- 残業代は給与の支払いである
- 給与の支払いに関する原則から後払いは認められない
- 未払い残業代がある場合の手続き
【Cross Talk 】残業代を後日支払うなんて許されるのでしょうか。
私の会社では一定基準以上の残業代については会社の業績に応じた後払いとなっており、最近では業績が悪いため支払われていません。会社は余裕ができれば必ず支払うといっているのですが、このような措置は適法なのでしょうか。
残業代は給与なので全額払いの原則・毎月一回以上払いの原則というものがあり、それに違反する違法なものです。対抗方法を考えましょう。
お願いします。
残業代の支払いを後払いで行うことは認められるのでしょうか。残業代は特殊な権利というわけではなく給与の一部です。
そのため、給与の支払いと同じように取り扱われなければなりません。
残業代だけ後から払うというのは給与の支払いの全額払いの原則・毎月一回以上払いの原則に違反するものです。どのようにして是正するかなど確認しましょう。
残業代の支払いについての取り扱い
- 残業代は給与の支払い
- 給与の支払いについての法律(労働基準法)の規定
残業代の支払いは法律ではどのような取り扱いなのでしょうか。
残業代は特別な請求権ではなく給与として取り扱われます。給与の支払い方法については労働基準法が定めているので確認しましょう。
残業代は法律上どのように取り扱われるべきなのでしょうか。
残業代は給与の支払い
「残業代」は、労働の対価で支給されるものなので、福利厚生やボーナスのようなものではなく、給与です。
法律上は残業代という用語はなく、いわゆる「残業代」とは時間外労働についての給与の支払いのことを言います。
そのため、早出・休日出勤といったものも「残業代」にあたります。
給与の支払いはいつしなければいけないかの法律の規定
この給与の支払いはいつしなければならないのでしょうか。
労働基準法24条は給与の支払いについての原則について次の5つを定めています。
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
先程述べた通り、残業代は給与なので、これらの給与の支払いについての原則が適用されます。残業代の後払いはこの中の全額払いの原則・毎月一回以上払いの原則に違反する行為とされています。
残業代は後払いするといわれている場合
- 残業代の後払いは給与支払いの原則に違反するもの
- 支払わない場合にはペナルティがある
- 支払わせるためにどのような手続きがあるか
残業代の後払いは給与の支払いの原則に反するのですね?
はい、その通りです。全額払いの原則と毎月一回払いの原則に反します。そのため使用者はペナルティを受ける立場にあります。
残業代は給与だとして、残業代の後払いは法律上どう評価されるべきなのでしょうか。
後払いは認められない
残業代の後払いは、給料として残業代だけを後日に分けて支払うことです。
本来であれば、働いた月の給与として計算をして、その給与の支払い日に一括して支払わなければなりません。
残業代を「会社の業績が良いときにまとめて払う」というような後払いにすることは、前述した給与の支払いに関する原則との関係では、全額払いの原則と毎月1回払いの原則に反するもので、労働基準法24条違反になります。
後払いをする場合のペナルティ
残業代の後払いが労働基準法24条違反となるとして、その違反によって使用者はどのようなペナルティを受けるのでしょうか。
まず、労働者から通告や相談を受けた労働基準監督署が、会社に対して残業代の支払い実態について調査します。このとき、調査に際しては事務所に立ち入り、帳簿・書類の提出請求や聴き取り調査も行うことができます。会社はそれに対応しなければならないため、実質的にペナルティとなるでしょう。
労働基準監督署の調査の結果、労働基準法違反があると認められた場合には、労働基準監督署から是正勧告や指導がなされます。それを受けた使用者は、指定された期日までに是正報告書を提出することになります。
また、労働基準法24条違反については、労働基準法120条に基づいて、使用者に対して刑罰(30万円以下の罰金)を科すことができるとされています。もっとも、実際に刑罰を科されるなど、送検処分がなされるのは、是正勧告を無視しており改善の意図が全く見られないなどの悪質な場合や死亡災害など結果が重大な場合が殆どです。
支払わない残業代を支払わせる手続き
では、支払っていない残業代を支払わせるにはどのようにすればいいのでしょうか。
会社が意図的に支払いをしていないような場合には、労働基準法違反なので、監督官庁である労働基準監督署に通告を行います。
労働基準監督署から会社に対する調査が入った上で、指導勧告がされることで、会社の態度が改善されれば残業代の支払いを受けることができる場合が多数です。
労働基準監督署への通告をする際には、労働基準監督署に指導の必要性を伝えるために、残業代の支払いがされていないことを証明するようなもの(タイムカード・給与明細など)を持っていくのが良いでしょう。
それでも支払いを受けられない場合には、弁護士に依頼をして残業代請求をするのが良いといえます。
残業代の支払いを受ける際の法律
- 残業代の支払いを請求するときに注意すべき法律について
残業代を会社に請求するにあたって気を付けるべきことはどのようなことになりますか。
時効があることと、遅延損害金・付加金などの請求項目について確認しましょう。
残業代を請求する際に注意が必要な法律について確認しましょう。
残業代も時効にかかる
まず、残業代請求は時効にかかることを知っておきましょう。
残業代は給与であり、給与債権は時効にかかることになっています。
昨今改正があり、2020年3月31日までの規定の下では2年、2020年4月1日以降の残業代については、支払いを請求できる時から3年で時効にかかります。
何年も働いていると過去の分が時効にかかりますので、請求をすると決めた時にはなるべく早く弁護士に依頼するか、内容証明を送って時効が完成するのを防ぎましょう。
遅延損害金・付加金を請求するには
本来払ってもらうべき残業代の支払いを求めるのは当然ですが、法律上未払いの残業代に付加して請求するのが遅延損害金・付加金です。
遅延損害金についても民法改正の影響を受けているので、2020年3月31日までの残業代については商事法定利息の6%が、2020年4月1日からについては3%の法定利息を付加して請求を行います。
なお、退職した後の遅延損害金については、賃金の支払の確保等に関する法律6条1項により14.6%で計算することが可能です。
また、労働基準法114条で、裁判をする際には付加金の支払いを求めることができるとしています。
付加金の支払いが認められると倍の金額の受け取りができることになります。
一般的に付加金の支払いを受けることができるケースは、会社の未払いが悪質であると認められる場合に限られるので、支払いをうけるケースは限定的です。
しかし、2020年6月25日にハイヤー会社の未払い残業代を認めた判決では付加金の支払いもされたために、合計2,800万円を超える請求が認められています。
ただし、付加金は残業代の支払い義務違反があってから2年以内に請求しなければならないとの時間制限もありますので、付加金を求めることができるかについても含めて弁護士に相談をしてみるようにしましょう。
まとめ
このページでは、残業代の支払いが後払いとすることが認められるか、ということを中心にお伝えしてきました。
残業代は給与なので、給与の支払いの原則に関する規定の適用を受けます。
後払いはこれに違反する行為で労働基準法違反となるものです。
是正を求める・未払い分の支払いを求める、いずれの場合でも証拠を揃えたりする必要もありますので、弁護士に相談するようにしましょう。