- 監視・断続的労働の判断は難しいので、まずは弁護士に相談する
- 監視・断続的労働にあたらない場合、通常の残業代請求の流れに乗る
- 監視・断続的労働にあたったとしても、深夜割増賃金は請求できる
【Cross Talk】宿直勤務は残業代が発生しないの?
私は、介護施設で働いていて、週に1度宿直当番があるのですが、残業代が支払われていません。そこで、会社に対し残業代の相談をしたのですが、宿直に残業代は発生しないと言われてしまいました。本当ですか?
宿直など、通常の業務が発生しない時間に残業代が発生するかについては、職務内容が監視・断続的労働にあたるかどうかで判断されます。
監視・断続的労働ってなんですか?
勤務態様が複雑化している現代では、待機(手持ち)時間の多い仕事に従事する方の労働時間や賃金をどのように扱うか争いとなってきました。マンションの守衛、住込み管理人、警備員、介護施設の宿直、寮の管理人などが挙げられます。
未払い残業代を請求したいと悩んでいる方へ向けて、宿直や住み込みの場合の法的制度(労働基準法)を説明した後に、未払い残業代の計算方法を解説いたします。
監視・断続的労働って何?
- 労働基準監督署から許可を得ている監視・断続的労働であれば残業代は発生しない
- 監視・断続的労働に当たるかの法律上の判断は難しい
- 許可を得ているかは労働基準監督署で確認できる
先生が先ほどおっしゃっていた断続的労働ってなんですか?
簡単にいってしまうと、待機(手持ち)時間が多い労働を指しますが、その判断はとても難しいです。
待機(手持ち)時間の多い仕事
勤務態様がただでさえ複雑化している現代ですが、以前より、待機(手持ち)時間の多い仕事に従事する方の労働時間や賃金をどのように扱うかについては、争いとなってきました。たとえば、マンションの守衛、住込み従業員、警備員、介護施設の宿直などが挙げられます。
これらの働き方は監視・断続的労働にあたるか否かで、労働時間や賃金の取り扱いが異なります。そこで、監視・断続的労働とは何かについて、説明していきます。
監視・断続的労働について、労働基準法41条は次のように定めています。
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 略
二 略
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
労働基準法41条3号は、監視又は断続的労働に従事する者で、会社が労働基準監督署(労働基準法施行規則34条から「行政官庁」は労働基準監督署とされています。)から監視・断続的労働の許可を受けている場合には、残業代は発生しないとしています。
ここでいう監視労働とは、監視業務のみなど、通常の労働と比較し、身体の疲労や精神的な緊張が小さい労働を指します。
また、ここでいう断続的労働とは、作業時間が長く継続するわけではなく、短時間の作業、待機(手持ち)時間、短時間の作業、待機(手持ち)時間……というように、作業が間欠的に行われる労働を指します。
監視・断続的労働にあたるかどうか
では、どのような場合に関し・断続的労働にあたるのかが問題となりますが、通常の労働と比較して、疲労や緊張感が少ないかといえるか等の法律上の判断はとても難しく、職種のみならず実際の具体的な勤務内容から個別に判断されます。
例えば、マンションやビルの管理業務における監視業務がメインとなる場合については監視・断続的労働となりやすく、他方、警備事務所に待機となっているものの、常に警報を気にし、緊急時に発動しなければならない場合については労働から解放されているとは言えず、監視・断続的労働となりにくいです。
以下は、行政庁による監視・断続的労働に該当するか否かの許可基準の一例です。
監視に従事する者は、原則として、一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ないものについて許可されます。したがって、次のようなものは許可されません。
①交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等精神的緊張の高い業務
②プラント等における計器類を常態として監視する業務
③危険又は有害な場所における業務
●断続的労働に従事する者とは
