしがちですがそうではありません。残業時間がたとえ10分でも立派な労働です。残業代を計算・請求するときは必ず1分単位で計算・請求しましょう。
「そんなこといわれても、うちの職場にはタイムカードがありません。だからといって上司に『将来残業代請求することに備えてタイムカードを導入してください』なんて言えないし……」
そう心配している方は、パソコンのログ(使用履歴)や業務日誌のコピーを保存しておくとよいでしょう。残業代を計算する際の根拠として使うことができます。
パソコンのログや業務日誌に比べると証拠としての価値は低くなりますが、自分の手帳や携帯電話に日頃から出勤・退勤時間をメモしておくのも一つの方法です(詳しい証拠収集方法については「未払い残業代請求のための証拠の集め方」を参考にしてください。)。
残業代の計算をして、証拠収集と請求方針を決定する
- 残業代を正確に計算するため、勤怠記録の証拠をすみやかに集める
- 残業代を請求するには、まず「訴訟を使うか」「訴訟外で交渉するか」を決める
先生、覚悟を決めました。残業代請求をしたいので代理人になっていただけますか?
わかりました。では、ひとまず内容証明郵便で相手の出方を見てみましょう。ごねるようであれば訴訟を検討することになります。
残業代計算と証拠収集をすべし
まずは、自身の契約条件や勤怠記録をもとに残業代を計算しましょう。残業代は2年間で時効消滅するので、すみやかに行動してください。
残業代は、残業時間数×時間単価×割増率によって計算します。詳しい計算方法については、別のコラムもご参照ください。
なお、残業代の計算方法はかなり複雑ですので、必ず弁護士や社会保険労務士のような専門家に依頼しましょう。
また、残業代の計算と同時に、残業を裏付ける証拠を収集しましょう。証拠収集は在籍中から収集するのがベストです。残業代請求に関しては、「タイムカード」「PCのログデータ」「業務日誌」など会社が保有する勤怠記録や就業規則等の資料が役立ちます。
すでに退職をしてしまっている場合、上記証拠を収集することが難しくなります。その場合、専門家に依頼し、証拠の収集をしてもらうのがよいでしょう。
請求方針を決定しよう
残業代の計算が済んで証拠が集まったら、請求の方針を決定しましょう。
残業代を請求する方法は、裁判所を利用する方法と利用しない方法に大別できます。裁判所を利用する方法は、「民事訴訟」「労働審判」「少額訴訟」の3つです。
訴訟制度を利用しない種類 | メリット | デメリット |
任意交渉 | ・コストが少ない・自分でできる | ・強制力がない |
労働基準監督署に相談する | ・コストが少ない ・自分でできる | ・強制力がない |
種類 | メリット | デメリット |
少額訴訟 | ・コストが少ない ・自分でできる・即日判決 ・証拠がそろっていれば本人訴訟も可能 ・判決に強制力がある | ・会社側が訴訟に応じず欠席すると民事訴訟に移行してしまう |
労働審判 | ・会社側に応訴義務がある ・最大3回の審理で解決できる ・和解で解決することが多く,他の手続きに比べ柔軟な解決ができる可能性がある。 ・審判が確定すれば強制力がある | ・本人による申立は難しい ・弁護士費用がかかる ・会社側が審判の内容に異議を唱えると民事訴訟に移行してしまう |
民事訴訟 | ・会社側に応訴義務がある ・弁護士などのプロを代理人にすることで獲得できる残業代が増えるかも? ・判決に強制力がある | ・本人訴訟は難しい ・弁護士費用がかかる ・解決までに時間がかかる |
任意交渉
ご自身で任意の交渉を行う方法です。具体的には、残業代の支払いを求める内容証明郵便を送付することが考えられます。時間的・金銭的コストが少ないメリットがあります。
その反面、強制力がまったくないので、会社側が無視してしまえば問題解決できないのがデメリットです。
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署に相談するのも一つの方法です。相談の結果、労働基準監督署が「問題がある」と判断した場合、調査をしたうえで、相手方に対して是正勧告を出してくれます。
もっとも、是正勧告には法的拘束力がなく、あくまで残業代の支払いを促すに過ぎないことがデメリットです。
少額訴訟
請求金額が60万円以下の場合に利用することができる制度です。残業代の金額が少なく、専門家に依頼をすると費用倒れになる恐れがある場合に有効な手続きです。また、原則1回の審理で即日判決となるため、スピーディーにトラブルを解決できるメリットがあります。
ただし会社側が少額訴訟の利用自体に異議を申し立てると、通常の民事訴訟に移行してしまい二度手間になるというデメリットがあります。
労働審判
原則3回以内の審理で決着するため、民事訴訟よりも短期間でトラブルを解決できます。また、労働審判では、中立公正な労働審判官(裁判官)と労働関係に関して専門的知識と経験を持つ労働審判委員が手続に関与します。当事者間で和解が解決できそうであれば、積極的に和解の成立を試みてくれるため、柔軟な解決ができる可能性があります。
ただし会社側が審判に異議を申し立てると通常の民事訴訟に移行してしまい、それまでの審理が無駄になってしまうのがデメリットです。
労働審判については、「残業代請求における労働審判とは?~どのような場合に労働審判手続が必要?~」を参考にしてみてください。
民事訴訟
会社側が残業代の存在自体を認めない場合に適した制度です。ただし、事実関係が複雑だと審理が長引くこと、本人訴訟が難しく、弁護士に依頼した場合には、一定の弁護士費用がかかること、といったデメリットがあります(弁護士費用については、「残業代請求のための弁護士費用・相場はどのくらい?」を参考にしてみてください。)。
まとめ
残業代は、パート・アルバイトであっても正社員と同様に認められる権利です。パートやアルバイトでも残業代を請求することは可能です。
とはいえ、やみくもに「残業代を支払え!」と主張するだけでは通用しません。残業代請求の成否を分けるのは「証拠」です。職場の労務管理に少しでも疑問があるのなら、日頃から自分の労働時間を把握し、証拠を確保しておくことをおすすめします。