断続的労働に従事する者とは、休憩時間は少ないが、手待時間は多い者の意味であり、その許可は概ね次の基準によって取り扱うこととされています。
①修繕係等通常は業務閑散であるが、事故発生に備えて待機するもの。
②寄宿舎の賄人等については、その者の勤務時間を基礎として作業時間と手待時間折半程度まで許可されます。ただし、実労働時間の合計が8時間を超えるときは許可されません。
③その他の特に危険な業務に従事する者については 許可されません。以上から例えば、新聞配達員、タクシー運転手、常備消防職員は許可されません。
引用:かながわ労働センター 労働問題対処ノウハウ集 「16 労働時間規制の適用除外」(参照 2019/2/15)
許可が大前提
もっとも、監視業務がメインだからといって、残業代請求を諦めることは時期尚早です。
会社が労働基準監督署から監視・断続的労働の許可を受けていなければ、労働基準法41条3号は適用されません(残業代が発生している可能性があります。)。そして、会社が適切な手続とっているかについては、労働基準監督署で確認することができます。
監視・断続的労働にあたらない場合の残業代計算
- 監視・断続的労働にあたらない場合の残業代計算は、通常の残業代計算と変わらない
- 手持ち時間が「労働時間」ではないと反論されることもある
- 「労働時間」かは、使用者の指揮命令下に置かれたか否かで個別具体的に判断される
監視・断続的労働にあたらない場合の残業代計算は、何か特別なことが必要ですか?
監視・断続的労働にあたらない場合の残業代計算は、通常の残業代計算と変わりありません。
監視・断続的労働に当たらない場合の計算方法
断続的労働にあたらない場合の残業代計算には、以下の基本的な算定式を用います(計算方法を具体的に知りたい方は「私の残業代はいくら?残業代計算方法【図解で分かり易く解説】」を参考にしてみてください。)。
{(月の支給額-家族手当-通勤手当-住宅手当)÷の労働日数×一日あたりの所定労働時間数 }×割増率×残業時間数
指揮命令下にあったか否か
もっとも、監視・断続的労働として認められなかったとしても、会社は、残業代請求は認められないと反論してきますので、一筋縄ではいきません。
会社が残業代を拒む理由の1つとしては、手持ち時間は会社の指揮命令下にあったとはいえないので、勤務時間(労働時間)に含まれないという主張が挙げられます。この指揮命令下にあったか否かについても、具体的な勤務内容や実態から個別具体的に判断されます。
手持ち時間が労働時間に含まれるかを判断するためには休憩時間との区別も重要になってくるので、「労働時間か?休憩時間か?知っておきたい休憩時間の法規制」も参考にしてみてください。
監視・断続的労働にあたる場合の残業代計算
- 監視・断続的労働の判断は難しいので、まずは弁護士に相談する
- 監視・断続的労働にあたらない場合、通常の残業代請求の流れに乗る
- 監視・断続的労働にあたったとしても、深夜割増賃金は請求できる
監視・断続的労働にあたる場合には、一切残業代はもらえないのですか?
深夜割増賃金を請求することはできます。
残業代の区別
割増率の一般的な図解は以下の通りです(割増率について具体的に知りたい方は「【図解】残業代の計算に必要な時間単価の「割増率」とは?」を参考にしてみてください。)。
1.時間外労働割増賃金 ⇒ 割増率1.25倍(割増分は0.25倍)
2.法定休日労働割増賃金 ⇒ 割増率1.35倍(割増分は0.35倍)
3.深夜早朝労働割増賃金 ⇒ 割増率1.25倍(割増分は0.25倍)
監視・断続的労働にあたる場合請求できるもの
これまで説明した通り、監視・断続的労働に当たる場合は残業代は発生しないのが原則です。ただし、監視・断続的労働に当たる場合でも、深夜早朝労働に対する割増賃金は発生しますので、前記③の内、割増分0.25倍部分のみを請求することができます。
まとめ
監視・断続的労働と思われるお仕事をされている方については、労働時間や賃金の考え方が異なってくる場合があります。一人では抱え込まず、法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。弁護士の探し方や相談の仕方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。